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第98話 体育祭

 クラスで一丸となるイベントの1つ、体育祭が開催されている。大体は定番の競技ばかりだが、美羽(みう)高校は少しだけ特殊だ。

 eスポーツの部があり、そちらは体育館で行われる。生憎俺はそこまでゲームに詳しくないので、そっちは得意な奴に任せてある。

 俺が出場するのは200m走とクラス対抗リレー、それから騎馬戦である。綱引きは全員参加なので、誰であろうと参加せねばならない。

 正直短距離はそこまで速くないけれど、陸上部としては他の部活の連中には負けられない。


「お疲れ一哉(かずや)


「おうよ! まあこんなもんだわな」


「余裕の1位だったな」


 短距離ランナーの一哉が、100m走できっちり1位を取って帰って来た。相手はサッカー部や野球部のエースなど、中々の強豪揃いだったがそれでも完勝である。

 流石に俺はこのメンツだったら厳しい。特に走る速度を要求されるスポーツをやっている連中が相手だと苦戦する。

 それもあってまだ体力差で勝負が出来る200mを選んだ。だがそれでもメンツ的に1位が狙えるかは怪しい。

 特に要注意はサッカー部とバスケ部のヤツだ。どちらも短距離に強い走者であり、油断は出来ない相手である。

 400m走であったならば勝つ自身もあるが、残念ながらその半分しか距離はない。


「お、次は澤井(さわい)だぜ」


「結構キツいメンツだよなぁ」


「馬鹿お前、胸は澤井の圧勝だろ」


「お前は何の話をしている?」


 相変わらず下心に忠実な男である。女子100m走に胸のサイズは関係ないだろうが。確かに一番大きいけれども。

 澤井さんの相手には別のクラスの陸上部員も居るので、中々厳しい勝負である。他の走者も、良く話題に出る体育会系の女子達だ。

 熾烈な争いになるのは避けられない。そして当然であるが、男子達の視線は集中している。

 熱い戦いであると共に、全員美人又は可愛いと有名な女子達である。中には下心が全開の男子も少なくは無い。

 悲しいかな俺の隣にもそんな男がいる。後で怒られても知らないぞ。確かに全員容姿に優れているからさ、気持ちは分からなくはないんだけど。


「お、良いねぇ。ナイス揺れ」


「オッサンじゃねーか」


「なんだよ、実際良い感じだったろ?」


 それについてはノーコメントで。確かに結構な物をお持ちではある。だがそれは俺がどうしても見たい光景ではない。

 そう俺が見たいのは薄着で室内をうろつく美佳子(みかこ)さんの……悔しいけど俺も同レベルだったわ。悲しいかな思春期真っ盛りの男子高校生。

 性に多感な時期である以上は、避けられない定め。豊かな揺れる膨らみには、どうしても視線が行ってしまうのだ。

 鋼の意志でどうにか耐えていても、つい意識が行く時はある。如何せん美佳子さんはスタイルが良く、凶悪なまでの質量を誇っている。

 流石は元モデルであると言わざるを得ない。30歳を超えても尚保たれているプロポーションは圧巻である。


「こらそこのスケベ2人組」


「はて何の事やら」


「ちょっ、澤井さん!? 俺は違うから!」


(あずま)君はジムでいっつも篠原(しのはら)さんの方を見てるよね」


 クッ……ジムでの話については一切否定が出来ない。付き合い始めたからか、以前よりは見てしまっている。

 恋人なんだから良いよねと、悪魔の囁きに敗北してしまうのだ。そんな事ばかり考えているのでは無いが、ふとした時に無意識にやってしまう。

 卒業するまでおあずけってのが、逆にエロいと言うか。そこから先は許されているんだよなって思うと、それはそれで心に来るものがある。

 予告されているからこそのエロスが、そこにはあると俺は思う。って言うのは何の話だよ、いかんな一哉のスケベ心に影響されてしまっている。

 今は体育祭に集中しよう。こんな真っ昼間から恋人のアレコレについて考えているのは中々に変態臭いしな。


「あれは頑張っているなぁって、思っているだけだから」


「えぇ、ホントかなぁ?」


「そんな事よりほら、次は霜月(しもつき)さんだよ!」


 ジト目で見て来る澤井さんの追求を、やや強引ながらも回避する。今のは嘘ではないし、実際そう思って見ている。

 ただそのついでに、ちょろっと欲を満たしているだけで。視界に入る以上は仕方ないじゃない?

 恋人が頑張っている姿を見たいと思うのは普通である。いやだからもうその話は良いから。そんな事より体育祭だってば。


 女子100m走が終われば、次は俺達男子による騎馬戦が始まる。そっちに意識を集中しておかないとケガをし兼ねない。

 浮かれた気持ちで挑んで良い競技ではないのだから。文化祭もあるのにつまらない理由で負傷をしたくはない。

 意識を切り替えている間に、女子の100m走が終わり俺達の移動する時間となる。


「っしゃあ! 行くか咲人(さきと)!」


「おう!」


「頑張ってね~2人とも」


 澤井さんに見送られながら、俺と一哉は残りのメンバーと共に待機場所へと向かう。そこからはすっかり競技に集中していた。

 何だかんだ言っても、やっぱり勝負事になると真剣になる。結局俺も体育会系の一員であり、勝ち負けにはどうしても拘ってしまう。

 特に陸上競技に関してはつい本気になってしまう。結局200m走ではガチの本気で勝負して、ギリギリ1位で終わった。

 僅差の戦いであり、流石はサッカー部とバスケ部だと思わされた。今回は勝てたけど、次も勝てるかは分からない。

 得意ではない距離だけど、それでも結局俺は走る事で負けたくないらしい。そんな自分の内心に気付きつつ、体育祭を最後まで満喫した。

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