Lo79.なんか唐突に修行編はじまりました
ウェダインさんが自分の武器を取り出しました。
変わった武器です。両刃の剣が、持ち手の両端についています。
正直めちゃくちゃ扱いづらそう。あんなもの振り回したら、自分を斬ってしまいそうです。
それを見てハンドチョッパーズのスドーさんが警戒するように言います。
「【双刃剣】だ……厄介だぜありゃあ……」
「そうなんですか? めちゃくちゃ使いづらそうなんですけど」
「確かにそう見えるんだがなー。実際相手にすると『めちゃくちゃズルい武器』ってのが分かるんだわ……」
ふむぅ。ズルいとな。どういうことでしょう? スドーさんはあの変わった武器を相手にした経験があるんでしょうか?
双刃剣。英語にするとダブルブレードソード。双剣のツインソードとは表記上間違いやすいので注意が必要です。
ちなみに【両剣】とも言うのですけど、それはそれで両手剣と間違いそうですよね? 色々と紛らわしいやつです。
一方、ドレンさんは槍を構えて自信満々に言いました。
「変わった武器だが、明確な弱点を見つけたぞ! それは持ち手が中央にしか無いから、この槍のリーチには敵わないってことだ!!」
「へー、なら試してみるといいぜ?」
「言われなくてもな!」
そうやってドレンさんは槍を持って突貫しました。さすが頭髪がトゲトゲしてるだけあって、とっても勝ち気です。でもその説明台詞が完全に負けフラグにしか聞こえません!
「俺の槍捌きをくらいな!」
「おう、食らったぜ」
ドレンさんは長いリーチを活かしてウェダインさんの間合いの外から突いてきます。
それに対してウェダインさんは槍の攻撃を片方の刃で防ぎました。
「へっ、俺の方がリーチが長いから防御しか出来ないだろ!」
ドレンさんは自信満々にそう言いました。
確かにドレンさんの言う通り、槍は2m超のリーチがあるのに対して、双刃剣は全長2mの大きな武器なのに片方の刃で1m分のリーチしかありませんね。このリーチ差は弱点と言えるかもしれません。
が、ウェダインさんは槍を防いだ側の刃をクルリと後ろに半回転させて、そのままもう片方の刃で相手の槍をかちあげました。
「うおっ!?」
「今のは牽制か? うかつに槍を伸ばすとこうなるんだぜ」
なるほど、双刃剣のリーチが相手まで届かなければまず武器を狙えばいいということですか!
槍をかちあげられてガラ空きになったドレンさんの脇腹をめがけて、ウェダインさんが双刃剣を再びくるりと回しました。片方の刃がズガンと派手な音を立ててドレンさんに叩き込まれます!
「ぐはっ!」
やっぱり負けフラグでした。
今の流れを見るとウェダインさんが初手で槍を防いだ時点で勝負は決していたんですね。
刃の腹部分で叩いたので斬られはしなかったのですが、ドレンさんは派手にぶっ飛ばされます。
それを見てスドーさんが言います。
「今ので分かったろ……片方の刃を防いでも、もう片方がフリーになってるんだわ。両端の刃を警戒しないといけない。上下、左右と真逆の方向から襲ってくる刃を両方防ぐのは至難の技だ」
「えーと……くるくる回っててすごいってのは分かりました!」
「おう、よく分かってるんじゃねーか。そのとおりだぜ」
私の小学生並みの感想ですが、なんかよく分かってるみたいに言われました。確かにくるくる回ってすごいですね。扱いづらそうですけど。
剣なんですけど、動きは棒術とか新体操のバトン回しに似ています。
「でも双刃剣が真逆のニ方向から刃が襲いかかってくる武器なら、結局二刀流と似たようなもんじゃないですか?」
「まぁそうだろうが、二刀流は一刀に比べて片方の威力が軽いっていう弱点があってな。その点、双刃剣は両手で扱うから一撃の威力も重いんだわ」
「一刀と二刀の良いとこどりですか……そう考えると確かにズルい武器です」
「だろ?」
そこまで知ってもやはりあの形状を見ると「めっちゃ扱いづらそう」としか思えないんですけどね。使いこなすにはセンスが必要そうです。
「さて、次はガキどもだ。まとめてかかってきていいぜ?」
あ、ハンドチョッパーズにはベントさんっていう若い男がもう一人いるんですけど、そっちは無視するんですね。
ウェダインさんの視線はユーくんに向かっていて、興味はそっちにあるっぽいです。
「じゃあいくよ! 遠慮なく!!」
ゴオオっと勢いよく火炎が発射されます。ユーくんは初手で炎の魔法をブッぱしました。
「いや、ユーくん! 人に向けていきなりは死んじゃいますよ!?」
「大丈夫!」
いや、大丈夫じゃないですから! ユーくんの魔法は建物が全焼するくらいの威力なんですから!
そう思ってましたが、ウェダインさんは炎を切り裂くように突っ切って無傷で出てきました。
「ヌルいぜ」
「やっぱりね!」
そう言ってユーくんは斬りかかります。ウェダインさんはそれを双刃剣の片刃で防ぎました。そしてそのまま双刃剣がクルリと回ってユーくんへの反撃になりました。
むぅ、両端に刃がついてるから、90度回転させるだけで反撃になるんですね。反撃が速いはずです。
……が、それを予想してたのかユーくんは即座に離脱しました。ウェダインさんはそれを許すはずもなく、後ろに下がったユーくんを追いかけて攻撃をします。そして金属がぶつかる音がしました。
「ここで来るのかよ、マジで気配読めねーな」
いつの間にかそこにいたのでしょうか。ココッテちゃんが横から短剣でウェダインさんを強襲しました。
しかし、ココッテちゃんは驚いたように目を見開いています。それもそうです。完全に虚を突いたにも関わらず、その攻撃はウェダインさんの小手の金属部分で防がれてるのですから。
だけどココッテちゃんの攻撃を受けて足が止まったウェダインさんに、一旦離脱したユーくんが地面を蹴って再び突っ込みます。
ココッテちゃんも姿勢を低くしてかいくぐるように再び攻撃を仕掛けます。
「連携はまぁまぁだな」
その二方向からの攻撃に、ウェダインさんは大きく双刃剣を回転させて応じました。二人とも弾き飛ばされて距離を取ります。
「だが、やっぱ足りねーぜ。お前ら、これで終わりじゃないよな?」
「うん、まだまだやるよ!」
「ん」
だけどその後、少し速度を上げたウェダインさんが容赦なくユーくんとココッテちゃんを一蹴しました。
速くてよく分かんなかったので、戦闘描写は省略します! 気付いたら二人がぶっ飛ばされてました!!
「む~」
「うー、めちゃくちゃ強くない?」
「お前らが雑魚なんだぜ。もっと本気出せ。アタシはまだ全然本気じゃねーぞ」
つ、つよひ……まるで子ども扱いです。ユーくんもココッテちゃんもそりゃ確かに見た目は幼い子供ですけど。それでもそこらの冒険者よりよっぼど強いと思うんですけど……その二人を相手してこれですか……
それを見ていたスドーさんが呆然と言います。
「これが……【無双剣鬼】の実力か……」
「知ってるんですか、スドーさん!」
「……かつて有名なAランク冒険者チームが裏で奴隷売買に荷担してたっつー不祥事があったんだが……ある日、そのAランクチームの冒険者6人はたった一人によって粛正された。それをやったのが、あの【無双剣鬼】ウェダインと言われている……」
「そ、そうなんですか? えーとつまりすごいってことですか?」
「……つまりだな、俺っちが言いたいのはあの獣人のねーちゃん1人がAランク冒険者6人より強いってことだ」
「それはすごく……つよそうですね!?」
「だろ?」
そもそもAランク冒険者に会ったことないから実感わかないんですけど。しかし【無双剣鬼】とはかっこいい二つ名ですね?
……あ、もしかして【剣鬼】と【犬姫】のダブルミーニングだったりします? ほら、ウェダインさんケモ度高めですし(名推理)
私達の会話が聞こえていたのか、ウェダインさんが感心したように言います。
「へー、なんか物知りなんだな。アンタ」
「噂話レベルだが……どうやらマジ話っぽいな」
「でもあいつらなー、別にアタシの人生で出会った強敵ベスト4にも入らなかったし、アタシとしては別にどうでもいい話だぜ?」
「マジかよ」
ウェダインさん、まるでAランクでさえ雑魚と言わんばかりの態度です。一体どこの修羅の国で戦ってきたのでしょうか?
「というかお前らはなに安全圏で突っ立ってるんだぜ?……お前らも稽古つけてやるからまとめてかかってこい」
「お、俺っちもかよ!?」
ウェダインさんがギロリとこちらをにらめつけて、スドーさんが悲鳴のような情けない声を上げます。
も、もしかして私も含まれてますか!?
「お前らの雑魚っぷりも分かったし、少しでも生存率を上げる為の親切心だぜ? 拒否権はない」
「ひいいい、私もですか!?」
私が悲鳴を上げると、ウェダインさんは考え込むように言いました。
「いや……お前は見た感じ致命的にトロいから、バトル訓練じゃなくてまず走れ」
「え、走る? あ、そ、そうですか~。戦わなくてすむんですね。よ、よかったー」
「とりあえず20m全力ダッシュ1000本な。6日もやれば少しは速くなるだろ」
えーと、20mダッシュですか。20mくらいなら……いや、1000本ってそれ20kmじゃないですか!?
「戦う上で足は最も大事だぜ。後衛は直接敵とぶつからない分、まず走れるようになれ。そこの偽耳もやれ」
「偽耳って私!?」
「そりゃ偽物の耳つけてりゃそうなるだろ」
偽物のケモ耳をつけてるトゥルカさんはウェダインさんにそう呼ばれました。
「昨日は優しかったのに酷くない!?」
「うるせー偽耳。それとこれとは別だ。アタシは誰だろうと甘やかしはねーぞ」
「……なんかあったのかあの2人?」
「プライベートなことなので私は知りませんよ?」
そう、私は何も知りませんよ。全ては別室であったことなので。真相は寝室の中です。
そうしてウェダインさんはガチで私達をシゴキにかかりました。
もちろん、金章持ち(Aランク相当)のウェダインさんに逆らえる者はおらず、私もハンドチョッパーズの皆さんもみんなシゴかれました。
戦闘メンバーの皆が殴られ蹴られぶっ飛ばされ、私はめちゃくちゃ走らされて、シゴキにシゴかれて息絶え絶えになった悲惨な状況が出来上がりました。その中で、ウェダインさんは平気そうな顔をして肩をこきこき鳴らしながら言います。
「やっぱ駄目だな……お前ら、このままだとマジで死ぬわ」
散々やっといてこれです。ウェダインさんを勝手にゆるい感じの人だと思ってましたが、この人めっちゃ厳しくないですか!?




