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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第二章

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エピソード 2ー2 普通の女の子と認められた日

「わぁ……リスティア様、凄いです!」

 上空数百メートル。リスティアに抱っこされたナナミが、無邪気にはしゃいでいる。最初は怖がって目も開けられなかったのに、いまはずいぶんと楽しそうだ。


「ナナミちゃん、楽しそうだね」

「はいっ! 最初は恐かったですけど、リスティア様がいれば安心だって分かりましたから。それに、こんな体験、普通は絶対に出来ないですから!」

「そっかぁ……」

 普通は出来ないのかぁ……と、ちょっぴり落ち込んだのは秘密。だけど、ナナミが喜んでいるのだから良いかと思い直した。


「凄いなぁ……ねぇリスティア様。頑張れば、私も自分で空を飛べるようになりますか?」

「そうだねぇ……ナナミちゃんは、第四階位まで使えるようになったよね?」

「はいっ! リスティア様のおかげで、第四階位の魔法が使えるようになりました! ……もちろん、魔法陣と詠唱が必要ですけど」

「第四階位を使えるようになったのは、筋が良かったからだよ」

 リスティアはナナミとエインデベルに魔法を教えているけれど、教えれば使えるようになるというものではない。現に、ベルはまだ第四階位に至ってはいない。自分が独学で第八階位までいたったことを棚に上げ、ナナミは特に筋が良いのだと感心するリスティアであった。

 という訳で――


「うぅん……そうだねぇ。地上から数メートルの高さをゆっくり飛ぶだけなら、第四階位の魔法をもう少し練習すれば飛べると思うよ」

「え? 本当ですか!?」

「うんうん。高く速く飛ぶ場合は、気圧や風圧を制御するのに、もう一つ魔法陣が必要になるけど、低く飛ぶだけなら第四階位で大丈夫だよっ」


 リスティアはこともなげに言い放った。

 そして、リスティアに心酔しているナナミは、リスティアが大丈夫だと言えば大丈夫だと信じてやりとげてしまう。その結果、人種として最強の魔法使いが育ちつつあるのだが……今のところ、本人達はまるで気付いていなかった。



 ――ほどなく、地平線に王都が見えてきた。


「ナナミちゃん、王都が見えてきたよ!」

「……え? も、もうですか!?」

 ナナミが目を白黒させる。だけど、それも無理はないだろう。空を飛んでいるという感覚はあっても、風圧などはリスティアが消し去っている。よもや、馬車で一週間以上掛かる王都に、わずか数時間で到着するほどの速度が出ているとは思わなかったのだ。


「王都って聞いて、あたしが暮らしていたお城を想像してたんだけど……あんまりシスタニアの街と変わらないんだね」

 遠くに見えるのはウィークヘイム国の王都ウィーク。この時代の技術の粋を集めて作ったというだけあって、街並みは美しい。けれど、それは大きな通りに面している部分だけ。少し裏に入ると、わりと古い建物が並んでいるのが見て取れた。


「真祖が暮らすお城と比べちゃダメですよ。それと……近年は人口が増えすぎて、食糧難に陥りつつありますから。スラムは増えているって聞いています」

「あぁ……言ってたね」

 人口が一気に増えて、チャンスは多く転がっているけれど、貧富の差も広がっている。孤児達が増えているのは、その辺も理由になっているとリスティアは聞いていた。


 子供達のために、いつかはなんとかしてあげた方が良いのかな? と、そんなことを考えながら、リスティアは高度を下げた。



   ◇◇◇



 王都ウィークにある学校――ラシェル。

 上流階級で必要な礼儀作法や、たしなみとして必要な技術の数々を選択して学ぶことが出来る学校。その、ラシェルの理事長であるブレンダは、学校の内部調査でやってくる者の資料に目を通して首を捻っていた。


 ウォーレン伯爵家の令嬢、シャーロットが派遣してくれた有能な人材。ちょっとした縁もあり、非常に期待していたのだが……資料に書かれている注釈がわりと意味不明であった。

 ナナミと記された少女のプロフィールは、礼儀作法などに難はあるが、戦闘能力や調査能力などは優秀だと書かれている。

 礼儀作法に難があるのは、なにも冒険者だけではない。成金の子供など、常識を知らない子供も皆無ではないため、それほど問題ないだろうと考えていた。

 だから、ナナミという少女については特に問題ないのだが……もう一人の方。リスティアと記された少女のプロフィールには、ただ一言。

 規格外な普通の女の子と書かれていた。


「……規格外な普通の女の子?」

 規格外なのが普通なのか、はたまた規格外の力を持っている普通の女の子なのか。手紙には、リスティアのことは自分の目で見てたしかめて欲しいと書かれていた。

 良く分からないが、もし使えないとなれば追い返せば良いだけの話。けれど、伯爵令嬢のシャーロットが手配してくれたことを考えれば、おそらくそれほど心配することはないだろう。

 ブレンダはそんな風に考えながら、リスティア達の到着を待った。

 そして――


「これは、また……」

 理事長室にやってきたのは学園の制服を身に纏う二人。リスティアとナナミを見て、ブレンダは感嘆のため息をついた。


 まずはリスティアと名乗った紅い瞳の少女。漆黒の髪はさらさらで、風のない室内であるにもかかわらず、窓から差し込む自然光を受けて、キラキラと輝いている。

 さらに肌は透けるように白く、シミ一つ見当たらない。絶世の美少女だった。


 そしてもう一人、ナナミと名乗った翡翠の瞳を持つ少女も負けていない。栗色の髪はサラサラで、肌はやはり透けるように白い。非常に愛らしい顔立ちの女の子である。


「ふむ……二人とも冒険者と聞いていたが、ずいぶんと肌が白いのだな」

 室内でのデスクワークが主な自分よりもずっと白い。ブレンダとて、婚期は逃しつつあるがまだまだ若い。同じ女性として、その秘訣を知りたい。そんな思いで、さり気なく尋ねる。

「あたしは、日焼けしない体質なんです」

 平然と言ってのけるリスティアと名乗った少女。その髪や肌は、体質というレベルではありえないと思うのだが……堂々と言われては嘘だと言うことも出来ない。

 ブレンダはそうかと頷き、今度はナナミと名乗った少女に視線を向けた。


「お前も体質なのか?」

「わ、私はその、最近急にこうなって……」

 ナナミはずいぶんとうろたえているな――と、ブレンダは思った。そして、リスティアの顔色をうかがうような仕草が見受けられる。

 これはおそらく、リスティアがなんらかの秘訣を知っているのだろう。そして、ナナミはその恩恵にあやかっているが、口止めもされている――と、そんなところだろう。


「……そうか。もし秘訣があるのなら知りたかったのだが、残念だ」

 今後、関係を築きあげることが出来れば、教えてもらう機会もあるだろう。そんな風に考え、今はそう言うに止める。


「ところで、あたし達はこの学校の調査をするように言われてきたんですけど」

「そうだったな……」

 忘れていたわけではないのだが、忘れたいほど頭の痛い問題でもある。現実逃避半分、美への追究半分で肌に言及してたブレンダだが、真面目モードへと自分の意識を切り換えた。


「既に聞いているかもしれんが、あらためて説明させてもらおう。この一年で、生徒が五名ほど行方不明になっている」

「普段から、行方をくらます生徒はいると聞きましたけど?」

 リスティアとナナミ、見た目の年齢通り、リスティアが歳上なのだろう。リスティアが、ブレンダの説明に対して質問を投げかけてきた。

 なのでブレンダも、リスティアに視線を向けて話を続ける。


「その通りだ。だから五名というのは、自ら行方をくらましたのではなく、何者かに攫われた可能性が高い生徒の数という訳だ」

「攫われた生徒も、行方をくらましてもおかしくない子供ばかりだと聞きましたけど。その辺について、詳しく教えていただけますか?」

「うむ、良いだろう」

 ブレンダは頷き、リスティア達に事情を話し始める。


「ラシェルの学校に通っているのは、貴族やお金持ちの子供。それに、貴族に才能を見いだされた子供達が大半だ」

「そういった子供が行方不明になれば、騒ぎになるのでは……?」

「場合によりけりだ。この学校に通えば箔がつく。そうして待っているのは、政略結婚の道具。そういった生徒が行方をくらましても不思議ではないからな」


 そして、そういった人物が行方をくらましても、基本的に騒ぎにはならない。なぜなら、子供が政略結婚が嫌で逃げ出した――なんて失態を表沙汰に出来るはずがない。

 貴族やお金持ち達は醜聞を気にして、あの手この手で事件を闇に葬ってしまうのだ。


「なら、行方をくらましたんじゃなくて、攫われたと判断した根拠はなんなんです?」

「五名ほどの生徒が攫われたと判断した根拠は、その者達に親しい友人がいて、行方が不明になった後に会う約束をしていたからだ」

「……自分で行方をくらますつもりなら、約束をしない、と?」

「可能性の問題ではあるが……疑って調べると、似たように不審な点がいくつも見つかったのだ。そして、同種のケースが五件あったと言う訳だ」


 だから、実際に攫われた生徒はもう少し少ないかもしれないし、行方をくらました全員が攫われたという可能性もある。

 だが――


「もし本当に誘拐犯がいるのなら、次の事件を防がなければならない。そして、攫われた生徒がいるのなら救ってやりたい。そのためには、犯人を捕まえる必要がある。犯人捜しを引き受けてくれるだろうか?」

「もちろんです。子供を攫うなんて許せませんから」

「そうか……そう言ってくれると助かる」

「それで、あたし達が編入するクラスですけど」

「ああ。この学校は三年制なのだが――」

「じゃあ、二年にお願いします」

 先んじて口にした。リスティアのセリフに、ブレンダは舌を巻いた。ブレンダ自身、リスティア達は二年生として編入させるつもりだったからだ。


「……ちなみに、なぜ二年を選んだのだ?」

「誘拐がこの一年で発生しているのが事実なら、内通者は一年以上前からこの学校にいる人物。もし生徒なら、二年か……もしくは三年だと思ったので」

「……さすがだな」

 ブレンダとまったく同じ考えだった。

「……なるほど、規格外な普通の女の子、か」

「ふえ?」

「いやなに、こちらの話だ」

 さすがはシャーロットが遣わせてくれただけはあるとブレンダは感心した。


「話を戻すが、二人には平民のクラスに編入してもらう予定だ」

「……平民? 攫われた人間は、貴族の方が多いのかなと思ったんですが」

「それも当たりだが、貴族と平民はクラスを分けているのだ」

 貴族クラスに通うのは、貴族の子息か養子となった者達だけ。貴族社会は狭いので、ねじ込めば一発で怪しまれてしまう。


「――なので、二人には平民クラスに編入してもらう。平民のクラスは三つあるのだが、二人は別々の方が良いのか?」

 ブレンダが問いかけると、リスティアはナナミをちらり。


「私は、リスティア様と同じクラスが良いです」

「えへへ、あたしもナナミちゃんと同じクラスが良いよ!」

 そういったやりとりの後、リスティアは同じクラスでお願いしますと告げてきた。

 その姿は、無邪気な子供にしか見えないが……ただ者ではないのは既に分かっている。恐らくはなんらかの深い考えがあってのことだろう。


「分かった。なら、二人とも同じクラスに編入させよう。それと、この事件は貴族達が隠したがっている。よって、調査は出来るだけ内密におこない、秘密裏に内通者を見つけて欲しい」

「見つけるだけで良いんですか?」

 リスティアが小首をかしげる。まるで、自分で全て処理をしてもかまいませんよと言いたげな自信が見て取れる。愛らしい容姿からは想像できないほどの実力者なのかもしれない。


「頼もしい限りだが、可能であれば捕らえる前に連絡を入れてくれ。相手によっては、騒ぎにならないように根回しをする必要もあるからな」

「分かりました。そういうことであれば、犯人に目星をつけた時点で報告しますね」

「そうしてくれ。それと、内通者が誰か分かっていない以上、お前達のことを誰かに教えるわけにもいかない。お前達が協力者であることを知っているのは、この学校では私だけだ」

「他の人には話すなってことですね」

「それもあるが、なにかあっても庇うことが出来ない。特に、貴族達とのトラブルは決して起こさないように気をつけてくれ」

「分かりました」

 リスティアは優雅にカーテシーをおこない、天使のように微笑んだ。それは、貴族達に対してのマナーも心得ているという証明。それも、決して付け焼き刃などではない、その辺の貴族よりも優雅な仕草。彼女を見て、冒険者の娘だと疑う者はいないだろう。

 ブレンダは彼女に任せておけば、内密に処理してくれるだろうと確信した。



   ◇◇◇



 王都ウィークの街にある、ラシェルと呼ばれる学校。その理事長室で、リスティアとナナミは、ブレンダという女性から今回の依頼に対しての話を聞いていた。

 なお、ブレンダは推定二十代後半で、リスティアの妹にはなり得ない。なので、リスティアははしゃぐことなく、ブレンダの話を冷静に聞いていた。

 そして、大方の話を聞き終えた頃、理事長室の扉がノックされた。


「――アニスか、入れ」

 これはクラスメイトの妹候補が迎えに来たパターン!? と、リスティアは期待したのだけれど、入ってきたのはブレンダよりも更に年上の女性だった。


「理事長、お呼びとうかがいましたが?」

「ああ。そこにいる娘二人を、お前の受け持つ平民クラスに編入させて欲しい」

「私のクラスに、ですか? 私の受け持つのは二年ですが……?」

「とある貴族に才能を見いだされて、この学校に通うことを勧められた、訳ありの娘だ」

「……なるほど、かしこまりました」

「ああ。では、後は任せる」

 ブレンダに退室を促され、リスティア達は理事長室の外へ。


「初めまして。私は貴方達が編入クラスを受け持つアニスです」

「あたしは、リスティアです。初めまして、アニスさん」

「わ、私はナナミって言います。初めまして!」

 リスティアの真似をするように、ナナミがおっかなびっくり頭を下げる。そんなナナミを見て、リスティアはやっぱりナナミちゃんは可愛いなぁと癒やされる。


「……なるほど、最低限の礼儀は知っているようですね」

 アニスは少しトゲのある口調で言い放ち、リスティアをジロジロと眺めはじめた。

「あの、なにか?」

「貴方達が貴族に見いだされたと言う話は聞きました。ですが、自分達が特別だとは思わないように。問題を起こせば容赦なく罰するのでそのつもりでいなさい」

「あたしは普通の女の子ですよ?」

「……分かっているのならよろしい」

 アニスは素っ気なく言い放った。だけど、だからこそ、リスティアは感動する。

 普通の女の子だと名乗るリスティアに対して、こんな風にそれが当たり前であると言った返しをした相手はアニスが初めてだったからだ。

 この人、あたしのことをちゃんと分かってくれてる良い人だよ! とリスティアは感激。案内すると歩き出したアニスの後を追いかけた。

 

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