Lo31.就業終了後にはちゃんと結果報告とミーティングをしましょう。駄目出しタイムです
「これで村の中の全区画は見て回った。魔物討伐は終了だ」
「お、終わった~……」
ガイナスさんの宣言で任務が終了しました。100体近く倒した気がします。大した魔物はいなかったとはいえ、よくもまぁ集まったものです。
「すまないな、元々俺たち2人への依頼なのに手伝ってもらって」
「ううん、元々ボクの言い出したことだし」
「というかむしろお二人の足手まといだったんじゃないですか、私?」
「楽しかったから結果オーライでよ~」
シャイナスさんがルンルン気分で言います。結構連続で戦闘してたはずなんですけど、この人はピクニック気分だったのが恐ろしいです。
「で、感想はどうだ?」
「全然うまく行った気がしません!」
「皆を守るの難しいよ~!」
「なるほど、やった甲斐があったと言うものだな」
私たち二人が泣き言を言うと、ガイナスさんは満足そうに頷きました。まるで上手く行かなかったことを喜んでいるようです。
まぁ、苦難を味わってほしいって言ってましたからね……それが目的だったのでしょう。
「これでお前たちの弱点は分かった」
「うんうん、よーくわかったでよー」
「え、そうなの?」
「なるほど。弱点……ですか?」
私がわかってるようで全然わかってない顔で聞くと、シャイナスさんはにっこりと言いました。
「うちは理論的に言うの苦手だから、ここは兄ちゃに説明丸投げするでよー」
「お前はちょっとは頭を使ってくれ。まぁいい。これはシャイナスの気付きに俺なりの解釈を入れたものだが……」
ガイナスさんは詳しい説明を始めました。なお、シャイナスさんはもう説明する気なさそうです。頭をご機嫌そうにゆらゆらしています。
「ユージア少年は攻撃に関しては高い能力を持っている。敵にすぐ気付き、動きも速く、ファーストアタックで確実に狩りにいく。とても優秀だ」
「わぁい」
「だが反面、全く味方を見ていない。スタンドプレーが目立つな」
……たしかに。以前からそういう節はありましたね。とにかく一人で動きがちですよね、この子。
「一人で倒せる相手ならそれでいい。だが、そうではない強大な相手なら……どうなるか分かるか?」
「うん……死んじゃうよね」
実際、あのときもユーくんはラグナディアと一人で戦って本当に死んじゃうところでした。今、ユーくんもそれを思い出しているのでしょう。
「まぁ……防御役を経験することで味方を見ることは今回で覚えたはずだ。これからは意識しろ。そうじゃないと……後悔することになる」
「うん……そうだね。わかったよ」
ユーくんは素直に言うことを聞きました。この子は本当に良い子です。たぶん、ガイナスさんの言うことを真剣に受け止めてくれるでしょう。
「次にチーちゃんだ」
「アッハイ」
そして私も当然ありますよね! 今回悪いところだらけでしたもん!!
「お前の動きは……最初理解できなかった。てっきり恐ろしく鈍感なのかと思ったが、何故か最適解を出すことも多い。評価に困っていたのだが……」
あ、たぶん恐ろしく鈍感なだけです。ニブくてすみません! 上手くいったのは運が良いだけです!
……そう思ってたんですが、意外な方向から指摘が来ました。
「お前は……ユージア少年とはまるっきり逆だな」
「えっと、確かにあんまり私はユーくんのようにすごくないですけど……」
「そうではない。ユージア少年が味方の動きが見えていないのと反対で……お前は『味方しか』見えてないな?」
「え、あの、それは一体どういう……?」
「お前は味方のささいな変化には気付きサポートに回るのは得意だ。分かりにくいが、おそらく前半で実に円滑な動きが出来ていたのもそのおかげだろう」
えと、そ、そうですかね? 前半のシャイナスリーダーが有能すぎたんじゃないんですか?
「だが……敵が全く見えていない。気付くのが遅すぎる。いや、違うな。正確には敵意に対して鈍感すぎるということだ」
「敵意に対して鈍感……ですか?」
「おそらく、お前は箱入りだろう。争いとは全く無縁の生活をしていた。こうやって魔物討伐に参加するのも日が浅い……その幼さだ。考えてみれば当然だったな」
あ、いえ、私は実際は全然幼くないんですけど。魔物討伐とは縁のない生活をしていたのは確かですね。日本に魔物はいませんから。
「それなのに、周りの味方を見れる冷静さだけはある……要するに、周りの空気が読めるのがあまり子どもらしくない。少しアンバランスだな」
まぁ、見た目はロリでも精神年齢はアラサーですからね……
「もしかして、お前が今までの人生で注意を払ってきたのは、明確な外敵ではなくて味方側の人間なのか……?」
「えと……それは……」
「いや、深読みしすぎたな。すまない」
はい……ガイナス先生の指摘は当たってます。たぶん、私はいわゆる『キョロ充』なのでしょう。周りの空気を読み、同化するように動く、せせっこましい生き方をしてきた人間です。
趣味でロリエロ同人描いてる異常人間なのに……いや、だからこそ世間体を気にしているのかもしれませんね。
というか、ですね。
なんかここまでガイナス先生の分析が当たってるとちょっと怖くなってきましたよ! プロファイリングのプロですか!?(クソ寒いギャグ)
「あと、チーちゃんは味方のことはよーく見てるけど、自分のことは見えてないでよー」
「とても献身的だが、自分のことを棚に置くところがあるな」
「そ、そうなんですかね?」
「まぁ、後半は『自ら守られに行く』動きをしてたから少しはマシだったが……自覚なかったのか?」
私ってそんな献身的だったんですか? いまいちピンと来ないんですけど……
「正直、前半の方が成果を上げられていたが怖いところがあった。
後半の方が動きはぎこちなかったが……出来れば後半の動きでやってほしい」
「えと、どうしてですか?」
「お前が自分のことを大切にしてないと、こちらも守りにくいからだ。前半のお前の働きは、捨て身によるものだ。自分の安全を全く考えずに味方を支えようとしていたな?」
「えと、あの、自分ではそんなつもりはなかったんですけど……」
「妖精さんサポートもほどほどにした方がいいでよー。チーちゃんは妖精さんじゃなくて、ちゃーんと人間なんだから」
ガイナスさんとシャイナスさんにたしなめられてしまいました。自分ではあまり自覚はなかったんですけど……言われてみれば確かに、私は自分の命を軽視しているのかもしれません。
たぶんこれは、前世から続く悪癖ですね……
「ユーちゃんもチーちゃんのことを見とった方がいいでよ。この子、良い子なのは間違いないけど、たぶん味方の為にめちゃくちゃ無理するタイプでよー」
「……うん、そうだね」
「ん、その様子だと思い当たる節があるようでね」
……どうやら、ユーくんも薄々私の特性に気付いていたようです。気付かなかったのは私だけだったのかもしれません。
「あの……心配かけてすみません」
「気つかいすぎでよー」
「……まぁ、いい。これくらいにしておくか」
「兄ちゃは心配性でいかんねぇ。あ、そーだ。きみーらにも報酬あげるよー」
そう言って、シャイナスさんは袖からジャラジャラと小さい宝石をたくさん出しました。
「ん、飴玉50個分」
「飴玉ですか!?」
「魔石な」
「大体100体くらい倒したから、うちらと折半でよー」
シャイナスさんは飴玉、もとい魔石を50個くれました。言われてみれば確かに飴玉サイズですね…
「こんなにいいんですか!?」
「ボクたち、無理言ってついていったのに……」
「パーティーリーダーのうちが決めたから問題ないでよー」
「というかだな、他とパーティー組むときは相手のリーダーに『お前らの取り分は1割』とか言われても断固抗議しろ。たとえ相手がお前らより格上のパーティーだとしてもな」
「うんうん、たぶんきみーらはうちと同じでなめられやすいから特にねぇ」
「え? ガイナスを舐める人いるの?」
「そんなんいくらでもおるでよー」
「馬鹿なやつは多いものだ。冒険者は特にな」
ユーくんはガイナスさんとシャイナスさんの実力を認めてるから不思議そうに頭をひねってますが、なんとなく分かります。
おそらく2人とも「まともすぎる」んです。こんな子ども2人を侮らず、まともに接する程度には。
他の冒険者とは会ったことないから分かりませんが、冒険者なんて基本的にアウトローの集まりでモヒカンとヒゲを生やして酒場に入り浸ってます(偏見)
「うん、じゃあ魔石もらうね! ありがとう!」
「ありがとうございます! これって街に持っていけばお金になるんですよね!」
「ああ。ただ雑魚ばっかりだったから、これでせいぜい5000センカだ。あれだけ倒したのに意外と儲からないだろう?」
いや、通貨の単位が分からないのでさっぱり分かりませんが。
「5000センカもするの!? 半年くらいの生活費だよ! すごい!!」
「え、たった1日の成果で半年働かなくていいんですか!?」
これならいくらでもニートできるじゃないですか! 冒険者ってボロい商売ですね!
「それは田舎の実家暮らしの感覚だな。街で宿泊費を払っていると1か月で消える」
そういえばユーくんは、2人暮らしでたまにしか人里に下りない生活をしてたんでした。金銭感覚があてになりませんね。
まぁ、それでもユナさんから貰った所持金100センカよりは50倍に増えましたけど。
「それでも1日で1か月分の生活費だよ?」
「初心者だとあのレベルの雑魚でも5体出現したら普通に死ぬからな?」
「まぁ、貧乏な冒険初心者は貧弱な装備で野宿みたいな暮らしでよー」
「ひええ」
どうやら冒険者もなかなか厳しい仕事のようです。たしかに初心者が死ぬレベルの雑魚50体倒して1ヶ月の生活費しか得られないのは、命の価値に対して割に合わない仕事といえます。
とはいえ、他にお金を稼ぐ手段はわかりません。ホームレスになりたくないよぅ。
「それに冒険者は物入りなんだ。ちゃんとした装備が無いと命に関わるし、当然整備費もかかる」
「うちらはお馬さんも飼っとるしねぇ」
そう言ってシャイナスさんは1頭立ての馬車の方に目をやります。
綺麗な尾花栗毛の毛並みの馬がいますが……
え、あれって持ち馬だったんですか!? この2人、馬主なんですか!?
馬主……日本にいたときはウマを擬人化したゲームやってた身としてはとても憧れる存在です!!
「キンカちゃんって言うんでよ。かわいかろ~?」
「なるほど。尾花栗毛で尻尾が金色に見えます。『金の花』でキンカちゃんなんですね! センスいいです!」
「いや、買うときに大金貨で支払ったからそう名付けたんだが」
「うちの子、めっちゃ高いでよ?」
めちゃくちゃ適当な名前でした。
「でも大金貨と同じ価値なら、盗まれたりしないの?」
「こいつは気性が荒いから盗賊も魔物も蹴り殺す」
「うちが祝福して能力ブーストしてるから、まぁまぁ強いでよ?」
「あまり背後に立たないことだな。視界の外にいられると嫌がって蹴ってくる」
「ひええ」
気をつけておきましょう。死因が魔物じゃなくて馬なんてシャレにならないです。
「というかシャイナスさん! 祝福で能力ブーストとかそのへん教えてください!」
「お? 知らんでやっとったの? なんかやっとる割には効果が低いと思ってたでよ。でもまぁそれ以前の問題で、チーちゃんの力の使い方は無駄が多いから、この際レクチャーするでよ」
そう言って、シャイナスさんは村の方に向きました。
「この村、魔物は全部倒したけど、まだまだ魔瘴が残ってるでよ。このままでは人が住めんし、また魔物が集まって元に戻るでよ」
「はい。浄化しなくちゃですね。やります!」
そう言って私はお父さん棒を構えると、シャイナスさんが制止しました。
「まーまー、うちのやり方を見とってほしいでよ」
「シャイナスさんのやり方ですか?」
シャイナスさんは両手を開いた状態で構えました。
「チーちゃんの力はちょっと濃いんでよ。漂ってる魔瘴を軽く浄化するくらいだと、このくらいでいいんでよ」
すると、シャイナスさんの手から光の粒子がたくさん出てきました。
なんでしょう? 私は洗剤ドバーって感じで浄化していましたが、これは違います。
触れると消えるくらい儚くて、それなのにじわーっとくる感じです。
「チーちゃんは『水』みたいに力を使っとるけど、これでいいんでよ。こう、『霧』のような感じでね」
「『霧』ですか?」
「チーちゃんの力は既にこの小さな村を覆えるくらい大きいんでよ。でも、こうやって『霧』にすると100倍くらい範囲が拡がる……つまり、100の村を浄化できるようになるんでよ~」
え? そんなに大範囲になるんですか? 確かに水って気体になるとめちゃくちゃ膨らみますけど……
「ちょっと待てシャイナス。それが本当なら、チーちゃんの力はもはや『一級聖女』どころか『特級聖女』に値するが」
「ん、そう言っとるでよ」
「信じられん……本当なのか……?」
え、え? 一級聖女はともかく『特級聖女』って何ですか?? 二級のシャイナスよりずっとずっとすごいってことですか???
ガイナスさんがあんなに驚いてるってことはすごすぎるほどすごいってことですか??(語彙力消失)
「ま、それもこの【聖霧】が出来たらの話でよ」
「ホーリーミストって言うんですかこれ! かっこいいです!」
「……そうだな。一級や特級でこれを習得している者はほぼいない。そんな簡単に出来るはずがない」
「え、シャイナスさんは何で二級なのに出来るんですか?」
「逆だ。特級は元々の力が大きいから細かい操作は苦手な者が多い」
「元々強い人はうちみたいに頑張らん人多いもんねぇ?」
「『頑張れば出来るのに』みたいな感じで言うのは大いに誤解を招くが」
「まぁチーちゃんならすぐ出来るでよ~」
え、出来るんですか私に? だって難しいんでしょう? シャイナスさんは簡単に言ってますけど、この人の言う『簡単』は信用なりませんね?
「じゃ、やってみるでよ」
「あ、はい。やってみます」
何にも考えずに神気を出すと、いつも通り出ました。
どばーって感じです。
「力が入りすぎでよ。もうちょっとフワッと出すでよ」
「フワッと……ですか?」
「いや、そんなアバウトな指示でいきなり出来るわけないだろう」
と、とりあえずやってみます。フワッと、フワッとですね?
私はふわふわをイメージしながら頑張ると、なんか光がふわっと出てきました。
「で、出来たんですかね?」
「これは……出来ているのか?」
「おー、出来とるでよー。一応」
一応、とは言われましたが、なんとか出来てるっぽいです! シャイナスさんみたいな感じではありませんけど……こう、まだベットリする感じです。
「何で出来るんだ……これは聖女の中でも出来る者は少ない奥義だぞ……?」
「お、奥義? そんなにすごいんですか?」
「んー、チーちゃんは元々やわらかい感じしてたからすぐ出来るでよ?」
「その感覚がわからん……」
「ま、チーちゃんのやってる感じでもまだ濃いけどねぇ。とりあえずこれで範囲10倍くらいに拡がったかねぇ?」
「え、こんな簡単に拡がるもんなんですか!?」
確かにいつもより大分負担が少なくて、今ならめちゃくちゃ広い範囲を浄化できそうです。
なんかすごいです、聖女の奥義【聖霧】!
「現段階でも村10個分の浄化能力か……既に一級聖女相当だぞ……」
「え、すごいよチーちゃん!」
わぁい! 褒められてます!
なんかこの体になってから褒められてばかりですね?
いや、嬉しいは嬉しいんですけど、これ別に私の功績じゃないですからね? アワシマ様のおかげですからね?
「しかしまずいことになったな……」
「えと、どういうことですか?」
「その能力は隠しておいた方がいい。バレたら確実に争奪戦になる」
ええっ!?
なんか不穏な伏線張られたんですけど!?




