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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第二章

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エピソード 2ー3 ナナミに続く女の子達

 石造りの校舎の片隅にある平民達のクラス。その教室の前で、リスティアとナナミはクラスメイトとなる子供達と向き合っていた。

 子供達の年齢は、およそ十代半ばから後半くらいの少年少女。学年は入学してから何年と言うだけで、入学する年齢が決まっている訳ではないらしい。

 全員が年下でなかったのは残念だけれど、クラスはおよそ30名くらいの子供がいるので7、8人が妹候補。リスティアは大満足である。


「初めまして、あたしの名前はリスティアって言うの。今日からこのクラスでお世話になることになったから、みんなよろしくね~」

 えへへと可愛らしく微笑む。その可愛らしさに、クラスがざわめいた。


「はい、皆さん静かに。まだ自己紹介は終わっていませんよ」

 アニスがパンパンと手を叩いて皆を静かにさせて、次は貴方ですよとナナミを見る。


「わ、私は、ナ、ナナミです。よ、よろしくお願いひましゅ」

 ……噛んだ。それはリスティアはもちろん。クラスメイト達に伝わったようで、そこかしこで「噛んだ……」と言った呟きが聞こえる。

 ナナミの顔が真っ赤になっていく。


「ナナミちゃんはずっと緊張してたからね。かくいうあたしも、学校に通うのとか初めてだから、みんなと仲良く出来るかドキドキしてるの。みんな仲良くしてくれると嬉しいなぁ」

 リスティアが笑顔でさり気なくフォローを入れる。

 それでナナミが噛んだのかとクラスメイト達は納得。更にいえば、可愛い編入生が二人も現れて浮ついていた生徒達は、自分も緊張しているというリスティアに親近感を覚えた。

 妹心理には疎いくせに、それ以外の機微には鋭いリスティアであった。



 自己紹介が終わった後。一限目は礼儀作法の実技があるとのことで、すぐに広いフロアへと移動。クラスメイト達と挨拶をする暇もなく、一限目の授業が開始された。

 男女とも同じフロアに集まったが、授業の内容は別々ということで、リスティアとナナミは女子のグループについて行く。そこでは、アニス先生が待っていた。


「今日は編入生もいるので一度基礎に戻って、歩き方の確認からして参りましょう。頭に本を載せ、それを落とさないように歩いていただきます。まずは……シエラさん」

「は、はいっ」

 少し慌てた声の返事が響く。見れば、女の子が一歩前に出るところだった。リスティアよりもたぶん年下の、おっとりした見た目の女の子だ。


「まずは、編入生達に見本を見せて上げてください」

「わ、分かりました」

 緊張しているのだろうか? シエラと呼ばれた少女の声は少し震えている。本当に大丈夫なのかな? なんて思ったのだけれど、シエラは本を載せると静かに歩き始めた。

 少し、ほんの少しだけ腰の高さが揺らいでいるけれど、他の動きはとても洗練されている。本が落ちそうな危なさはまったく感じなかった。


「リ、リスティア様」

 シエラの歩き方を見ていると、ナナミが耳打ちをしてきた。どうしたのかなと視線を向けると、ナナミはなにやら泣きそうな顔をしている。

「……どうしたの?」

「私、あんな歩き方したことありません」

「あぁ、そうだよね」

 美しい歩き方と、効率のよい歩き方は必ずしもイコールではない。冒険者として歩きなれているナナミでも、優雅な歩き方は専門外ということなのだろう。

 ただし――


「大丈夫だよ。ナナミちゃんはたしか、剣技も少しは習っていたよね?」

「え? ええ、リックお兄ちゃんに覚えておけって教えられたので」

「なら、それで応用が利くよ」

 剣術などの足運びは、上半身を安定させることが前提にある。暴論でいってしまえば、剣術の足運びで進めば、加減速や方向転換の遠心力以外で本が落ちることはない。

 ――と、リスティアは考えた。


「まずは背筋を伸ばして、膝をほんの少しだけ曲げるの」

「……膝を曲げるんですか?」

「そうだよ。膝を伸ばすって言う人もいるんだけどね。それは、伸ばすのは足を前や後ろに出したときのこと。直立しているときは、少しだけ重心を落とすんだよ」


 本を落とさないで歩くには、腰の高さを一定にする必要がある。

 けれど、前や後ろに足を出したときは、地面から頭のてっぺんまでが水平でなくなる。つまりは、地面から頭の先までの高さが低くなるということ。

 よって、直立したときに100%の高さを保っていると、後ろや前に足を出したときに絶対にそれより低くなってしまうのだ。

 だから、頭の高さ――つまりは腰の高さを一定にするには、歩いている途中の一番低くなる位置に、腰の高さを揃える必要があると言うこと。

 それを、ナナミにかみ砕いて説明した。


「腰の高さを一定に……す、少しだけ分かった気がします」

 希望の光を見いだしたのだろう。ナナミの瞳に力が宿る。それからほどなく、アニス先生にナナミが指名された。

 ナナミはおっかなびっくりフロアの真ん中に進み出ると、受け取った本を頭の上に乗せた。


「い、行きます」

 そう言って直立したナナミは、少し重心を落としすぎていて、膝を曲げてるのが丸わかりである。とは言え、完全に伸びきっているよりは安定するはずだ。

 そう思って見守っていると、ナナミはゆっくりと歩き始めた。静かに、本を落とさないようにゆっくりと。その甲斐あって、ナナミの頭にある本はなんとかその場に止まっていた。

 けれど――


「――あっ」

 端まで行った後、戻るのに振り返ったときに、見事に本を飛ばしてしまった。

「す、すみませんっ!」

 ナナミが大きな声で謝罪して、慌ててその本を拾い上げる。


「ダメですよ、ナナミさん。失敗したからって、そんなに大声を上げて、はしたない」

「うっ、すみません……」

 ナナミが項垂れる。けれど、アニス先生はそんなナナミに少しだけ微笑んだ。

「たしかに、最後はダメでしたが、初めてにしてはよく歩けていたと思います。貴方はまだこの学校に来たばかりなのですから、これから頑張ってください」

「は、はい、ありがとうございます!」

「ですから、そんなに大きな声を上げてはいけませんよ」

「……あぅ、すみません」

 シュンとするナナミが可愛い。そう思ったのはリスティアだけじゃなかったようで、クラスの少女達も微笑んだ。


「さて、それでは次、リスティアさん」

「はい」

 静かに答え、本を受け取ろうとアニス先生の前に。けれど、伸ばした手に、どさっと三冊の本を載せられてしまった。

「……えっと?」

「貴方は三冊載せて歩きなさい」

「せ、先生、どうしてリスティア様だけ!」

 ナナミが抗議するが、アニス先生にジロリと睨まれて黙らされてしまう。


「ナナミちゃん、あたしは大丈夫だよ」

「いえ、あの……リスティア様。私が心配しているのは……いえ、なんでもないです」

 ナナミがなにか言いたげだったけれど、アニス先生を待たせるのはよくない。

 なにより、アニス先生は、リスティアのことを普通の女の子だと言った。つまり、本を三冊載せて歩くのは、普通の女の子に可能なレベルでなんの問題もない。

 そう判断したリスティアは、頭の上に三冊の本を載せた。サラサラの黒髪は摩擦係数がすくなそうだが――リスティアはなんの感慨もなく歩き始めた。


 礼儀作法の授業中とは言え、フロアはそれなりにざわついていた。けれど、リスティアを見た者達が、一人、また一人とその姿に見とれていく。

 優雅に、物静かに、それでいて凜とした雰囲気を纏っている。リスティアはただ歩いているだけなのに、クラスの者達の視線を一身に集めていく。


 リスティアはフロアの端まで歩くと、ゆっくりと反転を始め、少し加速して、半分を回った頃に減速を開始する。つまりは一定以上の遠心力が発生しないように回る。その優雅な動きは、ロングスカートの裾をひるがえすこともない。非常に美しい動きだった。

 もはや、誰も声を発しない。

 そんな静寂に包まれたフロアの中央を、リスティアがゆっくりと歩いて戻ってくる。


「す、凄いですリスティア様!」

 感極まったナナミが、リスティアに飛びついた。それを見た皆が「――あっ」っと声を上げる。リスティアの頭には、まだ本が三冊載っていたからだ。

 だけど――


「えへへ、ありがとう。ナナミちゃん」

 リスティアはその場からピクリとも動かず、腕だけで飛びついてきたナナミを優しく受け止めた。驚くべきことに本は微動だにせず――もはや、見守っている者達は声も出ない。


 ちなみに、ナナミはリスティアがやりすぎることを心配していたはずなのだが……あまりに優雅な姿を目の当たりに、すっかりそのことを忘れてしまったようだ。

 自分が、リスティアの凄さを更に引き立てたことに気付かない。無邪気な笑顔で、凄いです、リスティア様とはしゃいでいる。


 リスティアはそんなナナミを落ち着かせると、ゆっくりと頭の上に載る本を取り除いて、アニス先生に返却した。そのとき、アニス先生はなにか言いたげな顔をしていたけれど……リスティアがその表情に込められた意味を知ることはなかった。

 リスティアに見とれていたクラスの女の子達が、一斉に駆け寄ってきたからだ。


「凄く綺麗でしたっ」「どうやったらあんな風に歩くことが出来るんですか!?」「私にも教えてください」「私も、私も!」

 などなど、淑女の授業はどこへやら、黄色い声で一杯になってしまった。

 リスティアは、うわぁい、みんなに慕われてるよ、憧れられてるよ! お姉ちゃんになれそうだよ! なんて、内心で大はしゃぎした。

 だけど――


「「「――お願いします、リスティア様!」」」

 女の子達のセリフの最後にそんな言葉が続けられ、リスティアはショックを受けた。


 なお、ナナミがリスティア様と呼んでいたので、みんなそういうものだと思ったのだが、ナナミの呼び方に慣れてしまっていたリスティアは気付かない。

 あたしはお姉ちゃんって憧れられたいんだけど、なにがいけないのかなぁと落ち込んだ。

 

 

 学校に来るまでに、ナナミにリスティアお姉ちゃんと呼ばせていれば……

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