Lo69.ココッテちゃんを偲ぶ会
さて、難民キャンプにやってきました。
改めてこの街の紹介をしましょう。尚、RPGの住民みたいに都合良く説明する人がいないので私がモブとなって説明します!
ここは北東都市ハイセイカ。ハルテン国内だとかなり大きな都市で、12万人の人口を誇ります。大したことないですか? 異世界基準だとかなり大きいんですよ、たぶん!
広島県尾道市が人口12万人なので、大体そのくらいです。
えっ、尾道市をご存知ない? 猫がたくさんいる街、尾道ですよ! 映画の舞台とかになったとか色々ありますけど、見たこと無いので知りません。
最近では「ぽんのみち」という尾道を舞台にした麻雀アニメが放送されていたりします(唐突な宣伝)
話が脱線しましたね……まぁ尾道の話はともかく、これは異世界ではかなり大きな都市で、また土地の周囲は魔物対策の為か、高さ10m以上の城壁で囲まれています。
都市を築くのに大変な労力がかかっていると思われます。
石を運んで組み立てて壁にして、老朽化や傷があれば補修して維持する……重機無しだとめっちゃ大変そうなんですけど、この世界には魔法があるからなんとかなっちゃうんですかね?
内側にも城壁が残ってることから、外へ外へと領地を広げて発展してきたこともうかがえますね。
そんな都市の中でも広い敷地があります。都市の中心には標高300mほどの低山があり、その頂上には立派な古城(観光用)があります。
そこのふもとにイベント用の広い空き地があり、そこに難民キャンプはありました。
近隣の村からの避難民は1000人ほど。そこかしこにありあわせの古めかしい布や木材で作られたテントが立ち並び、避難民が雨風をしのいでいます。
さぞ悲惨な境遇なのかと思ったら……
「あ、聖女さまだー!」
「妹ナスだー!」
「鎧のー!」
「兄ナスー!!」
なんかわらわらと子どもがナス兄妹に群がってます。めっちゃフレンドリーですね!?
「元気でやっているようだな」
「明るくなってよかったでよー!」
それに対して嬉しそうに迎える兄妹。
えっとぉ……話が違いませんか?
「あのーガイナスさん……確か貴方『俺は非情な冒険者として徹する』とか言ってませんでした?」
「……そうだな」
「そしてシャイナスさんは聖女モードになるとか言ってましたよね?」
「ん?そんなこと言ったでよ??」
「大人は嘘つきだーーー!!!」
「なんか……すまんな」
前回の話は何だったのか。なんかいつもと同じ二人がいました。めっちゃ子どもに群がられてます。
そして子ども達はユーくんも発見してはしゃぎだしました。
「あ、ユーくんだ!」
「ユーくん! よかったー生きてたー!」
「なにその剣? すごい!」
「ユーくんかっこいい!」
ユーくんと同じかそれよりも小さい子ども達がユーくんを見て突進してきます。
特に幼女の食い付きがすごいです。ユーくん、幼女からはイケメンお兄ちゃんに見えてるのかも。ユーくんも村の子ども達を見て嬉しそうに言います。
「みんな生きてたんだねー。よかったー」
「うん、生きてるよー!」
「それになんかみんな綺麗な服着てるね!」
あ、本当です。今気付いたんですが、この子ども達、妙に小綺麗な服着てますね? 着のまま逃げてきてもっとボロボロなのを想像していましたが……
「聖女のお姉ちゃんが買ってくれたのー!」
「え、そうなんですか?」
「ああ、この間な……」
「買い物楽しかったでよー」
子どもと戯れてるシャイナスさんが笑顔で言いました。まさかこの兄妹、難民に支援していらっしゃる?
「え、これまさかシャイナスさん達の自腹なんですか?」
「ん? そうでよー」
「街からの支援とかは無いんですか? 服の支給とか」
「一応、炊き出しはあるし古着の寄付はある……生きていく分にはそれで十分だがな」
「でも古着より新しい服の方が着てて嬉しいでよ?」
「まぁこのように妹も主張してな。古着の質も粗悪だし、街で新品を買おうということになった」
「え、シャイナスさんガチで聖女ですか?」
「聖女でよ?」
そういえば聖女でした。
古着の寄付。日本でも被災が起こったときに被災地に送られるんですけど、それはそれで色々と問題が起きてるらしいです。ゴミみたいなやつも混じってるとか、マジでいらないとか。
「しかし新品の服をこれだけ買ったら品不足になりませんか?」
「服屋は特需が生まれて喜んでいた。古着だと儲けが無いからな。混沌魔物の出現で国民が不安になり、食料が高騰すると逆に贅沢品として服の在庫がダブつくらしい。どうやら買い控えが起こっていたらしいな」
「ほえー、WINWINの関係だったんですね」
「難民はただでさえ金を落とさない厄介者に見られている。せめて少しは利益をもたらさないとな」
ふむふむ。たしか地球でも「アフリカの恵まれない人々に古着を寄付しよう」みたいなことが何十年も行われている結果、アフリカの自国アパレル業界は滅ぼされたそうですね。古着の寄付はタダだし、世間体のいい服の処分理由にしかなってないんですよね。
そりゃ新品買った方が市場も活発になって経済支援にもなりますよ。でもまぁ、これだけ買うと結構お高いんでしょうけど……
「他にもね、鎧の兄ちゃんが美味しいもの食べさせてくれたんだよ!」
「お菓子くれたよー!」
「今日も持ってきたぞ。これはカステラというお菓子だ」
「わーい!」
ガイナスさんが魔法鞄からお菓子を大量に出して配ってます。うわぁ、こりゃ子どもに好かれるわけだ……
これ自腹でやってるわけでしょう? 聖人ですか? 聖人ですわ(確信)
「ところでその子なーにー?」
「かわいー!」
「しっぽと耳生えてるー!」
「お菓子たべるー?」
わわ、私のところに子ども達が群がってきました!
なんか耳とか尻尾とか遠慮なく触られます! くすぐったいです! あ、ちょっと引っ張らないで下さい! 頭頂部かがないでください!
でも子どもにもみくちゃにされるの、ちょっと幸せです! 私ロリコンなので!! 前世の私の姿だとここまで人気にならなかったでしょう! やっぱり可愛いって正義ですね! いえーい!
一方ユーくんは揉まれてる私を全く気にしないで言います。
「でも本当に良かったよ。みんなが無事で。死んじゃってたかもって思ったし」
すると、さっきまではしゃいでいた子ども達は暗い顔で言いました。
「すごく怖い魔物が出たんだけどね」
「ココッテちゃんが逃がしてくれたんだ……」
「ココッテちゃんが……?」
「うん、ボク達を守ってっ……!」
どうやらココッテちゃん、村の子ども達を守ったようですね。偉いです。
「なるほど……あれだけの魔物や混沌魔物に村が襲われて、弱い子ども達がほとんど無事だったのはその為か……」
「ココッテちゃん、強いからね」
「ココッテちゃんさいきょーだからね」
子供たちがこぞってココッテちゃんの強さを主張してます。確かに、死ぬ前のココッテちゃんでもレベル4。ユーくんの元々のレベル3を上回ります。つまりあの幼女、見た目によらずめっちゃ強いっぽいです。
というかレベル4って私と同じレベルですよね? 混沌魔物2体と戦った今の私と同じレベルっての若干おかしい気もしますが……
普通にベテラン冒険者レベルですよね、ココッテちゃん。平凡な村娘のレベルをはるかに逸脱していますが、村ではどういう扱いだったんですかね?
「でも、今でもココッテちゃん戻ってこないんだ……」
「ココッテちゃん死んじゃったのかな……」
「馬鹿いうなよ! ココッテちゃんが死ぬはずないだろ!」
「でもあれから2週間だよ?」
ココッテちゃんのことを想って子ども達が悲しんでいます。中には泣いている子も……
そしてその中に平然と混じってるココッテちゃん。
いや、そこにおるがな。
ガイナスさんが困ったようにココッテちゃんを見ると、ココッテちゃんは黙って人指し指を口に当てました。静かに、ということでしょうか?
私はユーくんに小声で聞きました。
「あのー、ココッテちゃんは何してるんでしょうか?」
「んーと……ココッテちゃんだからね」
なるほどぉ……いや、全然わかんないですよ? すると私やユーくんの視線に気付いたのか、村の子ども達が後ろを向きました。
「なに? なんかいるの?」
「あ、えーとですね……」
いません。
何故ならココッテちゃんは子ども達の視界から一瞬で逃れて、その背後を取ってたからです! 子ども達は何もない空間を見た後、不思議そうに言いました。
「なんもいないよ?」
「変なのー」
「あは、あはははー」
いや、いるんですけどね……今もキミ達の背後に……
なんですかね? 気配を消してる? いや、それだけじゃないですね。わざと私に見える範囲でやってるのがたちが悪いですね?
こちらに姿を見せつつ、特定の対象には全く目に入らない……何気に高等技術じゃないですかこれ? 黒子のバスケの主人公の使う技ですか?
「それよりガイナスー! 稽古つけてよ稽古!」
「強くなりたいんだよー!」
「ふむ、それはいいがまた後でな。少し村長と話さねばならん」
あ、ガイナスさん子ども達に稽古もつけてるんですね。面倒見良すぎません?
ということで、子ども達と泣く泣く別れをつげて私たちは村長のハウス(仮説テント)に向かうのでした。
……うん? えーと、ココッテちゃん自然に私達の中に戻ってきてるんですが。いや、気付かないものなんですねぇ……私もココッテちゃんにいつの間にか抱えられててビックリしましたし。
あのぅ、いいんですかねこれ? 子ども達悲しんでましたけど。うーん、でもココッテちゃんが死んでることは事実ですしねぇ……まぁ、村長さんとの話し合い次第ですかねぇ?




