第85話 美佳子とマサツグ
マサツグを飼う様になってからボクの生活は充実度が増した。大前提として咲人のお陰ではあるけれど、日々の生活に新しい刺激が出来たのは確かだね。
この子の為にも頑張って仕事をしないといけない、そんな責任の様な意識が芽生えているよ。
リスナー達を楽しませる事だけじゃなくて、生命を育てるという点で頑張る意欲が沸いている。
これも母性から来る熱意なのだろうか。その辺りはまだ母親をやった事が無いボクには分からないけど。
「ほらマサツグ~皆に挨拶して~」
「んにゃ~」
配信でマサツグの話をしたら見たいという子達が多かったので、今日の配信はマサツグのお披露目会だ。
ウェブカメラで膝の上に乗せたマサツグの姿を皆に見せている。まだ生まれてから3ヶ月と少ししか経っていないので、まだまだ体は小さくて非常に可愛らしい。
大きくなるに連れて体毛の量も増えて行くけど、今はまだそれほどモフモフじゃないんだよね。
あんまりモフれはしないけど、ペルシャ猫らしい低い鼻とペチャッとした顔はとても愛嬌があって良いよね。
大人しく穏やかな種類なので、どことなく気品もあって良い。まだ子猫だから色んな物に興味は示しているけどね。
「こら~マサツグ、それはダメだよ」
「にゃっ!」
配信で使っているゲーミングデスクの上にある、缶ビールの空き缶にマサツグが興味を持ったらしい。
猫にアルコールは厳禁だから、残念だけどそれには触らせられない。触ってはいけない物も覚えさせないといけないので、徐々に学習をさせていく必要がある。
猫は3日で飼い主を忘れるなんて言われているけど、実際には記憶力に優れている動物なんだよね。
特に短期記憶に優れた動物だから、覚えるまでが結構早い。特にペルシャ猫は賢い部類であるから、根気良く教えれば分かってくれる。
流石にまだ幼い内はそれ程スムーズではないだろうけどね。まあ躾で苦労するのはペットを飼う上で仕方のない事だしね。
「マサツグ~皆が顔見えないってさ」
「にゃ」
「仕方ないな~ちょっと待ってね」
ウェブカメラを直接手で持ってマサツグの顔が映る位置まで移動させる。丁度いい位置を探るけれど、キョロキョロしていて中々定まらない。
持ち前の高い好奇心から、色んな物がどうしても気になるらしい。ペットショップに居た頃には無かった家具類が沢山あるし、床の上には色んな物も落ちている。
遊びたいのだろうけど、流石にゴミで遊ばせるわけにはいかない。健康診断ではすこぶる健康だったけど、まだまだ成猫になるまでは安心出来ない。
小さい頃の扱いは慎重にしないといけない。感染症にでもなると大変だしね。
「お、これでどうかな? 皆見えてる~?」
「にゃっ!」
「こらこら、これはおもちゃじゃないよ」
近付けたウェブカメラが気になったのか、猫パンチをレンズにお見舞いしている。これはこれでリスナー達が喜んでいるので、暫くは好きにさせる事にした。
猫パンチを繰り出す度に、ウェブカメラにマサツグの爪が当たる音がしている。そろそろ生後1ヶ月が経つ頃なので、爪切りもやり始めないといけない。
爪がしっかりし始めているから、爪を立てられると少し痛い。爪切りを嫌いにならない様に注意しないと、これからのマサツグとの生活に悪影響が出てしまう。
全然平気な子は大丈夫なんだけど、マサツグがどうかはやってみないと分からない。猫にだって個性はあるからね。
「おっと、マサツグ~お顔拭いてあげるね」
「にゃあ~?」
「大人しくしててね~」
ペルシャ猫の様に鼻が低い種類は涙や目ヤニが溜まりやすい。放置すると病気の原因になったりするので、それなりの頻度で目の周りを拭いてあげる必要がある。
これもまた嫌いにならない様にしないといけない。猫は犬より楽というけど、犬に比べたらというだけ。猫は猫なりに大変なんだよね。
昔飼っていたサイベリアンは1日に1回でも十分だったけれど、マサツグの様なペルシャ猫は1日に何回か拭かねばならない。
だから顔拭きを嫌いになられてしまうと厄介な事になる。不快感を持たせない様に、撫でながら優しくコットンで目の周りを拭き取る。
見た感じ特に異常な色はしていないし、量も普通だから問題は無さそう。
「はいオッケー! 良い子だね~」
「にゃ~~」
「ありゃ? おねむかな?」
顔を拭いているのが気持ち良かったのか、瞼を閉じて寝る体勢に入った。子猫の間は寝るのが仕事の様なもの。
寝る子は育つと言うからね、沢山寝て元気に育って欲しい。マサツグの小さな体を撫でていたら、それで満足したのか眠り始めた。
その姿もまた可愛らしいので、そのまま配信に乗せておく。すやすやと眠るマサツグの姿が、ぬいぐるみの様でリスナー達が盛り上がる。
これまでメイク関係でしか実写の配信はして来なかったけど、これからはマサツグの成長記録を配信するのも良いかも知れない。
提案してみたら肯定的だったので、これから定期的に開催する事に決める。
「じゃあまた近い内に2回目のマサツグ配信をやるね~」
今このマサツグに感じている感情を、ボクに子供が出来たら抱くのだろうか? きっと可愛いんだろうね、咲人との子供は。
それが実現するのは暫く先だけど、マサツグが生きている間には産みたいとは思う。マサツグの妹になるのか弟になるのかは、まだまだ分からないけどね。




