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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第二章

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エピソード 1ー1 普通の女の子の日常

「お兄ちゃん、お帰りなさい~」

 活気あふれる孤児院食堂。フロアで来客の対応をしているのは、後ろで無造作に纏めた髪を揺らしながら、天使のような笑顔を振りまいている妹メイド。

 孤児院食堂で人気ナンバーワンの、大天使リスティアちゃんである。


 なお、その正体は大陸最強の真祖の末娘。人間やエルフやイヌミミ族の女の子を、眷属にして妹にして愛でようと思って人里に紛れ込んだ、ごくごく普通の女の子だ。

 ――と、本人は思っているが実際のところは……と、あらたなお客さんがやって来た。今や孤児院食堂の常連となった、大工達である。


「ウッドお父さん、それにお兄ちゃん達も、お帰りなさい~」

 リスティアは笑顔を振りまきつつ、アイテムボックスからメニューと水の入ったコップを人数分取り出して、テーブルの上に並べていく。

 最初は虚空から水やメニューが出てくることに驚く者達が続出していたが……最近はリスティアの種も仕掛けもない手品に突っ込んでも仕方がないと、受け入れられていた。


「おぅ、嬢ちゃん。今日もこいつらを連れてきたぜ」

「おいおい、棟梁、俺達がいなくても来る気満々だったくせに」

「うるせぇぞ……いてて」

 部下の大工に悪態をついた棟梁、ウッドが腕を押さえて顔をしかめた。


「ウッドお父さん、どうかしたの?」

 リスティアは小首をかしげつつ、ウッドの身体を魔法でスキャンする。なにかに強くぶつかったのか、腕の骨にひびが入っていた。

「いや、なんでもねぇよ」

「リスティアちゃん、棟梁は今朝、倒れた木材で腕を打ったんだ。それなのに平気だとか言って、まるで言うことを聞かねぇんだよ」

「おい、余計なことを言うな」

 ウッドが再び悪態をつく。そのやりとりでおおよそ察したリスティアは「もぅ、お父さん。無理しちゃダメだよぉ?」と少し怒った顔で、ウッドの怪我をしている腕を掴んだ。


「おい、嬢ちゃん?」

 リスティアは答えず、左手で固定したウッドの腕に右手を添えると「痛いの痛いの、飛んでいけ~」と無詠唱で発動した治癒魔法で、骨のひびと炎症を癒やしてしまう。


「はい、これで大丈夫だよ~」

「なにを言って……っ、痛みが……引いた?」

「棟梁、なんだかんだ言ってノリが良いじゃないですか」

「いや、マジで痛みがない」

 信じられないと、ウッドが腕を回す。それを見た他の大工達も、冗談ではないと理解したのか、驚きの表情を浮かべた。


「嬢ちゃん……今度はなにをしたんだ?」

「メイドの癒やしパワーだよ?」

「……そうか、メイドの癒やしパワーなら仕方ない」

 なにかを悟ったように同意する大工達。


「「「リスティアちゃん、マジ天使!」」」

 様子を見守っていた他の客達からそんな声が上がる。

「あたしは天使じゃなくて、普通の女の子だよぅ」

「うんうん、そうだな。普通の女の子だな」

「えへへっ」

 愛らしい微笑み。やはり天使か――と、客達の心は一つになった。ちなみに、女性客も多くいるのだが、やはりリスティアは無邪気で可愛い天使ちゃんと言う認識がされている。

 誰一人、リスティアが普通の女の子だとは思っていないのだが……本人は気付かない。幸せそうな笑顔を振りまいている。



 その後、リスティアは大工達から注文をとって、一度厨房へと足を運んだ。

 厨房では、ブルネットのメイドが、後ろで纏めた銀髪を振り乱して料理を作っていた。孤児院で一番年長なマリアである。

 もちろん、リスティアのアイテムボックスには、様々な料理が入っているのだが――子供達の手に職を付ける一環として、料理を作ってもらっている。

 ちなみに、ちゃんとした料理を作れるのは今のところ、リスティアの他にはマリアだけ。なので、料理はマリアが担当しているのだが……


「マリアお姉ちゃん、次はどうしたら良い?」

「それじゃ、カリン。そっちのお皿を洗っておいて」

「はーい」

 カリンが一生懸命、マリアのお手伝いをしている。マリアよりも五つ年下、まだ十歳のカリンは背が低くて大変そうだが、台の上に乗ってお皿を洗い始める。

 リスティアは、そんな二人を可愛いなぁと眺めていた。


「リスティア店長、リスティア院長ってば」

「うん?」

「うん? じゃなくて。なにか注文じゃないの?」

「あ、そうだった。ウッドさん達が来たから、今日のお勧めを五人分お願いできるかな?」

「分かった。急いで作っちゃうわね」

 凄く忙しそうなのに、マリアは泣き言一つ言わない。まだ十五歳の女の子なのに、賑わう孤児院食堂の厨房を支えている。


「大変な思いをさせてごめんね」

「ん~? なんのこと?」

 マリアはフライパンを揺すりながら、声だけをこちらに投げかけてきた。メイド服のフリルを揺らしながらお料理をする姿が愛らしい。


「みんなに普通の生活をさせてあげようって思ってたのにね。ここまで忙しくなるとは思ってなくて、申し訳ないなぁ……って」

 そんな思いを口にすると、マリアはきょとんとした目を向けてきた。

「普通の生活って……本気で言ってるの?」

「え? もちろん、本気だけど……?」


 マリア達に普通の暮らしをしてもらいたくて、孤児院を建て替えた。上下水道に空調を整え、温泉に足湯を完備。それぞれの部屋を用意して、快適な普通の暮らしを用意した。

 みんなが普通に暮らせるように頑張ったつもりだけど、なにか足りないものがあったのかなぁとリスティアは首を傾げた。


 なお、シスタニアの街の水源は主に井戸。主要な井戸には、魔導具によるポンプなんてものが取り付けられていたりはするが、各家に水を引くなんてありえない。

 ましてや温泉なんて貴族の贅沢だし、空調なんてシステムは貴族ですら知らない。

 孤児院はこの国で一番快適な環境となっているのだが……優れた技術を持つ真祖の一族として、城で暮らしていたリスティアはいまいちピンときていない。


「はぁ……リスティア院長って本当に規格外よね」

「ふえ? あたしは普通の女の子だよ?」

「そういうところが規格外だって言うのよ」

「……しょんぼり」

 リスティアはちょっぴりしょんぼりした。なお、思いっきりしょんぼりしなかったのは、マリアが笑顔だったからだ。

 自分のことよりも、マリアの笑顔が優先。リスティアは優しい心の持ち主なのだが……いかんせん、ズレているのだけはどうしようもなく事実だった。


「色々言ったけど、リスティア院長にはとても感謝してるのよ。忙しいのだって、リスティア院長にもらったブローチのおかげで、ちっとも負担になってないわ」

「……そっか」

 身体能力の強化に、状態異常の無効化。それに傷を治す再生能力。ブローチに込めたエンチャントの能力があるから、忙しくても大丈夫という意味。

 だけどそれは、ブローチがなければ大丈夫じゃないという意味でもある。リスティアがブローチをプレゼントしたのは保険的な意味であって、決して限界以上に働かせるためではない。


「心配だから、ブローチがなくても大丈夫なようにしておくね」

 リスティアはマリアの頬に触れ――魔法でマリアの身体を少し丈夫に作り替えた。以前、病を治したときにも強化していたのだが、もう一段階――ナナミと同じくらい丈夫にしておく。


「いま、なにかしたの?」

「うぅん、なんでもないよ~」

 リスティアは微笑んで、これからのことを考える。

 ひとまず、場当たり的な対処はしたけれど、マリアが忙しそうなことに変わりはない。店員を増やした方が良いかなぁ? と、リスティアは考えた。


「リスティア店長~、いつものお姉さんがご指名だよぉ」

 厨房に顔を出したのは、蒼い毛並みのイヌミミや尻尾を持つ、イヌミミ族のミュウちゃん。

「は~い。ミュウちゃん、教えてくれてありがとうね」

 リスティアはミュウちゃんをぎゅ~っと抱きしめ、モフモフと癒やし成分を補給。フロアに元気よく戻っていった。

 そうして席を見回すと、いつものお姉さんこと、ナナミが席に着いているのを見つけた。


「ナナミちゃん、いらっしゃ~い」

 本来であれば、ナナミお姉ちゃん、お帰りなさいが正式なお迎えの挨拶。ナナミの要望もあり、最初の日はお姉ちゃんと呼んでいたのだけれど……恥ずかしくなってきたのかなんなのか、やっぱり普通が良いですとナナミにお願いされ、最近はお店でも普通に接している。

 だけど――


「……ナナミちゃん、どうかしたの?」

 今日はなんだか、ナナミちゃんの元気がない。

 もしかして、誰かがナナミちゃんを虐めたんだろうか? もしそうなら、その相手を見つけ出して、生まれてきたことを後悔させなきゃ――と物騒なことを考える。


「リスティア様……その、ごめんなさい」

「ふえ?」

「リスティア様にいただいたお洋服、穴が空いちゃったんです」

「あぁ……」

 先日、ミュウちゃんがつまずいて、ナナミちゃんに水を掛けてしまって――という経緯で、代わりの服としてリスティアがプレゼントした普段着。

 あまり高価な物は受け取れないと言われて、エンチャントを施していない服を選んだのだけど、その服を破いてしまって落ち込んでいるらしい。


「気にしなくて良いけど……どうして穴なんて空いちゃったの?」

 リスティア基準の、高価じゃない服。普通に生活する範囲なら破けないはずなのだが、なにがあったんだろうと首を傾げる。

「実は……ガルムに不意を打たれたんです。危険なお仕事のときは着ないようにしていたんですが……その日は色々とあって。せっかくいただいたのにごめんなさい」

 ナナミは目に見えて落ち込んでいる。

 リスティアは気にしていないし、新しい服をプレゼントするのは簡単だけど、それじゃナナミちゃんの気が晴れないだろうなぁ……と、リスティアは頬に人差し指を添えた。


「ナナミちゃん、その破れた洋服、今は持ってきてる?」

「え? あぁ……はい。お洋服屋さんで繕ってもらおうと思って、鞄に入れてきましたけど」

「じゃあ、見せて」

「良いですけど……?」

 なにをするつもりですか? みたいな顔をしながらブラウスを取り出してくれる。

 たしかにお腹の辺りに穴が空いているけれど、綺麗に洗ってあるし、大切にしてくれているのが分かって、リスティアは嬉しくなった。

 自然と浮かんだ微笑みをナナミに向けて、さっと穴の空いた洋服に魔法を使う。まずは、穴が空いた部分の服の繊維を分解。糸を()り直し、更には布として織り直す。

 そうして、穴の空いた部分を完璧に再生して見せた。


「はい、これで大丈夫だよ。また破っても、あたしが修繕して上げるからね」

「……リスティア様、またやらかして。みんながなにごとかって見てますよ?」

 ナナミが困った顔で言う。そういうことをすると、またリスティアが普通じゃないとみんなに噂される。そんな風に心配してくれているのだろう。

 だからリスティアは「これは手品だから大丈夫だよ」と微笑んだ。


「……ありがとうございます、リスティア様」

 落ち込んでいたナナミの顔に、ようやく笑顔が浮かんだ。

 それを見て、リスティアは幸せな気持ちになる。そうして、そのままお姉ちゃんって慕ってくれて良いんだよ! と心の中で叫ぶのだけど……その声は届かない。

「リスティア様はやっぱり天使ですね」

 ナナミの信仰心が強まっただけのようだった。


 ナナミちゃんには凄く慕ってもらえてると思うんだけどなぁ。なのに、どうしてお姉ちゃんと呼んでもらえないんだろう? とリスティアはしょんぼりした。

 なお、ナナミはリスティアには死に別れた妹がいると誤解していて、死んだ妹に配慮しているのだが――もちろん、リスティアには知るよしもない。


 そうして、ナナミにケーキをコッソリと差し入れ。その後は、ウッドやナナミ達の接客をしていたのだけれど、そこにシャーロットがやって来た。

 ゆったりとした金髪に、蒼い瞳。ドレスを身に纏うシャーロットは、先日この街の市長になった、ウォーレン伯爵家の娘である。


「いらっしゃいませ、シャーロット様」

 リスティアは笑顔で出迎えるが――

「違うでしょう、リスティア。わたくしのことは、お姉ちゃんと呼んでください」

 シャーロットは笑顔でそんな風に返してくる。これが客としての要望であれば喜んで従うのだが……シャーロットはリスティアを義妹のように思っている。

「……シャーロット様とあたし、同い年なんだよ?」

 だから、あたしの方がお姉ちゃんだよね――という謎の理論を思い浮かべるが、シャーロットは「なにを言っているんですか」と笑った。


「前にも言いましたが、同い年であったとしても、わたくしとリスティアなら、わたくしの方が圧倒的にお姉ちゃんじゃありませんか。ですから、リスティアが妹ですわ」

「……しょんぼり」

「リスティアは……わたくしがお姉ちゃんなの、嫌……ですか?」

「それは……」

 リスティアはお姉ちゃんになりたいのであって、妹扱いされるのが嫌いなわけではない。だから、シャーロットに妹扱いされるのが嫌なわけじゃない。


 ただ、『同い年ならあたしがお姉ちゃんでも良いじゃない!』と思っているのだが……それを自分から言い出したら、余計に子供扱いされるだろう。

 それになにより、ここで嫌だなんて言ったら、シャーロットがしょんぼりしてしまう。

 あたしの方が本当はお姉ちゃんなんだから、シャーロットが悲しむようなことをしちゃダメだよね――と、リスティアは「嫌じゃないよ、シャーロットお姉ちゃん」と応えた。

 誰にも理解してもらえないが、お姉ちゃんであろうと努力しているリスティアであった。


「シャーロットお姉ちゃん、ご注文はなににする?」

「それじゃ、リスティアのお勧めにいたしますわ」

「は~い」

 笑顔を浮かべながら、シャーロットが嬉しそうだから、これでいいかぁとリスティアは微笑みを一つ。オーダーを伝えるべく、厨房へと向かった。


 リスティアの足取りは軽い。

 けれど――不意に気付いてしまった。リスティアが人里にやって来たのは、妹が欲しかったから。そしてシスタニアに滞在しているのは、妹にしたい女の子達がいるからだ。

 にもかかわらず、ナナミからはリスティア様と呼ばれていて、マリアからは店長や院長。シャーロットに至っては逆に妹扱いされていて、誰もお姉ちゃんと呼んでくれる気配がない。

 このままじゃ、お姉ちゃんになれないかも!? と、いまさらながらに危機感を覚えた。

 

 

ナナミ「ところでリスティア様、最近の私、なんだか傷の治りがちょっと早くなった気がするんです。このあいだもガルムに噛まれた傷が一瞬で消えちゃいましたし……なにか知りません?」

リスティア「あたしが、ナナミちゃんの身体を作り替えたからじゃないかな」

ナナミ「あぁやっぱり、リスティア様でしたか。もぅ~、教えておいてくださいよ。治癒魔法を使おうと思ったら、既に怪我が治ってたからびっくりしたんですよ?」

リスティア「えへへ、ごめんね~」


リック「ガルムに噛まれた傷が一瞬で消えるのは『ちょっと』じゃないぞ……というか、身体を作り替えたって、そんな軽く流して良いのか……?」


 次は1日を予定しています。

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