Lo46.サクちゃんとツチノコ祭り! ツッコミ不在の恐怖!!
前回のあらすじ。
ハルテンのダンジョン第二層に入った瞬間、ツチノコを探す鬼娘のじゃロリが上から来るぞ! 気をつけろ!!
えーと……何を言ってるんですかね、私?
ユーくんが鬼幼女、もといサクちゃんに聞きます。
「ツチノコって何?」
「丸っこいヘビみたいなやつじゃ」
「丸っこいヘビ?」
全くピンと来てない顔をするユーくん。おや、この世界ではツチノコは一般的ではないんですかね?
「それを探してどうするの?」
「分からんか? ツチノコ探しは浪漫じゃ」
「丸っこいヘビがロマンなの?」
「そうじゃ!」
ツチノコ探しは浪漫と言いきるサクちゃんに対し、ユーくんはよく分かってない顔をしています。
はて。人は何故ツチノコを探すのでしょうか?
それは私にもよく分かりません。あんなのただの丸っこいヘビですよ?
哲学者さん。これって哲学的なテーマになりませんか?
「はー、わかっとらんのぅ。ツチノコはすんごく珍しくてな、目撃情報はあっても捕まえられたやつは全然おらんのよ。つまりな……」
「つまり……?」
「もし捕まえられたら、伝説になるのじゃ!」
「伝説に!?」
うわぁ単純明快で即物的な鮮やかな回答ですね。
人は珍しいものを探したがる。その通りです!
限定ものには弱いですからね、人間って!
『伝説になる』という承認欲求も併せてパーフェクトな回答です!!
一方、『伝説』という言葉を聞いて目がキラキラしだすユーくん。この子、こういうワードに弱いんです。
完全に精神が小学生男児ですね?
「じゃあ一緒に探そうよ!」
「うむ! 探すのじゃ! この世の全てがそこに置いてある!」
海賊王みたいなことを言い出しましたよこの幼女。そこにあるのはこの世の全てじゃなくてツチノコなんですけどね?
そして国民的少年漫画の冒頭のノリに一瞬でノせられたユーくん。
仕方ありませんね、私もノりますか。このビッグウェーブに!
「はい! 私も参加します! このツチノコ祭りに!!」
「なっ……!?『ツチノコ祭り』……じゃと? なんとワクワクする言葉じゃ。おぬし、なかなか見どころあるのぅ! 名は?」
「チーちゃんです!」
「ユーくんだよ!」
「ちぃ子にゆーじろーか。よかろう! ともに祭りを開催しようぞ!」
「「おーーー!!!」」
こうして、私達はダンジョンでたまたま出会った謎の鬼幼女と意気投合し、一緒にツチノコ祭りを開催したのでした。
ノリでしか行動してないですね、私達。
というかちぃ子とゆーじろーって呼び名なんですか?
「とりあえず、さっきここらを探してみておらんかったから、もっと深く潜るんじゃ」
「え、まだ私達第二層に来たばかりなんですけど」
「こういうのは勢いじゃ!」
「はっ……確かに!」
いや、ユーくん。なにが『確かに!』なんですか? 確かなことは何一つ無いですよ!
まぁいいんですけどね。私も乗っておきましょう!
「とっとと三層に行きたんじゃが、少し問題があっての」
「問題……ですか?」
「行けば分かる。そのときにおぬしらの協力が必要なんじゃ」
「よくわかりませんが、わかりました!」
「物分かりいいのぅ、おぬしら」
そんな感じで急遽参戦したサクちゃんを迎えて、私達のパーティーは出発しました。
2層入り口から歩きだして少しほどして、ユーくんが突然言いました。
「上に魔物いるね、2匹」
「うむ、よくぞ気付いた。流石はゆーじろーじゃ」
「えへへ」
会ったばかりで何が流石なのかは分かりませんが、褒められて悪い気はしませんね。(褒められてるのユーくんですけど)
ちなみに私は全然敵の気配とか分かりません!
今のも全く気づきませんでした!!
え、何の役に立ってるんですかね私?
それよりもちょっと気になるのがサクちゃんのことです。
この幼女は魔物が出現するダンジョンの中において手ぶらで、着ている服もただの布装備です。
まるでちょっと散歩しに来ました的な格好なんですけど、大丈夫なんでしょうか?
「ところでサクちゃんは武器とか持ってないんですか?」
「いらんいらん。この程度ならのぅ」
はて、魔法でも使うんでしょうか?
そんなことを思ってると、樹の上から腕が4本生えたお猿さんが2体降ってきました。
ランクF魔物のバーバリアンエイプです。1体ずつしか出なかった第一層と違い、いきなり2体の挟み撃ちです!
これは1層卒業の初心者冒険者には手痛い洗礼となるのではないでしょうか!? 知らないですけど!!
そんな初見殺しの不意打ちのようなエンカウントですが、事前に予期していたのでユーくんは素早く対応しました。
出会い頭に剣を抜き、ズバッと一閃。一撃で魔物は倒されました!
流石はユーくんです! さすゆー!
「おー、なかなかやるのぅ」
「ってサクちゃん! 危ないですよ!」
そう言ってるサクちゃんにもう1体のバーバリアンエイプが襲いかかってきました。私は思わず危ないと声を上げます!
ですが、サクちゃんは振り向くこともなく、素手で猿のアゴにアッパーをかましました。
ドゴッ! かいしんのいちげき!
どんな威力で殴ったのでしょうか? アゴを砕かれたバーバリアンエイプはそのまま絶命し、魔石を残して消滅していきました。
「ほええ、素手で……」
「ほれ、必要ないじゃろ武器」
殴った手をひらひらさせながら、なんともないように言うサクちゃん。
魔法なんて全く使いませんでした。ただの拳です。
もしかしてこの鬼幼女、すっごく強いんじゃ……?
ユーくんも目をパチクリしてます。
「……すごいね!」
「えっへん、当然じゃ!」
「なんでそんなに強いの!?」
「儂が儂だからじゃ」
「そうなんだ!」
なにがそうなのか分かりませんけど、なんか納得したみたいです。哲学的ですね。
はい、先ほどからずっと会話がフワフワしてませんか?
この会話の中身の無さは、もはやギャルのノリです。
私達はギャルだったのかもしれません……!
それはともかく、提灯みたいに光る花を目印に私達はずんずん進んでいきました。
「しかしまぁ、本当に親切なダンジョンですよね。案内があったり目印があったり、迷う要素がありません」
「まぁ、このダンジョンはウカノミタマが作ったやつじゃからな。あいつのダンジョンはめっちゃ簡単なんじゃ。甘やかしマシーンじゃからな」
「……ウカノミタマさんですか?」
「うむ、そうじゃ!」
さらっと鬼幼女の口から唐突に出てきた【ウカノミタマ】という単語。
初出ですが、私はこの言葉を知っています。
日本の三重県には『伊勢神宮』という神聖な場所があります。
日本で一番偉い神様、天照大神はそこの内宮に祀られているのですが、伊勢神宮の外宮では別の神様が祀られています。
外宮で祀られている神の名は『宇迦之御魂神』。
天照大神の食事とかを作ったりしている神様です。
『お稲荷さん』とも呼ばれたりしているので、そっちの名前の方が有名かもしれません。
なるほど、このダンジョンはウカノミタマ様が作ったものでしたか。私を転生させたアワシマ様とは別の神様なんですね。
色んな神様がこの異世界に関わってるんですかね?
一方ユーくんは全く知らないみたいで、首を傾げて聞いてきました。
「うかのみたまってなに?」
「ウカノミタマ様っていうのは、私のいた世界の神様の一人ですよ」
「そうなんだ!」
「ほー、ちぃ子は日本生まれか?」
「はい! ……はえ?」
はて、なんでサクちゃんは私が日本生まれだと分かったんでしょうか?
「いや、なんで不思議そうな顔しとるんじゃ? 自分からバラしたじゃろうが」
「はて……バラしましたっけ?」
「とぼけたやつじゃのう。さっき『自分のいた世界』とか言っとったじゃろう?」
「あ、たしかに言ったような気がします!」
うっかりしていました。私って口が軽いですね。
自ら異世界人だとバラしてしまうとは。
でも日本人とか全然言ってないんですけど、何故分かるんでしょうか?
「……あ! もしかしてサクちゃんも異世界転生した日本人ですか!?」
「おお、そう解釈するか。まぁ違うけどのぅ」
「え、じゃあ何で日本のこととか知ってるんですか?」
「くふふ、それはな……秘密じゃ♪」
「秘密なら仕方ないですね!」
「うむ、仕方ないのぅ!」
色々と怪しくて謎の鬼幼女ですけど、なんかノリで流してしまいました。
楽しければそれでいいのです!
私はロリと一緒なら、それだけで楽しさ100倍ですね!!
あの、ツッコミ役いないんですかこのパーティー?
え? 私がツッコミしろって?
無理ですよ。ロリがいたらテンション上がってツッコミなんて出来ませんから!(断言)




