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第11話 柚子缶の成長

 新学期特有のイベント……学級委員の選出やら進路指導の三者面談なども終わり、東京では桜もすっかり散った4月の半ばの週末。柚子缶のメンバーは秋田県にある男鹿(おが)ダンジョンに向かっていた。


「この辺りはちょうど今桜が満開だね。」


「桜前線と共に北上するとずっと満開の桜が見られるってね。5月の連休には青森や北海道の辺りが満開になってるはずよ。」


「北海道はしばらくいいかな、この間行ったばっかりだし。」


「あはは、じゃあ今日はたっぷり桜を満喫して今年は見納めと行きますか!」


 男鹿ダンジョン。ここに出てくるのは鬼種(オーガ)と呼ばれるモンスターで、「鬼」の名前が示す通り凶悪なモンスターである。


 平均して2.5m程度、大型になると4m近くにもなる巨体とそれに比例した強靭な肉体から繰り出される攻撃は苛烈で、人間の体など一撃で潰されてしまう。……事実、そういう事故に遭う探索者も年に何人か居るぐらいには危険なモンスターである。


 防御力も高く、例え『剣術』スキルを持っていてもきちんとした武器で無ければその身体に傷付ける事が出来ない。魔法スキルは比較的良く効くが、魔法スキルを使えるものは大抵の場合接近戦が苦手であるので武器スキル持ちよりさらにリスクを背負うことになる。


 そんなオーガが跋扈する男鹿ダンジョンは高い水準の攻撃力と防御力が求められる、紛れもなく上級者向けのダンジョンであった。


 柚子缶が2人体制だった頃は安全マージンが取れないと考えて探索対象にはしていなかった。マフユとイヨは妖精譚時代に一度来たことがあるらしいが最初の1体を倒した時点で「あ、これはダメだわ。」と判断、そのまま回れ右したとのことだった。


「慎重に立ち回れば強烈な一発を貰うことはそうそう無いけど、硬い皮膚を切り裂いて攻撃しようとするとある程度強引に踏み込まざるを得ない。その()()()()の加減を見誤ると死ぬなというのがお姉達の感想だったね。結局私の『氷魔法』でゴリ押ししたんだけど、リスクが高すぎるから即撤退したんだ。」


「でもミスリルナイトに比べれば余裕よゆー。ということで頑張って行こう! SNSで予告した時間になったし配信始めるよ。」


 イヨは気楽なノリで配信を開始する。今日はカンナがメインの進行係だった。


「配信できてるかな? こんにちは、柚子缶です。今日は秋田県男鹿市にある男鹿ダンジョンに来てます。」


 イヨが確認用の端末を使って無事に配信が出来ていることを確認し、カンナにOKサインを出した。


「ここは結構上級者向けのダンジョンということで何処まで行けるか分からないんですけど、まずはオーガを何体か討伐して問題無く勝てそうなら様子を見つつ三層くらいまで進めたらいいなと思ってます。」


 そう言って歩き出すと、残りの3人も着いてくる。


 

― 男鹿ダンジョンってオーガだよな

― そう、男鹿だけに

― 事故には気を付けてー

― 今の柚子缶なら余裕っしょ


 

 しばらく歩くと最初のオーガと遭遇した。


「でました! 第一モンスターです!」


 先ずはカンナがオーガの前に躍り出ると剣を構えた。オーガは身長は2m程度のやや小柄な個体だが、それでもカンナ達からすれば見上げるほど相手だし威圧感も相応にある。


 オーガは手に持った棍棒を雑に振り下ろしてくる。なるほどこれを避け損なったらぺっちゃんこに潰されてしまうだろう。カンナは叩きつけられた棍棒を冷静に避けると、丁度良い高さまで降りてきた首に思い切り剣を振るう。ザンッ! と良い音を立てて剣は首に食い込んだが、丸太のように太い首の1/4程まで進んだところで剣が止まってしまう。硬いとは聞いていたが想像以上だ。一度剣を引こうとするカンナ。しかし筋肉に挟まれたのか、剣はオーガの首に食い込んだまま押しても引いても動かない。


 そんなカンナに対して、オーガが棍棒を持っていない方の手を広げて掴み掛かろうとする。カンナは一度剣から手を離すと腰に下げた短剣を取り出しその掌に根本まで突き立てた。


「グギャァァアアアアッ!」


 痛みにのたうち回るオーガ。カンナは再び剣の柄を持つと目一杯の力で引いた。短剣を突き刺された掌の痛みで首の筋肉が弛緩したのか、今度は無事にオーガの首から剣を引き抜くことができた。短剣の回収は一旦諦めてバックステップ、オーガから距離を取る。掌と首からボタボタと血を流しながら、オーガは恨めしそうにカンナを見る。


 そんなオーガの後ろからマフユが飛びかかる。マフユは氷で作った短剣をオーガの背中に突き刺した。そのまま短剣を手放すと、1秒弱で次の短剣を作り出し、流れるような動作で今度は太腿に突き刺した。


「ギャオオオオンッ!」


 刺された方の足を曲げ、膝をつくオーガ。マフユはそのまま氷の短剣を次々に作り出しては突き刺していく。オーガは完全に翻弄され、腕をブンブンと振り回して牽制するのが精一杯だった。

 10本目の短剣を突き刺したマフユは大きく下がってオーガから距離をとると『氷魔法』を解除する。するとオーガの身体中に刺さっていた短剣が一瞬できえさり、その穴という穴から一斉に血が噴き出る。


 驚異的な耐久力を持つオーガも遂にその場に倒れ伏した。カンナは油断せずに、改めてその首に上から剣を突き立てる。筋肉よりもさらに硬い首の骨に阻まれて剣は首の半ばで止まってしまったので、カンナはその剣の柄の部分に思い切り踵落としをお見舞いした。ゴツッ! という大きな音と共に剣が首の骨を叩き割り、そのまま喉を貫通した。それまでピクピクと動いていたオーガもこの一撃で完全に沈黙する。


「……ふぅー、緊張したぁ!」


「カンナちゃん、お疲れ。」


「マフユさんもナイスアシスト!」


 ハイタッチするカンナとマフユ。無事に第一オーガを無傷で倒すことに成功した。


 

― かわいい顔してバイオレンスだな

― モンスター相手だからな

― フユカンコンビの破壊力(かわいさ)が反則級すぎる

― あれ、みんな戦闘の感想言ってなくない?

― 戦闘の感想ったって「すごい」以外なくない?

― 最近ぶっ壊れ身体強化使ってないよな

― マフユタンは『氷魔法』で氷の短剣(アイスダガー)を作ってたけど、カンナはスキル無しで戦ってなかった?

― 流石に『剣術』くらいは使ってたと思うけど、最後のかかと落としとかアドリブが強いw

― ああ、イヨちゃんの『剣術』を『広域化』してたってことか

― イヨちゃんって『剣術』持ちなの?

― 知らんけど、前まで『広域化』しか持ってなかった筈だから誰かの『剣術』を使ったのかなと勝手に想像してたw

― ああ、ユズキは『一点集中』と『身体強化』だし、マフユタンは『氷魔法』だからイヨちゃんが『剣術』持ちだと思ったわけか

― 柚子缶さーん、↑あってます?

― さすがに露骨に効くのはマナー違反

― それもそうか、ゴメンナサイ



「カンナさーん、「なんで『広域化一点集中身体強化』しないの?」って意見が視聴者さんから。」


 イヨが答えて問題なさそうな質問を拾ってカンナに投げた。


「え? ああ、えっと……あれ使えば確かに最初の一撃でオーガの首を斬れたとは思うんだけど、強い技を使って簡単にモンスターを倒して行くより、色んな攻撃や連携を試して倒せるようになっておいた方がいいかなって思って、あとは特訓の成果を試してみようって感じ……かな?」


 ちょっと照れたように語るカンナだっだが、オーガの返り血を浴びてしまっていたこともあり「血塗れでナイフ(短剣)を片手に照れる」というちょっとホラーな絵面になってしまっていた。最も意識が探索者モードに切り替わっている柚子缶の4人はそんな事に気付いていない。


 

― カンナの返り血に染まりながら照れる感じ、ちょっとヤンデレ感あるな

― わかる、新しい癖に目覚めそうw

― せっかく質問に答えてくれたのに頭に入ってこないw

― つまりあれだよ、あえて実力を制限しつつ戦う事で能力を伸ばすみたいな

― 少年マンガとかでも良くある修行って事だな!

― オーガで修行しちゃってるの……この子達怖い

― いざとなればユズキとイヨもカバーに入れるし、4人になってからホント噛み合ってるな

― 次のオーガはユズキとイヨちゃんかな?



 オーガの魔石を回収し、ダンジョンの奥へ進む柚子缶の4人。


「そういえばさっきマフユは短剣たくさん作ってたけど魔力は大丈夫なの?」


「うん。これ訓練してて気付いたんだけど、魔法スキルって手元で事象を起こす段階ではそこまで魔力を消費しないんだよね。むしろそこに運動エネルギーを加えて相手に放ったりする段階で大きく魔力を使うみたい。

 だからさっきは短剣を連続で何本も作ったけど感覚的には『氷塊』を1つぶつけたぐらいの消耗で済んでるよ。カンナちゃんが戦ってるのを見て斬るより突き刺すの方が効果的かなって思ったからひたすら刺しまくってみた。」


「突き刺した短剣を抜かないで新しく作ったのは、最後の一度に全部を消してそこから血が噴き出したあれをやるため?」


「あれは結果的にそうなっただけだね。あの短剣、そこまで頑丈じゃないんだよ。何回か刺したら折れちゃうと思う。いつ折れるかって考えながら使うより最初から使い捨ての感覚でどんどん作った方がいいなって考えたんだ。」


「なるほどね。」



― まてまて、しれっと凄いこと言ったな

― え、これ魔法スキル持ち的には革新的な説じゃない?

― 『氷魔法』と『短剣』スキルがあればって事じゃないの?

― ああ、カンナが『短剣』スキルを『広域化』してるからこそ出来る技って事か……?

― 『氷魔法』持ちに氷の武器を量産して貰って武器スキル持ちがそれを使うってやり方なら他のパーティでも真似できるかな

― 氷以外に即席で武器を作れるのって何魔法がある?

― パッと思い浮かぶのは土?

― 水は術者本人が使うなら有りな気がするけど火と風は質量がないから武器には出来ないかな

― ここに来て氷魔法と土魔法の評価爆上がり来たか?

― 土魔法持ちワイ、明日ダンジョン行って試すわ



 しばらく進むと次のオーガと遭遇した。


「今度は私たちかな。」


「よしきた!」


 ユズキのイヨが並んでオーガと対峙する。


「はっ!」


 先ずはイヨが斬り掛かる。オーガは当然手に持った戦鎚(メイス)を振って迎撃を試みるが、その軌道にユズキが『一点集中』した『鉄壁』を出現させる。ガンッと壁を殴った様な音と共にメイスの攻撃が弾かれ驚愕の表情を浮かべるオーガの懐に潜り込んだイヨはそのまま膝のバネを使って跳ね上がり、短剣をオーガの左眼に突き刺す。


「グウゥゥゥゥッ!」


「ごめん、浅い!」


「はい!」


 そのまま脳まで貫いて一撃で倒すつもりだったが、残念ながら刃は脳の手前で止まってしまったようだ。イヨは勢いそのままオーガの頭の上を飛び越えると、すれ違いざまにその後頭部を思い切り蹴り飛ばす。左眼を貫かれたかと思えばそのまま後ろから頭に強烈な蹴りを喰らったオーガはわけもわからないままヨロヨロと前によろける。そこにユズキが合わせ、掌底をイヨの短剣の柄頭に叩き込んだ。

 

「フッ!」


 ズブリと短剣はオーガの頭に柄の部分まで押し込まれる。眼から脳まで深く短剣を突き刺されたオーガはそのまま一言も発する事なく絶命した。


「あ……、イヨの短剣、完全に頭の中に埋まっちゃった。」


「これ頭を割らないと回収できないねー。」


 イヨが苦笑いしつつマフユに手でバッテンを作って見せた。ちょっとショッキングな映像になるからカメラで映さないでという合図である。マフユは心得たとカメラを隣のカンナに向けた。


「ふぇっ!? なんで私に向けるのっ!?」


「あれ映すわけには行かないから。」


 マフユが指差した方を見ると、ユズキとイヨがせーのでオーガの死体の頭を剣で斬り付けて真っ二つに割りそこからイヨの短剣を取り出していた。なるほど、確かにかなりグロい映像だ。


「でもアップで映されると恥ずかしいよ……。」


「ではカンナちゃん、今日のメイクのポイントは?」


「探索する時は日焼け止めくらい……ってうちはそういう動画じゃないでしょ!」


 思わず答えかけて慌ててマフユに指摘するカンナ。


 

― 【悲報】カンナ、ノリツッコミが上手い

― 朗報、だろ?

― ユズキとイヨの方、絶対やばい絵になってるのにカンナとマフユが楽しそうに会話しててギャップがヤバい

― やっぱりこのパーティおかしいよ……w

― 妖精譚の良い意味での頭のおかしさがきちんと継承されてるなw

― でも元妖精譚なのってマフユタンだけでしょ? この子はあのパーティで一番まともだと思ってたに、しっかりとDNAを受け継いでいたのか……


― イヨちゃんとユズキの戦闘にも触れてやれよ

― あれはもうスムーズすぎて何も言えることがないんだよ

― イヨちゃんは短剣持ってたし『短剣術』?

― 『短剣術』ってあんなトリッキーな動きできるの?

― 俺、『短剣術』スキル持ちだけどあんな動きできる自信無いw

― じゃあ『身体強化』かな?

― どこまでがスキルで、なんのスキルなのかさっぱり分からないしなぁ


― カンナの『広域化』がある以上、パーティの誰かが持ってるスキルは全員が使い放題だからこのパーティは個々の所持スキルが読めないんだよな

― でもユズキとカンナとマフユは前のパーティの時に話してなかった?

― それも別に全部言ってるわけじゃないだろうしな

― これだけ色々やってるのに手の内は明かしてないってすごいパーティだよなぁ


― な? 戦闘にすごいしか言えないんだから、誰が一番かわいいかで議論した方がまだ有意義だろ?

― それはないわ 俺はマフユタンで

― 俺はソロ時代からカンナ推しだがな

― イヨちゃんは貰っていきますね

― お前らユズキのお姉さんみが分からんとか大丈夫か?



「お待たせ。」


 魔石と短剣を回収したユズキとイヨがカンナ達のところに戻ってくる。


「どうだった?」


「うん、問題無いかな。相手が1体ならこの調子で行けると思うわ。」


「そうだね、じゃあ行こうか。」


「フユちゃん先輩、カメラ持つよ?」


「ありがと。」


 それぞれオーガと戦ってみて、問題なく戦えると判断した柚子缶は予定通り三層まで進む事にした。


 その後、通常種のオーガを10体ほど、さらに上位種を1体、いずれも無傷で倒す事が出来た。後半には視聴者も驚き疲れてしまっていたが、流石に上位種を無傷で倒した時にはかなりの盛り上がりを見せた。


 

― うぉぉおおおおお!

― 上位種まで倒した!

― すげぇぇぇえ!!!

― 上位種ってそんな強いの

― 別格

― ゴブリンとオーガくらい違う、オーガ通常種と上位種

― ふぁ!?まじで!? 柚子缶誰も怪我ひとつ無いけど!?

― だからすごいんだって

― 熟練のパーティでも通常種を問題なく倒せたから挑戦しようかーのノリで挑んだら死人が出るくらい強いのが上位種なんだって

― 柚子缶なら勝てるとは思ったけど、無傷はすごい

― 俺は信じてたよ

― ↑俺も俺も



「はい! というわけで今日は男鹿ダンジョンでオーガを討伐しました! 上位種も倒せたという事で、この辺りで切り上げて撤収しようかと思いますので今日の配信はここまでです。」


 その後カンナはいくつかコメントを読んで、配信を終了した。


「ふぅ、緊張したね。」


「お疲れさま。トークもちゃんと出来てたし良かったと思うわよ。」


「えへへ、ありがと。」


「ところでユズキさん、これで撤収するの?」


 イヨが訊ねると横からカンナが意見を述べる。

 

「配信はちょっと長くなってたし、カメラ回ってると出来る事も話せる事も限られるしで終了したけど、個人的には上位種相手でもうちょっと技とか連携とか詰めたいかな。」


「私も氷魔法と『短剣術』と『格闘術』のコンビネーションがいい感じだからもうちょっとだけ戦っていきたい。」


 マフユも同意した。


「じゃあもうちょっとだけ、配信外で延長戦していきしょう。でもみんな、安全第一でね!」


「「「おー!」」」


 こうしてオーガを相手に残業した4人は確かな成果を実感し男鹿ダンジョンを後にした。そのままの勢いでボスも行けそうな気はしたけれど、もともと予定していなかったボス攻略は鎌倉ダンジョンで懲りていたので、大人しく退散することにしたのであった。

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