Lo78.闘気とは一体? よくわかりませんが、筋肉ってことですね?
ユーくんが戦っていました。相手はハンドチョッパーズの戦士、ドレンさん。これはユーくんが「Bランク冒険者と戦ってみたい」とか言い始めたからやってる訓練です。
ドレンさんは槍をぶんぶん振り回し、大剣使いのユーくんをリーチで圧倒しています。
「むー、近寄れない」
「ふっ、見たか! 俺の疾風怒涛の槍捌きを!!」
「防御寄りの戦法だけどな」
牽制でとにかく近寄れないし、迂闊に突っ込むと叩かれます。かなり隙の少ない戦法でした。
全く歯が立たないユーくんに対し、ドレンさんは得意気に言います。
「ふっ、しょせん10歳のガキンチョの実力なんてこんなものだ! 俺の槍にはかなわなかったな!」
「魔法使っていい?」
「それはやめてくれよな!」
ドレンさんはユーくんが魔法を使うところを見ています。馬車旅の途中で襲いかかってきた魔物をユーくんは炎で燃やしつくしました。
Bランク冒険者でも呆然としていたので、威力は相当高いんでしょう。だからドレンさんも恐れています。
しかしユーくん、ハンドチョッパーズの皆さんとすぐ仲良くなりましたね。あの人、元々敵対的だった気もするんですけど。まぁ、悪い人たちじゃないんでしょう。
「なぁ、完全にユー坊は魔法使い寄りだろってツッこんでいいか?」
「あ、やっぱりそうなんですね」
ハンドチョッパーズのリーダー、スドーさんが突っ込みます。どうやらユーくんは物理だとBランク冒険者に劣るようですが、魔法に秀でているようです。
ちなみにユーくんのことを『ユー坊』と呼んでるあたり、まだユーくんが男だと思ってます。女湯に堂々と入っているのになんで気付かないんでしょうかね……?
「というか何で剣で戦ってるんだ?魔法使えるなら杖だろ」
「ユーくん、最近まで魔法使えなかったんですよね。だから剣だけでした」
「嘘だろ!? もったいないなー」
「というか杖だと何か変わるんですか?」
「魔法がコントロールしやすくなるとか、魔法の威力が上がるとかの効果がある。杖の芯にいれる材料とか魔石で色々変わるんだわ」
「ほえー、そうなんですか。武器屋には置いてなかったんですけど」
「そりゃ鍛冶とは製法が違うからな。武器屋にないこともないんだが、杖屋とか魔道具屋に置いてあることの方が多いんだわ」
勉強になりますねぇ。私もひのきのぼうじゃなくて杖の方が良いのかもしれません。
でも使い勝手いいんですよねひのきのぼう。お遍路巡礼用の杖なので、歩くときに便利です。
「そもそも戦士なら【闘気】による強化があるんだが……ユー坊はあんまりやってるように見えねぇな」
……とうき? なんか新しい概念が出てきましたよ
「……えーと、【とうき】ってなんですか?」
「え、冗談だよな。まじで知らねぇのか?」
「はい!」
「まじかぁ……」
はー、とため息をつきながらスドーさんが言います。むむ、どうやら常識レベルのことっぽいですね。
「一般的に戦士は魔法が使えないが、代わりに自分の身体を強化することが出来るんだわ。そのときのオーラが闘う気、すなわち【闘気】って呼ばれるもんだ。それが使いこなせてこそ、一流の戦士ってわけだ」
「ほう……たたかう気で闘気ってことですか。かっこいいですね! 私にもありますか?」
「嬢ちゃんは全然なさそうだな」
「あ、やっぱり無いんですね」
なんか分かんないんですけど、無いっぽいので仕方ないです。気は気でも、【神気】とは違うんでしょうか? そっちならあるんですけど。
「闘気ってどうやって身につけるんですか?」
「ひたすら身体を動かして鍛えるんだよ。全力でな」
「ほうほう、身体を動かすと」
「そうしたら、だんだん身体の動かし方が分かってくる。身体を十全に使えるようになってくる。んで、力の込め方や抜き方を分かるようになってようやく気付く。『俺、もしかして闘気使えるようになったんじゃね?』と」
「え、意外とあいまいですね?」
「だろ? だが、それに気付くと本当に使えるようになってきてるんだ。だいたい、Cランク冒険者くらいになると使えるかな。闘気は肉体に宿るパワーを自在に操る力なんだわ。それが使えるか、使えないかで戦士としての世界がガラッと変わるぜぇ?」
「なるほど、なんだかよく分かりませんが分かりました!」
とりあえずユーくんが勝てない理由が分かったので、私はアドバイスを贈ります。
「ユーくーん! 闘気ですよー! たたかうパワー使ってくださーい!」
「うん、よく分かんないけどやってみるー!」
ユーくんは素直に返事をすると深呼吸をして、むんっと気合いを入れました。
ぶわっとオーラっぽいのが出てきます。
「なんかオーラでましたよ! あれでいいんですよね?」
「うお、ホントになんか出たな!? ……目に見えるほどのすさまじい闘気……だと……?」
「えーと……そういうものなんでしょう!」
なんか、闘気じゃなくて神気かもしれません。おや、なんかいつもと色が違いますね? 白いオーラじゃなくてちょっと赤い感じです。
攻撃的なオーラって感じですね。よくわかんないんですけど。
「よぉし、ユー坊。よく分かんないがそれがお前の闘気だ! 自分の肉体に宿るパワーだ! 使いこなしてみせろ!!」
「うん!」
「それでまず岩とかを攻撃して試すんだ!! 手刀でな!!!」
「分かった!……手刀で?」
あ、上手く逃げました。確かにちょっとあのオーラが向けられると怖いですもんね。ドレンさんもちょっと引いてましたし。
ユーくんは言われた通りに右腕にオーラを集中します。
うーん、ここまで見ても闘気と神気の違いがいまいち分かりません。
「てやー!」
ユーくんが岩に手刀をかますと、岩が真っ二つにぱっかーんと割れました。ユーくんは自分の手を見て言います。
「これが……闘気……?」
「なるほど。あれが闘気……?」
「おう、間違いない。闘気だな。肉体からあふれるパワーが身体を鉄のごとく強化したんだ」
スドーさんはそれっぽくそう言ってますけど……うーん、神気との違いがよく分かりません。たぶん、ノリとか気分で変わるんでしょう。
「くっ、俺にはあの量の闘気は出せない……! 修行がまだまだ必要だな」
ドレンさんが悔しがってます。うーん、よく分かんないんですけど、槍で勝ってるんだからよくないですか?
「なんつーか、ユー坊は基本的なエネルギーの量自体が多いな。魔力も闘気もかなり多い。まるで小さいドラゴンだぜ」
「なんでですかね?」
「まぁ、生まれつき多いんじゃねーか? もしくは【勇者の血筋】だったりしてな……」
ユーくんの母親はあのユナさんです。そして父親は転生者とか言ってましたね。つまり強い同士の親なので、強いのです。
「ふむぅ、【勇者の血筋】ですか……やはりユーくんは特別……」
「それが結構いるんだよな【勇者の血筋】」
「えっ、多いんですかそういうの?」
「いるぜ。結構いる。大陸の王族とかもそうだったか?」
あー、結構いるんですね……昔の勇者がハーレム作ったりしてたんでしょうか? 希少性が少なくなりました。
それを聞いてドレンさんが悔しがりました。
「くっ、俺は勇者の血筋でも何でもない。羨ましいぜ……」
「なーに言ってんだ。言っとくがお前の方が偉いんだぞドレン」
「り、リーダー。でもよ……」
「お前の初心者の頃を思い出してみろ。めちゃくちゃへなちょこで弱かったじゃねーか。その頃と比べて今のお前はどうだ? もう超一流って呼ばれるBランク冒険者になってるんだぜ? そしてこれから悪神討伐のメンバーに入ってるんだ。俺からするとお前も十分に勇者だよ」
「り、リーダー……っ!」
ドレンさんが泣き始めました。男泣きです。
そんなドラマが繰り広げられてましたが、まぁ正直あんまり興味をそそられなかったりします。
私にはユーくんの方が大事ですからね!
「ユーくん! 私達は私達でがんばりましょうね!あのスドーっておじさんも手刀で倒せるくらいにがんばりましょう!」
「うん、がんばる!」
「おいおい、まじで勘弁してくれや……」
スドーさんがなんか言ってますけど、気にしません。私にとってはユーくんは特別な存在ですので!
「ヌルいな」
それまで黙って観ていたウェダインさんが立ち上がりました。
「お前らナメてんのか? 言っとくが、そのままじゃ確実に死ぬぜ?」
「なんだとぉ……お前こそ俺らのこと舐めてるんじゃねぇのか?」
「おい、やめとけって……」
「でもよ……!」
当然ドレンさんの反発を食らいますが、冷静なスドーさんは制止します。ウェダインさんはなおも言います。
「正直アタシはお前らが死のうがどうでもいいし、あんまり口出す気なかったんだが……気が変わったぜ。なんだかんだ縁も出来ちまったしな」
ウェダインさんは少しだけトゥルクさんを見て、すぐに目線を戻しました。少し赤くなるトゥルクさん。あ、昨日は大人同士の話し合いをしてきたんですね……?
「……相手をしてやる。お前ら、本気の得物出して来い。魔法も使っていいぜ。殺すつもりでかかってこい。帝都オウカにつくまであと6日間……徹底的にシゴいてやるよ」
唐突にガチめなトーンで言うウェダインさんに私はビビりました。もうちょっとユルい人だと思ってました。
でも分かります。ウェダインさんが本気で言ってることを。
ユーくんが魔剣ユナ・ブレードを抜きはなって構えます。
「……本当にいいの? 全力でやって」
「死んだら自己責任だぜ、お互いにな。ビビってるのか?」
「ぜんぜん!」
ユーくんは少し嬉しそうに言いました。
こうしてウェダインさんによる地獄のシゴキが始まりました。




