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第89話 周囲の目と咲人の評価

 美佳子(みかこ)にメイクを教わりながら学生としての生活を続けている咲人(さきと)。彼女の教えで眉毛の整え方を知った咲人は、早くも実演しており形の整った眉になっていた。

 朝晩のスキンケアも続けており肌の調子もかなり良くなりつつある。それらの変化もあって、咲人は単なるショートヘアからツーブロックに髪型を変えた。

 所謂ちょっとしたイメチェンであるが、美佳子からは好評であった。元々咲人は綺麗好きであったので、清潔感は最初から持っていた。

 だが更に垢抜けた感が出てより爽やかな印象が増した。それもあって女子からの評価は上がっている。


(あずま)って結構イイ感じじゃない?」


「残念だけど、彼女居るらしいよ」


「え~~そっかぁ。そりゃ居るかぁ」


 悪ふざけをしがちな坂井一哉(さかいかずや)と良く一緒に居るので、大人しいタイプの女子からは若干怖がられている。

 逆に明るいタイプの体育会系女子からは概ね好評であり、異性としての評価は高い方に位置する。

 駅伝大会での活躍もあり、咲人はそれなりに有名な生徒である。料理が出来る事も知られ始めており、単純に男子としての人気は良好であった。


 誰とでも分け隔てなく接する所も高評価に繋がっている。モテようとして失敗する男子生徒に多いのが、女子によって態度が違うという過ちを犯す事だ。

 具体的に言えばクラスでも最高レベルの女子には優しいけれど、目立たない地味な女子には横柄だとかそう言った差をつける行為だ。

 その様な行為は案外しっかりと見られているものだ。あまりに露骨だと、あっという間に悪評へと繋がる。


「坂井の方ならフリーだよ?」


「坂井かぁ~~見た目は良いけど普通に浮気しそう」


「ウケる。でも確かにそうだよね」


 誠実さというのも非常に重要な要素であり、日々の生活から不誠実な言動をしているとマイナス評価となる。

 学生の間は気付くのが難しい事だが、男子が見た目だけで勝負出来るのは大体小学生までだ。中学生でギリギリと言った所だろう。

 これは思春期のスタートが女子の方が早い事に起因する。小学校高学年ぐらいから女子の思春期がスタートする為、男子よりも精神面の熟成が早くなる。

 それに合わせて恋愛に関する価値観も男子より早く成長する。処世術を身に着け始めるのも当然早く、男子からは女子の本音を把握するのが難しい。


「石田は?(笑)」


「ないでしょ流石に(笑) 明らか顔だけだし」


「ちょっとチャラ過ぎだよね~」


 学生時代に良く誤解されがちなのは、横柄なヤンキータイプが女子にモテるという事だ。

 アレは厳密に言えばモテているのではなく、女子が厄介事を嫌って穏便に済ませているだけである。

 不機嫌になると面倒だから合わせているだけで、実際に聞いてみたら全然モテてなどいないと言う真実が判明する。


 もちろん治安が非常に悪い地域の場合はその限りではないが、一般的な進学校では大体そんなオチが待っている。

 この事実はそれなりに女子との付き合いが無いと、男子サイドに知る機会があまりないのが落とし穴である。

 それ故に真相を知らないままでいたタイプが、いざ心機一転の大学デビューで大失敗なんて事態に発展する。


「やっぱ東ラインかぁ~」


「普通に感じ良いもんね」


「あれぐらいは最低限欲しいよね」


 基本的に中学生以上の女子生徒達は、真面目で誠実な男子を評価する。その中でも運動部で活躍しているタイプ等は特に高評価を得やすい。

 これは頑張っている姿を簡単に見られる事が大きな理由だ。必死になって練習している姿は、女子の興味を惹き付ける。

 体育祭や球技大会などで更に多くの女子が活躍を目にし、好意への発展へと繋がっていく。

 特に男女が協力して目標に向かう体育祭などは、その一体感が非常に強い効果を生んでいる。

 そう言ったイベントの後にカップルが生まれるのは、この一体感や活躍する姿の相乗効果から来ている。


「おっと、東達来ちゃった」


「あ~あ~今の東めっちゃ好みなんだけどな~」


「アンタまだ言ってんの? 諦めなって」


 女子達の恋バナが続いていた所に、咲人と一哉が朝練を終えて教室に入って来る。この様な会話がされていた事を知らない2人は、普段通りの会話で盛り上がる。

 そこに澤井朱里(さわいあかり)霜月美咲(しもつきみさき)など、いつもの主要メンバーが集まっていく。文化祭での出し物について、色々と会話を進める咲人達。

 そんなクラスの中心人物達の集まりを、遠巻きに見ている者達が一定数居た。美佳子の為にイメチェンをした咲人だったが、その効果はやや出過ぎているらしい。

 本人にその自覚は全くないのだが、確実に注目を集めていた。ある意味罪な男である。


「そう言えば咲人、さっき何か言ってたよな?」


「ん? ああ、美佳子さんがコスメを融通してくれるって話か?」


「え、東君それ本当? 凄く助かるよ」


 せっかくだからと、貰ったけど使っていないコスメの数々を美佳子が提供する事になった。

 ついでに新規グッズのテストも兼ねる事が決まっている。今どきの10代女子達にウケが良かった色をコラボコスメに採用しようと言う魂胆である。

 もちろん身バレする訳にはいかないので、その件については内緒で行われる。そこに有名雑誌の取材も付随して来る事までは咲人もまだ知らない。

 咲人の知らない所で様々な思惑が動いていた。それは兎も角として、もうすぐ球技大会が始まる。その後に体育祭もある為、忙しいイベントの連続が迫っていた。

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