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ゴブリンさんは助けて欲しい!  作者: 玉響なつめ
オーガ(娘)編

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5

 あるところに、森があった。

 森にはモンスターがいて危険であったが、それと同時に薬草として強い効力のあるものも多く自生しており、冒険者たちがよく出入りしていた。


 時に戦い、時に敗れ、傷つき、命を落とすこともしばしば――それが、冒険者家業というものだ。



 だが。


 その森の、とある一角には一風変わった村がある。

 なんとも平和的考えを持ったゴブリンたちの集落だ。


 そしてそこを訪れる冒険者がいる。

 彼らはそこに暮らすホブゴブリンと故合って、ついには「ゴブリンさん」と呼んで親しくなったのだ。

 いや、これだけいうと超美談。だけど実際は――


「ゴブリンさん、はい! あーん!!」


「……村娘、聞く。ソレ、ナニ」


「なにって……ブラッディベアのお肉を焼いたものですよぅ」


「料理止めル! 頑張る!!」


「待てゴブリンさん、それだとどっちか伝わらない」


 ゴブリンさんは助けを求めていた。

 そりゃもう、胃袋ストレスマッハ間違いない料理を目の前にして。


 村娘と呼ばれる美少女が満面の笑顔で持ってきたのは黒い塊だ。ダークマターだ。それが肉だと言われて誰が気付くのかってくらい真っ黒だ。消し炭じゃないのかとも思うが、フォークが負けているところを見ると別のものになった気がしないでもない。

 だが誰もそれには触れない。

 料理を教えているはずのオークレディでさえ、もうこちらを見ない。むしろ見てくれと息子が願うものの、母親は時に厳しく子供を突き放すのだ。


 このくらいうまくいなせなくて、嫁取りはできないのだ息子よ……と言わんばかりに逞しい背中であった。


 この村娘、案外料理上手のオークレディに実の娘と同様色々教わっているにもかかわらず料理の腕は壊滅的だ。何をしても失敗する。お湯を沸かすことはできるけれども。

 彼女としてはリアルお袋の味を習得して、ゴブリンさんのハートを射止めたい!! とのことなのだがどうにもこうにも上手くいかない日々である。本人めげないけど。


 そしてゴブリンさんは相変わらず言い寄られて困る日々であり、最近では淡い恋心をオーガに抱いていることがバレてより攻勢を強めてきた村娘への対応にやっぱり助けを求めるばっかりだ。

 とはいえ、冒険者たちに縋ったところで返事は「無理。村娘ちゃんの説得がまず無理。そしてあの料理はない。無理。ホント無理。マジで無理」と首を振られてしまったのである。


 世の中無情だ。人は助け合って生きるべきだ! あ、ゴブリンだった。

 


 だがまあ、そういった事情を見なかったことにすれば何とも平和なモンスターと人間の交友である。


「ゴブリンさん、大丈夫かぁ?」


「ぐげー……助けナイ、酷い、冒険者……」


「いやぁ……でもほら、食わなくて済むようにはしたろ……?」


 咄嗟に盗賊男が村娘の隙をついて欠伸で口を開けたロックバードにダークマターを投げて事なきを得たのだが(勿論ロックバードからすれば迷惑だったろうけれども)、ゴブリンさんはぐったりだ。

 

「そんで、ゴブリンさん俺たちにまた頼みがあるとか言ってなかったか?」


「そうダ。村娘、人間社会復帰。諦めテナい!」


「……いやあ……人里騙して連れてってもアレじゃあ叫んでまわって周囲に味方なんぞ作れないぞ……?」


「ソレは諦めタ」


「諦めたのか」


「冒険者、呼ぶ。人間、交流する。ゴブリンの村でスる。村娘安心」


「ああ、この村で俺たちと交流しろってことか?」


「ソウ! 表向き、オデ、会う。どウ?」


 そりゃまあこの人語を理解するゴブリンさんとの友情を育むことは冒険者たちにとってもやぶさかではないものの、それをダシに村娘と交流……というのはちょっと難しいんじゃなかろうか。

 寧ろゴブリンさんとの時間を邪魔する連中くらいに見てるんじゃないだろうか。


「ああ、まあ……時間がある時、お前さんに会いにくるついでに、だな」


「ソレでいい! あリガとう」


 嬉しそうに笑うゴブリンさんはやっぱりどっからどう見てもモンスターだ。

 だけど言ってることは至極真っ当だし、やってることは優しいし、寧ろ見習うべきところがたくさんある聖人君子のようなホブゴブリンだ。

 だからこそ、盗賊男が羨むほどのモテ男でもあるのだけれども。最近じゃあ村娘がヤンデレ疑惑もあるんじゃないのかと女神官がちょっと思っているが今のところ黙っている。やっぱり言わなくていい事ってあるよね。


「それにしても今日は村が沸いてンな。客でも来るのか?」


「来ル。森の守護者、リッチのジジイの弟子のオーガ、来ル。うちの親父ト仲良シ」


「マジか。オーガとゴブリンシャーマンが仲良しとかどんだけ……いや、この村ならアリ(・・)か……」


 人間からするとオーガといえば巨人のような鬼だ。

 人肉を好んで食べるとか戦闘狂だとか、色んな説があるが取りあえず突出した頑丈さとパワーが有名だろう。


 ちなみにそのオーガの雌に、小人に属するゴブリンさんが恋してるってんだから世の中奇妙なものである。


「いや待てそのオーガの雌? がゴブリンさんと同じような特殊個体でオーガなのにちっさいとか!!」


「違いますよ……ゴブリンさんが気にしてるオーガって言うのは……」


 静かに唐突に現れた村娘が、今にも誰かをにらみ殺さんばかりに村の入り口を見据えている。

 そこには野生の牛を担いだオーガの姿だ。

 ワンショルダーの毛皮に身を包んだオーガが二体いる。片方は見るからに圧が感じられるオーガで、巨大な虎の毛皮を頭に被っているところからきっとあれは戦闘か何かで勝ち取ったものなのだろう。

 そしてそれに続く、その個体よりも僅かに大きなオーガがいる。


 そのオーガの姿を見た途端に、赤みのあるホブゴブリンの体躯を更に赤くしたゴブリンさんがいて、冒険者たちも流石に察した。


 え……マジで?

 ゴブリンさん、人間で言えば低身長の男性くらいだけどあっちのオーガ、明らかにその三倍くらい身長ありそうなんだけど。凸凹カップルにしたって限度ってものがあるんじゃないの?

 いやだからって村娘ちゃんが言うみたいに釣り合わないから諦めろとか無責任なことは言えないけど、え、でもあれは……いやそもそもあれって雌なの? どっちがどっちとか見分けつかないしどっちも筋肉質っていうか全身マッチョっていうか。


「オーガ、今日も美人……」


「え、美人なのかあれ」


「しっ、モンスターの美醜は私たちの感性と違って当たり前でしょ!」


「そうですよ、恋する相手が必要以上にキラキラしてて何が悪いんですか!」


「盗賊男さんの言うのが今回ばかりは正しいですよ! ほら見てください、あのオーガさん! 頭はつるつるだし体の色は緑色だし、アクセサリーだってつけれてないし! 持ってる武器は棍棒だし!!」


「いやなんか貶すポイントおかしいだろ村娘ちゃん」


「狩りも上手いし料理も上手だっていう点ではアタシよりもポイント高いかもしれませんけど、体格的にはアタシの方が有利なんだから!」


「いや、だから……え、あのオーガ……うん? 区別つかないな。仮にレディオーガって呼んどくか。料理上手なのか」


 あー胃袋から掴まれたのか。それは確かに大きいかもなあ、ダークマターに比べたら大抵のものが美味しいとは思うけど。


「料理上手、スゴイ、デモ、オデ、あの()の笑顔に惚レた! アノ優しい笑顔……穏ヤかデお淑ヤか。理想!」


「……ごめん。ちょっと優しい笑顔とかわかんないわ」


「あーうん、私たちまだちょっと見分けつかなくて……ごめんねゴブリンさん」


「大丈夫。人間、見分け、オデ、マダマダ難しい。そっちもオナジ!」


「相変わらず優しいよなー、ゴブリンさん……くそう、オレもゴブリンさん見習ったら彼女できっかなぁ……」


「アタシは! 認めて! ないんだからねー!!!!!」


 村娘が叫ぶ。

 そして走り去るのを見送ってから、レディオークがのしのしとやってきてゴブリンさんの頭を鷲掴んだ。

 そして「ふごっ! ふごごっ!!」と何かしら説教でもしているのか声をかけるとゴブリンさんは「ぐげー」と答えた。途端、めきぃ……っと不穏な音を立て始めたゴブリンさんの頭部。


「ぐげーーーーーーー!!!!」


 どうやら説教(物理)に移行したらしい。

 内容はともかく、これは確実にゴブリンさんが助けて欲しいはずだと流石の冒険者たちも慌ててレディオークを止めたのであった。

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