第97話 園田マリアのゲーム配信③
咲人の要望でホラーゲームを配信する事に決めた美佳子。怖がっている所が可愛いと言われてしまったのだから仕方がない。
8月の後半から始めたサバイバルホラーゲーム、『ゾンビハザードX ラグナロク』を園田マリアが配信している。
有名な日本のホラーゲームで、結構アクション性が高いのが売りである。余程下手くそでない限りは、銃弾や回復アイテムが尽きる事はない。
何よりホラーが苦手な美佳子は当然イージーモードである。ノーマル以上では必ず通るエリアが、イージーでは丸々カットされている。
だがしかし、それでも十分怖い事には変わりない。美佳子の様な人間にはとても耐えられる内容ではない。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
『耳ないなった』
『音割れwww』
『音圧やばいってw』
『お前がホラー定期』
『喉どないなっとる?』
唐突に壁を突き破って異形の化け物が出現し、美佳子の絶叫が響き渡る。渾身の叫びを拾ったマイクは、激しく音割れしていて一部は聞き取れない。
この絶叫が音響兵器や鼓膜ブレイカー等と呼ばれて、ネットの一部では有名なネタとなっている。
美佳子の絶叫は結構な音量を誇っており、数年前には一度マイクを破壊してしまい伝説を残している。
配信の途中で美佳子の絶叫にマイクが耐えきれず、その日最大の絶叫を記録した後音声は一切流れて来なくなった。
それから暫くは恐怖のあまり美佳子はコメントに気付く事が出来ず、ゲーム音しか聞こえない状況が続いた。
普通なら放送事故なのだが、配信中にマイクを破壊した女性Vtuberとして逆に有名になった。
「出て来るなら出て来ますって言ってよ!!」
『無茶言うなw』
『それもうホラーちゃうやん』
『親切設計過ぎるwww』
『っぱマリアはホラーよ』
『これを観に来た』
恐怖のあまりズレた発言を繰り返す壊れ具合が、園田マリアのホラゲー実況の醍醐味である。
それだけではなく、これまでに残した伝説が色々とある。例えば最後まで絶対にダッシュをせずに徒歩移動のみでクリア。
NPCのパートナーキャラにガチギレして説教を始める事もあれば、驚いて吹っ飛ばしたマウスで鏡を割る事がある。
あまりにもオーバーなリアクションや対応の数々だが、その全てが素で取った行動である。
だからこそ笑いを生むというか、これで良い歳をした元モデルだというのが面白さに繋がっている。
そんな彼女に何故そこまで怖がるのにプレイしたのかと問う投げ銭が飛ぶ。
「だって皆が観たいって言うし、彼氏も観たいって言うから」
『……ん?』
『いや確かに俺らも言ったけど』
『彼氏さん?』
『彼氏ドS説ここで浮上』
『変人同士ってこと?』
咲人は単に普段見る事が出来ない、美佳子の様子を貴重だと思っただけである。というか、何をしていても可愛いと思ってしまうぐらいにベタ惚れなだけだ。
咲人は美佳子がどんな醜態を晒そうとも、それでも魅力的だと感じる。それが一般的な感覚で言えば異常であったとしても。
だがそれこそが本物の愛であると言える。どれだけみっともない姿を晒しても、それでも構わないと思えてこそだ。
下の世話をしないといけなくなっても、それでも一緒に居られる人が本物と言われたりもする。
それは実際真理であり、例え相手が寝たきりになっても許容出来なければ生涯を共にするのは難しい。
人間の寿命が長くなったからこそ、見過ごせなくなった大きな要素である。
「うわああああああああああああああああああああああああ!?」
『まあここはそうなると思った』
『やったぜ』
『綺麗に引っ掛かるなあ』
『これには開発者もニッコリ』
『こんな綺麗に罠踏む人居るんだ』
良く見れば余裕で回避出来る、シンプルな罠を見事に踏み抜いた美佳子。即死トラップにハマりゲームオーバーとなる。
殆ど見えている地雷なのだが、恐怖のあまり視野が狭まった者ほどこの罠に嵌る。ただあまりにも分かり易い為に、引っ掛かった配信者はそう多くはない。
むしろ普通なら回避して当然のトラップであり、こんな演出があったんだなぁと後から有名になった要素だ。
それを初回プレイで見事に踏み抜いた美佳子は、ある意味ではエンターテイナーと言える。
プレイヤーの8割が初見で見抜く罠に嵌った美佳子は、息も絶え絶えに配信を続けた。
怖くて徒歩移動とパートナーキャラに説教、マイク吹っ飛ばしは妹が実際にやったネタです(笑)




