Lo42.早起きしましたけど買い物も出来ないし意外とすることがありません
とにもかくにも情報収集しなくてはなりません。
この旅の最終目的は魔王を倒すこと。でもその為の道筋すら情報不足で何も分からないのです。
この世界のことを何も知らない異世界転生の私と、同じく狭い世界しか知らない小さな勇者ユーくんの2人。
冒険者チーム【リトルブレイカー】はまずはこの街で情報を集めて、今後の展望を考えます!
「冒険者ギルドって朝から空いてるんですねもぐもぐ」
「ふぁむふぁむ」
「パン屋さんも朝早いのはどの世界も共通なんでしょうか。助かりますけどもぐもぐ」
割と朝早く起きてしまった私たちは、宿から出て街を散歩してました。
冒険者ギルドの周りは既に市場が活気づいています。
そこで美味しそうなパンの匂いがしたのでパン屋さんに入ったら、憧れのバゲットサンドが売ってあるじゃないですか!
即買いましたね! 1個15センカでした!
バゲットサンドとは、フランスパンのバゲット1本丸々使ったボリュームのあるサンドイッチ!
ハムと生野菜をサンドしたバゲットサンド美味しいです!
「でもやっぱり物価高いねー。村じゃ3センカだったよ」
「ほえー、そんな値段なんですか」
「まぁ、村のより美味しいけどねもぐもぐ」
「人気店っぽかったですもんねぇぱくぱく」
一連の物価を見て、だんだんとお金の相場も分かってきました。
田舎と都市部で大きく物価が違いますが、おそらく100円=1センカくらいの貨幣価値と思っていいでしょう。
そう考えると、1泊50センカの宿は5000円程度だと推測できます。
あと元手のかからない人件費は安めで、食料品や加工品などの物品は相場が高めですね。前世の世界との物価の違いはそのへんでしょうか?
そうするとナス兄妹が一回の冒険で稼いだ10万センカってちょっとヤバいですね。1000万円くらい稼いでるとは、Bランク冒険者は超高給取りです。年収1億円以上稼いでるんじゃないでしょうか?
でもまぁ、村1つ滅ぼす化け物を倒してもそんなもんかぁと思うところもあります。なんせ命は何物にも代えられませんからね。
とりあえず賑わっている市場をにぎやかしに行こうとしたら、どの品物にも値札すらついてませんでした。
私は商人っぽい獣人おじさんに聞いてみます。
「あの、これっていくらなんですか?」
「あーダメダメ。よく勘違いされるけど、この時間帯は一般客には売ってないのよ。この値札ついてないのは全部卸売り用で商人ギルドに登録された人しか買えないの」
「あ、そうなんですか?」
「一般客向けの店は10時くらいから開くから、そのときにまた来るんだねお嬢ちゃんたち」
「あ、はい。ご教授いただきありがとうございます!」
「良いってことよ。うちの店でもまた買ってってね」
「はい! ぜひ!」
どうやら賑わっていましたけど全部業者さん向けの市場でした。あー、前世の日本でもこういうシステムでしたねぇ。
魚河岸とか朝2時くらいから開いてるんですけど、業者とかお寿司屋さんしか入れないんですよ。業者さんは朝早くからお疲れ様です。
「となるとショッピングは出来ませんねぇ。今6時くらいでしょうか?」
「とりあえずギルド空いてるみたいだしギルドの中入ってみる?」
「はい、そうしましょう!」
そんな感じでギルドに入ってみました。
ギルド内のロビーはちょこっと冒険者がいますけど、そんなには多くないです。
パタパタせわしなく歩いてるキツネネコ獣人のヨッツさんがこちらを見つけて声をかけてきました。相変わらずケモ度の高い人ですね。
「おー、昨日のチビッ子やんけ。どしたん、こんな朝も早うから?」
「えと、なんかギルド開いてたからやってるのかなぁって」
「あーさよか。ごめんなぁ、本営業は8時からやね。早朝は今日の分の新規依頼を貼り出す準備中やで」
「そうなんですか? でも冒険者さん達がチラホラ見えますけど……」
「あいつらたむろしとるだけや。一応依頼ボードもそのままにしとるけど、昨日と内容変わってへんで。新規依頼貼り出しの8時20分頃が一番混雑すんねん」
「へー、そうなんですね」
どうやら冒険者ギルドの本営業も8時からだそうです。
なんかどっかの小説で冒険者ギルドは日が昇る前の早朝から依頼の争奪戦が始まるとか読んだことあるんですけど、この世界ではそこまでの早起きは必要なさそうです。
考えてみれば前世のハロワも大体8時半からです。あんまり早いと職員も眠いのかもしれません。
しかし初日だからといって早起きしすぎましたね。やることなくて暇です。
「それだと8時まで暇になるね」
「ギルドの図書館とか入りたかったんですけど……」
「ん? 図書館ならもう鍵開いとるで。まだ受付おらんから貸し出しは8時からやけど、室内で読むだけなら今からでも出来るで?」
「そうなんですか! ありがとうございますヨッツさん!」
「ええってええって。よぅ勉強してな。めっちゃ勉強してな」
「はい!」
なんか「勉強してな」ってところにヨッツさんの圧を感じましたけど、気のせいですね!
とりあえず私たちは早朝から図書館で情報収集することにしました。
ギルドの図書館は日本の市営図書館ほどの広さほどではなく、高校の図書室くらいの蔵書数です。冒険者登録した人とこの街に住んで税金を納めてる人なら自由に閲覧していいみたいです。
朝からチラホラ人がいましたが、冒険者らしい荒くれの格好をした人はあまりおらず、むしろ市民っぽい人の方がいるみたいです。
しかし無料で読めるとは福利厚生が良いですね。この国はなかなかの先進国かもしれません。ありがたく読ませていただきましょう。
私は適当に初心者向けの歴史書っぽいものを手に取ります。この世界の文字は何故か日本語なので私にも読めます。たすかる。
「『ハルテン国の成り立ち』ーーふむふむ、この国ってハルテンって言うんですか」
「うん、そうだよー。お母ちゃんは教えなかったんだね」
「何故か地理についてはネタバレ全くしてくれませんでした」
「ボクもあんまり教えてもらえなかったよー」
未知の旅を楽しんでねってことでしょうか? ユナさんはそういうところあります。まぁ、自分で調べて色々知るのは面白いから好きですけど
ハルテン国ーー
大陸国家から離れた島国。元は『ハルノテンペスト大帝国』という名の国で、『ミカド様』という不老不死の帝王が治めていた国。
最盛期には大陸の半分を支配していた大国であったが、ミカド様が唐突に退位してから大陸の領土を全て返還。国名を『ハルテン国』に変えて現在に至る。
退位や領土返還の理由をミカド様はこう語ったという。
ーーぶっちゃけ管理めんどくなったーーと
「ってなんですかこの国!?」
「面白いよね」
「だいぶ変な国ですよ!?」
気を取り直して続きを読みます。
この国の支配体系は王族や貴族を中心に治めている大陸国家とは大きく異なる。元々はミカド様の絶対王権制だったが、退位してからは後を継ぐ者がおらず、王権制は崩壊する。
ミカド様を支えていた重臣達の多くは血統は関係なく、能力のみで登用された者たちであった。重臣達は話し合いの結果、推薦した者を5年の任期で国のトップに据えることとする。
それによってこの世界でも稀にみる、トップがコロコロと変わる国となった。
初代のハルテン国代表は、箔をつける為に重臣たちの中からではなく、魔王討伐の実績のある勇者ヤマトが選ばれた。
「おお、勇者ヤマトが出てきましたよ! ハルテン国の初代代表だったんですね!」
「へー、そうなんだ。知らなかった!」
「あれ? ユーくんって勇者ヤマトに憧れてるんじゃなかったんでしたっけ?」
「ん? ボクの憧れはユナだよ。勇者自体はかっこいいと思うけど」
うん、安定のマザコンです。そのままのキミで育ってください。
さてさて続きっと……
ーーミカド様は退位したが、権力は握ったままである。特に政治に口出しすることは無いが、祭り好きなので祭りには参加することが多い。
また人同士の戦いには介入しないが、気まぐれに魔物を倒したりもする。
不老不死のミカド様は現在でも気ままに生きており、ハルテン国では【現人神】と慕っている国民も多い。
「ほえー、不老不死のミカド様って何者なんでしょうか?」
「さあ? なんか昔っからいるらしいよ」
「エルフみたいな人なんですかねぇ? 面白くなってきました」
「ボクもなんか読める本探してみよーっと」
そんな感じでのんびり読書タイムを過ごしました。




