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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第二章

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エピソード 3ー2 普通ではない。つまりは普通の女の子

 呼び出されたリスティアがやって来たのは理事長室。扉をノックして部屋に入ると、システムデスクの向こう側、渋い表情を浮かべたブレンダ理事長の姿があった。

「ブレンダ理事長、お呼びだとうかがいましたけど?」

「あぁ、リスティアか。まずは……例の件はどうなっている?」

 ブレンダ理事長が言いよどんだ後、そんな風に尋ねてきた。


「いまは誘拐されそうな生徒をピックアップして、それとなく見張っているところです」

「つまり……なにも分かっていないと言うことか?」

「すみません。秘密裏にと言うことで、表立って調べるのは避けています。もし必要であれば、もう少し踏み込んで調査しますけど?」

「いや、こちらこそすまない。騒動にならないように望んだのはこちらだ。あらたな事件が発生したらそうも言っていられないが、いまは内密に調べてくれ」

「分かりました」

 リスティアは小さく頷き「それで、本題はなんでしょう?」と尋ねた。


「……なに?」

「本題です。いまのお話は、ブレンダ理事長も承知の上だったはずです。それに話題を切り出すときに、まずは――とおっしゃいましたので」

 なにか別の、言いにくい話があるんですよねと確認すると、ブレンダ理事長はわずかに目を見開き、それから「そこまで頭が回るのなら、なぜ問題を起こした」とため息をついた。


「問題というと……もしかしてセラフィナ様の一件ですか?」

「そうだ。どうして喧嘩を売るような真似をした?」

「売ってないですよ? 下賤な平民と言うから、そんなことを言う人とは仲良くしたくないですって言っただけです」

「それが喧嘩を売っているというのだ!」

「むうぅ……」

 リスティアにしてみれば、失礼なことを言われて反論しただけ。喧嘩を買ったと言われれば反論の余地はないのだけれど、なぜ喧嘩を売ったと言われるのは不本意だった。


「本来であれば、済んだことは仕方がない――と言いたいところだが、少々問題が起きた」

「……問題ですか?」

「ああ。本人には騒ぎ立てないように要請していたのだがな。周囲が騒ぎ立てて、あの一件が噂になってしまった。それが辺境伯の耳に入ったらしく、先日、学校あてに手紙が届いた」

 そうして説明されたのは、リスティアにとってあまり楽しい話ではなかった。


 その話を要約すると、セラフィナに恥を掻かせた無礼者が野放しになっているという噂を聞いたので、ちゃんと罰を与えるべきだという意見をもらったらしい。

 遠回しな発言だが、その生徒を退学にしろという意味のようだ。


「あくまで意見であり要請。学校は権力とは切り離されているので、ある程度は突っぱねることが出来る――と言いたいが、辺境伯は毎年、多額の寄付をしてくれている」

「……お金、ですか?」

「そうだ。私としても、金で正義を売るような真似はしたくないが……平時でも毎年金貨を十枚ほど。そして、セラフィナが在学している去年と今年は、その十倍の寄付がされている。

「……金貨百枚」


 それは、シスタニアの前市長がリスティアにふっかけた税金と同じ金額。

 お金で解決できるならと、リスティアはあのときと同じように大金貨で100枚。つまりは金貨100枚の十倍の金額を出そうとしたのだが――


「心配するな。お前に寄付をしろなどと言わぬ。と言うか、言ってもそのような金額、ぽんと出せるはずがないがな」

「えっと……はい、そうですね」

 このパターンは二度目だったので、リスティアはわりとあっさりと話を合わせた。


 もっとも、今回の一件を、リスティアがお金で解決していたら、色々と取り返しのつかない結果になっていた可能性は高いので、結果的には正解だっただろう。

 しかし、お金で対抗しない以上、相手の要請を無下にすることが出来ないという結果は変わらない。このままでは、リスティアは学園を追い出されてしまうだろう。

 どうしようかなと考えていると、ブレンダ理事長が「ところで――」と口を開いた。


「お前達が、シャーロット嬢に教育の機会を与えられたというのは表向きの理由だが……実際のところはどうなのだ?」

「と言いますと?」

「このあいだ、シャーロット嬢に会う機会があったのだが、妙にお前達のことを気に掛けていてな。どうにも、ただの冒険者と言うようには思えないが……?」

「あぁ、そう言うことですか」


 要するに、シャーロットに仲裁を頼めるような関係なのかどうかと言うこと。頼めるか頼めないか。その二択であれば、きっと頼めるだろうとリスティアは思った。

 なにしろ、シャーロットは平民だからと差別しない――どころか、いつの間にかリスティアを差し置いて、ナナミを妹にしている。

 そんなシャーロットに相談すれば、きっと力を貸してくれるだろう。

 そもそも、シャーロットはリスティアを妹として可愛がってくれているので、出来うる限りのことはしてくれるはずだ。

 だけど――


「すみませんが、シャーロットを頼ることは出来ません」

 リスティアは断言した。ただでさえ、妹扱いされてしまっているのに、ここで色々甘えてしまうと、お姉ちゃんとしての下克上が出来なくなってしまうからだ。

 ちなみに、ブレンダ理事長は、リスティアがシャーロットを呼び捨てにしたことで思うところがあったようだが、頼ることが出来ないのなら仕方がないとため息をついた。


「しかし、困ったな。このままではお前は退学を免れない。どうしたものか……」

 ため息をつくブレンダ理事長に対し、リスティアは小首をかしげた。


 シャーロットに甘えるのが嫌なだけで、対抗する手段ならいくらでもある。お金で解決しても良いし、真祖の力でねじ伏せてもかまわない。

 お金や権力を使って他人に理不尽を押しつけるのなら、自分が真祖の力による理不尽を押しつけられるくらいは覚悟しているはずだ。

 だから、リスティアにとって問題なのは、相手と同じように力を振りかざすことが、みんなに受け入れられるかどうか。リスティアが大切に思っているみんなにさえ嫌われないのなら、ジュノー辺境伯を消してしまえば良い話だ――と、リスティアは物騒なことを考える。


 ブレンダ理事長はまるで気がついていないが、このままではジュノー辺境伯家の歴史は今年で終わってしまう。そんな危機的状況に一石を投じたのは、落ち着いたノックの音だった。


「――入れ」

 ブレンダ理事長が扉の外に向かって声を掛ける。ほどなく姿を現したのはリスティアの知らない女性。どうやら、ブレンダ理事長の秘書のような存在のようだ。

「ブレンダ理事長、驚かないで聞いてください。ウォルター公爵がお越しです」

「……は? ウォルター公爵だと? 一体なんの冗談だ」

「邪魔をさせてもらっているぞ、ブレンダ理事長」

 秘書の後ろから、威厳のある中年男性が姿を現した。


「こ、これはウォルター公爵。まさか本当にお越しとは」

 慌てて席を立ったブレンダ理事長は、そのまま席を回り込んでウォルター公爵と呼ばれた男の前に立ち、恭しく頭を下げた。

 ちなみに、ウォルター公爵という名前に心当たりがある。商人のグラートから聞いた、リスティアがオークションに出品したブローチの落札者だ。

 挨拶をするべきかもしれないが、いま話しかけるのは邪魔になるだろう。そう思ったリスティアは、部屋の隅っこへと静かに移動する。


「今日は一体どういったご用件でしょう?」

「実はこの学校に私の恩人が通っていると聞いてな。礼を言いに参った次第だ」

「……ウ、ウォルター公爵が直接礼に出向くほどの恩人ですか? それは一体……」

「すまぬが、詳細を話すことは出来ぬ。が、一生をかけても返しきれぬほどの大恩だ」

「そ、そのような者がうちの学校に。……大変名誉なことです。ぜひ、学校をあげて、その者の表彰をさせていただきたいと存じます」

「それに関しては保留にしてくれ。相手は目立つことを嫌うという噂を聞いているのでな」

「そう、ですか……分かりました」


 ブレンダ理事長にとっては、是非とも公表したい事実である。けれど、無理に公表してウォルター公爵の不興を買っては意味がない。であれば、次善策として、ウォルター公爵の要望を最大限に聞き入れ、恩を売る方向にシフトさせた。

 もちろん、端で聞いているリスティアにはわかりえぬことなのだけれども。


「それで、私は、なにをさせていただければよろしいのでしょうか?」

「うむ。その娘と内々に会わせてもらいたい。その娘は――」

 そこで初めて、ウォルター公爵はリスティアの存在に気がついた。そして、それに気付いたブレンダ理事長が顔を青ざめさせる。


「――っ、お前、まだいたのか。すまないがお前の件は後回しだ」

「いや、それには及ばん」

 ウォルター公爵がブレンダ理事長のセリフを遮った。そして、なにを言い出すのかと不安がるブレンダ理事長に向かって、ウォルター公爵は厳かに口を開く。


「やって来たのは私が後で、それも突然の来訪だ。彼女の用件がなにかは知らぬが、そちらを先に終わらせるが良い」

「い、いえ、しかし……」

 ウォルター公爵の気遣いに、ブレンダ理事長が泡を食う。

 しかしウォルター公爵はかまわず、「横から失礼した、お嬢さん。お名前をうかがってもよろしいかな」とリスティアに声を掛けてきた。


「お初にお目に掛かります。あたしはリスティア。普通の女の子です」

「――ふっ、普通の女の子だと!? 貴方が普通の女の子だというのか!?」

 ウォルター公爵がくわっと目を見開き、リスティアの両肩を掴んできた。


 ウォルター公爵の探し人が、普通の女の子を名乗る天使――なんて夢にも思わぬブレンダ理事長は、リスティアがウォルター公爵を怒らせたと焦る。そうして「彼女はただの平民でございますれば、どうかご容赦を」と慌ててまくし立てた。

「む? あぁいや、怒っているわけではない。少々驚いただけだ」

 ウォルター公爵はその一言でブレンダ理事長を安心させると、あらためてリスティアに視線を向け、じぃっとリスティアを観察してきた。


「ふむ……そうか、貴方が普通の女の子、か。平民とは思えぬほどに優雅な立ち居振る舞いに天使のような容姿。そして私を前にしても平然とする胆力。たしかに普通ではない」

「……ええっと?」

 普通の女の子で、普通じゃないってどういう意味だろう? そこはかとなく馬鹿にされてるような気がするよ? とリスティアは困惑する。


「おっと、まずは話の続きであったな。それで、リスティア嬢はなんの話をしていたのだ?」

 ブレンダ理事長がリスティアに向かって、必死に目配せをしてくる。

 つまり、失礼のないように、しっかり事情をお話ししろと言うことだろう。そんな風に受け止めたリスティアは、実は――と、自分が貴族を怒らせた旨を打ち明けた。

 なお、その過程でなぜか、ブレンダ理事長が天を仰いでいたのだが……それはともかく。


「それが相手の親御さんの耳に入ったようで、遠回しに退学を迫られているというお話をうかがっていました」

「……なんと言う恥知らずな真似を。それもよりによって、リスティア嬢に」

 ウォルター公爵がブルブルと身を震わせる。


 ウォルター公爵がブローチの落札者で、娘にブローチを贈ることが出来て喜んでいたことをリスティアは知っている。けれど、それはあくまで、自分が売りに出したものを、ウォルター公爵が落札しただけで、感謝されるようなことではないと思っている。

 なのでリスティアは単純に、ウォルター公爵が平民へ理不尽を押しつける相手に腹を立てる良い人なんだなと言う認識を抱いた。


「話は分かったが……リスティア嬢の後ろ盾には、シャーロット嬢がいるであろう? 彼女であれば、たとえ私が相手でも、貴方を護ろうとすると思うのだが?」

 伯爵が、公爵にたてついてでも、ただの平民であるはずのリスティアを護ろうとする。その発言に、ブレンダ理事長が「なっ!?」と目を見開いた。


「シャーロットはあたしのこと妹扱いするから、あんまり頼りたくないんです。あたしの方が年上なんですよ? ……たぶん」

 ぷくぅと拗ねるリスティアに、ブレンダ理事長が再び息を呑む。だけど、ウォルター公爵はそれを笑い飛ばした。


「なるほど。そういう事情であれば、私が後ろ盾になろう」

 その瞬間、ブレンダ理事長の顎が外れたのだが、それはともかく。

「……ウォルター公爵が、ですか?」

「うむ。もちろん、リスティア嬢が受け入れてくれるのなら、だがな」

 貴族が後ろ盾になると言えば、平民が本当に良いのかとお伺いを立てるのが普通。なのに、大公爵が、平民に後ろ盾になっても良いかとお伺いを立てている。

 ブレンダ理事長は信じられないといった心境だが……リスティアはやはり平常運転だ。


「……一つお願いがあります」

「うむ、なにかな?」

「あたしと一緒に学校に通っている、ナナミという女の子も庇護していただけませんか?」

「ふむ。いざこざの切っ掛けになったという少女か。大切な相手なのかね?」

「はい。あたしにとっては……その、大切な妹のような存在です」

「そうか。そう言うことであれば、もちろんかまわない」

「では、よろしくお願いします」

 リスティアはウォルター公爵の好意に甘えることにした。


 ナナミをこれ以上、矢面に立たせないという目的もあるが、リスティアの一番の懸念は、自分の力を振るってナナミ達、妹候補にドン引きされること。

 であれば、この国で有名な公爵の力を借りて解決すれば、リスティアがその力にドン引きされることはない――と、本気で考えたからだ。

 なお、実際は、それだけの後ろ盾を得て平然としているリスティアに、既にブレンダ理事長がドン引きしているのだが……それはともかく、ウォルター公爵がブローチを贈った娘というのも気になる。グラートから話を聞いたところ、ウォルター公爵の娘であるリリアンヌは十六歳。つまりは、リスティアの一つ年下。

 これはもう、妹にしろという意志が働いているとしか思えないと考えた。

 そんなリスティアの思惑はともかく、リスティアの許可を得たウォルター公爵は、改めてブレンダ理事長へと視線を向けた。


「聞いたとおりだ。今後、リスティア嬢の背後には私がいると思え。それに、リスティア嬢は甘えたくないと言っているが、シャーロットも間違いなく味方する」

「か、かしこまりました。それで、その……」

「寄付の件なら心配するな。それと、相手はジュノー辺境伯だったか。会って話をする必要がありそうだな。……よし、リスティア嬢。数日後に開催される夜会に出席するが良い」

「……夜会に、ですか?」

 目的が分からなくて首を傾げる。


「夜会で、私やシャーロットが後ろ盾についたとジュノー辺境伯に釘を刺す。それで、二度とリスティア嬢に難癖をつけることはないだろう」

「ふみゅ……」

 リスティアが最初に考えたのは、内通者を捜すのに支障を来さないかと言うこと。

 たしかに、目立つのはあまりよろしくないけれど、既にかなり目立ってしまっている。この上は、早急に問題を解決した方が良いだろうと判断した。


「分かりました。夜会に出席させていただきます」

 リスティアはこれ以上目立たないように、夜会に出席することにした。

 もちろん、平民の娘――と言うか、リスティアが夜会に出席したら、思いっきり目立つに決まっているのだけれど……それを指摘出来る者はいなかった。

 

 

 次回は17日を予定しています。

 また、明日の昼頃に、活動報告にて異世界ヤンデレの表紙などをアップします。

 もしよろしければご覧ください。

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