Lo33.初めての街です!ギルドです!キルロード兄妹ってなんですか?
馬車で1日半ほどの移動。2日目のお昼くらいに街に着きました。
「やっと着いたー!」
「つ、疲れましたぁ……」
「おー、そんなんで一週間以上の移動に耐えられるでよー?」
いやでも、1日中座ってるだけでも結構つらいですよ。がたんごとん揺れますし。
でもまぁ、1日半で移動が済んだってことは、村から街まで50~100kmくらいの距離感なんですかね?
いや、ゆっくりに見えて意外と速度出てたから、それよりもっと遠かったりするのかもしれません。
「ここが……街!」
「この国は8つの領地に分けられる。ここは北東部の領地でも大きな街の1つ、北東都市ハイセイカだ」
北東都市ハイセイカ。
私達が最初に訪れた村とは比べ物にならないほど大きな街でした。かなり遠目に見てた時点で大きいなぁと思ってたので。
石で作られた城壁が街を覆ういわゆる城塞都市で、徒歩でぐるりと一周すると1日かかりそうです。
都市の中心部は山のようになっており、山頂に大きなお屋敷が見えます。
「思ってたより大きいですね!」
「チーちゃんは初めて? この街はあの村の10倍以上の面積があるでよー」
「すごーい! おっきーい!」
面積10倍以上あるんですか!? あの村は魔物討伐なしにただ歩くだけなら回るのに1時間くらいでした。
この街は面積10倍なので全部見て回るのにも10時間かかるってことでしょうか? 大変ですね!
はい、適当に計算したので実際は分かりません!
「まぁボクは来たことあるけどね!」
「ユーくんも来たことあるんですか!?」
「うん! にぎわってるよ!」
ほほう。山育ちのユーくんもこんな大きな街に行ったことあるんですね。
まぁ、行こうと思えばあの家(カミカクシの森)から2~3日で行けるところですからね。当然といえば当然かもしれません。
「これから城門を通るんですよね? 私は初めて来ますけど……何か注意点とかありますか?」
「ん、注意点? 普通に通ればいいだけでよー」
「え、そうなんですか!? 私、戸籍とか住民票とか持ってないんですけど!」
「ああ、そういうことか……この国は基本的に街の行き来にそういうチェックは無いぞ」
「大陸の方ではそういうのあるけど、ここは島国で同じ国内だからねぇ」
「大陸ではよくある都市間の通行料とかも無い。素通りでいいぞ」
「ほええ、ちょっと思ってたよりユルいんですね」
もっとこう、通行料とか取られるのがファンタジーの普通だと思ってたんですけど、この国では違うようです。
「話してて思ったんだが、お前はこの国の生まれでは無いのか?」
「あ、えっとそれは……」
そういえば私がどこ出身かはこの2人は知らないんでした。今の会話で確実に余所者だとバレたでしょう。
でもこれ、異世界から来たとか普通に言ってもいいんですかね?
「チーちゃんがどこから来たかは……仲間になったら教えてあげるね!」
「ふむ、1本取られたな」
「でへへ、兄ちゃの負けでよー」
ユーくんが機転を効かせてくれたおかげでそれ以上の追及は避けました。
たしかに仲間になれば一蓮托生! 喋っても全然おっけーです!!
「私がどこから来たかはともかく、この国のことをあまり知らないのは事実なので、色々とご迷惑をおかけすると思います」
「ん、なーんでも教えてやるでよー」
「ありがとうございます! シャイナス先生!!」
「いつから先生になったんだお前は」
やはりシャイナス先生はかっこいいですね! 流石は正義の冒険者です!!
「あ、そうだ。この耳と尻尾は隠した方がいいんですかね? 種族が違うことで偏見があるとかは……」
「ん? そーゆーの気にしとったの?」
「……まぁ入ったら分かるだろう」
そう言ってガイナスさんは馬車でとっとと街の門を通りました。門の横の広さは馬車四車線分。何故か知らないけど、日本と同じ左側通行です。
門の出入口付近には警備兵みたいな強そうなおじさん達がいましたけど、ガイナスさんが右手を上げて軽く挨拶をしたら、同じように警備のおじさん達も右手を上げて、何のチェックもなく普通に通れました。
うむむ、もし何かあったらあのおじさん達が動くんでしょうか? 今回はスルーされましたけど、何かオッケーもらったってことですかね?
「とりあえず馬車は預かってもらって、ギルドの方に行くぞ」
「ギルドってなに?」
「冒険者ギルドだ」
街に入ると、人間だけじゃなくて私と似たような獣人もいました。ケモミミ生やしてるだけのパターンではなく、もっとケモ度が高くて体毛もケモっぽい獣人もいました。トカゲみたいな爬虫類系もいます。
まぁ、人間の方が多いですけど。人間8割、その他2割ってところですね。
他種族共生っぽいのに人間が多いのは、繁殖能力の差でしょうか? 身体能力に優れた種族は繁殖しにくいとか、そういうのがあるのかも。
「おお……もしかして、私ここじゃ案外普通だったりします?」
「いや、目立つことは目立つが……」
「お姫様みたいな格好してるからね!」
とりあえず、種族差別は無さそうで助かりました。私のドレスみたいな格好を見て視線は感じますが、悪意のある感じじゃなくて物珍しさみたいな感じです。
「冒険者ギルドってどんなところでしょう……?」
「わくわくしてきたね!」
そんな感じで、馬車を預けて冒険者ギルドに着きました。
「これが冒険者ギルド!?」
「趣深いですね!」
ギルドは石造りの2階建て建築物です。結構大きめの建物で、ファンタジーでよくある酒場みたいなところではなく、もうちょっと役所寄りのカチッとした建物に見えます。
なんか隣には魚河岸のような風通しの良い場所が併設されており、なんか魔物とか獣とかを解体してます。
そこを中心にマーケットがあるみたいで、肉や皮や加工製品とか色々と売ってるみたいです。屋台の食べ物屋もあります。
人も多く集まっていて、なかなか活気のある場所でした。
「あー、ここ来たことある。なんかここでお母ちゃんと一緒に買い物した!」
「おお、いいですね。楽しそうです!」
「買い物はいいが、とりあえずギルドに入るぞ」
「うん!」
ギルドの扉は常時解放されてドアストッパーが掛けられています。いつでも入って良いってことでしょうか? 蚊とか入ってきませんか?
ガイナスさんが先頭に立ち、私たちはギルドの中に入ってきました。
中は広いロビーみたいになっていて、テーブルや椅子がいくつも置いてありました。
冒険者らしき人たちがドカっと椅子に座ってガヤガヤ話しています。飲食もしてるようでもありました。
建物の雰囲気は酒場というより、大型ショッピングモールの大きな休憩スペース。でも実態は酔っぱらいも多いので、広い酒場みたいなもんです。
人種に関しては、外にいた人たちより獣人の比率が多いです。あ、外ではあまり見かけなかったエルフっぽい人やドワーフっぽい人もいますね。やはり普通の人間種より強いんでしょうか?
男の人ばかりじゃなく、女の人も普通にいますね。魔法のある世界だと戦闘力にそれほど男女差無いのかもしれません。(ユナさんやシャイナスさんがめちゃくちゃ強い時点で知ってた)
あ、モヒカンでヒゲモジャモジャの人もいますよ? やはり冒険者と言ったらあらくれものですよね!
ガイナスさんが歩くと、視線がジロリとこちらを向いたりしました。一目見てそのまま談笑に戻る人もいれば、ユーくんや私のことを値踏みするような目で見てくる人もいました。
「おい、キルロード兄妹だぜ」
「はー、シャイナスちゃん儚くてかわいいよな」
「あのガキはなんだ? 子連れか?」
「子どもなのにヤケに装備が整ってるな」
「緑の子かわいい~」
なんか色々と言われてます。ガイナスさんがため息をついて、周囲に聞こえないように小声で言いました。
「昼間っから暇人が多いな……」
「午前に仕事終わった人たちでね?」
「あの人たち、用も無いのにとりあえず集まってる感じなの?」
「そんな感じだ。やりづらい」
まぁなんか分かる気がします。都会で飲食自由な椅子と机があれば、速攻で埋まるでしょう。あの人たちも暇そうに見えますが、雑談の他に作戦会議とかするのにも使っているのかもしれません。酒飲んでますけど。
ガイナスさんはずんずん進んでいくと、正面に受付ロビーがあり、そこにキツネとネコを掛け合わせたような獣人がいました。モノクルをかけて制服を着ています。ケモ度は高く、80%くらいケモです。
そんなケモ度の高いギルド職員が軽い感じで話しかけてきました。
「おー、キルロード兄妹やんけ。仕事終わったん?」
「ああ、ハシノ村の混沌魔物討伐と村内部の掃討は終わった。確かめてくれ」
そう言ってガイナスさんは袋いっぱいの魔石をカウンターに置きました。飴玉みたいなサイズの魔石ばかりの中、1つだけ明らかにでかいやつが混じってますけどあれが混沌魔物の魔石でしょうか。
……ん? ところでキルロード兄妹ってなんですか?
「流石仕事が早いわー。ほいじゃ、ちゃちゃっと鑑定しよかー」
そう言うと、キツネネコ獣人さんのモノクルが光りました。声けっこう高いですね、この獣人さん。ケモ度が高くて雌雄が判別できませんが、女の人でしょうか?
「ん、鑑定終わったわ。Bランク混沌魔物1体とDランク1体、Eランク3体、Fランク22体、Gランク72体やな。相変わらず大したもんやなー。討伐分は89300センカ。依頼完了で20000センカ。合計109300センカや」
「5000センカ即金で頼む。あとは口座に送ってくれ」
「りょーかい。魔物素材はあるんけ? 混沌魔物のやつは高く買い取るで」
「ああ、角と皮をいくらか取ってきた。浄化済みだ。後で解体場で見せる」
「おー、分かったわー。楽しみにしとくでー」
そういうやりとりが終わって、プロっぽいやりとりに目をキラキラしていたユーくんと私に気付いたキツネネコ獣人の人が話しかけてきました。
「その子らはなんなん? 誘拐はあかんでー犯罪やでー」
「あ、誤解です! 私、犯人じゃありません!」
「いや、お嬢ちゃんのことやないで。てか誘拐される側やんどう見ても」
ハッ!? 思わず私が犯罪者の意識を持ってしまいました。たまに自分がロリだって設定忘れてビクっとします。ナス兄妹は私をそんなにロリ扱いしてなかったですからね。
私はロリ。誰がどうみてもロリなんです!
「ユージア少年、チーちゃん。ここまでは案内した。後は出来るな?」
「うん! やってみるよ!」
「あ、はい! がんばります!」
あ、ガイナスさんが事情を話してくれるわけじゃないんですね? 対応も説明も丸投げされました。
ガイナス先生はやはり私達を子供扱いする気はないみたいです。
甘やかさない良い先生ですけど、だから私は自分がロリって設定を忘れるんですよね。
まったく、責任とってください!




