Lo52.チーちゃん、遂にドスケベ認定される
結構遠いですね。どこまで離れたんでしょうか?
私達がナメクジのもとに向かっていると、ユーくんが聞いてきました。
「チーちゃんってあの子のことどう思ってる?」
「えっ、唐突に恋バナですか?」
「全然違うよ!? あの……サクっていう子のことだよ」
ユーくん、いきなり恋バナしだしたかと思ったらサクちゃんの話題でした。
……いや、これやっぱ恋バナかもしれませんか? 私はユーくんの意図が読めず、うむむっと悩みながら言葉を出しました。
「サクちゃんですかぁ。どう思ってるとは……? えと、ツノ生えてますね?」
「いや、そういうのじゃなくて、チーちゃんが感じた印象とか」
「……のじゃロリですね?」
「あー……チーちゃんはそんな感じかぁ」
ユーくんは呆れたような声を出しました。あれー? なんか回答間違いましたかね私?
「えっとねぇ。チーちゃん警戒心無さすぎ。唐突に出会ったよくわからない子を信用しすぎだよ?」
「えっ、ユーくんも同じ感じの反応じゃなかったですか!? 結構サクちゃんと仲良く喋ってましたよね!?」
「ボクはそう振る舞ってただけで普通に警戒してるよ?」
「そうだったんですか!?」
うひゃあ、衝撃の事実です! 私にはユーくんも警戒心の無い幼女に見えてました! うわー、私だけか警戒心無かったの。
「言っとくけどあの子、めちゃくちゃ強いよ。ボクよりずっと強いと思う」
「えっ、ユーくんよりずっと強いんですか!?」
……私はのじゃロリ鬼娘っていう属性だけでサクちゃんはかなり強そうだと思ってましたが、ユーくんがそう言うなら間違いなさそうですね。しかし、ユーくんも相当強いと思うんですけど……それより上って本人が認めてるならそうなんでしょう。
「ちなみにどのへんでサクちゃんが強いって分かりました?」
「あの子が素手で魔物倒してるとき、すごい威力なのに反動で足がグラついてなかった。あと、全くダンジョンを怖いと思ってないよね。混沌魔物にも全然怖がってなかったし。ボクの魔法にも全然驚いてなかった」
「おおぅ、結構観察してたんですね」
見た目ユーくんより背が低いくらいの幼女なんですけど、ユーくんは見た目に騙されず強者だと見抜いていたようです。きっとサクちゃんはのじゃロリですし、めちゃくちゃ強いんでしょう。
のじゃのじゃ言ってるロリは強キャラです。年齢は知りませんが、たぶん経験豊富なロリババアの予感がします。
これは『盲目キャラは強キャラ』理論と並んで学会では有名な説ですね(どんな学会ですか?)
「チーちゃんは簡単に人を信用するから心配になるよ」
「あ、いえ、別に私はホイホイ信用してるわけではなくて、むしろ人間関係では結構疑り深いと自分自身では思ってるんですけどね……」
「そうなの?」
「ただ、相手が可愛い子だとつい……えへへ」
私があいまいに笑ってごまかすと、ユーくんは言葉で詰めてきました。
「あのね、そういうの知ってる? 『スケベ』って言うんだよ?」
「す、スケベですか!?」
「うん。お母ちゃんがチーちゃんはドスケベって言ってたよ」
ゆ、ユナさん!? なに教えてくれてるんですか!?
確かに私はドスケベかもしれないですけど!? 子どもに教えることじゃないですよね!
「チーちゃんがあまり騙されないように、ボクがついてるからね」
「お、おふ……どうもありがとうございます……」
あうう、10歳幼女に心配される中身アラサーの私、ちょっとヤバい気がしてきましたね!?
ドスケベだって言われちゃいましたし!
ところでユーくん、スケベの意味分かって言ってるんでしょうか……?
「まぁでも、ここまで見てきた感じだけど、ボクとしてもあの子は悪人じゃないと思うよ。ボクらを利用して何かを企む性格じゃないと思う」
「そ、そうですよね!」
「でもそれはそれとして、ボクらじゃ多分コントロールできない子だってことは自覚しててほしい。今は大人しいけど、もし気まぐれで暴れたらどうしようもないよ」
「アッハイ、気を付けます」
そこまでユーくんが言ってて、ふと私は思いました。
「あの、そんなに警戒してるのに、ユーくんがサクちゃんと一緒にいるのは何でですか?」
「んー、そうだね。あの子から何か学べそうな気がするから。というかどこまで強いのか、気になるんだよね」
……ふむ。なるほど。以前から思ってましたが、ユーくんはすごく成長に貪欲な気がしますね。明らかに格上っぽいガイナスさんに勝負を挑んだりしてますし、修行だって頑張ってます。そんなユーくんだから、警戒しながらも何かをサクちゃんから学ぼうとしてるんですね。
えっと、めちゃくちゃ偉くないですか?
「それに……チーちゃんがいるからかなぁ」
「え、私ですか?」
「チーちゃんがいるとなんとなく安心できる気がする。あの子も味方になってくれる気がする。なんでだろ?」
はて、なんででしょうね?わかりません。
でもちょっと嬉しい評価ですね。私がいると安心するんですって。えへへ……
「なんかこう、チーちゃんがいると雰囲気がゆるゆるになるんだよね」
「そんなにゆるゆるですか?」
「たぶん戦ってる人だと出せない感じのゆるゆる感」
いやそれって褒め言葉なんですか……? 確かに私はまともに戦ってないんですけどね。
唯一の武器がひのきのぼうですし。チーちゃんはゆるキャラかもしれません。
「うん、話はこれくらいにしとこうかな」
ユーくんがそう言って立ち止まりました。地面は傾斜のついた斜面になっていて、ユーくんは坂を下ったその先を見ていました。
います……でっかいナメクジ……!
先程より粘液の分泌が異常に多く、ジュワジュワと音を立てながら進んでいます。
1/4くらいの身体が溶けて無くなってますが構わず進んでいました。なんだかグロいし気持ち悪いです!
まるでゾンビナメクジです!
「やっぱりあんまり効いてないなぁ」
「めっちゃ効いてるように見えますけど?」
「いや、見た目は酷いけど全然効いてないよ。元気そう」
「そうですか……確かにヌメヌメしてますからね」
ここから距離約50mほどでしょうか? ナメクジはこちらに気付かずにヌメヌメと前進しています。
「チーちゃん、手はずは分かってるよね?」
「あ、はい! ナメクジに突っ込みます!」
「そのときに、チーちゃんは浄化と解毒を全力でやってほしいんだけど」
「分かりました!」
「……頼りにしてるからね?」
おお、頼られてますね私! それならば期待に応えなければ。
ユーくんの背中にしがみつきながらですけど、めちゃくちゃサポートしてやりますとも!
私は身体からぶわっと神気を発しました。全身余すところなく白いオーラで覆ったモードです。このモードに入ったチーちゃんのことを、通称『スーパーチーちゃんゴッドスーパーちーちゃんホワイト』と呼びます!
ドラゴ●ボール超に出てきそうなやつですね。そのオーラでユーくんもまとめて包みます!
「あれ? これは……?」
「スーパーチーちゃんゴッドスーパーチーちゃんホワイトです」
「いや、名前じゃなくて……なんだろ?この感覚。これ浄化と解毒の効果で合ってるの?」
「…………はい!」
「ちょっと間が空いたね」
いや、実のところ未だによく分かってないんですよ神気の使い方って。治れ~と思ったら治るし、浄化しろ~って思ったら浄化されるし。ほんと不思議パワーです。
何なんでしょうね、一体。なんでこんなにあいまいな認識のまま運用してるんですかね私? 同じように神気を使うシャイナス先生に聞いても、あの人も結構感覚派でよく分からないこと言いますし……
でも今回はいつもよりずっと気合いを入れたので、いい感じのオーラが出てる気がします!
なんとなく全能感すら出てきました。今なら何でも勝てます!! たぶん!!!
「これ、もしかしたら……やってみようか」
「えっ、何をやるんです?」
「……こういうことだよ!」
ユーくんの剣に白いオーラがギュンギュン集まり始めました。あ、あれ? なんか私のオーラがユーくんの剣に集まって少なくなってません? 私は急いで追加のオーラを出します。
「やっぱり……! チーちゃんの神気が自分の力みたいになってる!」
「ええっ!? やっぱり取られちゃってますか私のオーラ!」
「チーちゃんありがとー!」
「ど、どういたしまして?」
なんかよく分からないんですけど、私のオーラがユーくんに制御権を取られてしまいましたね!?
でも、ユーくんの剣に集まるキラキラがなんかすごいです。まるで……奈落鹿と戦ったときにユナさんがナイフに纏ったやつみたいになってます。
……あっ、そうか。ユーくんの目指してたことってこれだったんですね。ダンジョン内でも時々神気を剣に纏わせてましたけど、こんな感じの必殺技をやろうとしてたんですね!
うう、でもこのままでは攻撃用にオーラを全部回されてしまいそうなので、追加で防御用のオーラを出しときます。
オーラでろ~めっちゃでろ~
そんな感じで願うとまだオーラが身体から出てきました。
「おー、たくさん出てる。チーちゃん大丈夫?」
「いや……うーん、なんかまだ出る感じしますね?」
……あれ? まだ結構余裕あったんですね? なんとなくあれが精一杯な気がしてました。
あれですかね。限界だと思ってたら実は飽和水溶液的なやつでしたか?
例えるなら、限界までコップに注いだ水をユーくんが全部飲んだから、また空になったコップに水注げるねって感じです。
私が限界だと思ってたのはコップのサイズの問題であって、元の貯水槽にはまだ余裕があった……そういうことですか?
いや、よく分かりませんけどね!
「うん、いい感じ。これなら……!」
ユーくんが炎の魔法を使います。神気に包まれてた剣が炎にも包まれました。
白と炎の交ざりあった刀身を見て、ユーくんがわくわくしたように言います。
「これ、新・必殺技かもしれない……!」
「合体技は……浪漫ですよね!」
「よく分からないけど、そんな感じ!」
どうやら準備が整ったユーくんは剣を構えました。脇構えという、刀身を後ろに置いた居合っぽい構え方でユーくんが普段からよくしてます。ユーくんは1つの構えに拘らないタイプですけど、今回はその構えを選んだようです。よく分からないんですけど、攻撃に向いてるんでしょうね。
しかし当然ながらその刀身は炎の魔法で燃えてるわけで……私の脇を炎がかすめました。
「あっつ!?」
「あ、ごめんチーちゃん」
「……いや、熱くないですね?」
「そうなの?」
あれ? 炎が当たったのに、不思議と熱さは感じませんでした。そういえば、ユーくんが炎魔法使っても本人は全く熱そうにしてませんでしたね。
たしか魔法は使ってる本人にはあんまり効かないとかなんとか……そんな理屈があったような気がします! そうじゃないと火の魔法を使う人は毎回火傷しますし、氷の魔法使う人は毎回凍傷になるじゃないですか。
もしかしてその流れで、ユーくんが私のオーラを使ってるから、私もガバガバ本人認証を受けているのでしょうか?
はい、考えてもよく分かりません! 考察終了!!
熱くなければなんでもいいんです!
「ユーくん! なんかこれまでにないくらい良い感じっぽいので、必殺『逆落とし』で一気に突っ込みましょう!!」
「さかおとし?」
「坂道の上からぐわーって襲い掛かるやつです! なんか勢いがついてすごい感じになります!」
「うん、わかった! 逆落としでいこー!!」
「おーーー!!!」
逆落としとは鎌倉時代の武将、源義経とかがなんか得意とした戦法だった気がします!(うろ覚え)
鎌倉武士となった私たちはジェットコースターのようなスピードで巨大ナメクジに突っ込みました!!
この1話だけで6回くらい「よく分からない」が登場します。チーちゃん、本当に何も分かってません。




