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第83話 大きいのと小さいの

 マサツグという新しい篠原(しのはら)家の一員を迎え入れたけれど、これがまあ中々に大変だった。

 生まれたばかりの子猫なので、まだまだ何も理解出来ていない。不思議そうに周囲を見ながらリビングの中で、色々と物色をしたがる。

 まだ幼いので跳躍力も低く、高い所には登れない。だけどいずれは棚の上に登る事も増えて来るだろう。

 その辺りにも注意して物を片付けないといけない。そして子猫が居るから少しはマシになったかと思いきや、美佳子(みかこ)さんは結局相変わらずだった。


「これ、ただリビングに物を置かなくなっただけですよね?」


「マサツグへの配慮だよ!」


「その分防音室が凄い事になってますけどね」


 少しぐらいは片付ける様になったのかと一瞬期待した。家に入ってすぐのリビングは、まあそれ程汚くはない。以前と比べればだいぶマシだ。

 やれば出来るんだと思ったけど、それは気のせいだった。単に防音室と寝室に全てをぶち込む様になっただけである。

 まだ子猫であるマサツグへの配慮は確かに出来ているけど、ただそれだけである。成長や進歩という言葉とは程遠い結果であり、現状維持でしかないのである。

 私生活が残念でも構わないけれど、思っていた結果と少し違う気もする。この方が美佳子さんらしいと言えばそうなんだけど。


「ああこらマサツグ、紙はダメだ」


「マサツグはペルシャだからね~好奇心旺盛なんだよねぇ」


「子犬とは興味の示し方が違いますね」


 子犬はとにかくすぐ噛む。気になったスリッパ等を噛んだり振り回したりする。だけど子猫の場合は、基本前足で叩いてみたりひっかいてみたり。

 噛まないわけではないけれど、頻度としては猫パンチの割合が高い。もう少し大きくなるまでには、爪とぎの場所を覚えさせないといけない。

 そんな苦労がある反面、犬より楽な面もある。猫は犬程トイレのしつけが難しくない事だ。


 これには驚かされたのだけど、なんとマサツグは2日目にはトイレを覚えていた。その早さは子犬と比べて随分な差がある。

 これは美佳子さんに教えて貰ったのだけど、敢えて猫が尿をした猫砂を少し残しておくのだそう。

 経験者だからというのもあるのだろうけど、そのやり方にはなるほどなぁと感心させられた。


「さっきまで寝てたんだけどね、遊びたくなったのかな」


「あ、じゃあちょっと遊んでやろうかな」


「マサツグはこれが気に入ったみたいだよ」


 美佳子さんに手渡されたのは、黄色いシンプルな猫じゃらしだ。最初に何種類か猫用のおもちゃは買ってあるけど、現状はこれが良いのか。

 これは犬もそうだったけど、何を気に入るかは与えてみないと分からない。うちで飼っていたマリーも、新しく買ったおもちゃには興味を示さない事があった。

 一体何が良いのか、ボロボロになったゴムボールにずっと執着していた。人間にも好みや拘りがあるので、多分そういう事だとは思うけど。

 ペットは話さないので理由が分からないんだよな。何となくの意思疎通は出来るけれど。


「よし、来いマサツグ」


「今の所は元気で良かったよ。明後日には一回病院に連れていくけど」


「予防接種ですか?」


「そうそう。それに健康診断もね」


 犬や猫は予防接種をするのが一般的だ。犬だと狂犬病等の感染症やフィラリア等の対策が主な理由である。

 そして猫の場合は、狂犬病の様な法律で対策を義務付けられている病気はない。ただし病気に関するリスクは猫も変わらないので、受けないという選択肢は先ずない。

 それに寄生虫予防などをしていないペットは、同行可能な施設であっても断られる場合がある。

 そう言った点も考慮すると結局必須には近い。ここが初期費用としては見えにくい部分なんだよな。

 犬や猫の病院代は結構掛かる。最近はペット保険なんてあるけれど、それでも人間みたいに健康保険はない。


「何も無ければ良いですけど」


「まだ幼いからね~今は元気でも」


「変な物を口に入れるなよ~マサツグ」


 犬や猫には食べさせてはいけない食材がある。ネギやチョコレート等は有名だろう。キシリトール辺りも有名どころか。

 犬と猫は微妙にNGな食材が異なるので、俺も注意しないといけない。そこに関しては真っ先に調べてある。そして現状一番不安なのはアルコールだ。

 なんせ飼い主が酒豪なので、ここにはアルコールが大量にある。猫は分解出来ないので、少量でも舐めると危険だそう。

 つまり俺の清掃能力が試されている。それにお酒が好きな人が猫を飼ってはいけないと言う決まりはない。

 ちゃんと両立している人だって普通に居る。しかし美佳子さんはこの通りなので、絶対に安心とは言い切れない。


「美佳子さん、ビールの缶は絶対すすいで下さいよ」


「もちろん! ちゃんとやっているよ!」


「そこまでやったら、後はゴミ袋に入れるだけなんだけどなぁ」


「それよりさぁ~ボクにも構ってよ」


 相変わらずの美佳子さんと、マサツグの相手をしつつ1日を過ごした。何だか大きな猫と子猫を同時に構っている様な気分になった。

 大きい方もそれはそれで可愛いので良しとする。美佳子さんという癒しと、マサツグという新しい癒しが追加で発生したのは喜ばしい。

 ただその分の苦労も増えた点はなんと表現すべきだろうか。決して嫌ではないけれど、忙しくなったのは間違いないだろう。

 でもそれが俺には、充実した日々に感じられた。些細な幸せに過ぎないけれど、それでも十分価値のある事がと俺は思う。

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