Lo75.旅立ち。そして馬車の中で女子トーク
ガタンゴトンと馬車が揺れます。
【悪神討伐】の依頼でギルド呼び出された件から翌日。
私達は色々と準備した後、最初の街ハイセイカを旅立ちました。
いやー、あの街では色々ありましたね。
初めての冒険者登録、初めてのダンジョン、サクちゃんとの出会い、ナメクジ、ミミズ、ココッテちゃんの復活と仲間入り、私の漫画がこっそりデビューしたこと。
うーん、ほんっと色々ありましたわ。名残惜しいですけど、私達は旅立たなければなりません。いざ、新章突入です!
悪神討伐の作戦実行日は2週間後。ハルテンの帝都オウカにつくまではゆっくり行って1週間程度らしいです。
つまり着いてからも1週間程度は余裕があるということですね。帝都オウカはこの国で一番大きい都市らしいので、ついでに一週間観光しちゃおうということですぐに旅立ったわけです!
そんなわけで馬車に乗ることになりました。4トントラックほどの大きさの集合馬車で2頭の大きなお馬さん(ペルシュロン種っぽいやつ)が牽いています。馬力つよそう
これはギルド貸し切りの馬車で、中には私達幼女3人の他にギルド専属冒険者のウェダインさんとBランク冒険者チーム【ハンドチョッパーズ】の4人が乗ってました。乗ってるのは合計8人ですが、スペース的には20人乗れますねこれ。
ガイナスさん達とドワーフさん達は別日程で出発予定なのでこの馬車には乗ってません。色々と準備してから出発するっぽいです。
ガイナスさん達の所有馬、キンカちゃん(尾花栗毛のかわいい牝馬)で移動すると帝都まで2~3日で行けるらしく、こっちのゆっくり一週間の旅には特に付き合う気はないっぽいです。キンカちゃん速いですわー。
まぁ、キンカちゃんは競走馬みたいなスラッとした体型で、この馬車を牽いているごつくて大きい馬(1トンサイズ)と種類が全く違うので速度が出るんでしょう。たぶん
さて、馬車内では自然と男グループと女グループに別れて、私は女グループの中でウェダインさんとハンドチョッパーズの紅一点さんと3人でお話していました。
あ、ユーくんはなんか少年だと思われてるらしく、男グループに入ってます。ハンドチョッパーズのリーダーのスドーさんは意外と面倒見が良いらしく、なんか色々と冒険のことを教えて貰ってるみたいです。
一方ココッテちゃんは馬に興味があり、外で勝手に遊んでました。
「へー、リーダーの手刀おじさんとは叔父と姪の関係なんですかぁ」
「そーなのよー。叔父さんは元々他のチームで冒険者やってたんだけど、チーム内で恋愛が発生してチームが解散。故郷に戻ってだらだらしてたところを私達が誘ったって感じなの」
「ほえー、恋愛沙汰で解散とはまた……」
「ほら、叔父さんモテなさそうだし」
「辛辣ですねぇ……しかしそれでチーム内で年齢差があったわけですか」
「ベテランで頼りにはなるんだけどねぇ」
調子よく喋ってるのはトゥルカさん。ハンドチョッパーズの紅一点で、18歳の若い女性です。お喋り好きなのか、めっちゃ話しかけてきました。それを主に私が相づちを打っています。ウェダインさんも一応聞いてますが、まぁ適当に流してます。
しかしこの人……私と同じでケモ耳と尻尾が生えてるんですよね。他の身体的特徴は人間っぽいんですけど。
「ところでトゥルカさんは獣人さんなんですか?」
「あ、違う違う。この耳と尻尾は魔道具なの。耳は聴覚強化の効果があって、尻尾は素早さが上がる効果があるの。獣人っぽくてかわいいでしょ?」
「ほえー、魔道具ですか」
なんと、トゥルカさんは獣人じゃなくて人間でした。へー、こういうコスプレアイテム……じゃなかった魔道具があるんですねぇ。私達の持ってる天使の輪っかと似たようなものですか。
「あなたのは自前なのね。触ってもいい?」
「乱暴にしないならいいですよー」
私が触るのを許すと、めっちゃ耳と尻尾を触ってきました。なんか私のって触りたがる人多いんですよね。気持ちは分かります。だからくすぐったくても我慢します。これは慈善事業ですね。
とても可愛く転生してしまったので仕方のないことです。かわいい税は払わなければなりません!
「大陸の方では、こういう魔道具で人間が獣人みたいな格好になるのを嫌う人も多いって聞くわねー」
「ああ、むこうの人間は他種族に対して差別意識が強いからな。人間国家では他種族を奴隷にしたりするのが当たり前だぜ」
「この国で育った身としては信じられないわね。こんなにかわいいし便利なのに」
大陸の方に関しては悪いウワサばっかり聞きますねー。奴隷とかなんとか。見た目獣人っぽい私が転生したのがハルテンだったのは非常に運が良かったのかもしれません。ここはサクちゃんの作った国ですしね。
トゥルカさんはなおも飽きずに私の耳をさわさわしています。この人、もしかしてケモナーさん……?
「それにしても、驚いたわ。私も18歳でBランクになったから才能あるしすごいって我ながら思ってたんだけど、あなた達はもっと若いし。えっと何歳だっけ?」
「ユーくんが10歳で私が8歳(届出年齢)ですね。あそこで馬と遊んでる7歳くらいの子は、実は14歳でうちのチームの最年長です」
「あ、そうだったの!? ……随分小さいわね」
「まぁそうですよね。私もびっくりしましたし」
「5歳くらいに見えるあなたがそういうのもなんだかね」
いえ、本当は28歳です。完全に見た目詐欺です。
「トゥルカさんも若いしすごいですよ。Bランク冒険者になれるのって全体の1%もいないんでしょう?」
「といっても冒険者歴5年だからねぇ。一週間も経ってない貴方達が既にDランクとかすぐ追いつかれそうだわー」
トゥルカさんは13歳から冒険者をやってたみたいです。この国では一般的には13歳から大人扱いらしく、モラトリアム期間をはさまずにすぐに冒険者になったそうです。
しかし13歳で大人って早いですね。日本だと中学1年生じゃないですか。小卒じゃないですか。
……あれ? ココッテちゃん14歳の成人祝いって1年遅れてプレゼントされたんですかね? まぁ気にしないでおきましょう。誤差です誤差
「うちのおじさんも28歳だし、そろそろ相手見つけてほしいのよねぇ……ってなんで急に胸を抑えて苦しそうな顔してるの!?」
「き、気にしないでください。ちょっとびっくりしただけで……ぐふっ」
28歳!? 私と同い年なんですかあの手刀おじさん!?
無精髭生やしてるし、もっと年上かと思ってたらまさかの同い年とは……!?
うう、私にも刺さりました。同じ28歳でもなんか大違いですわ……私は大きな28歳児なので……
「しかし【悪神討伐】かぁ……おおごとになっちゃったわ」
「そうですね……」
「おじさんは気安く引き受けちゃったけど、ホントに大丈夫かしら? 報酬は確かに大きいけど……」
「……報酬が大きいってことはそれだけ危険ってことだぜ」
ウェダインさんが言いました。この人、世間話はほぼスルーしてるんですけど、要所要所で結構話聞いてるんですよね。
「今回はミカド様が参戦するとか言ってたから大丈夫かと思ったけど……」
「そりゃ悪神と直接戦うのはこの国で最強のミカド様だろうし、そこは心配してねぇぜ。だが、悪神にはおそらく取り巻きの魔物が多くいる。アタシらがやるのは、ミカド様を極力消耗させないように露払いをすることだ。つまりは雑魚退治だぜ」
「そっか。流石に私達は悪神と戦わないわよね」
「だが、その雑魚ってのがおそらく1体1体が全て混沌魔物だ」
ひええ、周辺の雑魚が全部混沌魔物って。ただのボスラッシュじゃないですかー!
「悪神はもうアタシらにはどうにもならねーから最強のミカド様に任せるとして、アタシらはアタシらで大量の混沌魔物に対処する必要がある。だからCランク以下は足手まといで参加できねぇんだぜ」
「あのぉ、大量ってどのくらいですか?」
「わかんねーぜ。100体以上かもな」
「ひええ」
村1つ滅ぼす化け物がそんなにたくさんとは。思ったより大変なことになりそうです。
「一応聞くけど、あんたもBランクだし混沌魔物の討伐経験はあるんだろ?」
「そりゃあるけど、万全の状態で他のチームと合同で1体を囲んで倒すみたいな感じ。そんな何体も同時に相手したことないわ」
「まぁそれが普通だわな。倒したことあるだけ偉い方だぜ」
「あ、ありがと」
「でもまぁ今回は……多分お前らBランクはサポートだな。主戦力じゃない。なんせAランク冒険者も結構集まるらしいからな」
「Aランク冒険者……」
うーん、まだAランクさんには会ったことないんですよね。そりゃ帝都ならAランク冒険者くらいいますか。
「今回、高位冒険者のみ参加ってのも混沌魔物相手じゃ仕方ねぇんだぜ。魔瘴に対抗できる【祝福装備】とか神術士や聖女からの【祝福】を受けられる人数は限りがあるからな。どうしても100人程度しか参加できねぇ。混沌魔物は100体以上出るかもしんないのにな」
「やっぱり魔瘴対策がネックになりますか……」
「混沌魔物は強さよりも、魔瘴のせいでまともに物理や魔法が通じないのが厄介だからな」
「祝福装備、高いのよね……効果も有限だし……」
「まぁ、今回はギルド側で人数分は用意するそうだぜ」
「それがなかったら絶対参加してないわねー確実に死ねるわー」
やはりBランクの高位冒険者でも混沌魔物はきついっぽいですね。私達がなんとかなってるのは、戦闘力というより神気が使えるって部分が大きいのでしょう。
魔瘴対策さえすればただのデカくて強いボスモンスターにすぎませんし。……うん、それでも普通に強くないですか?
「Aランクの冒険者さん達ってどのくらい強いんでしょう? その人達と一緒に戦うんですよね、私達」
「ビビることはねーぜ。大半はガイナス以下だ」
「あ、そうなんですね」
というかそれ、Aランクが大したことないというよりガイナスさんが強いだけなのでは?
「あの人達ランク詐欺じゃない? 混沌魔物もたった2人で倒すし……こっちは10人がかりでやっとなのに」
「まぁ混沌魔物に関しちゃ向こうには聖女がいるってのはデカいがな」
「シャイナスさんね。いつもガイナスさんの後ろで護られてる印象あるけど、あの人も強かったりするの?」
「未知数ってところだな。たまにすごそうな気配するんだが、基本的に日常じゃ緩んでるからな、あの聖女様は」
あー、この反応を見るにシャイナスさんってあんまり人前で戦ったことないんですね。
たぶん……この人達が思っているより数倍強いと思うんですよ。
あの聖女みたいな儚げな見た目で、素の身体能力がかなり高いです。メイス振り回しますし。まぁ、私もシャイナスさんが本気のところ見たことないから分かんないんですけど。
こんな感じで雑談してても馬車は進みます。
「それにしても、平和ですねぇ。こんなに堂々と馬車で進んでても魔物が襲ってこないなんて」
「この街道は整備されてるからな。魔物が嫌う成分を含む鉱石を砕いて道路に混ぜてるんだとか。加えて街道沿いは定期的に魔物駆除してるしな」
「へー、そうなんですね。ウェダインさんは博識ですね」
「一応、元事務職志望だからな」
なるほど、どうりで平和なわけです。魔物も襲って来ないわけですね。やっぱり平和が一番ですわ。
そう思ってるとフラグが建つもので……
「魔物が出たぞー!?」
御者台から御者のおじさんが叫び声を上げました。
「やっぱり魔物出るんじゃないですかー!」
「これも魔王や悪神の影響なのかしら?」
「しゃーねー。とっとと倒すか」
そう言ってウェダインさんとハンドチョッパーズのみなさんはすぐに外に出ました。うーん、さすがBランク冒険者、判断が早い。完全に私は置いてかれています。
まぁ、外出たらココッテちゃんが巨大熊の首をサクっと落としてたんですけど。
うわー……服に返り血すらついてない。というか、あの刃渡り40cmくらいの短剣でどうやって大木みたいな熊の首を落とせるんですか?
「えーと、あの子ってたしかGランクとか言ってなかった?」
「まぁ、そうですね。ココッテちゃんは一度も依頼をしたことないのでランクはGです……嘘は言ってないですよ?」
「自信無くすわー……」
そうして平和な馬車旅が再開しました。
うーん、することが無いですね。絵でも描いてましょうか。
自分自身の整理の為に、幼女たちの身長設定を公開します。カッコ内は謎のデータです。
チーちゃん 108cm(5歳4か月)
ユージア 130cm(8歳9か月)
ココッテ 121cm(7歳3か月)
サクちゃん 125cm(7歳11か月)
この作品の主人公は幼女の身長を目視でほぼ正確に測定できるという気持ち悪い特技を持っており、本文で書かれてる身長設定はほぼ誤差がありません。ろりこんこわい




