Lo88.どんどん鬼畜になっていくウェダインさんのブートキャンプ!!
首都オウカまでの1週間の馬車旅。なんやかんやで5日目です。
今日もウェダインさんのブートキャンプで鍛える羽目になります(主に筋肉)
ユーくんは魔法のことをトゥルカさんとかに色々と教えてもらってます。たしかユナさんもユーくんは『魔力が高いから元々魔法使いの方に向いてる』みたいなこと言ってましたね。そのへんに大きな伸び代がありそうです。
ココッテちゃんはよく分からないです。馬車の上で瞑想してたりしてることや謎ポーズ取ってることが多いですけど……あれ修行なんですか? それともサボってるんですか? ウェダインさんに聞いたら「あいつはほっといていい」って言ってました。謎です。
そして私はひたすら走らされてるだけなんですけど果たして成長してるんですかねぇ……?
「ウェダインコーチ、今日も走るんですか?」
「いや、あと2日だしな。別のメニューにするか」
「おお、遂に新たなレッスンですね! ダンスでもしますか!?」
「なんでダンスなんだぜ? アイドルかよ」
「私を導いてください! プロデューサーさん!!」
「コーチの次はプロデューサーかよ。どんだけ人に属性つければ気が済むんだぜ?」
いやまぁ、イケメン獣人お姉さんですし最初から属性濃いですよねこの人。
ぶっきらぼうに見えてめちゃくちゃ真面目ですし。
「しかしダンスか……いや、着眼点は良いかもしれねーぜ」
「おお? マジでアイドル目指しちゃいますか?」
「しねーよ。だがダンスもお前の駄目な運動神経を鍛える手段としてはいいかもな」
「え、運動神経って……鍛えられるんですか!?」
「そこかよ! お前マジで運動と縁がない人生送ってきたんだな……」
いやだって、運動神経って生まれつきのものでしょ? 元々の才能がものを言うんじゃないんですか?
「運動に関して『才能が無い』って言うやつのほとんどが、そもそも運動経験ゼロなんだぜ。才能以前の問題だぜ」
おぅふ……耳が痛いですね。確かに運動全然してないです。たるんでます。たるみすぎてぷにぷにしてます。
「才能あるって言われてるやつは、幼少期から身体を動かしてるぜ。意識してか無意識かはしらんがな」
「じゃあ……私も身体動かしたら実は才能あったとかあるんですかね?」
「それは知らないぜ」
「え、どっちなんですか?」
「お前は絵を描けるから分かるだろ? 最初から上手い絵描けてたか?」
「あーたしかに……最初は下手くそでしたね」
自分は絵の才能無いんじゃないかって思いながらも描き続けてたら今の絵くらいになってました。
別に神絵師ってわけじゃないですよ? 今でも才能は無いと思うんですけどね。でもまぁ、そこそこ描きたいものも描ける程度にはなりました。練習と継続の賜物ですね。
「とゆーか、ウェダインさん何で私が絵を描くこと知ってるんですか?」
「お前、自分からギルドに提出してただろ。漫画つきの報告書」
「あ、いえそーなんですけど。ウェダインさんがそこまで見てるとは思わなくて……」
「全職員が見てるぜ」
「うひゃあ」
私の描いた絵、めっちゃ見られてるっぽいです。前世はネットでフォロワーがそこそこついてましたけど、リアルじゃ全然見せる相手いなかったですからねぇ。ちょっと照れますね。
「まぁ言いたいことはだ。才能が無くても丸っきり運動してないやつよりちっとはマシになるってこった。少なくとも悪くなることはねぇぜ」
「そ、そうですかねぇ?」
「現にお前はここ数日でめちゃくちゃ動きが良くなってるぜ」
「え、そうなんですか!?」
「おっ、そうだぜ。たぶん」
「たぶんって何ですか!?」
結局良くなってるのか良くなってないのか分かりません!
さて、何のレッスンが始まるのでしょうか。やはりダンスですか?
そう思ってると、ウェダインさんは大きなカゴに石ころをたくさん入れて持ってきました。な、なんかめちゃくちゃ不穏な予感がするんですが……?
「えーと、プロデューサー。今日はダンスレッスンの予定じゃ……」
「ああ、お望み通りダンスレッスンだぜ」
「そ、そうですよね! 運動神経を鍛えるためのダンスレッスン……」
「アタシが石を投げまくるから、お前はそれを避けながら走れ」
「ど、どこがダンスレッスンなんですか~~!?」
鬼畜プロデューサーはとんでもないレッスンを言い出しました! ダンス要素どこですか!?
私は抗議の声を上げましたが、ウェダインさんは有無を言わさず石を投げてきました! ビュンッと石が私の頭の横をかすめます!
「ひえっ」
「ほら、動かねーとあたっちまうぜ。次!」
「にゅわっ!?」
今度は直接狙ってきたので、咄嗟に横にかわします! あ、あぶない。当たったら絶対痛い!!
「とゆーかこんな可愛いいたいけな幼女にこんなことして心は痛まないんですか!?」
「何故だかしらんが、お前相手だとちっとも心が痛まねーぜ?」
「鬼畜~~~!!!」
そんな感じで私は投石を避けながら必死に逃げ走りました!
いや、何度かモロに当たってますけど!? いたいいたいいたいいたい!!
ウェダインコーチの厳しいブートキャンプは苛烈さを増していくのでした。
そして7日目、最終日。
「まぁ、こんなもんだろ」
「ぜぇ、ぜぇ……お疲れ様でした……」
今日も投石されながら走って逃げ回る訓練でした。私はぜぇぜぇ言ってるのに、ウェダインさんは平気な顔をしています。
「……あれ? まだ午前中ですけど、今日は早めに切り上げるんですね」
「まぁ最終日だからな。とりあえず身体を休めとけ」
「あ、今日はちょっと優しい」
「1時間休んだら、卒業試験があるからな」
「全然優しくなかった!?」
なんですか卒業試験って!?
私何をさせられるんですか!?
そして1時間後、私はお父さん棒を構えてドレンさんの前に立ってました。
あ、ドレンさんっていうのはBランク冒険者チーム【ハンドチョッパーズ】の槍戦士です。髪がツンツン逆立ってるのが特徴です。
ウェダインさんが私を指差しながら、ドレンさんに言いました。
「よしドレン。あいつ遠慮なく倒していいぞ」
「ええええええええ!?」
私は絶叫しました。本気ですかこの人!?
いたいけな幼女にここまでしますか!?
というかそっち側ですかウェダインさん! 私のコーチじゃないんですか!?
ドレンさんは私を見て、槍を持ったまま固まっています。
「えーと……マジかこれ?」
「やれ。有無は言わさねーぜ。殺しは駄目だが半殺しまでならオーケーだぜ」
「何もオーケーじゃないんですけどぉ!?」
私の絶叫が空に響きました。




