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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第二章

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エピソード 2ー1 大空を舞う普通の女の子

 シャーロットの依頼を受けたリスティアは、王都の学校に通うことになった。なので、その準備のために、ひとまず孤児院へと戻ることにした。

 ちなみに、様子のおかしいナナミから話を聞こうと思ったのだけれど、少し用事があるからと振られてしまった。


 という訳で、戻ってきた孤児院。

 リスティアは夕食の席で、自分が冒険者ギルドに登録したこと。そしてその流れでシャーロットの依頼を受け、王都の学校に通うことになったと打ち明けたのだけれど――

 なぜか、それを聞き終えた子供達がしょんぼりとしている。


「……えっと、みんなどうかしたの?」

「院長先生、王都に行っちゃうの?」

「うん、そのつもりだけど……?」

 リスティアの発言に、子供達は更にしょんぼりとしてしまった。ミュウに至っては、その愛らしいイヌミミを、へにょんと垂れさせてしまっている。


「みんな、どうしたの?」

「……本当に、どうしたのか分からないの?」

 マリアが悲しげに、それでいて責めるような視線をぶつけてきた。可愛がっているマリアにそんな目を向けられ、リスティアは凄く動揺してしまう。


「ごめんね。あたしが、みんなの悲しむようなことをしたんだよね。それがなにか分からないけど、あたしがみんなのことを大切に思ってるつもりだよ」

「だったら、どうして王都に行くなんて言うの? 私達のこと、見捨てちゃうの?」

「……ふえ?」

 なにを言われているか理解できなかった。そんなリスティアに対して、マリアは堰をきったようにまくし立てる。


「私達は、リスティア院長に助けられた。リスティア院長のおかげで、今の私達がある。もしリスティア院長がいなくなったら……私達はどうすれば良いの?」

「えっと……マリア?」

「分かってるわ。リスティア院長には様々な素敵な孤児院や力をもらった。だから、いまの私達ならきっと……うぅん、絶対、リスティア院長がいなくてもやっていける」

「いや、だから……」

「――だけど、そういう問題じゃないの! 私達は、リスティア院長に、側にいて欲しいのよ。だからお願い、孤児院を出て行くなんて言わないでよっ!」

「待って、ちょっと待って、マリア。どうして、あたしが出て行くなんて話になるの?」

 このままではらちが明かないと、リスティアはマリアの会話を遮った。


「どうしてって……だってリスティア院長、王都の学校に通うのよね?」

「うん、そうだね。早くて数ヶ月、長ければ一年くらいかなぁ?」

「つまり、少なくともそのあいだ、孤児院には帰って来れないってことよね?」

「……え、どうして?」

 途中まで理解できていたのに、急に理解できなくなった。どういうことだろうと、リスティアは小首をかしげる。


「ええっと……リスティア院長は王都にある学校に通うのよね?」

「うんうん」

「そしてそのあいだ、王都で暮らすのよね?」

「うぅん、今のまま孤児院で暮らすつもりだよ」

 リスティアがそう言うと、マリアを初めとした子供達が一斉に首を捻った。


「ええっと……どういうこと? 王都って、シスタニアの街から、馬車で片道一週間以上は掛かるはずよね?」

「馬車だとそうだね。だからあたしは、学校が用意してくれる学生寮の部屋と、孤児院のあたしの部屋を転移の門で繋ぐつもりなの」

「て、転移の門?」

「うん。それを使えば、遠い距離でも一瞬で行き来できるんだよぅ~」

「そ、それはつまり、リスティア院長は、今まで通り孤児院で生活するってこと?」

「そうだよ? さっきからそう言ってるよね?」

 リスティアが頷くと、マリアは「それを先に言ってよ」と、泣き笑いのような顔をした。



 そもそも、仮に転移の門がなかったとしても、空を飛べるリスティアにとってはひとっ飛びの距離。孤児院から王都に通うのに、なんの問題もない。

 なので、そんな風に心配をされるなんて夢にも思っていなかった。そもそも、リスティアはマリア達を大切に思っている。もし何ヶ月も会えなくなるなら、王都に行ったりしない。

 けれど、みんなにはそれが分からなくて、不安にさせてしまったのだと理解する。


「マリア……それに、他のみんなも、心配させちゃってごめんなさい」

 リスティアは深々と頭を下げる。みんなを心配させてしまったと、心から反省した。


「あたしは、みんなのこと、いもう……家族みたいに思ってるから。だから、みんなを置いてどこかに行っちゃうなんて絶対にないからね。それだけは約束するよ」

 リスティアが微笑んだ瞬間、子供達は少しだけ安堵するような表情を見せた。

 だけど、みんなはやっぱり不安そうで――リスティアはそんな子供達に、「これはお詫びだよ~」と、アイテムボックスから取り出したシュークリームを手渡していく。

 それによって、ようやく子供達は笑顔を取り戻してくれた。

 だけど――


「それじゃ、ちょっと飲み物をとってくるね。マリア――手伝ってくれるかな?」

 まだ不満気なマリアに声を掛けて、厨房へと移動した。

「マリア……ごめんね?」

「ダメ、許さない。凄く……不安だったんだから」

 目に涙を浮かべ、ぎゅっとリスティアの胸に顔を埋めてきた。こんなにも慕ってくれているという事実に感動しつつ、同じくらい心配を掛けたと申し訳ない気持ちになる。


「……ごめんね、マリア。私は絶対、マリア達を置いて行ったりしないからね」

「本当? 約束、してくれる?」

「うん、約束する。マリアが自分から孤児院を出て行ったりしない限り、あたしはずっとマリアの側にいるよ」

「……じゃあ、あたしがずっと孤児院にいるって言ったらどうするの?」

「もちろん、かまわないよ。それに……もしいつか、マリアが心から望んでくれるのなら、ずっと、あたしの側にいて欲しい、かな」

「え、それって、その……本気なの?」

「もちろん、本気だよ。返事は……もう少し大きくなってからで良いから。考えて欲しいな」

 いつか眷属にして、永遠に等しい時間を一緒に。そんな思いを込めて微笑みかけると、驚きに目を見開いていたマリアの頬がほのかに染まった。


「うっ、あ……その、少し考えさせてもらってもいいかしら? リスティア院長とはずっと一緒にいたいと思っているけど、その、少し予想していなかったから」

「うん、もちろん。マリアがもう少し大きくなってからで良いよ」

 いつか、マリアが妹になってくれたら良いなぁ……と、リスティアは心から思った。その思いが正しく伝わっているかは……怪しいけれど。



 その後、マリアと仲良く飲み物を持ってみんなのもとへ。気を取り直して、みんなでのティータイムを楽しんだ。

 そして、夕食が終わった後。リスティアが部屋で転移の門を用意していると、ナナミが孤児院を訪ねてきたとマリアから知らせを受けた。


 そんな訳で、ナナミに部屋に来てもらうように言づてをお願いしたのだけれど――部屋にやって来たナナミの様子がなにやらおかしい。

 そう言えば、自分が王都の学校に通うと言い出したころから様子がおかしかった。そこまで考えたリスティアは、ナナミの様子がおかしい理由に思い至った。


「あのね、ナナミちゃん。王都の学校に通う件だけど」

「――リスティア様!」

「う、うん?」

 家から通うつもりなんだよ? と伝える前に話を遮られ、しかも、ナナミがものすごく必死な顔をしていたものだから、思わずセリフを飲み込んでしまった。

 そして――


「私も、王都の学校に通わせてください!」

 リスティアが気圧されているあいだに、ナナミがガバッと頭を下げた。

「えっと……ナナミちゃんも学校に?」

「はい、ベルお母さんや、リックお兄ちゃんにはちゃんと許可を取ってきました。それに、ギルドや、シャーロットお姉ちゃんにもちゃんと許可をいただきました」

「………………え?」

 リスティアは凄まじい衝撃を受けた。


「ナ、ナナッナナミちゃん、い、いま、シャーロットお姉ちゃん……って?」

 き、聞き間違いかな? そうだよね。ナナミちゃんは、あたしの妹になるべくして生まれてきた大天使なんだから、シャーロットをお姉ちゃんだなんて……


「呼びましたけど?」

「………………………………な、なんで?」

 た、大変だよ。あたしのナナミちゃんが取られちゃう――とリスティアは戦慄。危うく灰になりそうになりながらも、絞り出すように疑問を口にした。


「実は、学校に通いたいとお願いしたときに『わたくしは、リスティアのお姉ちゃんだから、リスティアの可愛がっている貴方の姉でもあるのよ。だから――」って」

 あぁぁぁぁぁっ、その手があったかぁぁぁっ!

 リスティアの姉だから、ナナミの姉でもあるという理論。そうして、妹を増やしていくシャーロットはさすがだと戦慄した。


 もちろん、ナナミはリスティアが最初に目を付けた大切な妹候補。だけど、姉が一人いたからと言って、二人目の姉が出来ない訳ではないと言うのは、リックの件で学習済み。

 だから、リスティアは即座にショックから立ち直り、次なる一手を考えた。

 それは――


「なら、ナナミちゃん。あたしのことは?」

「もちろん、リスティア様です」

「………………」

 シャーロットは、あたしのお姉ちゃんだから、ナナミちゃんにとってもお姉ちゃん。その理屈が成り立つなら、あたしはナナミちゃんのお姉ちゃんだよね!

 そんな風に思っていたリスティアはしょんぼりした。けれど、その理論は間違っていないはずだ。頑張れば、あたしもいつか――と、リスティアは自分を奮い立たせたのだが……


「そんなことより」

「……そんなこと」

 再び落ち込むリスティア。だけどナナミは気付かず「私も一緒に連れて行ってください」と続けた。一瞬なんのことだっけと考え、すぐに学校のことだと思い出した。


「えっと……ナナミちゃんが、通いたいって言うなら別にかまわないよ。だけど、その……」

「ホントですか!? 後でダメとか言っちゃ嫌ですからね!?」

「うん。それはかまわないんだけど……あのね、ナナミちゃん」

「リスティア様!」

「う、うん?」

「私、リスティア様に許可をもらったって、ベルお母さん達に話してきます!」

 よほど必死だったのだろう。ナナミはリスティアの話をろくに聞きもしないで、そのまま走り去ってしまった。


 もちろん、リスティアはナナミが誤解していることに気付いているのだけれど、シャーロットに先を越された件で落ち込んでいたリスティアは、まぁ良いかと後回しにした。



 そして後日。

「それじゃ、ナナミちゃん。王都まで行くよ~」

「はい、リスティア様。旅の準備は出来ています!」

「普通に空を飛んでいくから、そんなものは必要ないよ?」

「え、空って……え? えええええええええっ!?」

 どこまでも続く青空を、普通の女の子が飛んでいた。

 そんな噂が誠しとやかに囁かれた。

 

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