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第79話 メイクの話 後編

婚姻可能年齢について法改正後の解釈で変な勘違いをしていたので、以前のエピソードに修正をいれています。

今は女性も18歳から、が正しいですね。逆に解釈していました。何故そうなったのか、自分の事ながら謎過ぎる。

 学校の休み時間に、俺は少しだけ理解出来たメンズメイクの通販ページをスマートフォンで見ていた。

 美佳子(みかこ)さんにも聞きながら、本格的に挑戦するか悩んでいる。とりあえず化粧水だけでも使った方が将来の為になると教わった。

 若い内からスキンケアをしておくのは大切らしい。そんな事をぼんやりと考えながら見ていたら、一哉(かずや)が俺の席までやって来た。


「何見てんだよ咲人(さきと)?」


「いや、メイクを始めてみようかなって」


「え、マジ? お前分かるの?」


「まだ分かるって程ではないけど」


 初心者も良い所で、まだ全然分からない事だらけだ。買うにしても合う合わないがあるらしく、適当に買うのは止めたほうが良いと言われている。

 ちゃんとパッチテストっていうのをやらないと、逆に自分の肌に合わない品を買ってしまう場合があるとか。

 肌に合う商品を分かった上で買うのは良いけど、いきなりからアレコレと手を出しても大体は失敗するらしい。

 中々に複雑と言うか、奥が深いんだなと改めて思った。料理で言えば卵アレルギーとかもあるし、蕎麦アレルギーなんて深刻な問題だ。それと似た様なものとだろうか。


「出来る様になったら教えてくれよ」


「良いけど、何でだ?」


「その方がモテそうじゃん?」


 何とも一哉らしい理由である。勘違いされたら困るから、俺はモテるのが目的ではないと念の為に表明しておく。

 変な誤解はされたくないし、メイクをするにしても学校には多分殆どして来ないだろう。やるとしたら美佳子さんと会う時だけで良い。

 今から学校で女子にモテようとする意味がないし。大体そんなのは女子にも美佳子さんにも不誠実だ。

 彼女が居るのに女子の気を引いてどうするというのか。美佳子さんには出来るだけ良い所を見せたいけど、学校では別にどうでも良い。どうでも良いって表現は語弊があるかも知れないが。


「あっれー? (あずま)メイク始めんの?」


「げっ斎藤(さいとう)


「げって何よ、げって」


 たまたま近くを通ったウチのクラスを代表するギャルコンビ、斎藤さんと山本(やまもと)さんが俺達に話し掛けて来た。

 斎藤さんは長い茶髪にウェーブをかけている派手なタイプのギャルで、山本さんはミディアムヘアの黒髪に赤いインナーカラーを入れているバンギャだ。

 2人とも特徴的なメイクをしているので、俺達の会話が気になったのだろう。今時は男子でもメイク関連の話をするのはそれ程珍しくはない。

 ただ実際にしている男子生徒は居ない。大体は興味があるけど手は出していないという感じだ。後はどの家庭も父親が教えられる世代ではないのもある。


「ふーん、まあ東は映えそうだよね」


「おい山本、東はって何だよ。俺は?」


「だって坂井(さかい)がメイクしてもねぇ」


 化粧映えってやつだろうか。それは美佳子さんにも言われたんだよな。二重で涙袋(なみだぶくろ)があるからアイメイクがやり易いとか何とか。

 その辺りはまだ良く分かっていない。まだベースメイクしか経験した事がないし、その先は何となくしか分からない。

 ただベースメイクを知った事で、それより先がちょっとだけ見て分かる様になった。特に派手なこの2人組を見ていれば分かり易い。

 アイメイク、要するに目の周辺に関するメイクだが、2人ともかなりガッツリと入れている。

 どれがマスカラでどれがアイシャドウとか、そこまでは分からないけど。ただ結構お金を掛けているのだけは分かる。


「どした東? 私に惚れちゃった?」


「違うよ! ただ斎藤達って、毎日大変だろうなって思っただけだ」


「そうなんだよ! メッチャ大変なの! 頑張ってんの私ら!」


 何かのスイッチを入れてしまったらしく、斎藤さんと山本さんの話がどんどん進んでいく。

 朝何時に起きているとか、どれだけ時間を掛けているとか。更にはメイクに掛けている費用についても語り出し、彼女達の愚痴? みたい話が続く。

 女子はこれだけ頑張っているのに、男子が無粋にもケチをつけて来るという話にまで飛び火する。

 俺はそんな事をしていないので平気だが、周囲の心当たりがある男子達が視線を逸らしていた。

 まあ確かに居るよな、○○はメイクが濃いとか言う奴。濃くて何が悪いのかは俺には分からない。別に似合っていたら何でも良いと思うけどな。


「ていう訳よ。分かった坂井!」


「俺は何も言ってないだろ! これだから斎藤は面倒なんだ」


「東は良き理解者になってくれそう」


「いやいや山本さん、理解者ってそんな大層な」


 一哉のいつもの自業自得はともかく、メイクについて考えていただけなのに何故か俺の株が上がっていた。

 気が付けば澤井(さわい)さんや霜月(しもつき)さんまで参戦し始めて、何故か女子の苦労を分かってくれる男子代表みたいな扱いを受け始めた。

 それはちょっと待って欲しいというか、絶対に面倒事に巻き込まれそうな立ち位置はちょっと……。

 出来ればそれは辞退したいと言いますか。拒否権って言うと言葉が悪いとは思うので、俺よりも相応しい他の誰かにお譲りしたいのですが。

 ダメ、ですかそうですか。何かもう、俺に選択肢はないらしい。そのポジションには居たくないんだけど。


「流石だね東君、大人の女性と付き合ってるだけあるね!」


「澤井さん、今はそれ、あんまり嬉しくないや」


 今後面倒な事態に巻き込まれない事を祈りたい所だ。美佳子さんの家に行く前に、神社にでも寄って祈っておこう。

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