Lo35.チーちゃんVSカルマッセ!! 疑惑の勝負判定!!!(ヤラセ)
「どうしてこうなったんでしょう……」
冒険者ギルドの建物の裏手には『訓練場』と呼ばれる広場があります。
冒険者たちがそこで武術や魔法の訓練をする為に作られたようです。
私はそこでお父さん棒を構えてモヒカン男と対峙しています。
どうしてこうなった。
私はモヒカン男ことカルマッセさんに声をかけます。
「あの~、今からでもやめにしませんか? 私に勝ったって何の自慢にもならないですよ。私、弱いですし」
「うるせー! 今さら引っ込みつくかー!」
「ひいいい」
私が怯えていると、周囲から歓声が聞こえました。
「やれー!緑の子ーーー!!」
「カルマッセをぶっとばせーーー!」
「チーちゃーん!」
「緑のネコちゃんかわいいーー!!」
何故か私を応援する声が多数。周りにいるのは先ほどまでギルドのロビーにたむろしてた暇人の冒険者のみなさん。昼間っからお酒を飲んでたのか完全に出来上がってます。
なんかこの決闘をネタに賭け事も始まっていました。完全にエンタメ化してます。なにこの酔っぱらいども?
賭けのオッズはチーちゃん1.6倍、カルマッセ2.3倍。なんと私の方が人気です。何故に?
カルマッセさんはあまり人望が無いようで、特に冒険者の女性陣は私への応援に熱が入っているようです。
観客に向かって尻尾をわざとらしくフリフリするとキャーとか女性陣の歓喜の声が上がりました。気持ちは分かります。可愛いですよね、この身体。
私がデザインしたキャラデザが受け入れられて、ちょっと嬉しかったりするのは内緒です!
「あのー、みなさん私を応援するのはいいんですけど、ちょっとは止めようとか思わないんですかねぇ?」
「無理だな。冒険者に良心を期待するな」
「チーちゃん、やっちまうでよー!」
「冒険者ってろくでもないですね!?」
そもそも、この戦いって勝っても負けても何にもメリットが無いんです。する意味あるんですか?
相手には見栄や面子があるんでしょうけど、私にはまったく無いしそもそも私ごときを倒して名誉もクソも無いですよ?
「成り行きとはいえ試合前からここまで盛り上がってしまったんだ。対応するしかないだろう」
「えと、あの、逃げたりするとどうなるんですか?」
「観客が欲求不満になってお前のアンチが増える」
「たぶん後で陰口とかめっちゃ言われるでよー」
「ひええ」
人に恨まれても何にも良いことはありません。今後とも他の冒険者と良好なお付き合いする為には、なんとか上手い形で決着をしたいところですね……
「というかユーくんのが先に目つけられてたっぽいのに、何で私から戦う羽目になってるんですか!」
「前座でよー。レベル3どーしだし」
「後の方に高レベル対決残した方が盛り上がるからな」
「うんうん、チーちゃんならいけるよ!」
なんかみんな高見の見物モードになって好き勝手言ってますね!?
くぅ、結局やるしかないんですか!
いやだいやだと言ってても、無情にも試合のゴングは鳴りました。カァーン!
「キッシッシ~、俺っちのフルーレが見切れるかな!?」
カルマッセさんはなんと小剣使いでした。なんとまぁ、小悪党みたいな顔に似合わず繊細そうな武器を……
訓練場の武器は一応刃引きされており、切れることはないらしいですがそれでも金属の塊です。たぶん当たったら痛いでしょう。
「くらえっ! ライトニングピアース!!」
「うひゃあっ!?」
カルマッセさんが必殺技名を叫びつつ、雷光のごときスピードで小剣で突いてきたと思いましたが、普通に避けられました!
あれ? 技名に反して意外と遅い?
「おのれちょこまかと~! ライトニング・ラッシュ!!」
「うわっとっとっと!?」
今度は連続で突いてきました!ですが、最初の一発目がちょっと速かっただけで、連続で出すごとに速度が下がっている気がします!
「こなくそー! ライトニング・ストロング!!」
なんか体当たりしてきました!
うん、ライトニング・ストロングってなんですか??
これは大げさすぎるアクションなので普通に避けられました!
「くそ~! やるな~!」
ゼェゼェ言って悔しそうな感じを出してるカルマッセさん。
周りの冒険者たちから歓声が上がります。
「緑の幼女すげえええ!!!」
「怒涛の攻撃を全て見切ったぞ!!!」
「チーちゃんかわいいー!」
そんな外野の声が上がってますけど……
あの……ここまでくればいくらニブい私でも分かりますよ?
カルマッセさん……
あなた私に花を持たせようとわざと手加減してませんか!?
「ちくしょー! なんてすばしっこいやつなんだーー!!」
ほら、なんかわざとらしい負け台詞まで言ってますよ?
これは確定ですね……!
カルマッセさん、意外といい人ですね!
モヒカンなのに!
モヒカンの小悪党っぽい顔なのに!!
これは……私も期待に応えなければなりませんね!
何かそれっぽい技名を叫んで攻撃しましょう!!
「くらえ! チーちゃん薙ぎはらいスラッシュ!!」
適当に振り回したら、なんかカルマッセさんの小剣とぶつかりました!
ガキィン!!
なんかカルマッセさんの小剣が吹っ飛ばされました!
「なにぃー!? 俺っちの武器がーー!」
わざとらしく叫ぶカルマッセさん。おお、ここまでお膳立てしてくれるとは……なんていい人ですか!
ここからビシッと決めろと言うことですね!?
では失礼して……私は棒を大上段に振りかぶり、隙だらけのカルマッセさんに振り落としました!
「チーちゃん大アタッーク!!」
いや、大アタックって何ですか? 自分でも適当すぎます必殺技ネーミング!
そんな感じで棒がカルマッセさんの中心部に叩きつけられます!
ぽこん♪
かわいい音が鳴りました。
カルマッセさん、普通に攻撃を受けたまま、棒立ちで呆然と立ってます。
完全にノーダメージに見えました。
「えーと……」
カルマッセさんが迷ったような声を出しました。
そして一瞬遅れて……
「ぐ、ぐわー! やーらーれーたー!!!」
わざとらしい声を上げて倒れるカルマッセさん。
周囲がシーンとなりました。
えーと、えーと、ど、どうすれば……
と、とりあえず私は棒を振り上げます!
「か、勝ったどーーーーー!!!」
私の勝利の雄叫びと共に、場内に歓声が沸き上がります!
「わああああ!!」
「すっごーい!」
「かわいいーー!!」
「やったーー!!!」
場内が謎の一体感に包まれました。
えと、ホントに勝ったんですか私?
というかなんですか、この茶番???
とりあえず、私は歓声をよそに倒れてるカルマッセさんのところにこっそり駆け寄り、小声で言いました。
「あの、ありがとうございましたカルマッセさん。わざわざ花を持たせてくれたんですよね?」
「さぁて……何のことやらわかんねぇな……俺っちは普通にただ負けちまっただけだぜ? あー、いてて……」
あ、カルマッセさんが背中をさすってます。さっき倒れたときに背中を打ったんですね?
これは私のせいでもありますし、神気を使って治しましょう!
「あの、こんなことくらいしか出来ませんが……痛いの痛いのとんでけー」
光のオーラがカルマッセさんを包みました。カルマッセさんが不思議な顔をしています。
「ん……あれ? 全然痛くなくなったぞ??」
「そうですか! 良かったです!!」
こんな茶番に付き合わせて怪我させちゃうなんて、ダメですからね?
するとカルマッセさんがぽーっとした顔で言いました。
「……天使だ。俺っちの目の前に天使が見える……」
……えーと、治療失敗ですかね? ちょっと幻覚症状が見えているようです。




