Lo6.どうやら私は獣人王家の姫で刺客に命を狙われてるらしいです
スープを全て平らげた私に安心感と満腹感からか、強烈な眠気が襲ってきました。
まだお礼も言えてないんですけど、目の前の美人さんは柔和な笑みを浮かべて「ゆっくり休んでいいからね」と言ってくれました。
本当に、優しいです。
私はそのまま目を閉じて眠りました。とてもあたたかくて、気持ちいい気分でした。
・・・・・・
・・・・・・・・・
復活ッです!!!
チーちゃん復活ッ! チーちゃん復活ッッ!! チーちゃん復活ッッッ!!!
はい、見れば分かりますね。何度も言う必要はありません。
いえいえ何度も言っていいんですよ? これは歓喜のおたけびなので(どっちだよ)
何時間寝てたのか分かりませんが、すっごく清々しい目覚めです。こんなに熟睡したの久しぶりです。
あちらの世界で死ぬ前は無理して短時間睡眠が続き、ずっと自律神経狂ってましたからね。
こんなに気持ちよく熟睡できたことは久しぶりでしょう。(何故2回言った?)
周りを見渡してみると、部屋の中には誰もいないようです。外にいるのでしょうか?
私を助けてくれたあの二人は命の恩人です。お礼を言わなければなりません。
部屋の中は動物の毛皮らしきカーペットが敷いてあります。土足厳禁なのでしょうか?
アワシマ様から「中世ヨーロッパのような世界」、もとい「ナーロッパ」と聞きましたが、私がちょっと思ってたのと違うようです。
これも都合の良いナーロッパ世界観の範疇なんでしょうか?
私はそのまま裸足で部屋の外を出ますと玄関があって、ご丁寧に私の履き物が並べて置いてありました。
うぅむ、こういうところは和式スタイルですか。不思議です。
清潔感あって良いですけどね。
お外から人の気配がします。そちらに二人はいるのでしょうか?
体調は完全に復活したようで、身体はめちゃくちゃ軽いです。
しかし、ご飯食べて寝ただけで治るとはいえ、空腹を舐めてはいけませんね。今回は本当に死ぬところでした。
昔の少年漫画のテンプレとして、「冒頭で空腹の主人公がぶっ倒れてて、ヒロインが飯を食わせるところから物語が始まるやつ」がありますけど、アレってリアルでもあったんですね。ハンガーノックだったのですか、アレは。
龍玉を求める国民的漫画の主人公が大事なときに「腹が減って力が出ねぇ…」みたいなことよく言ってて、当時は「いやもうちょっと頑張れよ!」と思ってましたが、あれもハンガーノックでしたか。
一度経験してみるとよく分かります。あれはまじで「腹が減って力が出ねぇ」状態でした。奇しくも少年漫画の主人公と同じ経験をしてしまいましたね。
ハンガーノック怖いです。
最近そういう展開はすっかり見なくなりましたが、空腹で倒れるなんて飽食の時代で経験した人が少ないからでしょうか?
昔の人はそういう経験からあのテンプレを思い付いたのかもしれません。これも時代ですね……
さて、身体は大丈夫そうなので、私は靴を履いて外に出ることにしました。
外に出ると庭があり、家庭菜園で野菜みたいなのを栽培しているようです。周りは森ですね。お隣さんの家とかは見当たりません。ぽつんと一軒家です。
森の中の庭付き一軒家……なかなか素敵ですね。
見た目豪邸とは言えない普通の広さの木造平屋の家ですけど、お布団もモコモコで気持ちよかったですし、家にカーペットも敷いてありましたし、意外と裕福なのかもしれません。
庭で声が聞こえます。私がそちらに行くと、私を助けてくれた少年が木剣を振るっていました。
剣術の練習でしょうか?
少年の身長は130cmほど。おそらく9歳ですね。今の108cm(5歳児並み)の私よりは背は高いですが、骨格も細くてまだまだ子どもです。
……だから身長から即座に年齢を割り出すの気持ち悪いって? 気持ち悪くてごめんなさい。年齢別平均身長を暗記するのはロリコンの嗜みなのです。(そんな嗜みは無い)
剣の素振りが風をヒュンっと斬る音が聞こえます。剣のことはさっぱり分かりませんが、姿勢が安定しててなかなか良い太刀筋に見えます。
腰だめに構えた剣を、抜刀からの横なぎに斬る動きを繰り返しています。
居合でしょうか? それとも必殺技の練習でしょうか? どことなく、アバ○流刀殺法に似た剣です。
少年のすぐそばには、椅子に座った女の人が本を読みながら優雅にお茶を飲んでます。彼女は私にスープを飲ませてくれた美人さんですね。なかなか絵になる人です。
私が様子を見ていると、少年の方が私に気付いたのかパアッと笑顔を向けてきました。
「あっ! よかった! 元気になったんだね!!」
少年がそう言った瞬間、先ほどまで本を読んでた美人さんの指から瞬時に水球が産み出され、少年に向かって飛んでいきました。
「うわっぷ!?!?」
水球は少年の顔にぶつかり、少年は思わず尻もちをついてびしょ濡れになりました。水球を飛ばした美人さんは微笑んでいます。
今のはもしかして……魔法ですか???
「ユーくん、油断大敵よー」
「うう、お母ちゃん、今のはひどくない?」
「だって、隙だらけだったからー」
……なんでしょう、何かの修行ですか??
お母ちゃんと呼ばれた女の人は、おっとりした喋り方で優しそうに見えますが、なかなか容赦ないようです。
「あ、そうだ! そんなことよりキミ! 元気になったんだね!!」
「あ、はい。おかげさまで」
少年はこちらに駆け寄ってきて、まるで我がことのように嬉しそうに微笑みます。
めちゃくちゃ良い子です。スマイルが眩しすぎます。
私はその太陽のような笑顔に圧倒されつつも、ぺこりと頭を下げてお礼を言います。
「……本当にありがとうございました。貴方たちは命の恩人です」
そう言うと、何故か少年は面食らったように困惑しました。はて……?
「えっと、キミってもしかして貴族の子なの?」
「へ??? いえいえ、滅相もないです! 私はただの一般人でして……」
「ええ~? ほんとぉ~??」
何故か貴族と勘違いされてるんですが???
え、こんな一般市民をどうして高貴な生まれだと思ったんですか? 生まれて初めての扱いです。
困惑してると、淡茶色の髪の美人さんが言いました。
「まーまー、元気そうだしいいじゃない。とりあえず、お名前教えてくれるー?」
「あ、はい。地衣小糸と申します」
「チイ・コイトちゃんかー……少し変わった名前ねー」
「あはは、よく言われます」
あ、普通にチーちゃんじゃなくて本名名乗っちゃった。まぁいいか。この人たち命の恩人だし。
「チーちゃんって呼んでいい? ボクはユー! ユージア・フレット!!」
本名晒しても結局チーちゃんって呼ばれたからセーフです。何がセーフなのか分からないですが。
しかしユージアという名前ですか。男か女か判別つかないですが、若干女の子っぽい名前な気がします。ユージアちゃんですね。
「よろしくお願いします、ユージアちゃん」
「ちゃんってつけたら駄目! ユーくんでいいよ!」
「あ、はい。よろしくです。ユーくん」
「よろしくね、チーちゃん!!」
ユージアちゃんと呼んだら何故か駄目出しくらいました。ユーくん。ユーくんですか……
うむむ、ショートカットで男の子っぽいけど中性的な子です。ショタとしても可愛いですけど、やはりどこかロリを感じてしまいますね。
私のロリコンセンサーがそう言ってる気がします。(そんなセンサー搭載するな)
続けて美人さんがおっとりと微笑みながら自己紹介をする
「よろしくね、チーちゃん。私はトミ子よー」
ええ!? トミ子さん!? めっちゃ日本人っぽくないですか!?!?
「違うよ!? お母ちゃんの名前はユナだよ! ごめんね、ボクのお母ちゃんときどきしょうもない嘘をつくの」
「えへへ~、面白いと思って。ナオミと名乗ろうか迷ったんだけど~」
「ナオミもなんか雰囲気違くないですか!?」
淡茶色の髪でめちゃくちゃ異世界人っぽいのに、すっごく日本人っぽい名前で一瞬ビックリしましたが、なんでそんな名前を騙ったんですかね?
異世界でも日本人っぽい名前って流行ってるのかなぁ。
それにしてもユナさん、ユナさんかぁ……やっぱりこの人ユーくんの「お母ちゃん」なんですね?
めちゃくちゃ見た目若くて普通に女子高生の制服も着れそうなんですけど、一体お年はいくつで……いや、女性に年齢を聞くのはやめておきましょう。地雷かもしれません。
そんなことを思ってる間も、ユーくんは興味津々でこちらに話しかけてくる。
「チーちゃんチーちゃん。身体はもう何ともないの? ホントに元気?」
「ええ、大丈夫ですよ。全てあなたたちのおかげです」
「……ねぇ、チーちゃんって喋り方元々そんななの?」
「はい、元々こんなですけど……?」
「よかったー。頭ヘンになったんじゃなくって……」
「え」
えええええ? 私、頭ヘンですか??
いや……まぁそうですね。変な方ですね。ロリコンですし。完全に同意です。
いやでも、初対面でそれを見抜かれるとかなかなか無いですよ? やべ、警戒されてるかな?
「あー、ごめんごめん。ヘンっていうのは、なんか妙に大人びてるなーとか、何か魔物にとりつかれたのかなーって思っただけで」
「えええ? 魔物に取りつかれたらこう……(ロリコンに)なるんですか??」
「どうだろー? そういう魔物もいるって聞いたことあるから」
そういう魔物もいるんですね。ロリコンは魔物の仕業なのかもしれません。ロリコンこわい
「ねぇねぇ、チーちゃんはどこから来たの?」
あー、当然聞かれますよね。私みたいなのが一人でふらふらと森の中を歩いてるなんて、不自然ですもんね。
「なんかそのドレスもすごく綺麗だし……もしかして、獣人のお姫さまだったりするの?」
……ん?? 獣人の……お姫さま???
あぇー? あっ、あーあー! そうですよ!
今の私の姿はアラサー女の地衣小糸ではなく、私がネット上で活動する為に使っていたアバター、苔の妖精みたいな幼女チーちゃんでした!!
なんか会話の流れがおかしいと思ったんですよ! 私みたいな一般人が貴族様だのお姫さまなど言われるなんて有り得ませんもの!
チーちゃんの衣装はフワフワスカートの白を基調としたドレスです。緑のフリルと胸元のワンポイントの大きなリボンが可愛いです。可愛いもの好きな私がデザインしましたので、ロリ系の衣装になるのは当然なんですよね。
でもそのせいで貴族っぽく見えてたんですね?
これで会話の違和感が分かりました。見た目5歳のドレス着た幼女が大人のような口調で話してたらそりゃ怪しいですよ。よく教育された貴族の子どもか、それとも魔物に取りつかれたか……そんなことを疑っても無理ないです。
というかさっきまで自分が幼女になってることを覚えてたはずなのに、なんで会話しはじめたらアラサーの感覚で話しちゃうんでしょうね? 鳥頭ですか私?
そうだ。今から幼女の真似して喋るのはどうでしょう?
ユージアおにぃたーん(お姉ちゃん?)♪
チーちゃんねぇ、ユージアおにぃたんのことだいすきー♪
……駄目です。私の精神が死にます。中身28歳が何言ってるんでしょうか?
そもそもチーちゃんは私のアバターなので、私そのままの喋り方でいいはずです。
ネットでも特に幼女口調では喋りません。推しのVtuberにコメントする際はこの可愛い幼女アイコンのまま敬語でコメントします。真顔幼女のチーちゃんです。
こんな有様でよく「ロリ声に生まれ変わったからVtuberしよう!」と思いましたね……中途半端な恥じらいが駄目です。くっ、陰キャな私にはユーモアが足りないのか……!?
とりあえず幼女の真似事は無理なので、普通に話しますね。不自然かもしれませんが、私にとってはそれが自然体なのでごめんなさい。
「あの、残念ですけど私は獣人の姫ではないんです。普通の家の子で……」
「あっ……そういう【設定】なんだね! わかったよ!!」
ユーくんは納得した顔で超速理解を示しました。たぶんわかってないです。
「チーちゃんのお父ちゃんとお母ちゃんはどこにいるの?」
まぁ、幼女が一人でいると当然聞いてくるでしょう。しかしながら、お父さんもお母さんもこの世にはいません。死んだの私の方ですけど。向こうの世界で生きているでしょう。
でも正直に答えようにも、ちょっと答えづらい質問ですよねぇ。
さて、どう返答すべきか。うーん、いっそ適当にはぐらかしていきますか?
「そうですね……今は遠いところにいます」
「そっか……もうチーちゃんのお父ちゃんとお母ちゃんは……つらいこと聞いてごめんね……」
適当なことを言った結果、なにか盛大に勘違いされてる気がします。
まぁ、つらい……と言えば確かにそうなのかもしれませんけど! なんせインドアのアラサーがソロでいきなりサバイバルですからね!
「そっかぁ……だから一人で逃げてきたんだね。【刺客】に追われながら……あんな森の中に一人で……」
刺客なんていませんけど!? この子の中で一体何のストーリーが出来上がってるんですか!?
「でも大丈夫だからね! 他の【王位継承者】から刺客が来たとしても、ボクがチーちゃんを護ってあげるから心配しないでね!!」
「だから何の話ですか~~~!!!」
私を勇気づけるように励ます健気な少年に向かって、私は盛大にツッコミを入れたのでした。
王位継承者って何!? 私、何に命狙われてるんですか!?!?




