Lo32.正義の冒険者、なかよしブラザーズを勧誘しました!
村を浄化した後、私たちはナス兄妹の馬車に乗せて貰って街に向かってました。ドナドナ出荷状態です。
御者はガイナスさんがやってて、馬車には私とユーくんとシャイナスさんが乗っています。
どうやらシャイナスさん達もユーくんの魔法鞄みたいなものを持っていて、ユーくんのと違って重量も軽くなるっぽいです。便利ですね。でもお高いんでしょう?
魔物の素材やらココッテちゃんの死体は、シャイナスさんの魔法の鞄に入れました。
「結局、ココッテちゃんしか持って帰れんかったねぇ」
「他の死体は腐食と損傷が酷い。腐ったものは衛生に悪いし疫病を持ってくるからな。仕方ないだろう」
「ん、まぁ結局エゴでしかないものねぇ」
エゴイズムとは、自分勝手なことです。私はこの2人がエゴイストとは思えません。とても立派な人たちじゃないですか。
「ガイナスとシャイナスは偉いよ。ボクは尊敬してる」
「そうですよ! お二人ともえらくてすごいです!」
「褒めすぎでよー」
「あまり会ったばかりのやつを信用するな。この馬車にもお前たちを売る為に乗せたのかもしれんぞ?」
「え? ガイナスはそんなことしないでしょ?」
「……まぁな。だが、優しく近付いてくるやつほど信用するなと言ってるんだ」
「兄ちゃは説教くさいでよー」
「うるさい」
この人たちはとてもいい人たちなので敵対するとは思えませんが、あえて最悪の想像をしてみます。もしこの2人が敵だとしたら……あ、これ普通に勝てる気がしません。
ガイナスさんは真っ当に強そうですし、シャイナスさんは盲目キャラなのでめちゃくちゃ強いはずです。(偏見)(でも実際つよい)
敵にならないことを祈ります。
「それにしてもいいんですか? あんまり魔物の素材を剥ぎ取ってない気がしますが」
「あ! それボクも思った! 魔物の毛皮とか売ればお金になるんじゃない?」
そうです。雑魚の魔物は魔石を取った後は放置。持って帰ったのもラグナディアの素材(角とか皮とか)だけです。
「めんどくさいでよ」
「単純に時間がかかるし大した金にならん。100体近くの魔物だぞ? 1体10分かかるとして、1000分かける気か? 日が暮れるぞ」
「確かに、ラグナディアの皮取るのにも1時間以上かかったね……」
解体作業は思っているよりずっと大変です。獲物が大きいと特にそうです。あのゾウのようにでかい鹿をわずか1時間強で素材を剥ぎ取っただけでも、結構早かったんじゃないですかね?
なお、私とシャイナスさんは解体に関してはほぼ役立たずでした。シャイナスさんは目が見えないので肉と皮の境目とかがよく分かってないらしく、私は単に腕力不足です。解体は力作業なのです。
ゲームみたいに一瞬で解体されるスキルでもあればいいんですけど、世の中そんなに楽じゃないようです。剣と魔法の世界なのにそこまで便利でもない。世知辛いです。
「それにうちのマジックバッグも容量オーバーするとずっしり重くなるでよ。せいぜい200kgが限界でよー」
便利なマジックバッグも、どうやら相撲取り1人分しか入らないみたいですね。(なんで相撲取りに例えた?)
尚、シャイナスさんは解体は出来ないですけど、魔物の体内にある魔石を取るのだけはめちゃくちゃ早いです。魔力があるところは光って見えるとか。
「俺たちは冒険者であって狩猟者でも解体業者でもない。今の世の中、魔物はたくさん湧いて出るんだ。剥ぎ取る時間があったら少しでも多く魔物を倒した方がいい」
「そっかぁ」
それを言えるのは沢山倒せる人に限ると思いますけど……えと、確か村に出た雑魚でも初心者は死ぬレベルなんですよね?
「まぁ、もったいないかもしれんけど、村に置いとけば魔物の死体も村人が有効活用するんでないの?」
「村人って……もういないけど」
「復興するに決まっているだろう。その為に依頼を果たしたんだ」
「復興……するの?」
「当然だ」
きっぱりと言いきるガイナスさん。ユーくんの目に少し希望がともった気がしました。
「そっか。復興するんだ……」
「現実問題、村人が避難している街の仮設住宅も満員だ。とっとと村に戻ってもらわんとかなわん」
「街の中で農業は出来んからねぇ。村人は働くところもないんよ」
「混沌魔物さえいなければ、元々それなりの自衛能力のある村だ。もう俺たちが何もしなくても勝手に復興するだろう」
ガイナスさんは現実的な意見を述べますが、その言葉はとても力強くて希望に満ちているような気がしました。
「ユージア少年。いずれ魔王を倒す勇者になると言っていたな。まずはこれで村1つを救った勇者になった。覚えておくといい」
「……うん、ガイナスありがとう!」
「兄ちゃはたまにクサい台詞言うでよー」
「うるさいな」
私たちからすると、この2人も立派な勇者です。
私は最初からずっと気になっていたことを2人に聞いてみました。
「あの、なんでお二人ともそんなに優しいんですか? お二人には沢山のことをしてもらいましたし本当に感謝してるんですけど、私たち出会ったばかりですよね? どうしてここまでしてくれるんです?」
もはや、この人達がとても優しいのは疑うまでもありません。だからこそ、その理由を聞きたかったんです。
するとシャイナスさんが待ってましたとばかりにすっくと立ち上がりました。(馬車内なんですけど?)
「ふふふん、それは……うちらが『正義の冒険者』だからでよ!」
正義の……冒険者!?
「清く正しくかっこよく、全ては世の為人の為、そんな冒険の旅を続ける『なかよしブラザーズ』とはうちらのことでよ!!」
ででーん!
シャイナスさんのバックに唐突に後光が立ちました。あ、これ無駄に浄化の光を使ってますね?
「清く正しく……かっこよく……!?」
「そこは美しくじゃないんですね!?」
「かっこよかろ~?」
「はい、かっこいいです!」
ドヤ顔で語るシャイナスさんはある意味とってもかっこよかったのでした。
「……とまぁ、妹はそう言ってるが俺たちはそう大したことはしていない。ただ依頼をこなし、そのついでにお前たちに依頼を手伝ってもらっただけだ。冒険者になったのも正義の為ではなく、成り行きだしな」
「兄ちゃ、それはそれ。これはこれでよー。どんな職業でも良いことしてるのはいいことでよー」
ニッコニコで語るシャイナスさんに大し、ガイナスさんはため息をつきました。
「一言言っておく。冒険者なんてクソだ。なりたくてなるものではない」
「え?」
「だが……俺たちが立派だと思ってた騎士と聖女はもっとクソだった。それだけだ」
「そうなんですか?」
「ま、色々とあったでよ~」
この2人に何があったんでしょうか? 元騎士と元聖女の兄妹……何もないわけないですよね。
ユーくんはそんな二人を見て、決心したように言いました。
「あの、ガイナスとシャイナスは正義の冒険者なんだよね! だったらボク達と一緒に魔王退治の旅に行こうよ!」
突然のお誘いです!
とはいえ、ある意味当然でしょう。この人達が味方になればこれほど心強い存在はいないのですから。
他の冒険者のことは知らないですけど、これほど良い人たちです。ユーくんが誘わなければ私から勧誘していたかもしれません。
「それは、俺たちを勧誘してるということか?」
「うん! ガイナスとシャイナスがいたらきっと魔王も倒せるよ!」
「そうです! 私たちと一緒に来てくれたら嬉しいです!!」
「およ、モテモテだねぇうちら」
ユーくんの勧誘に私も押せ押せとばかりに乗っかります!
ですが、ガイナスさんはゆっくりと首を振りました。
「無理だ。俺たちは魔王討伐には参加しない」
「そんなぁ……シャイナスも同じ意見なの? リーダーはシャイナスだよね?」
ユーくんがすがるようにシャイナスさんを見ますが、シャイナスさんも少しだけ笑って言いました。
「ん、無理でよ」
「どうしても……?」
「無理でよー」
幼女の涙目うるうるアタックが全く効かないとは……どうやらお二人の意思は固いようです。
「そっか、そうだよね。ガイナス達でも魔王討伐は無謀だって思ってるんだね」
「……そうだな」
「ごめんね、変なこと言っちゃって」
ユーくんはあからさまに失望してガッカリしてますが、なにか私には違和感を感じました。
この世界は危機的状況にあると聞きました。魔王を倒さなければ、10年や20年そこらで世界は滅びてしまうとも。
このような状況にあるのに、この2人が怖じ気づいてどこかの勇者様に魔王を倒して貰うのを待っているだけとは思えません。
なんとなく、この人たちが魔王に怖じ気づくような人たちには見えなかったのです。
なにか他に、魔王討伐に行けない事情があるんじゃ……
「んー、納得してない顔でねぇ?」
「それは……はい。だって、あなた達はそういう人じゃありませんよね?」
「……ちょーっと隅の方にいこーか。兄ちゃに聞こえないとこに」
「……勝手にすればいい」
シャイナスさんが私たちを呼んで、小声で話し始めました。
「実はねぇ、ちょっとうちら大陸には行けん事情があるんよ。魔王ってのはこの国じゃなくて大陸の方におるでよ?」
「……そうなの?」
「でもねぇ。どーしても駄目ってわけでも無いし、もしきみーらがうちらと同じくらい強くなったら兄ちゃの気も変わるかもねぇ?」
「え、それって……」
「ま、可能性はゼロじゃないってことでよ?」
「おい待て、思いっきり聞こえているが、あまり気を持たせるようなことを言うんじゃ……」
ガイナスさんが苦言を呈しますが、言い終わる前にパアッと笑顔になったユーくんが言いました。
「分かった! ボク絶対強くなるよ!! だからそのとき迎えにいくね! ガイナス! シャイナス!!」
「ん、待っとるでよー」
「はぁ……俺は了承してないのだが……なるようになるしかないか」
正義の冒険者、ガイナスさんとシャイナスさんは残念ながら仲間になりませんでした。
でも将来的に仲間になることを、私たちは約束したのでした。




