表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/306

第84話 園田マリアの雑談配信⑤

 篠原(しのはら)家にマサツグが迎え入れられて1週間と少しが経った頃、園田(そのだ)マリアの雑談配信がいつもの様に行われていた。

 平日の夜21時という、配信が盛り上がる良い時間帯だけあって今回もリスナーは大勢集まっている。

 社会人や学生が大勢集まっている中で、篠原家の新しい家族が紹介された。


「実は最近猫を飼い始めました~マサツグ君だよ~。これが写真ね」


『超かわいい!!』

『あらぁ~~』

『良いな~私も猫飼いたい』

『あの散らかり具合でペットマジか』

『汚部屋の住人ほどペット飼いたがるの何?』


 生後3ヶ月と少しのまだ1歳にもなっていないペルシャ猫のオス。可愛らしい寝顔を見せているマサツグの写真により、配信のコメント欄は一気に加速する。

 その多くはマサツグの可愛さへの言及や、自分も猫を飼いたい者達による羨望の念が大半だ。

 しかしその中には、美佳子(みかこ)の汚部屋具合を知っている者達による不安の声も見受けられる。これまでの行いを考えれば、心配されるのは当然である。

 猫を多頭飼いしているのに、家がゴミ屋敷になってしまった話は良くある。多頭飼いでは無くても、汚部屋ながら猫を飼っている配信者も少なくはない。


「今は彼氏が綺麗に掃除してくれてるから大丈夫です~~」


『ああ、うん。そう……』

『何だろうな、この気持ち』

『分かるぞ俺も』

『全然彼氏が羨ましいって、思えないんだよな』

『頑張れ、マリアの彼氏』


 園田マリアの配信を観ている男性リスナーの多くは、美佳子の滅茶苦茶具合を楽しんでいるだけだ。

 付き合いたいとか、結婚したいと言った感情は持ち合わせていない。だからこその微妙な空気感が、男性リスナー達の画面を越えて伝播する。

 普通なら羨ましいと感じる筈の恋人関係だが、彼らにはそれが羨ましいとは思えなかった。

 何せ咲人(さきと)が居なければ、家事代行業者からクレームが入るレベルで散らかす美佳子だ。その汚さを知っている男性リスナー達にはその苦労が良く分かる。

 とてもではないが、変わって欲しいなんて思わない。だが女性リスナーや美佳子にとってはそうではない。


「だからね、ボクは言い続けて来たでしょ? 家事の出来る男子が一番だって」


『私も家事出来る彼氏が良い』

『マリアの配信見てたら別れようか悩む』

『家庭的男子クソ羨ましい』

『流行れ……流行れ……』

『顔より家事』


 配信という文化が世の中に定着して以降、他者のリアルな生活に触れられる機会が増加した。

 それにより男性が想像している以上に、女性にも雑な生活をしている人が多いという事が分かった。

 もちろんそうなるよりも前から、家庭的な方が女性にモテると知っていた男性は多少なりとも居た。


 そのタイプの男性達の存在と、世間の風潮の変化により昔以上に家庭的な男性の価値は高くなっている。

 咲人の様な家事全般が得意な男性は、これから需要がより高くなっていく可能性がある。

 夫婦共働きが当たり前の時代に変わり、仕事をしているだけでは夫としての役割を果たしたとは言い切れなくなっている。

 女性への理解力と生活能力の高さが、容姿の価値を上回る時代が来るかも知れない。もしかしたら既にそうなりつつあるのだろうか。


「流行ってから追いかけても遅いからね。目指すなら今の内だよ」


『今からでも入れる保険はありますか?』

『レンチンなら出来ます』

『毎日チャーハンでいい?』

『野菜炒めならワンチャン作れる』

『ここのコメ欄ダメそうで草』


 好まれる男性像というのは、時代の変化と共に変わっていく。例えばお見合いで結婚していた時代から、自由恋愛に変わった時もそう。

 喧嘩が強い男らしい男性が望まれた時代も、暴走族やヤンキー文化の衰退で廃れていった。

 では今はどうかと言うと、空気を読む能力と共感力の高い男性が好印象を抱かれる傾向がある。

 モラハラやノンデリという言葉が定着した様に、女性に寄り添えるかどうかは大きな要因となっている。


 それが当たり前になってから目指している様では周回遅れになる。分かり易い例が清潔感だろう。

 清潔感なんてモテる上では当たり前に必要な要素で、今となっては持ち得ているのが大前提である。

 その上でプラスの要素がないと恋愛をするのは難しい。あくまで土台に過ぎない要素を、努力と誤解して頑張ったつもりになってしまう人が後を絶たない。

 清潔感があるとか優しいとか、そんなのは『モテる』上では必須の条件だ。モテている人が当たり前に持っている、その最低ラインを揃えただけでは足りないのだ。


「希少価値がある間が旬だからね。皆がやる様になったら手遅れだよ」


『まあ料理出来て損はないしな』

『結婚する気なくても意味はあるか』

『大体料理人って男が多いわけやし』

『良く考えると無理って気はせんな』

『どしたん今日? 人生の為になる配信?』


 猫を飼い始めた話から始まった、今の時代に受ける男性像の話題。それが中々に男性リスナー達に好評で、これ以降料理に挑戦する男性達が増える事になる。

 その切っ掛けが残念過ぎる美佳子の私生活なのは、果たして良いのか悪いのか微妙なラインではある。

 ただこの配信の切り抜きが出回る様になってから、家事が苦手な女性と得意な男性のマッチングが少し増えたという。

 その報告がチャット欄でたまに来る様になり、それはそれでまた盛り上がる要因になっていくのはもう少し未来の話だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ