Lo61.名前を呼んではいけないあの人! サクちゃんの秘密とは?
ケモ度高めイケメン狼獣人お姉さんに連行されて、冒険者ギルドに来た私達。何故か両脇に抱えられて運ばれているので、周りから注目されてますね。あ、特に抵抗してません。する理由も無いので。まぁ私達はどこからどう見ても無実の幼女なので、暴れなければ特に危害を加えられないでしょう。
横を見たらユーくんも特に危機感を感じてないのか、流されるまま運ばれてますね。というかうつらうつらしてませんかユーくん? 眠いんでしょうか? まぁ疲れましたからね。道中の雑魚魔物も混沌魔物も倒したし、ツチノコ捜索してますからね。お疲れ様です。私は道中の魔物退治とかユーくんにまかせっきりでしたからね……
本日の冒険者ギルドの受付さんは、普通の人間のお姉さんでした。
「よーす。来たぜ」
「あ、ウェダインさん! お疲れ様です! 無事でしたか!」
「見ての通りだぜ。それより奥行っていいか?」
「あ、はい!」
どうやらゲートキーパーのケモ度の高いお姉さんは『ウェダイン』さんというみたいです。そういえば名前全然知らなかったですね。
「ところで、その抱えてる子ども2人は……あ、誘拐ですか!?」
「そうだぜ。楽しいぜ、誘拐。お前もやるか?」
「犯行の自白とりました。後で牢屋の準備しておきますね!」
「おかしいな。アタシが逮捕される流れになってるぜ?」
そんなやりとりがありましたが、ウェダインさんは顔パスでなんかギルドの奥に入っていきました。それなりに信頼されている人物のようです。
ウェダインさんはギルドマスターの部屋のドアを足でドカっと開きます。
「ギルマスー。来たぜー」
「あんなぁ、足で開くなや足で。わいギルドマスターやで?」
そういって迎えたのは、冒険者ギルドで初日に会ったキツネネコ獣人のヨッツさんです。相変わらずケモ度の高い方です。
小さい身長に不釣り合いなクソデカ机が合ってませんが、めっちゃ高い椅子で釣り合いを取っています。
「でも帰ってきたってことは、混沌魔物は倒せたんやな! さすが金章持ちのギルド専属冒険者様やで!」
ふむ、ウェダインさんは金章持ちですか……なるほどなるほど。よく分からないですけど、すごそうです。『ギルド専属冒険者』っていうのも初めて聞きましたが、要するに所属がギルド運営側の冒険者ってことですかね?
「あー、そのことなんだが、なんかもう説明めんどくさいからチビども連れてきた」
「ん、なんや? なんでその子ら脇に抱えとるん?」
「そこらへんのことも、まぁ説明してくれ嬢ちゃん」
「子どもに説明させる気なんか!?」
まさかの丸投げです。ユーくんはうつらうつらして眠そうだし、私が説明するしかないんですかね?
「……というわけでかくかくしかしかということです」
「うまうましかしかということやな……いや全然わからんへんわ!」
説明を省略しようとしましたけど、全く伝わってないですね。おかしいですね、漫画だとこれで伝わるんですが……あ、最近だとこういう漫画無いんですか? なら仕方ないですね。
というわけで、普通に説明しました。あと、ユーくんは完全に寝たのでソファーに寝かせました。
「えーと、整理してええか? ナメクジはあんたらが倒して、ついでにそれより強いミミズが出たけど角生えた幼女に瞬殺されたと。あと、ツチノコが出たと……いや、ツチノコはどうでもいいねん!」
「そうですね、ツチノコはどうでもよかったです」
「とゆーかナメクジの混沌魔物、『ヘブンズドワー』さんらが討伐失敗して逃げとるんやで? まだ子どものあんたらが倒せるわけないやん」
「ヘブンズドワーさん?」
「ドワーフ5人組の冒険者チームや。あいつらBランクの強豪チームやで?」
ナメクジのときに会ったあのドワーフさん達のことですかね? まさかガイナスさん達と同じBランク冒険者だったとは……強かったんですね、あの人達。
しかしヘブンズドワーってチーム名が若干ネタ寄りですね?
「ギルマス、そこらへんはまぁこいつを見て判断してほしいんだぜ。たぶん、こいつらは嘘は言ってないとは思うんだが……」
ごとり。ウェダインさんがユーくんから預かったナメクジの魔石を机の上に置きました。
「ん、なんやこれ。でかい魔石やな。まさかこれ、混沌魔物のか!?」
「そのメガネで見分けられるんだろ? 頼むぜ」
「……わかったわ」
ヨッツさんがかけている片眼鏡がキラリと光りました。
「何々? 混沌魔物『ダークスラッグキング』。『BP:105600』。10万越えまじか……うわこれ、『討伐者:ユージア・フレット、チーちゃん』ってなっとる。というか何で『チーちゃん』やねん! 登録者名が愛称になっとるやんけ!」
ヨッツさんが魔石を見ながら何かぶつぶつ言ってます。
「あのー、あの片眼鏡ってどういう情報が見えてるんですかねぇ?」
「文字情報で色々見えるらしいぜ。使ったことないけどな」
ほえー、イメージ的にはフリーザ軍の使うスカウターに近いんですかね?
「ていうか『ダークスラッグキング』っていうんですね、あのナメクジ。なんかかっこいい名前ですねぇ」
「アタシも初めて聞く名前だぜ。どんなやつだった?」
「黒くて大きくて、毒を使ってきました。ぬめぬめしてて、味は鼻水に似てて気持ち悪かったです」
「え、味? 食ったのか?」
「不本意ながらナメクジの汁を飲んじゃいまして……」
「うわー、絶対嫌だわ。戦わなくて良かったぜ」
「あんたら何落ち着いて会話しとんねん! とんでもないことやってんねんぞこの子ら!!」
あ、ヨッツさんが声をあらげてハッスルしてます。すると、ついでという感じでウェダインさんがバスケットボール大の魔石を追加しました。
「まーまー、ついでにこれも見てほしいんだぜ」
「え、なんこれ……魔石? デッッッッカ!?」
「あ、それはミミズの魔石ですね。わくわく……」
「何わくわくしとんねん!? そもそもミミズってなんやねん!?」
「あ、全長300mくらいのミミズです」
「もうそんなんミミズちゃうやろ!?」
激しくツッコミつつも、ヨッツさんは片眼鏡を光らせて魔石を鑑定します。なんかもう逆にわくわくしてきました。あのクソデカミミズの魔石ですよ? どんな結果が待っているのでしょう。魔石を見ているヨッツさんの表情がドン引きし始めました。
「は? 『BP:721500』?? なんなんこいつ、おいおい小国なら余裕で滅びるレベルやんけ?」
「あのー、さっきから言ってるBPってなんですか?」
「BP、要するにバトルポイントってやつで、何でも強さの指標になるやつらしい」
「なるほど、つまり戦闘力ですか……」
はて。今の段階で10万とか70万とかいう数字出てて大丈夫なんでしょうか? 大体こういう戦闘力的なやつ出てくると、インフレして億とか兆とか行っちゃうやつだと思うんですけど、バランス取れるんですかねぇこれ?
そう思いつつも、ヨッツさんは魔石の鑑定を進めていきます。
「名前は……『名称不明:ミミズ』? 名前なしってことは未発見モンスターか?? こんなバケモンどうやって倒したんや? 討伐者名は誰や? あっ……」
ぶつぶつツッコミながら言ってたヨッツさんが明らかに何かを察した顔になります。
「これ、『例のあの御方』案件やんけ……」
「あ、やっぱりそうか? チビどもが『角生えた幼女』とか言ってたからそうだと思ったぜ」
え、え? 『例のあの御方』ってなんですか? サクちゃんのことですか??
「あの、サクちゃんってやっぱり結構有名だったりするんですか?」
「サクちゃん? は? 名乗ったんかあの人??」
「まじか。初めて聞いたぜ? その名前……」
え、え? まさか『名前を呼んじゃいけないあの人』みたいな扱いなんですかサクちゃん。
「てゆーか静養中って聞いとったんやけど。影武者じゃないんか?」
「たぶん本人だぜ。大地割れてたし、あんなん出来る人いねぇわ」
「というか何でダンジョンの中におんねん。ウェダインはんは見んかったんか?」
「いや実は門番やってるとき、視界の端にチラッと角生やした幼女の侵入者が通ったような気がしたんだが、気のせいだと思って気付かなかったぜ」
「それほぼ気付いとるやんけ! もっと自分の感覚信じてーや!」
な、なんかサクちゃんのことが話題になってるっぽいんですが、何なんですかこの二人の反応? サクちゃん、何やってるんですか?
「あのー、サクちゃんって一体何者なんですか?」
「……あんなぁチーちゃん。世の中には触れちゃいけん秘密があってやなぁ……」
ええっと、もしかして存在自体が機密事項でしたかサクちゃん? するとウェダインさんが口を出しました。
「別にいいんじゃねーか? あの人、なんだかんだ結構有名だぜ?」
「と言ってもやなぁ。あの人は公式じゃとっくに引退しとって、国政でもいないものとして扱うように通達が出とってなぁ」
「今でも祭りとかで堂々と出てるって聞いたんだが……」
「それは良く似た別人って解釈しとんねん。そういう扱いやねんあの人は」
「そうは言っても一か月前の【大侵攻】の際には最前列にいたんだぜ?」
「そりゃ非常時やからしゃーないやん! あの人はあんま表舞台でぇへんことになっとんねんで」
な、なんか二人が揉めるように言い合ってます。えと、サクちゃんの存在ってなんかやべーものなんですかね?
「あのー、よく分かんないんですけど、サクちゃん良い子だったし可愛い子でしたよ? 何か問題でもあるんですか?」
「あー、そのことやけどなぁ。わいの立場としては言っていいものかと……」
「別に良いだろ? こいつらこう見えてつえーぜ? それに名前まで教えてもらってるんだろ?」
「そやな……知っとる人はほとんどおらんからな、あの人の名前は。そんなん教えてもらっとるからには、相当期待されとるか信頼されとんかやな……」
いや、名前は初対面で普通に教えてもらいましたけど。そんなに秘密にする要素ありました?
「ごほん。まぁええわ。どうせあんたら遅かれ早かれ知ることになるやろ。この際やから教えたるわ」
「あ、はい」
「あの人は……いや、あの御方はなぁ…………」
そう言って、ヨッツさんは一瞬溜めます。
溜めます。
溜めます……
……あの早く言ってくれませんか? 聞く準備は出来てるんですけど。
やがて、溜めに溜めてようやくヨッツさんは口にしました。
「あの御方こそ、ハルテン国最強の神術士にして……前ハルノテンペスト大帝国の初代神帝ミカド様や!!」
「しんてい……みかどさま? えと、サクちゃんが???」
なんかサクちゃんは、この国のすっごい偉い人だったっぽいです。ほえー、すっごい。
……なんかめっちゃ溜めましたね?




