Lo15.今日の晩御飯はきのこステーキです
晩御飯です。今日はきのこステーキです。肉厚の大きなキノコがお皿にどーんと載っています。
そういえば昼はキノコ狩りの途中でしたからね。あんなことがあって中断してましたが……あれからユナさんが収穫してきてくれたのでしょう。あの森にこんなキノコがあったとは……
たぶん、異世界にしか存在しないキノコだと思いますが、お味の方はどうでしょう……パクッ
「お……おいひ~! ユナさん、おいしいれす~!」
「お口に合って良かったわ~」
ヨーロッパでよく食べられる高級キノコ、ポルチーニ茸のような旨味がします! そして食感はエリンギのようにコリコリです!! 焼き具合もベネ! バター醤油の味付けもディ・モールト・ベネですよ!! ユナさんマジで結婚してくれませんか?
うん、異世界ですけど醤油は当たり前にあるんですよね。まぁどっかの転生者さんが伝えたんでしょう。中世ヨーロッパっぽい世界って聞きましたが、そのへんの設定のゆるさは気にしないでいきましょう。
「今日は色々ありましたけど、生きてて良かったです!」
「大袈裟ねぇ……と言いたいところだけど、今回は私もちょっと肝が冷えたわ~。イルザナミア様に感謝ね」
「はい! イルザナミア様に感謝です!! ……イルザナミア様?」
イルザナミア様……どこかで聞いたような……
「んー、どうしたの? イルザナミア様はこの世界の神様だけど」
この世界の神様……イルザナミア様……イルザナミア……いぅざなみあ……いざなみぁ……いざなみ……
もしかしてイザナミ!? 古事記に出てくるやつ! アワシマ様の母のイザナミですか!?!?
「そういうことですかあああ!!」
「どうしたの? チーちゃん」
「イルザナミア様って私の世界のイザナミって神様となんか名前が似てますよね!?」
「うん? 唐突に言われても……イザナミ自体よく知らないけど?」
「つまり、つまりです! イルザナミア様はイザナミ様かもしれないんです!!」
「そうなの? それで何か分かったの?」
ええ、分かりました!
全てが分かりましたよ!!
……と思いましたけど、イルザナミア様がイザナミ様かもしれないと分かったところで、特に事情はよく分かりません。
アワシマ様といい、この世界は日本神話と色々と繋がりがあるんだなぁ、くらいしか。頭よわよわなので、私。
でももしイザナミ様がこの世界の神様だとしたら、アワシマ様とは親子運営かもしれませんね?
まぁ何か疑問があるならアワシマ様にお会いして直接聞けばいいんです。たしか【失われた神都】に行けばいいんでしたっけ?
「まぁ、よく分からないですけど、なんとなくスッキリしました!」
「良かったわね~」
「はい、良かったです!」
とりあえず、情報が少なくてよく分かんないことは変に憶測で推理してもよくないです。推理小説でもことごとく私の予想って外れますからね! 大体犯人っぽい匂わせを散々したやつが普通にいいやつだったりするんです。
というわけで、たぶんアワシマ様に聞けば解決するでしょう! まる。
「あ、そうだ! さっき私レベルアップしましたよ!」
「あら、おめでと~」
「ボクもレベルアップしたよ! これでレベル4だよ!!」
「ユーくんもおめでと~」
あれ? ユーくんもレベルアップしてたんですか? おめでとう!
「……それにしても、なんで戦ってない私がレベルアップしたんでしょう?」
「魔瘴に打ち勝ったからよ。一般的には魔物を倒すとレベルアップするって考えられているけど、魔瘴も魔物の一部なのでレベルアップするのよ」
「そうだったの? ボクも魔物倒してないのにレベルアップしたの変だと思った」
ふむふむ、なるほど。よく分かんないですけど、そういうシステムなんですね。よく分かんないですけど。
「……ところでユナさん。昼間見たアレってこの世界に結構いるんですか?」
「【混沌魔物】のこと? ここらへんにはそんなにいないかなぁ? でも最近出る頻度増えてて、あれに滅ぼされた国も結構あるみたい」
「そうなんですか……どうしてあんな怪物が発生するんでしょう?」
「【魔王】のせいと言われているわねー」
なるほど……ここで出てきますか、魔王。そもそも私がこの世界に来るとき、アワシマ様に『魔王倒せ』みたいなことを言われた記憶がおぼろげにあります。最近はユナさんやユーくんとイチャイチャするのにかまけてすっかり忘れてましたが……
「魔王って……一体何なんでしょうか?」
「んー、まぁ見たことないから分かんないけど、すごい怪物みたいに言われてるわねー」
「ボク知ってるよ! 首が8つあったり角がニョキニョキですっごいんだよ! 一息で街一つ滅ぼせるんだ!!」
うん、よく分かんないのが分かりました。なんかすごそうなことは分かりますが、結局は見てみないと分かりませんね。
「魔王も王というだけあって、魔王が治める王国みたいなのがあると思ってましたが……」
「そういうのは無いわねー。魔王は最も強大な【混沌魔物】のことをそう呼ぶの。まぁ、人間の王と違ってただの化け物ね」
「そうなんですか……」
話を聞く限り、マンガとかでよくある魔王(という名の善人)と和解エンドするのは無理そうですね。もし話し合いできそうならその路線も狙ってたんですが……昼間会ったあの鹿と同じような怪物だったら、絶対に話し合いできないです。
「魔王は存在するだけでどんどん魔障が発生して大地が汚染されていくわ。放置しておくと、この世界は終わるわねー」
「そんな……救いはないんですか!?」
「対抗できる手段は少ないけど、その対抗策の中でも特に効果があるのは神の力……すなわち【神気】よ」
あ、救いはあるんですね。
私は手のひらに集中して、光のオーラを出してみます。あ、出せましたね。
つい先ほどユーくんを助けるときに全てを出しきったつもりでしたが、3時間の睡眠で回復したみたいです。
「うーん、割と簡単に出せるんですけどね……これが魔王への対抗策ですかぁ」
「チーちゃんは簡単に出してるけど、それを使える人間はほとんどいないわ。魔法を使える人間よりずっと希少なの」
「そうなんですか? ……あれ? ユナさんは普通に使ってましたよね」
「まぁそこそこね。そんなに得意じゃないわ」
そこそこですか……なんかめちゃくちゃ強かったように見えたんですけど? 私もあんな風になれるとは思えません。
ユーくんが羨ましいそうに私の白いオーラを見ていました。
「いいなー、ボクもそういうの使いたいなー」
「あら、今なら使えるかもしれないわよ?」
「そうなの!? やってみる!!」
ユーくんはむむむむむ~と顔をしかめながら、手をかざしました。手に相当力が入ってるのか、血管が浮き出ていますが、残念ながら特に変わりは……?
「あっ!? 出てる!! なんか出てますよ!!」
「えっ、ホント!? うわ、なんか出てる!!」
ユーくんの手から、なんかちょっとだけ白いオーラが見えました。私のときより少ないですが、確実に出ています。
「やったー! なんか出たーー!」
「おめでとー! ユーくん!」
いえーい! 私とユーくんはハイタッチして喜びました。それにしてもあっさり出してしまうとは、私のアイデンティティーがちょっと薄れましたが、まぁ問題ないです。
「でもなんで急に出せるようになったんだろ……? レベルアップしたからかな?」
「んー、違うわね。神気っていうのは、一度死にかけないと使えないのよ」
「そうなの? ボクそんなに死にかけてた?」
「心臓止まってましたよ! もう死んだかと思いました!!」
あのときはめちゃくちゃ心配したんですけど、本人はケロっとしています。ユーくん、呑気というかなんというか……
「神気っていうのは神の御業なのよ。生死をさまよい、魂の根幹に触れないと使えないの」
「そうなんですか? 私は普通に使えますが……なんででしょう?」
「そもそもチーちゃん転生者じゃない。死にかけどころか一回死んでるわよ」
「あ、そーでした。死んでるんでした私」
「えっ、チーちゃん死んでるの!? 生き返って!!」
「あ、今は大丈夫なので」
「よく分かんないけど良かった!」
そういえばユーくんには転生者だって言ってなかった気がします。未だに私のことをどこかの姫様だと思ってる節がありますからね。
でも正体がアラサーロリエロ同人作家とは言いづらいですよねぇ……
「神気って何なんでしょう? なんで魔瘴を祓う効果があるんですかね? 神様の力だから?」
「神気の正体は魂のエネルギーと言われてるわね~」
「えっ、魂のエネルギーなんですか!? それ使って大丈夫なやつですか!! 死にませんか!?」
「使っちゃいけない分は自然とリミッターがかかるから基本的には大丈夫。チーちゃんもあれだけ使ってピンピンしてるでしょ?」
確かに……? 私、全てを使い果たすつもりでいたのにすぐ復帰してますね? 飢餓状態の復帰より早いくらいです。ちゃんとリミッターかかってたんですね。
「ま、それでも使いすぎは死ぬからほどほどにね~」
「え、それ聞いてちょっと怖くなったんですが」
「大丈夫大丈夫。そうなる前に結構な苦痛が来るから。それ以上使っちゃ駄目って魂が悲鳴をあげはじめてからの話だから。本当に死ぬほどの苦痛だからね~」
なんか経験したことあるように言ってます。こわい。
「それにしてもユーくんもとうとうレベル4か~」
「うん! これで旅に出ても良いって話だったよね!」
「あ~、そうだったわね~」
え、そういえば以前そんなことを言ってたような……レベル4になったら魔王討伐の旅に出るとかなんとか……
ユーくん、旅に出ちゃうんですか?
イチャラブ同棲生活終わってしまうんですか!?(そんなものはない)
「ここらへんじゃろくな魔物いないし、そう簡単に上がらないと思ってたのよね~」
「え? まさか嘘だったの!?」
「んー、そうねぇ……ちょっと大事な話があるから、食事の後に付き合ってくれる?」
「大事な話……?」
そう言ってユナさんはいつものようににっこりと微笑みました。大事な話って一体なんでしょう……?
ハッ!? もしかして求婚ですか!?(絶対違う)




