第12話 ユズ×カン デート
探索と配信も好調な柚子缶。カンナは平日昼間は学校、放課後に訓練。週末に探索というサイクルをこなしている。以前、ユズキと2人でやっていた時は平日に探索予定を作っていたので訓練はほとんどできなかったが、今はカンナが学校に行っている内に残りの3人が立ててくれるので訓練の時間が多く取れるようになっている。
そんな風に充実どころか学生アスリートの様なストイックな生活を過ごしているカンナであるが、充実している一方で完全なオフの日が無いのであった。若さによる体力ブーストで疲れこそ蓄積はしていないし、なんだかんだ毎日ユズキに会えているのでこの日々に不安は無い。そんな中で4月末からの大型連休に向けて、柚子缶は少しまとまった休みを取ろうという話をしていた。
「今が大事なときなのにお休みしていいの?」
「それを言い出すとずっと休めないからね。年明けぐらいからなんだかんだ何もしない日ってなかったしね。」
「カンナちゃんは真面目だね。適度に手を抜くのも長く探索者を続けるコツなんだよ。」
「たまにはユズキさんとデートとかしてきたらいいんじゃない?」
イヨに言われてハッとするカンナ。2人は実はデートらしいデートをした事が無かった。恋人になる前から全国中のダンジョンに赴きついでにその地区の名産を食べたりたまに共に観光したりということはしてしたが、2人でショッピングに行ったり映画を観に行ったりという高校生がするようなデートは未経験であることに今さら気付いたのである。
「……じゃあお言葉に甘えて、デートに行きますか。」
こうして4月最後の祝日、カンナとユズキは街中デートをすることになったのである。
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デート当日。渋谷の駅前で待ち合わせに、カンナは1時間も早く到着した。もちろん、デートが楽しみで仕方がなかったからである。
(今日の格好は変じゃ無いよね……?)
大きいショーウィンドウに写る自分の姿を見る。白いブラウスに若草色のスカート、おニューのキャスケットも薄めのカーキ色を選択して春っぽさを意識している。普段から私服には気を遣っているカンナだが、今日のコーデにはこの春一番の気合いが入っている。
(ちょっと早く着きすぎちゃったな。)
渋谷はユズキの最寄駅だし電話したらすぐに来てくれるだろうけど、あえてカンナはこの場で待つ事にした。勝手に約束より1時間も早く来たのは自分なので急かしてしまうのは嫌だったし、何よりデートに思いを馳せながらわくわく待つのも楽しいと思ったからだ。
15分ほど待って、それでも約束の時間まであと45分もある。だというのに通りからやって来たのはカンナが待ち焦がれたその人であった。
「ユズキ!」
「カンナ!? 早いわね!?」
ユズキも人の事は言えないくらい早く来たわけだが、それでも既にカンナが到着していたのは予想外だった。
「結構待った?」
「ううん、さっき来たところ。」
そういうとユズキに歩み寄るカンナ。ホワイトのパンツに上も白のカットソー、そこに薄手のネイビーのジャケットを羽織っているがいずれもカンナが見たことのない服である。今日のためにユズキも気合いを入れてくれたらしい事が分かって嬉しかった。
「今日の服もかわいいわね。」
ユズキがカンナのファッションを褒めてくれる。それだけで嬉しいカンナだけど、今日は少しだけ調子に乗ってみる事にした。
「服だけ?」
「……もちろん、顔も可愛いわよ……。」
言いながらユズキは顔が真っ赤になる。言わせたカンナも頬が熱くなるのを自覚しつつ、お礼を言う。
「ありがとう。ユズキも可愛いよ。お洋服も似合ってる。」
「あ、ありがと。」
お互いに赤い顔を見合わせて、思わず笑いが漏れる。
「じゃあ行こっか!」
「ええ!」
2人は手を繋いで街の方へ歩き出した。
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しばらくウィンドウショッピングを楽しむ二人。
「そこのお店のお洋服かわいい! 見てもいい?」
「もちろん。」
互いに服を選んでみたり、一緒にコスメをみたり。楽しい時間はあっという間に過ぎていく。お腹が空いた2人はオシャレなカフェに入りランチをいただく事にした。
「おいしいね。」
「うん、美味しい。……でもおなじボロネーゼだとカンナが作ってくれるやつの方が好きかも……。」
よし! カンナは心の中でガッツポーズした。狙い通りしっかり胃袋を掴めているようだ。ユズキが気を遣って言ってくれているのかもしれないが、それでも箸の進みっぷりから全くのお世辞という事でもなさそうだと思った。
「ユズキのためならいつでも作ってあげるからね。」
「うん、期待しちゃっておく。」
デザートについてきたケーキは美味しかった。これについては完敗だとカンナは素直に認める。
食事の後はのんびりとショッピング……と言いつつこの2人、ここまで何も買っていない。あれやこれやと話しながら色々な服を見ながら、これどうかな? うん、かわいいよ。このやりとりが楽しいのである。
結局夕方まで街を散策して買ったのはカンナが基礎化粧品くらいだった。
「あれ? ユズキもそれ買うの?」
ユズキはカンナとは違うメーカーのものを使っていた筈だけどと思い、思わずその場で訊ねる。ユズキはその場ではうん、まあねと歯切れの悪い返事をして来たもののお店を出るとカンナにこっそり耳打ちする。
「これ、あなたがウチに泊まりに来た時に使ってもらう用ね。」
そういうとユズキは恥ずかしそうに微笑んだ。カンナはその言葉と行動が意味するところを理解する。
「それってもっと頻繁に泊まりにおいでってことだよね?」
「そう捉えて貰って構わないわ。」
「じゃあさっそく来週の連休中はたくさん泊まろうかな。お母さんもユズキの家にならいいよって言ってくれそうだし。」
「ふふ、期待してるわね。」
そろそろ帰ろうかと言う事で駅の方に向けて歩き出す。その途中でふとユズキが立ち止まる。
「ユズキ?」
彼女が見ているのはショーウィンドウに飾られた指輪であった。
「あ、ごめんね。このお店が気になってて。」
「これってペアリング?」
「もうじき誕生日だし、ちょっと良いものを送りたいかなって。」
「……嬉しいっ!」
パァッと明るく笑うカンナを見て、ユズキは言って良かったと思った。誕生日プレゼントをサプライズするか、事前に相談するかは悩ましいところである。だが指輪の場合はサイズを把握しておく必要があるし、何より趣味の合わないものを贈るのはユズキとしても本意ではない。
「良かった。じゃあ入りましょうか。」
ユズキはカンナの手を引いてブランドショップに入る。
「いらっしゃいませ。」
さすが、しっかりしたお店はすぐに店員が声をかけてくる。
「えっと、この子とのペアリングを探してて。普段使いできるようなデザインを見せてもらいたいなと。」
「かしこまりました、こちらへどうぞ。」
店員につれられてショーケースの前に移動する。そこで好みのデザインや予算などを相談しながら指輪を決定する。2人が選んだのは石の付いていないホワイトゴールドの比較的シンプルな指輪であった。リング自体に多少の装飾はあるが、これであればどんな時でも着けていけられると判断しての選択であった。
「指のサイズも測ってもらえますか?」
「勿論でございます。」
先ずはユズキ。一瞬だけ少し恥ずかしそうに戸惑ったが、彼女がこの指でと指定したのは左手の薬指であった。婚約指輪では無いけれど、それでもこれは「ずっと一緒に居たい」というカンナへのメッセージであり、カンナもそれが分かったから満面の笑みで同じ指を指定する。
支払いを済ませると店を出る。指輪の出来上がりは1週間後ということだった。
「来週取りに来なくっちゃ。渡すのはカンナの誕生日でいいわよね?」
「うん! ユズキ、ありがとう。……嬉しいなあ。私、こんなに幸せでいいのかなぁ。」
「私も幸せよ。」
うっとりと呟くカンナと、優しく応じるユズキ。2人はしっかりと手を繋いで夕陽に染まる街の中、帰路に着いた。
ユズキのマンションに到着する。カンナを家まで送るため、ユズキは部屋では無く駐車場に向かおうとする。そんなユズキの手を引くカンナ。
「あのさ、今日はお母さんに晩御飯もいらないって言ってあるんだ。」
「え、そうなの?」
「うん。あと、ちょっとだけ遅くなるかもって。そしたら夜8時くらいには帰ってらっしゃっいって言われてるの。」
ユズキは腕時計を確認する。今は夕方5時を回ったところだ。移動時間を見ても2時間以上は時間がある事になる。
「えっと、じゃあご飯食べに行く?」
「あの、そうじゃなくて……今からユズキの部屋に行きたいなって。」
「うち? 食材も無いけど……あ。」
てっきり一緒にご飯を食べようという誘いだと思ったが、顔を真っ赤にして俯くカンナを見てその意図をようやく理解する。それと同時に察してあげられなかった自分を責めつつも、カンナの手を引いた。
「じゃあ、部屋に行こうか。」
「……うん。」
地下駐車場では無く、高層階のユズキの部屋に向かった2人。エレベーターの中でも会話は無い。静かな箱の中で、お互いに心臓が早鐘を打つ音が響いてるような気がする。
部屋に入った途端、我慢できないと言わんばかりに抱き合う2人。抱き合ったまま寝室に移動すると、カンナはベッドにユズキを押し倒した。
「カンナ、シャワーは……。」
「待てないよ。……ダメ?」
「ううん、私も我慢できない。」
ユズキとカンナはそのままお互いを求め合った。
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