Lo50.チーちゃんはクソザコナメクジだけどナメクジじゃないです!
前回のあらすじ。
どうみてもナメクジです。
木陰に隠れながら、私達は巨大ナメクジを見てました。本当に大きいですね。車道を2車線分埋めるくらいの大きさです。
「あんな大きいナメクジを見たのは初めてです。ユーくんはああいうの見たことあります?」
「無いよ。ドラゴンくらい大きいね」
「ドラゴンくらい大きいんですか」
「ナメクジドラゴンだね!」
そんなドラゴンは嫌ですけど!?
あのナメクジ、体色はよく見る灰色じゃなくて、黒色に黄色の縞々なんですよね。ブラックナメクジです。
「あんなの知らないし、新種かなぁ?」
「新種ですか」
「そもそも【混沌魔物】なんて新種だらけじゃろ」
なるほど、混沌魔物は要するにボス枠だから数が少ない割に多種多様……そういうことで良いんですかね? メタ的に解釈すると。
クソデカオオナメクジはズルズルと木々を溶かしながら進んでいきます。這った後に黒いぬとぬとした液体が残り、黒い瘴気を発しています。
とても環境に悪そうです。
「それにしても……どこに向かってるんですかね? 私達には気付いてないみたいですけど」
「ボクたちの来た方向へ真っ直ぐ向かってるね」
「というと……2層に向かうつもりでしょうか」
「混沌魔物は人のおるところを襲うんじゃ。このままダンジョンの外を出ようとしとるなぁ」
「街に出る……ってこと?」
「おそらくのぅ」
うむむ、やっぱり良くないですよね。あれが街に出るのは。
「いえ、ちょっと待ってください。2層と3層の間にはスライドパズル(石板カシャカシャ)のギミックがあったはずですよね? そこで足止めされるのでは?」
「ん? あれは行きだけじゃ。帰りは素通りじゃな」
なんという仕様でしょう。ちょっと内側のセキュリティが甘くないですか? ガバガバすぎます。
ナメクジはゆっくりと動いてるようですけど、やはりあのサイズのでかさだとゆっくり動いてもそこそこスピードが出てます。私の歩くスピードと同じくらいでしょうか?
「大体1時間半ってところでしょうか?」
「何がじゃ?」
「あのナメクジが街に到達する時間ですよ。あのナメクジさん、私の歩くスピードと同じくらいで動いてます。
つまり、私達がここに来たのと同じくらいの時間で街まで出てくるという計算ですね」
「チーちゃんと同じスピードのナメクジかぁ」
「お主、ナメクジじゃったんか?」
「私はナメクジじゃないですよ!?」
失礼なことを言うロリ2人に私は怒りました。まったく、こんな可愛いロリの外見をしているケモミミ少女をナメクジなんて酷い中傷です。
まぁ、戦闘力はクソザコナメクジなんですけどね。
「1時間半かぁ。あんまり猶予は無いなぁ」
「ドワーフさん達が今頃報告してるでしょうけど……やっぱりシャイナスさん達は無理そうですか?」
「んー、そんなに遠くには行かないって言ってたけど、アテにするのは微妙。そうでなくても、いまダンジョンの中にいる冒険者さん達が遭遇すると危ないんじゃない?」
「初心者向けダンジョンじゃからのぅ。道中、弱そうな連中ばっかじゃったわ」
なるほど。やっぱりあんまり状況は良くないっぽいですね。
あのナメクジの進撃をどうにかして止めないことには被害者が出るし、このままだと街がヌチョヌチョになります。
「やっぱり戦うしかないっぽいですね……どう戦いますか、ユーくん」
「スライムの対処法と変わらないよ。遠くから……魔法で焼く!」
そう言ってユーくんは右腕から魔法の炎を出しました。ゴウゴウと燃え盛ってます。
そのまま右腕から炎をオオナメクジに向かって撃ちました!
炎は柱となって一直線にナメクジに向かいます。ナメクジは避けることも出来ず、炎に巻かれました!
ごおおおおお!
相変わらず凄まじい火力です。この子、剣とか持たなくても魔法だけで活躍できるんじゃ……?
「やったか!」
「それやってないフラグです!」
ユーくんがあからさまなフラグ台詞を吐いた後、ナメクジを襲った炎が鎮火していきました。
やがて炎の中から現れたナメクジは、表面がブクブクと泡立ってましたが、そのままヌメヌメと動き出して進撃を再開しました。
「き、効いてないっぽいです!」
「うん、効いてないね」
「いやいやいや、どうして冷静なんですか! 【遠距離から魔法で安全に攻撃しよう作戦】終了のお知らせじゃないですか!」
「うーん、ここまでは正直思ってた通りだったから」
「えっ、そうなんですか?」
私が疑問に思ってると、ユーくんは頷いて答えました。
「この前の混沌魔物の鹿に対しては、炎の魔法で倒せたよね」
「はい、コゲコゲに燃えました」
私がこの世界に来て初めて遭った混沌魔物には色々と大変なトラウマがありますが、最終的には覚醒したユーくんの魔法で一撃で倒しました。
「でもね、混沌魔物って本当は物理攻撃も魔法攻撃もろくに通じないから普通だと倒せないんだよ。あの黒い魔瘴が邪魔なんだ」
「……と、言うと?」
「前倒したときは、チーちゃんが混沌魔物の魔瘴を浄化したから魔法で倒せたってこと。でも、実際どれだけ魔法が通じないか試してみたかったから、今回は浄化無しでやってみた!」
そうだったんですか! ユーくん、色々考えてますね。私はあんまり考えてませんでした!
「それで、その結果はアレだけど……」
「やっぱり効かないっぽいです?」
「いや、効いてることは効いてる。なんか泡立ってるし。まるっきり効かないことも無いって分かって良かった」
どうやらユーくんは検証して試したかったようです。えらいですね、将来は学者さんかな? (勇者です)
「もしあれが10倍の火力だったら浄化無しでごり押せるかも」
「おお、そうなんですか!?」
「でも今はそんな火力は出せないし、やっぱりチーちゃんが必要みたい。チーちゃん、お願いしていい?」
「あ、はい!」
わわ、遂に私の出番ですよ! このダンジョンに入ってからろくな戦力にならず寄生しながらついていくだけだった私。
ようやく出番がやってきました!
これでいらない子じゃなくなりますね!
戦闘力皆無、自称サポート特化の私の真骨頂をお見せするときです!
「それじゃいきますね!」
私はお遍路巡礼用金剛杖(通称お父さん棒)に力を込めます。白いエネルギーが棒の先端に集まってきました。(決してえっちなやつじゃないですよ? 神気という神聖なやつです!)
そして棒を横に大きく振り払い、砲丸投げみたいな感じで球体になった神気の塊をナメクジに向かって勢いよく投げつけました!
「必殺!チーちゃんストライク!」
「あれ?浄化爆発って技名じゃなかったっけ?」
「はい! 忘れてました!」
カタカナの名前ってなんか忘れやすいんですよね。そんな技名が忘れ去られた必殺技ですが、神気の塊がナメクジに当たると、爆発するかのようにナメクジを包みました。
神気をギュウギュウに圧縮して撃ち出して一気に解放させる感じのイメージです。かっこいいでしょう?
見た目は本当に必殺技って感じです。ただの浄化なのでダメージは無いんですけどね!
ですが、その爆発でナメクジの体を覆っていた黒い魔瘴は綺麗さっぱり剥がれました。
「今です!」
「うん、いくよ! ユーくんふぁいやー!!!」
ユーくんふぁいやー。技名があまりにも小学生すぎます。チーちゃんストライクといい勝負ですね。
やはり私が中二病の名前を考えなければならないのでしょうか。ユーくんにはカッコいい勇者になってほしいですからね!
それはそうと、ユーくんの放った炎の魔法は一直線にナメクジに向かい、爆発と豪炎がナメクジをド派手に包みました。
「おお、今度こそいけそうです! 遠距離から一方的に攻撃! チョロいもんですね!!」
「うん、そうだね!」
「お主ら、それフラグじゃろ」
私とユーくんが勝ち誇ってると、炎の中から黒い液体がこちらに向かってすごい勢いで出てきました。
私は避けることも出来ず、思いっきり顔にそれを浴びました。
「あぶぅ!?」
「チーちゃん!?」
ぎゃー!!! 熱い! 目が痛い! 沁みる!! 鼻も痛い!! しょっぱい!!! 苦い!?
な、何が起きたんですか!?
は、早く回復、回復しないとぉ!?
「チーちゃん! 一旦離れるよ!」
ユーくんの声が聞こえます。目も開けることも出来ない私の体をユーくんが抱き上げ、私達は戦場から離脱しました。




