Lo83.偽物の勇者(ロリ)と本物の勇者(ロリコン)
私は温泉に浸かってます。ふへへ~、溶ける~。7日間かけて行く温泉街道の3日目の温泉は白絹の湯。白いお湯がお肌をつやつやにしてくれるとのことで、女性にも人気の温泉です。
今日もたくさん走ったのでくたくたです。151回(初代ポケモンの種類かな?)走ったところで終わりました。自分で課した150回のノルマなんとか完了です。今日も全身バキバキです。
私の隣ではユーくんが少し気まずそうな顔をしながら、顔の下半分を沈めてブクブク泡を吐いてました。
「ユーくん、少しは元気でましたか?」
「……うん」
そう言ってる割には覇気が全く無いです。何か考え込んでるようです。
こういうときに私はどう声をかけるべきか……昼間はユーくんを眠らせて後回しにしましたけど、結局あまり思い付かなかったんですよね。
ギャルゲーの主人公みたいに上手い台詞が吐ければいいんですけど……難しいですね、コミュニケーション。こういうやりとりをぶん投げてきた結果が今ですからね。
そもそも私が考える『ユーくんの悩み』が全く的外れかもしれないですし。『ユーくんの焦り』はひしひしと感じるんですけど、そうなった原因がよく分かってないというか。
こうなったらアレです! 私は聞き役に徹しましょう! 上から目線で分かったような口を聞けるような分際じゃありませんし!
……受け身すぎないですか、私?
さっきからユーくんが黙りこくってます。な、何か言わないと……気まずいです!
私は夜空を眺めます。露天風呂なので空が見えます。お月様が綺麗だなぁ……
「……月が綺麗ですね?」
「チーちゃん、それ意味分かって言ってる?」
え、この世界に夏目漱石先生の名台詞があるんですか?
いや、転生者がいる時点で今更ですね……するとユーくんが口を開きました。
「チーちゃん……ごめんね」
ユーくんがか細い声で謝ってきました。昼間のことを言ってるのでしょうか? うぅ、幼女が謝ってると罪悪感がするんですが……
「ボク、本当は弱いし勇者じゃないんだ」
「ユーくん……」
ユーくんは消え入りそうな声で言いました。
「一時期、ボクが火の魔法が使えなくなってたって知ってるでしょ?」
「はい。それで家が燃えたからとか聞いてますけど……」
ユナさんが言ってました。確か、ユーくんは家を燃やしたのがトラウマで使えなくなったとか……
「本当は今でも怖い」
「そうだったんですか……え、結構バンバン使ってないですか?」
「だってチーちゃんが消してくれるって分かってるし……」
なるほど、消防隊が後ろに控えた上で実際に火を燃やす消火訓練みたいなものですか……
いや、めちゃくちゃ信頼されてますね私? 確かに私は神気を使って消火できますけど、自分でもなんとなくやったら出来た感じでよく分かってないんですよねこれが。
自分で言うのもアレですけど、信頼性あんまりないんですよ?
「最初に魔法使ったとき、『火って綺麗だな』って思ったんだ。それで小さな物を燃やすようになってね。段々とその『遊び』が楽しくなってきたんだ。それで調子に乗ってたら……全部燃えちゃった」
……いわゆる『火遊び』ですか。確かに子どもがやりそうなことです。まだ分かんないですよね、火の怖さって。
「火が怖くなって、自分がとんでもないことをしてしまったって思ったら怖くなって、燃える家の中でどうしようもなくなって泣いてたら……ユナが助けにきてくれた。全部ボクが悪いのに、抱き締めてくれた。
それからは、もう悪いことしないでユナのように人を助けられるようになりたいなって思ったんだ」
「それでユナさんが好きなんですね……」
「いや、ユナのことは生まれてからずっと好きだけど?」
「アッハイ。すみません」
まぁ、ユーくんのマザコンは置いといて……今の話だと、『火の怖さ』というトラウマもありますけど、悪いことをした意識っていうか……『罪悪感』も持ってますね。使えなくなったのも当然かもしれません。
「強くなりたいって思ったんだ。誰よりも強く。誰かを守りたかった。好きだった物語の勇者と、あのときのユナが重なって見えて……
だから勇者になろうと思ったんだ。弱くてなにも出来ないボクを変えたくて、変わりたくて」
ユーくんがとうとうと語り始めます。
「初めて出会った混沌魔物の鹿も……会った瞬間怖かった。上手く逃げることも出来なくて、怖いけど立ち向かった。物語の勇者なら、こういう窮地のときに真の力が覚醒して倒したりしてるから……でも、全然駄目だった」
「ユーくん……」
「今日ウェダインさんと戦ったのもそうだよ。自分で自分をギリギリまで追い込めば、勇者なら覚醒するって思った。でも駄目だった。ボクは……勇者じゃなかった」
なるほど、今日あれだけ無理したのは自分を追い込む為でしたか……痛々しいほどの必死さを感じました。
「でも、チーちゃんはボクとは違う。弱そうなのに、いつも奇跡を起こしてボクを助けてくれる」
「そ、そうですか?」
いや、私はなんとゆーか寄生プレイしかしてない感じするんですけど……実際弱いですし。
「ボクの命を救ってくれたし、ココッテちゃんも生き返らせてくれた。チーちゃんは、本当に危ないときは何度でも助けてくれる。
ナメクジを倒せたのもチーちゃんの力あってのことだし、ミミズもチーちゃんがサクちゃんと仲良くしてたからサクちゃんが助けてくれた。
ボク一人じゃ何にも出来ないし、誰一人救えてない」
そうですかね……? あの、それって私がえらいんですか?
結局、神様に与えられたこの身体だから神気パワーで何とかなってるだけで、あんまり私自身闘った結果じゃない気がするんですけど……
「ダンジョンでナメクジを倒した後、チーちゃんが『神様に会ってきた』って言ったことあったでしょ? あのとき、『やっぱり』って思ったんだ。
『勇者に選ばれたのは、ボクじゃなくてチーちゃんだった』って。ボクは勇者じゃないんだって。
そりゃそうだよね。この世界が大変なときに、異世界から突然現れたチーちゃん……本当に勇者の伝承そのままだったから」
えっ? ユーくん、私のことを勇者だと思ってたんですか!?
いや……確かに私がアワシマ様やウカノミタマ様に『勇者』とか言われてるのは事実ですけど、私としては『それ言ってるのは神様だけで、他の人は全然それ言わないから別に勇者じゃないよね?』って思ってました。
私としてはそんな感じで流してましたけど、ユーくんはそうは思ってなかったってことですね……
「そしてナメクジ倒すときにチーちゃんの神気がボクにも使えるようになったときあったでしょ? あのとき思ったんだ。
『もしチーちゃんの力が誰でも使えるようになったら、ボクじゃなくてもいいんじゃないか?』って。ガイナスやウェダインさん……ボクより強い人がチーちゃんと組んだ方が強くなるのかもって……
だからボクはいらないのかもって……」
「そんなこと言わないでください!」
ユーくんが『他の人と組んだ方がいい』みたいなことを言った瞬間、自分でもビックリするくらいの大きな声が出ました。
ユーくんが驚いたような顔で私を見ています。私も自分でも驚いてます。本当は……最後までユーくんの言い分を聞いた上で穏やかに諭すのが良いかとか思ってました。
でも私にも言いたいことがあるので、大人げなく途中で遮ってしまいました。
……少しムカムカしてるのかもしれません。自分でもこの気持ちがよく分かりませんが、この際言いたいことを言ってやります!
「あのですね! この世界で私が初めて出会ったのは貴方で! 私を助けてくれたのも貴方なんですよ!!
私があの森であてもなく彷徨ってて、どれだけ不安だったことか!!
『きっと神様がなんとかしてくれるから大丈夫!』って自分に言い聞かせて! でも、何も起きないまま何時間も経って、倒れて!
もう終わりかなぁと諦めてたところに現れたのは『貴方』なんですよ!!
ユーくんは私の救世主で! この世界の勇者の物語がどうとか分かりませんが、私にとってユーくんがこの世界で一番の勇者なんですよ!!」
後から考えると、その出会いは神様の作為によるものだと思うのが自然でしょう。そうでなければ、あんな森に突然転移するとかありえないですし。
でも当時はそんなこと思えなかったし、神様の思惑がどうであろうと、ユーくんが私を助けてくれたことが私にとって全てで真実です!
「最初に出会えたのがユーくんだったから! ユーくんが一緒だったから、私は魔王を倒しに行こうと思ったんです!
例えユーくんが否定しようと、ユーくんは私にとって勇者なんです!!」
「チーちゃん……」
ユーくんが泣きそうな顔で私を見ます。私は感情のまま思いの丈をぶちまけます。
「そうじゃなければいくら神様から頼まれた使命だとか言われても、こんなポジティブに魔王討伐とか行きませんよ!!」
私が軽いノリで神様を信じて魔王を討伐しにいこうと思ったのは、実際9割方ユーくんのおかげです。いや、神様がロリだったってのも多少は理由にありますけど……
でも、やっぱりユーくんがいなければ旅立ってないですね。
すると、ユーくんが少しジト目でこっちを見つめました。
「チーちゃん……『神様からの使命』って何? やっぱりチーちゃんが勇者なの?」
あっ、口を滑らせてしまいました。
「……チーちゃん。ボクに言ってないこと沢山あるよね?」
「えっ、えっとですね。話をしましょう。わ、私を信じてください!」
「信じるかどうかは話を聞いてから決める」
「ちょっと怖いんですけど!?」
一転攻勢、しどろもどろに弁解する私。はわわ、ど、どうしましょう!?
ど、どこからどこまで話したらいいんでしょう!? えーと、えとえとえっと
「えっと、まず私がロリコンということですが」
「え、ロリコン?」
「あ、口が滑りました! 今のは聞かなかったことにしてください!」
「チーちゃん……」
動揺して性癖から暴露してしまいました……
あ、ユーくんが残念な生物を見る目で私を見てます!
や、やめて! そんな目で見ないで!?
「み、見捨てないでください! お願いします!」
「どうしよっかな……」
「ユーくーん!?」
え、もしかしてパーティー解散の危機ですか!? やだーーーーー!!!
Q.なぜチーちゃんはいきなり性癖の話をしたの?
A.だってオタクのコミュニケーションって初手で性癖開示しませんか……?(小声)




