Lo73.幼女に武器持たせるのめちゃくちゃ好きです!
冒険者ギルドの中には訓練場みたいなところがあります。サッカー場2個分ほどの広いスペースで冒険者登録しているなら誰でも使える場所ですが、そこで2人の子どもが戦っていました。
ユーくんとココッテちゃんです。
ユーくんは1mほどの大きな両手剣を振り回し、ココッテちゃんは40cmほどの短剣の二刀流で応戦しています。
武器はギルドで貸与されている刃を潰した訓練用のもの。斬られることは無いですが、金属なのでそれなりの固さと重さがあり、当たったら多分痛いです。
そんな金属の塊を振り回し、子ども2人が目にも止まらない高速戦闘をしていました。しゅばばばばすぱーん! なんかよく分かんないけどすごいってのは分かります!
そして唐突に止まりました。ココッテちゃんが泰然と立ち、ユーくんが肩で息をしています。
「勝負はついたようだな」
「え、そうなんですか?」
「今のはココッテちゃんの勝ちでよー」
「ぜ、全然わかりません!」
ガイナスさんとシャイナスさんには見えていたようで、何か分かんないんですけど勝負がついたっぽいです。
野良試合にも関わらず、周りには十数人ほど野次馬がその試合を見ていましたが、私と同じようにぽかーんとしていました。
「な、何が起こったんだ……?」
「めちゃくちゃ速くねーか!?」
「分身してなかったか今の?」
「恐ろしく速い手刀……俺でなければ見逃していたな」
「いや、どう見ても手刀じゃねーだろ!」
やいのやいの言ってますが、やはり理解できていた人はほとんどいないっぽいです。私はガイナスさんに言います。
「よく分からなかったので解説をお願いします!」
「ふむ。試合としては終始ユージア少年が果敢に攻めていたが、上手く捌かれて翻弄されていたな。ココッテはロスなく立ち回り、ユージアのスタミナを削って攻めがゆるんだところを突いて決着だ」
「なるほど、解説ありがとうございます!」
なるほどー、ユーくんが振り回されていたんですね。たしかにぜぇぜぇ息をしててしんどそうです。対してココッテちゃんは平気な顔をしていて息を全く荒げることは無く……いや、そもそも息をしてませんね。アンデッドですし。
「これってやっぱりココッテちゃんの方がユーくんより強いってことですか?……これがレベル5とレベル6の違いなんでしょうか?」
「いや……スピードはそこまで変わらないし、パワーはおそらくユージア少年の方が上だろう。レベルの差はあまり関係ない」
「そうなんですか?」
「どちらかというと、技量の差だな。ココッテは相手の動きを読んでいて全部避けていた。それに非常に高度なフェイントも仕掛けていて、虚と実が分かりづらい。更に二刀流だから手数も多い。これでは例え同じレベルだとしても、ユージア少年が勝つのは厳しいのではないか?」
「え、そんなに強いんですかココッテちゃん? ユーくんもかなり強いと思うんですけど」
これまで私はユーくんにおんぶにだっこされてましたけど、大体の魔物はユーくん1人が殲滅してたのでユーくんがすごく強いんだなぁってのは分かります。でも、ココッテちゃんはそれより上なんですか……
「どちらが上かというよりは、ユージア少年は一撃が重いから対魔物特化、ココッテは反対に対人特化だな。それぞれのスタイルで一長一短はあるが……ココッテはおそらく、対人ならばレベル6の中でも相当強い」
「……ココッテちゃん、最近までレベル4とかじゃなかったですか?」
「単純にセンスがいいんだろう。短期間で急激にレベルが上がった場合、身体能力に感覚がついていかないものだが、ココッテは既にレベル6の能力をコントロールしているな」
やはり天才か……!
ココッテちゃん、新入りなのにかなーり強いっぽいです。まぁ、ココッテちゃんは私達の中では最年長ですしね。
ユーくんは10歳でココッテちゃんは14歳。そして私は自称8歳(ギルド登録年齢)の中身28歳幼女です! ……言ってて悲しくなってきました。
ユーくんとココッテちゃんが戻ってきました。ユーくんはまだ肩で息をしながら言います。
「ココッテちゃん強いよー。全然追いつけなかった」
「ん」
「どうしたら勝てるんだろう? もっと振りをコンパクトに速くしたらいいのかなぁ?」
ユーくんが悩んでると、ガイナスさんがアドバイスをしました。
「……いや、逆だな。その分野ではココッテに勝てる見込みがない。むしろ威力と範囲を上げるべきだな」
「そうなの?」
「大剣と短剣だ。元々スピードでは短剣の方に分がある。ならば多少避けてもどうにもならん攻撃をする方がいい。リーチでは勝っているのだから、攻撃を押し付けていけばいい」
「なるほどー」
「……まぁ、それで勝てたら苦労はしないがな。根本的に動きが読まれているのが最大の敗因だ」
「むぅ~」
ユーくんが悔しそうな顔をしていますが、逆に言えばそんなココッテちゃんが仲間になったということは頼りになるということです。
少なくとも対人戦ではココッテちゃんの方がユーくんの一歩も二歩も上のようです。物騒な世界なのでどうしても対人戦は今後もありそうですし、そのときはココッテちゃんに頼りましょう。
「じゃあ次、魔法有りでやってみる?」
「えぇ!? 危ないですよ!? というかココッテちゃんが不利じゃないですか!」
「む」
「チーちゃん、ココッテちゃんは魔法使えるよ?」
「え、まじですか?」
どうやらココッテちゃんは魔法も使えるようです。え、既にこんなに強いのに魔法使えるってズルくないですか? ドレインタッチもあるのに?
ココッテちゃんはおもむろに手の平を上に向けました。そして冷たい空気が流れてパキッと音がすると、手の平の上にスイカほどの大きな氷の塊が生まれました。これがココッテちゃんの魔法なんですか?
「ん」
「うひゃあ冷たい!?」
ココッテちゃんはそのままひんやりとした氷の塊を私のほっぺに当ててきました。めっちゃ冷たいです! ちべたい!! なんで当ててくるんですか!?
「なるほど、氷の魔法か……」
「ボクの炎の魔法と対になるよね」
「ほえー、炎と氷ですか……」
炎と氷……反対のエネルギーですか……これ、もしかしたらぶつかったら極大消滅魔法が完成しませんか?
極大消滅魔法とは、なんかプラスとマイナスのエネルギーがぶつかるとそこに消滅エネルギーが発生するやつです。まぁ、ぶっちゃけ漫画知識なので本当にそうなるのか分かんないんですけど。
でもそんなのが野良試合で発生したら危険すぎますよね?
「あのー……魔法有りの決闘は危ないからやめましょう」
「そお?」
「それよりこれからショッピングに行きませんか?」
「ショッピング? なんの?」
「ほら、ココッテちゃんの武器は村長さんに貰った護身用の守り刀しかないでしょう? だからまともな武器を揃えなければなりませんよね? つまりですね……
武器屋いきましょうよ、武器屋!」
「武器屋! 面白そう!!」
「ん」
武器屋! なんともわくわくするワードです!!
ユーくんはユナさんから貰った魔剣ユナ・ブレードがあるし、私も私で初期装備のお父さん棒に愛着が湧いてたから今まで行く機会が無かったんですけど、ココッテちゃんには武器が必要ですからね。
ふふふ、こういう異世界ファンタジーの武器屋行ってみたかったんですよね! 楽しみです!!
そんな感じで3人で武器屋に着きました。ガイナスさん達は私達と別れてまたどこか行きました。できれば一緒に武器を選んでほしかったんですけど、あの人達はあの人達で仕事があるんでしょう。
裏路地にある偏屈ドワーフさんの武器屋……みたいなのがファンタジーの定番ですけど、私達が向かったのは冒険者ギルドを出て表通りを20mくらい歩いたところにある大きめの武器屋です。
うーん、徒歩1分もかからない。でもここらで一番大きそうな店なんですよねー。受付嬢さんにも一応聞いてみたんですけど、ここが一番品揃えが良いとか言ってました。
お店に入った瞬間、ずらっと武器が並んでいました。剣、小剣、大剣、槍、斧、棍棒……うひゃーテーマパークみたいです! テンションあがるぜー!
お店の中には気に入った人間にしか武器を売らない偏屈ドワーフさんはいませんでした。残念。でもちょっとケモ耳の女性が店員しててこれも悪くないですね。
「わくわくします!」
「うん、そうだね! チーちゃんは何か買うの?」
「とりあえずウインドウショッピングだけです! ユーくんは?」
「剣はもういらないけど、ナイフとか見てみようかなぁ? 携帯できるやつ」
ふむふむ、ユーくんも武器を買う予定なんですね。大剣を持ってますけど、なんせ1mくらいの長さで大きいですからね。小さい武器も欲しいんでしょう。
「ん」
「え、ココッテちゃんそれ使うの?」
ココッテちゃんの声がしたので振り向くと、ココッテちゃんはいつの間にか自分の身長より大きなハルバートを持っていました。え、まさかの巨大武器ですか!?
さっきまで短剣の2刀流で素早く立ち回ってましたよね!? そういうスピードキャラじゃないんですか!?
ココッテちゃんはハルバートを持ってお店にある試し切り用のカカシに向かっていきました。
そして野球のバットを振り回すように素早い一閃!
びゅおんと風を斬る音が聞こえて、カカシの胴が綺麗に両断されました。
「おおー」
「おお……なんかよく分かんないけど、すごい。幼女に巨大武器は浪漫を感じます……!!」
こういう斬る用のカカシは実際の人間と同じくらいの強度があるとか聞いたことあります。つまり、ココッテちゃんの今の一撃で人間を真っ二つに出来るってことです。
「このハルバートにするんですか?」
「むー……」
ココッテちゃんはハルバートを置いて別の武器を探しにいきました。
「え、使わないんですか!? なんで!?」
「なんかねぇ。たぶんアレだよ。自分はパワープレイも出来るんだぞってアピールしたかっただけっぽい」
「あー、なんかガイナスさんにパワーはユーくんより下とか言われてたから……」
「たぶん気に入らなかったっぽい。負けず嫌いだからねココッテちゃん」
結局ココッテちゃんはなんか良い感じの長さの短剣2本を適当に選び、スピードキャラに戻りました。
ユーくんもなんか携帯武器買ってました。
私? なんかカッコいい武器を見てはラフスケッチを描いてました。
「楽しいですね、武器屋!」
「なんかチーちゃんだけ楽しみ方違う……」
良い感じの武器資料が見れて良かったです! こういう武器をキャラにかっこよく持たせたいなー。
「あ、そうだ。ココッテちゃん。なんか武器持ってポーズ取ってください。かっこよく描きますから」
「ん」
「あ、ずるい! ボクもポーズ取るから描いて!」
「じゃあ、向かい合う感じで! 宿命のライバルっぽい絵面が欲しいです!!」
「わかった!」
ユーくんとココッテちゃんは結構ノリノリで武器を構えてポーズ取ってくれました。迷惑行為で店員さんに止められるかなって思ったんですけど、なんかむしろ微笑ましい感じで見られました。
うーむ、幼女はどんな武器持っても絵になるなぁ。至福のひとときでした。




