Lo72.ココッテちゃんのはじめてのぼうけんしゃとうろく!
お墓参りを済ませて村長さんと別れた後、私達は冒険者ギルドに行きました。
晴れてココッテちゃんが仲間になったことですし、これからココッテちゃんの冒険者登録をしなければならないのです!
ガイナスさんとシャイナスさんも一緒についてきました。
「すみません、わざわざ付いてきてもらって……」
「ココッテちゃんはうちの魔法鞄に入ってたから、うちの子でもあるんでよ?」
「え、そういうものなんですか!?」
「いや、その理屈はおかしいが……色々と面倒なことになるかもしれないからな。まぁ、そのくらいはな」
「面倒なこと……はて?」
ココッテちゃんが幼女すぎるから登録出来ないということもあるんでしょうか? 見た目7歳児くらいですからね。でも見た目5歳児くらいの私が登録できた時点で心配ないとは思いますが……
冒険者ギルドに入ると相変わらず荒くれ風貌の冒険者さんがロビーでたむろしており、私達が入るとにわかに注目を集めました。
「おい見ろよキルロード兄妹だ」
「また子連れで来たのか?」
「シャイナスちゃん可愛いよな」
「いいえシャイナス様は神々しいのです」
「あれ? なんか子ども一人増えてるな」
「隠し子か?」
「……ッ、まさか兄妹で!?」
いや、兄妹でってどういう想像してるんですか!? しかし相変わらずの注目度。有名人はつらいですね。なんかシャイナスさんの信者っぽい冒険者もいますけど気のせいです。とりあえず登録だけなので、ちゃっちゃと済ませてしまいましょう。
その中から、ドワーフのおじさんがやってきて私達に声をかけました。
「おおい! 聞いたぞい! お前達があのナメクジを倒してくれたんだってな!」
「あのときのドワーフのおじさん!」
おお、ナメクジの毒にやられて運ばれてたドワーフおじさんズのリーダーさんです。
「無事でよかったぞい! 今度は賭けに勝ったぞい!!」
「また賭けてたんですか!?」
「わっちらのチーム内でな。まぁ全員がお前達が勝つことに賭けてたから、倍率は1倍だがな! どわっはっはっ!」
「賭けの意味無いですね!?」
「『賭けに勝った』という達成感だけがあるぞい!!」
それだけ信じてくれてたんですね、この人達。こんな子ども相手に……そう思って感動してると、ドワーフさんがボソっと小声で言いました。
「……まぁ、お前達の後ろに『例のあの御方』がいたからってのも10割あるんだが……」
「え、気付いてたんですか」
「本人の目の前じゃ何も言えんぞい……」
えっと、たしか『例のあの御方』というのはギルド長のヨッツさんも言ってたように、サクちゃんのことを示すワードです。
なるほど、どうやらドワーフさんもサクちゃんのことを知ってたみたいです。有名人ですね。
……そりゃサクちゃんがいれば勝つの10割ですよね? 子どもの私達だけ置いてさっさと逃げた理由が今分かりましたよ!
「言っとくけど、ナメクジはボクとチーちゃんだけで倒したからね?」
「わかっとるわかっとる。どっちにしろ見込みがあるから『あの御方』はお前達のところにいたんだろう」
いえ、私達はツチノコ探しメンバーです。サクちゃんはそういう子です。
「まぁとにかくお礼は言うぞい! ありがとう!! 今度ピンチのときはわっちらが手助けするぞい!!!」
「うん、よろしくね!」
そう言ってドワーフさんは机に戻っていきました。ギルド内で冒険者達がその様子を見てざわめきます。
「おいおい、ヘブンズドワーのボルゾイがあいつらのこと褒めてるぞ」
「ナメクジがどうとかって言ってたな」
「農業の手伝いを褒められたのか?」
「そりゃ偉いな……俺ナメクジ嫌いだもん」
なんか混沌魔物を倒したことを『農業の手伝い』だと思われています。ナメクジですからね、仕方ないね。まぁ、野次馬の言うことですし無理して訂正するほどのじゃないですしスルーしときますか。幸い、悪口じゃないですからね。
今日の受付嬢はヨッツさんじゃないようです。人間のお姉さんです。受付嬢はガイナスさんに気付くと元気に声をかけてきました。
「あっ、ガイナスさん! 今日は何の用事でしょうか!」
「ギルドマスターはいるか?少し報告したいことがある。すまないが、取り次いで欲しい」
「あ、ギルマスなら……」
「ここにおるでー」
カウンターの下からヒョイっとギルドマスターのヨッツさんがエントリーしました。
いや、身長低いので見えませんでしたけど、なんでそこから生えてくるんですか!? びっくりしますよ!
「何故そんなところに……」
「……狭いところ好きやねん」
「いや、まぁ他の職員がそれでいいならいいんだが……」
受付嬢のお姉さんはあははーと笑ってます。
あ、許されてるんだ。位置的にセクハラまがいなんですけど……まぁ、マスコットみたいなもんだし種族も違うしいいのかもしれません。
キツネネコ獣人のヨッツさん。キツネなのかネコなのかよく分かりませんが、狭いところが好きとは猫っぽいところありますね。見た目はフェネックに近いのでキツネですが。
「んで、わいに何の用やねん」
「一人、冒険者登録してほしい者がいてな」
「んなもんわざわざワイに言わんでも勝手にすればええやん。手続きすれば出来るで。それともワケアリなんか?」
「この子なんだが……」
「うわちっさ! また子どもなんか!?」
ガイナスさんがココッテちゃんを紹介するとヨッツさんが叫ぶようにツッコミました。いや、ヨッツさんの方が小さいんですけどね。身長1mも無いでしょあなた。
「あんなぁ。一応また言っとくけど子どもは冒険者になるのおすすめせんで。こんなちっこい子どもを狂暴な魔物と戦わせるて、大人のわいらがさせることやないやろ」
「前にも言ったが冒険者ギルドのルール上、年齢や種族の分け隔ては原則ないこととなっている」
「そんなん建前やで。まっ、その子がよっぽど強いなら例外やけどなー」
ヨッツさんの台詞、もうフラグにしか思えませんね?
「そうだな……手っ取り早く【レベル測定】してみるか?」
「ん」
はて、【レベル測定】……なんですかそれ? 私はガイナスさんに聞いてみます。
「ガイナスさんガイナスさん、そういえば私レベル測定というのを知りません。レベルは自己申告しかしていませんが、何か問題あったりします?」
「いや、レベル自体は参考までにしかしないから自己申告で構わない。自分のレベルを知られるのを嫌う冒険者もいるしな」
なるほど、プライバシー保護が行き届いてますね。ヨッツさんが黒いカードみたいな板を出してきました。
「レベルの測定はこいつを使うんや」
「これを?」
「【力量測定器】、まぁ通称【レベルカード】っていうんやけどな。これに魔力を流すと反応してレベルが表示されるんや」
「ほえーそんなものがあったんですか」
謎の技術で作られた謎のカードが出てきました。確かに……考えてもみればレベルアップしたときの音声だけをたよりにレベルを自己申告するって、他者から見たら本当かどうか確かめようがないですね。何かしら確かめる方法があるのは当然といえます。なんでいままで出さなかったんですかねー?(疑いの目
まともに喋らないココッテちゃんのレベルをガイナスさん達が知ってたのも謎でしたけど、たぶんこういうので測ったんでしょう。
あのカードに魔力を流せばレベルが分かるんですね。
……ふと疑問に思いました。そういえば魔力って私にあるんですかね? いつも使っている神気は魔力とは違うんですよね? うん、わかりません。
私は小声でガイナスさんに聞きます。
「あのー、あれ魔力が無かったらレベル分からないことになりませんか?」
「ふむ……どうなのだろうな。聞いたことがない」
あ、ガイナスさんも知らないってことは、普通の人間だと魔力がある前提なんですね。私は異世界転生した幼女ですから、肉体の構造が違うのかもしれません。
……ちょっとどうなるか試してみたいなぁ、アレ。
そう思ってると、ココッテちゃんがとっととカードを受け取り魔力を流しました。
【6】
数字だけが黒い板に浮かび上がっています。めっちゃシンプル表示です。
「……は? レベル6? 嘘やろ」
ヨッツさんがそれを見て驚愕の表情を浮かべます。フラグ回収乙です。
「ココッテはレベル6だ。冒険者の資質が無いとは言えないな?」
「いや、ありえんやろ! 絶対ありえん! そら12歳でレベル4とかなら前例あるわ。騎士の家系とかがスパルタ教育したとかそういうケースとかな。でもな! レベル6は冒険者全体の1%もおらんやろ! それをこんなちっこい子どもが……ありえんやろ!?」
説明乙です。レベル6ってやっぱすごいんですねぇ。最高ランクの冒険者がレベル7って聞きますし、それと1しか違いませんし。
すると外野がまた騒ぎだしました。
「こーんなチビッ子がレベル6だとぉ!? 冗談も大概にしたらどうだ!?」
冗談だと思って大声で笑い飛ばすあらくれ男が一人。なんか見たことある人です。えーと、あの人は確か初日でユーくんに絡んできた……名前なんでしたっけ? たしかボナンザさんでしたっけ……?
ココッテちゃんは無言でそのあらくれ男の前に歩いていきました。
「おん? なんだぁ? お酌でもしてくれるってのか嬢ちゃんよぉ」
荒くれ男が挑発するように言ったその瞬間、その荒くれさんの膝がカクンと折れました。
そのまま白目を向いて倒れる荒くれさん。
「ガ、ガロンドのあにきー!?」
お供のモヒカンさんが叫びましたが、ココッテちゃんは既に興味なさげに背を向けて受付に戻りました。
あ、ボナンザさんじゃなくてガロンドさんだったんですね。全然違いましたね? でも「ン」は合ってるからほぼ正解みたいなものでしょう。惜しかったです!
「えーと、なんかいきなり相手が倒れたんですけど、ココッテちゃん何かやったんですかね?」
「今、ココッテが一瞬相手に触れたな。おそらくドレインタッチだ」
「え、私がいつも食らってるアレですか?」
「ああ、それだ。しかも触れたところは装甲のある小手部分だ。装甲を無視して一瞬で相手を無力化するとは相当な威力だな……お前は長時間食らっててなんで平気なんだ?」
「さぁ……手加減してるんじゃないですか? 慣れると気持ちいいですよ」
「それはちょっとおかしい」
しかし結構ヤバい性能してますねドレインタッチ。触れただけで気絶、装甲無視、そして一瞬すぎて見えないとか……というかアンデッド特有の技っぽいのに、既に完全に使いこなしてるのはなんなんでしょうか? 生前は使えなかったはずですよね?
まぁ、私にするときは相当手加減してるんでしょう。たぶん。
……いや、そういえば吸われる感覚が強いときと弱いときがあったり、触り方を何度か変えたりしてましたねココッテちゃん。
あれ? もしかして使いこなせるようになったのは私を実験台にしてたせいだったりします?
「な、何をしたんだ今の……?」
「レベル4のガロンドが一瞬でやられた……?」
「恐ろしく速い手刀……俺でなければ見逃していたな……」
「え、まじ? じゃあレベル6ってのはマジなのか」
いや、手刀では無いですけど……でもドレインタッチってのを知らなければ手刀に見えるんですかね?
それでも当たったのは小手部分。首筋にトンってしてないんですけど、本当に見えてたのか疑問です。
「本当にあんなに小さいのにレベル6なのか?」
「いや、隣の緑の幼女よりは大きいからいいんじゃね?」
「じゃあ問題ないな」
「かわいいしな」
なんか私のことを言ってます? まぁ中身28歳ですし本物のロリじゃないんですけどね、私。
ガイナスさんがヨッツさんに言います。
「見ての通りだ。問題ないな?」
「ええで。というか……まぁ正直、ガイナスはんが話持ってきた時点でそういう流れになると思っとったわ。もうこれ2回目やし」
「ふむ。やけにあっさりだな……じゃあ何で最初に否定したんだ?」
「それは様式美やん。正直またこれで一悶着あって野良試合とか起きんかなーと思うとったけど、流石にレベル6を試すのは無理やな」
うわー、ヨッツさん腹黒。わざとそういう反応してたってことですか。
「とゆーわけで書類書いたら冒険者登録終了やで」
「なるほど……お墨付きが出たというわけだ」
「そら、よっぽど変なやつやなければ誰でも歓迎するのがギルドの方針やし」
ふむふむ……よっぽど変なやつ、ですか。
あ、だからガイナスさんは受付嬢じゃなくてヨッツさんを同席させたんですね。ギルドマスターのお墨付きを貰う為に。
だって、ココッテちゃんは人間じゃなくてアンデッドですし。それをギルドマスターという権力者が認めたって絵が必要だったってわけですか。
うーん、ガイナスさんも色々と考えてますねぇ。私達だけで登録しにいったら何かしらトラブルがあったかもしれません。ホント助かります。
ココッテちゃんはサラサラと必要書類を書き終えました。ふむふむ、ちょっとだけ見てみましょうか……
【登録名】ココッテ・B・ボーデン
【年齢】14歳
【前歴】たぶんハンター的なやつ
【特技】色々
【自己PR】よろしく
私はそのエントリーシートのある項目を見て即座にツッコミを入れました。適当で雑過ぎる前歴と特技もツッコミどころもありますが何より……
「年齢欄!! ココッテちゃん14歳なんですか!?」
「ん」
「はぁ!? この見た目で14歳!? 嘘やろ!!」
ヨッツさんも驚いてます。ココッテちゃんの身長は120cmほど。14歳どころかその半分にしか見えません!
「じゃあ最初から年齢の問題なかったやんけ! 13歳以上なら無条件で入れとるわ!」
「いや、そんなこと言われてもな……俺も知らなかった情報だ」
「いやほんまビビッたわ! 7歳くらいの幼女がレベル6やと思っとったからな!?」
「なるほど、たしかに14歳だとレベル6も納得ですね……ユーくんより4つも年上ですし」
「いや、よく考えたらそれでも十分おかしいねんけどな!? 14歳でレベル6はおらんわ!!」
そういえばココッテちゃん、村長さんから成人祝いで守り刀とか貰ってましたね。昔の日本では元服が13歳だったということもありますし、この世界だと14歳は大人なのかもしれませんね?
そして村の子ども達にも年上っぽい対応していた理由もこれで判明しました。
つまりココッテちゃんはお姉ちゃんキャラだったのか……!(28歳幼女が言うな)
とりあえず、年齢面では文句無しということでココッテちゃんは普通に冒険者登録できました。
しかしこの登録名……【ココッテ・B・ボーデン】ですか……
ココッテちゃんの育ての親、バン・ボーデンさんの名前が入ってますね。
たしかココッテちゃんは養子じゃなくて居候してただけとか言ってましたよね? それなのにこの名前を名乗るということは、もしかしたら照れ隠しなだけで本当は親と認めてたってことなんですかね?
ふむ、これは……なかなかのツンデレさんですね!
そう思ってるとココッテちゃんに唐突に脇を抱えられました。
「えーと……なんですかココッテちゃん」
「ん」
そのままココッテちゃんは私を抱えたままぐるぐると回り始めました。
「うひゃあああああ!?」
こ、これは通称メリーゴーランドという技!? め、目が回る~!?
ドレインタッチ以外の新技を食らった私はクラクラになりながらバタンキューしました。
な、なんか私悪いことしました!? さっき心の中でココッテちゃんのことをツンデレさんだと思ったからメリーゴーランドを食らったんですかね!? 人の心を読むとかエスパーですか!?
でも正直ちょっと童心に戻った気分で楽しかったのは秘密です!




