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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第二章

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エピソード 1ー2 普通の女の子はギルドに勧誘される

「うぅむ……」

 冒険者ギルド、シスタニア支部の執務室。ギルドマスターであるアンドレアが事務処理をおこなっていると、受付嬢であるモニカがやって来た。


「アンドレア様、そのような雑務は私に任せてください。お体に障りますよ」

「そう言ってくれるな。わしはあまり長くはない身じゃ。最後まで働かせてくれ」

 年老い始めたとは言え、まだまだ働ける年齢――なのだが、不治の病を患っている。だから、アンドレアは死ぬまでに出来ることをしたいと無理をする傾向にあった。


「……お爺様」

 アンドレアの言葉に、モニカは悲しげに目を伏せた。

 二人のあいだに血のつながりはないのだが、以前アンドレアが行き場のないモニカを拾って後見人となって以来、モニカはアンドレアをお爺様と慕っている。


「こら、モニカ。公私は分けろといつもいっているじゃろう」

「――っ。すみません、アンドレア様」

「うむ、それで良い」

 モニカは非常に優秀だが、アンドレアを慕うあまり目的を見失うことがある。自分が朽ちるまでに、その辺りを直して欲しいと願うアンドレアだった。



「それで、今日はなに用じゃ?」

「はい。まずは……ナナミさんの事情聴取の件、勝手な真似をして申し訳ありませんでした」

「そのことなら気にする必要はない。わしでも同じことをしただろうからな」

 冒険者ギルドは、ギルドのメンバーが安全に活動できる環境を作るための組織であって、真実を追究するための組織ではない。であるから、ナナミに害意がないと判断した時点で、詳細に目をつぶった判断を責めるつもりはなかった。


「それに、ドラゴンを消し炭などと言われて信じるはずがない。追及していても、ナナミとの関係が悪化していただけじゃ。そう考えれば、お前の判断は間違っていなかった」

「……申し訳ありません」

 慰めだと判断したようで、モニカは力なく頭を下げた。


 アンドレアは本気で、モニカに責任はないと考えているのだが……本人が責任を感じている以上はなにを言っても無駄だろう。そう思ったから、話を進めることにした。


「それで、用件はそれだけなのか?」

「いえ、実はリスティアなる人物の、調査報告が上がってきています」

「そうか、教えてくれ」

「はい。まずは……」


 モニカが報告書を読み上げてくれる。それによると、ナナミが帰還した際、女の子が同行していたとの目撃情報が上がっている。

 また、その数日後には、リスティアなる人物が孤児院の院長の座に収まり、孤児院の建て直しを開始。貴族のお屋敷も真っ青なレベルの孤児院(豪邸)を建てたらしい。

 そして、現在はその孤児院で食堂を開き、妹メイドとして名をはせているとのことだった。


「以上の情報から、ドラゴンを消し炭にした通りすがりの普通の女の子と、ナナミの言うリスティア様。街にいるリスティアという妹メイドが同一人物であると予想されます」

「ふむ……それで、その者は一体何者なのじゃ。ドラゴンを消し炭にする攻撃力と、孤児院を建て直す財力。話半分だとしても、ただ者ではなかろう?」

「……それが、普通の女の子だそうです」

 モニカの返答に、アンドレアは眉をひそめた。


「それは身分を隠すための建前であろう? その正体が何者か、探らなかったのか?」

「もちろん探りを入れました」

「……つまり、探った上で、普通の女の子じゃというのか?」

「ありえないはずですが……ナナミさんはもちろん、彼女に関わったとおぼしき大工や、グラート商会、果ては新しい市長までもが、彼女は普通の女の子だと、口を揃えています」

「……新しい市長というと、ウォーレン伯爵家の一人娘じゃったな」

「はい。おそらく、彼女によって情報統制が掛けられているのかと」

「なるほどのぅ……」


 つい先日、汚職にまみれていたシスタニア前市長を排除し、次期市長の座に収まった伯爵令嬢。シャーロットは、身分にかかわらず、才能ある人物を登用すると聞く。

 そんな彼女が関わっていると考えれば、おおよその展開が見えてくる。

 シャーロットはおそらく、リスティアに目を付け、手に入れようとしているのだ。つまりは、リスティアは伯爵令嬢が目を付けるほどの人物であると言うこと。


 であれば、噂も信憑性が増してくる。少なくとも、ナナミの技量が上がったのがリスティアのおかげという話は事実であるはずだ。

 もし、リスティアを味方に引き込むことが出来れば、ナナミと同じように他のメンバーを鍛えてもらうことが出来れば、ギルドメンバーの安全は飛躍的に高まるだろう。

 領主の娘であり、シスタニアの市長でもある。そんなシャーロットに敵対するつもりは毛頭ないが、出来ればギルドに欲しい――と、アンドレは思った。


「ふむ……一度、その娘に接触してみるかのぅ」

「……それは、市長を敵に回すのではありませんか? 前市長ならともかく、領主の娘であるシャーロット様を敵に回すのは危険だと愚考いたします」

「心配するな。その娘は孤児院食堂とやらで、メイドをやっているのじゃろう?」

「あくまで、食事をしに行くだけだと?」

「うむ。わしも、その新しい食堂とやらには興味があるからな」

「わしも……って、お待ちくださいっ! マスターが自ら行くつもりですか!?」

 モニカが驚きに目を見開いた。次の瞬間にも、制止の声が飛んできそうな勢いだ。


「そのような顔をするな。わしであれば、最悪でもギルマスの地位を降りればすむ程度じゃろう。老い先の短い、わしの仕事を奪ってくれるなよ?」

「……分かりました。もしアンドレア様がギルマスの地位を下ろされたら、その後のお世話は私がするので、安心してやらかしてきてください」

「おいおい。そんなことを言われては、無茶をしづらいではないか」

「アンドレア様に拾って頂いた恩は今でも忘れていません」

 茶化そうとしたアンドレアに対して、モニカはどこまでも真剣な眼差し。この頑固さは一体誰に似たのやらと、アンドレアはため息をついた。


「分かった。出来るだけ無茶はしない。可能な限り気をつけると約束する」

「……はい。それでは、行ってらっしゃいませ」



 という訳でやってきたのは、孤児院食堂の前。

「これは……聖域かなにか、なのか?」

 アンドレアは孤児院食堂を見上げて呆然と呟いた。

 透明なガラスや、洗練された外観などなど。一般人が驚くのはそこだろう。

 しかし、アンドレアはまったく別のところに驚いていた。孤児院の建物全体がとんでもない量の魔力を帯びていたからだ。

 例えるのなら、建物自体がアーティファクト。千年前から残っている聖域ならともかく、こんな街の中心にあるはずのない建物だった。


「噂の嬢ちゃんの人柄を見つつ、食事を楽しむつもりだったのじゃが……これはどうやら、シャレになっておらんの」

 今のところ邪悪な感じはしない。むしろ、神々しいとすら思える――が、そうやって油断をすれば生きて帰れないかもしれない。そう思うほどに異常な建物だった。


 とは言え、こうやって外観を見ていても始まらない。アンドレアは気を引き締め、孤児院食堂へと一歩を踏み入れた。

 そこに広がる光景に、アンドレアは再び目を見開いた。清掃の行き届いた綺麗なフロアに飾られる調度品の数々。それらが全て、強い魔力を帯びていたからだ。


 この魔力量は……まさか、アーティファクトなのか?

 いや、エンチャント品の魔力量は触媒で決まる。大きな魔力を使っているから、強力な能力が込められているとは限らない。

 そもそも、ここにある品が全てアーティファクトなら、城の宝物庫にも匹敵する財産になる。そんなことはありえるはずがない――と、アンドレアは自分を言い聞かせた。


「お帰りなさい~」

 すぐにこの店の店員らしき、メイド姿をしたイヌミミ族の幼女がやってくる。店員の接客方法については事前に調べていたので、お帰りなさいと言われたことには驚かない。

 それどころか、可愛らしいイヌミミの女の子に癒やされる気分だったが――


 ――なん、じゃと!?


 その胸もとに輝くブローチを見て目を見開いた。

 シンプルな木の葉をかたどったようなデザインのブローチ。木の実のように連なる三つの魔石の総量が凄まじく、今現在、なんらかの強力な効果が発動しているのを感じ取ったからだ。

 鑑定しなければハッキリと断言は出来ないが、恐らくはアーティファクト。なぜこのような幼子が……と驚愕する。

 そして――


「いってらっしゃい、お兄ちゃん」

 別のメイドが、アンドレアの脇を抜けて他の客を送り出す。そのすれ違いざまに、その娘にも、イヌミミ幼女と同じブローチが輝いていることに気付いてしまった。

 まさ、か――


 アンドレアはもしやと、フロアに目を向ける。詳細は分からないが、見える範囲にいる、メイドや執事達全員が、同じようなブローチをつけているのが見て取れた。

 同じアーティファクトが複数。今までにもなかったわけではないが……これほどの数を、孤児院食堂の店員達が身に付けている。もはや理解不可能な現象だった。


「んっと、んっと。おじいちゃん、どうかしたの?」

「む? い、や……こほん。実は、リスティアを指名したいんじゃが」

 イヌミミ幼女に声を掛けられて我に返ったアンドレアは、当初の予定を果たすべく、イヌミミ幼女に要望を告げた。


「はーい、それじゃ、リスティア店長を呼んでくるね~」

「う、うむ、よろしく頼む」

 本来の目的を果たすために気を取り直す。この分だと、リスティアなる人物もアーティファクトを身に付けていそうだが、それには驚くまいと意識を強く持つ。

 しかし――


「おじいちゃん、お待たせだよぉ~」

「ふおぉぉぉっ!?」

 アンドレアは年甲斐にもなく叫んでしまった。後ろで束ねた艶やかな黒髪に、大粒の赤い瞳。メイド服に身を包んだ天使が、アンドレアに向かって微笑みかけて来たからだ。


 ――わしは、わしはこんな孫が欲しかったんじゃ!

 もちろん、モニカのことは孫のように思うておるが、あやつはわしのことを気遣う方じゃからな。こういう護ってやりたくなるような孫が欲しかったんじゃ! などと、モニカが聞けば凍てつくような目で、驚くところが違うでしょと言いそうなことを考えた。


「おじいちゃん、どうかしたの?」

「む? いや、その……お主がリスティア――天使ちゃんか?」

「あたしは普通の女の子だよ?」

 コテリと首を傾げる少女が天使すぎると、アンドレアは完全に目的を見失っていた。けれど、リスティアが「それじゃ席に案内するね~」と歩き出したことで、ようやく我に返った。


 アンドレアはあらためてリスティアの後ろ姿を眺める。

 メイド服は、他の子供が着ているものと同様に魔力を感じるが、それ以外には魔力を帯びた品を身に付けていないようだ。

 本人もいたって普通で、ただひたすらに可愛いだけの女の子に見える。

 だからアンドレアは、リスティア本人が凄いのではなく、なんらかの手段で、大量にアーティファクトを手に入れただけの普通の女の子だと判断した。

 しかし――


「メニューとお水だよぉ~」

「なん、じゃと……?」

 案内された席に腰掛けた瞬間、リスティアが虚空からメニューと水を取り出した。それを見たアンドレアは目を見開いた。


 今のは……アイテムボックスか? まさか……ありえん――とアンドレアは驚愕した。

 もちろん、ナナミがアイテムボックスを使っていたという報告は聞いているが、それは詠唱と魔法陣を併用しての結果。

 つまり、かつては第四階位まで。そして、いまは第三階位までしか使えなくなった人類の中に、第四階位の魔法を使えるものが現れたというレベルの事実。

 けれど――先ほどのリスティアは無詠唱で、魔法陣もなくアイテムボックスを使った。

 まさか……第六階位まで使用できるというのか? いやいや、ありえぬ。そのような神話級の魔法を使える人間が、この世にいるはずがない。


 必死に否定してみるが、現実に目の前には水の入ったコップが置かれている。

 本当に水なのだろうかと、アンドレアは恐る恐る、水の入ったコップに手を伸ばし――その冷たさに目を剥いた。

 アイテムボックスと言う魔法は、異次元に空間を使ってアイテムを保管する魔法。その工程だけで、四つの魔法陣を必要とするがゆえに第四階位の魔法。

 つまり、アイテムボックスの中で冷たいまま保存するには、理論上は五つの魔法陣が必要となる。第五階位の魔法を、魔法陣も詠唱もなく発動させる。

 そんなことは天地がひっくり返ってもありえない。


 ……いや、冷たい水を入れたばかりだと考えれば、アイテムボックスから冷たい水が出てくることはありえない話ではない。一見ありえないことに見えるが、別の手段で可能なように見せかける。そこまで考えたアンドレアは、一つの結論に至った。


「そうか……手品、じゃな」

「えへへ、バレちゃった」

 リスティアが可愛らしく微笑む。それを見たアンドレアは、客をもてなすサービスの一つかと理解。なるほど、天使ちゃんと慕われるわけじゃわいと感心した。


「それで、おじいちゃん、ご注文は~?」

「うむ……そうじゃな、実は脂っこいものが食べられなくての。さっぱりした物が良いんじゃが……なにか、オススメはあるかのぅ?」

「脂っこい物が苦手なの?」

「いや、本当は好きなんじゃが……そういう病気なんじゃよ」

 コテンと首を傾けるリスティアが可愛くて、アンドレアは思わず正直に答えてしまった。

 そして、明るい空気を壊してしまう、余計なことを言ってしまったと後悔。リスティアの笑顔が曇ることを危惧したのだが――


「あぁ~本当だ。臓器の機能が低下しているね」

「……は? 臓器の機能が低下、じゃと?」

 アンドレアの病は原因不明で、現代の医学では治療をすることはもちろん、症状を緩和することも出来ない。油っぽいものを食べないようにして、延命を図るしかない。

 いわゆる不治の病であるはずなのに、一体なにをと混乱する。そんなアンドレアに対して、リスティアは透き通るように白い手を差し出してきた。


「……なんじゃ?」

「おまじないをして上げるね」

「なるほど。お主は優しい娘じゃな」

 まじないとは、呪いと書く。それゆえに一般的には混同されがちだが、魔法とまじないは別物である。とくに女子供の言うおまじないと言えば、お祈りと同じような意味合いである。

 つまりこの天使は、アンドレアが元気になるように祈ってくれると言っている。アンドレアはそんな風に解釈したのだが――


「痛いの痛いの、飛んで行け~」

 リスティアが愛らしい声で言い放った瞬間、その手のひらに魔力が集まり、温かい光となってアンドレアの身体に流れ込んでくる。

 その魔力量に驚き、魔法の発動速度に驚愕し、身体が癒やされていく感覚に絶句した。


「いまのは、一体……」

「えへへ、おなじないという名の手品だよ?」

「なるほど、手品か。それならば納得――なわけあるかっ!」


 一時的な気休めとか言うレベルではない。完治したかは現時点では確信を持てないが、全盛期の状態に回復したと思えるほどに身体が軽くなっている。

 無詠唱で、魔法陣もない。第一階位の魔法で、ここまで癒やせるはずがない。いや、第二、第三階位でも不可能だ。ましてや、魔法以外の手段で治癒できるはずもない。

 そう考えると、水やメニューを取り出した手品も怪しいように感じられる。やはりあれはアイテムボックスだったのでは――と、アンドレアはいまさらながらに戦慄した。


「お主は……一体何者なんじゃ?」

「あたしは普通の女の子だよ?」

「……普通の女の子、じゃと?」

「うん、普通の女の子だよ?」

 いぶかしむアンドレアの視線を、まっすぐに受け止める澄んだ紅い瞳。

 ギルドマスターとして多くの人間を見てきたアンドレアからみても、リスティアが嘘をついているようには見えなかった。

 だが、どう考えても普通ではない。


 だとすれば……と、アンドレは一つの可能性に気がついた。それは、リスティアが天使、もしくはそれに準ずる聖女のような存在で、その力を隠しているというもの。

 であれば、ナナミ達のピンチを見過ごせなかったことも、派手に立ち回りながらも普通の女の子を自称することも理解できる。

 リスティアは、自分の力を隠そうとしているが、その優しさゆえに困っている者がいたら見過ごすことの出来ない、優しい性格の持ち主だと言うことだ。


 まさしく天使で、市長がリスティアを気に掛けていることも納得だ。ギルドに所属してもらうだけでも、様々な恩恵が得られることは想像に難くない。

 ぜひギルドのメンバーに欲しいと、アンドレアは心の底から思った。

 だから――


「……まずは、わしの病を治してくれたことに感謝する。そのお礼と言ってはなんじゃが、お主……わしの孫にならぬか?」

「ふえ?」

 リスティアが首を傾げる。ギルドメンバーに誘おうとして、自分が思わず本音を漏らしてしまったことに気付いたアンドレアは咳払いを一つ。

「今のは間違いじゃ。お主、ギルドメンバーにならぬか? わしは、冒険者ギルドのマスターでの。優れた人材を欲しているのじゃ」

「……ギルドって、どんなところなの?」


 取り敢えずは興味を示してもらえたようだ。そんな手応えを感じたアンドレアは、冒険者ギルドが、冒険者の仕事を斡旋するところであることを説明した。


「うぅん、あたし別に、冒険とか興味ないしなぁ……」

「そうじゃろうな。だが、お主がギルドに所属してくれるのなら、好待遇を約束する。そうじゃな……例えば、孤児院へ毎月支援金を用意する、とかではどうじゃ?」

「うぅん、別に支援とかは必要ないからなぁ」

「ふむ……たしかに、繁盛しているようじゃからな」

 店の様子を見て納得する。アンドレアは空いている時間帯を選んで来店したのだが、それでも客はかなり多い。食事時であれば、確実に満員となるだろう。


 そこでアンドレアは、リスティアがなにを求めているかを考えた。リスティアが孤児院を経営していることを考えれば、子供が好きなのは確実だろう。

 ならば――と、正面からぶつかることにした。


「嬢ちゃんが孤児院をしているのは、子供達を護るためだと思うのじゃが、どうじゃ?」

「うぅん……そうだね。そんな感じだよ」

「冒険者になれば、より多くの子供達を護ることが出来るようになるぞ?」

「え? どういうこと?」

 リスティアが興味を示した。やはり自分の予想は間違っていなかったと、アンドレはひとまず安堵。リスティアを口説くためにたたみかける。


「孤児が生まれるのは、貧困か、親がなんらかの理由で死亡する場合がほとんどだ。そして親が死ぬ理由の一つに、魔物に襲われての死亡がある」

「……あたしに、魔物を殺して回れって言うの?」

「いや、そうは言わぬ。ただ、孤児を護るために孤児院を経営する嬢ちゃんと、孤児を生まぬために冒険者を育てる冒険者ギルド。互いに協力できることがあるとは思わぬか?」


 本音を言えば、リスティアに冒険者として活躍してもらいたい。

 けれど、リスティアと話してみた感じからして好戦的とは思えない。であれば、冒険者の育成に協力してもらうくらいが妥協点だろうと考えた。

 しかし――


「うぅん……そうだね」

 リスティアは考え込んでいるようだ。恐らくは後一押しといったところのはずだが、その一押しが思いつかない。どうしたものかと、アンドレアは眉を寄せた。


「うぅむ。これが男であれば、ギルドで活躍してランクをあげれば、おなごから憧れの的になると言えば、大抵は釣れてくれるんじゃがのう」

「おじいちゃん?」

「む? いや、すまん。たしかに釣るという言い方はイメージが悪かったな。誓って言うが、嬢ちゃんを騙すようなつもりはないぞ」

「うぅん、そうじゃなくて。ギルドでランクを上げると、女の子から憧れられるの?」

「……む?」

 孤児院の食堂に降臨した天使ちゃん。妹メイドと慕われてなお、周囲から慕われることを欲するとは、以外と自尊心が強いのじゃろうか? と、アンドレアは考えた。

 なんにしても、このチャンスを逃すわけにはいかない。


「もちろんじゃ。Aランクや、そのうえのSランクなどは皆の憧れの的じゃ。ナナミも最近はめきめきとランクを上げて、皆から慕われておる」

「ナナミちゃんが?」

「うむ。嬢ちゃんは特に外見が愛らしいから、きっと大人気になるじゃろうな」

 ナナミはいつも一生懸命に頑張っているので、ギルドやまわりの人から、妹キャラとして愛されている。だから、リスティアもそうなるだろうと本気で思っていた。


 なお、リスティアは憧れられたいと言ったのであって、可愛がられたいと言った訳ではないのだが……アンドレアは気付いていない。妹メイドとして大人気のリスティアが、お姉ちゃんになりたがっていると気付けというのは、さすがに酷というものだろう。

 ともあれ、アンドレアのセリフが決めてとなり――


「あたし、冒険者ギルドに加入したいです!」

 リスティアは満面の笑顔で言い切った。

 

 

 明けましておめでとうございます。

 以前からお知らせがあると言っていましたが、無自覚吸血姫と異世界ヤンデレの二作品に、書籍化のお話をいただいております。その告知を活動報告にあげているので、良ければご覧ください。


 次回更新は5日、しばらくは4日おきを予定しています。

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