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第78話 メイクの話 前編

 いつもの様に部活帰りに美佳子(みかこ)さんの家に家事代行に来たのだが、何やら美佳子さんはテーブルの上に色んな物を置いている。

 それは散らかしていると言う意味ではなく、小さな瓶や入れ物を並べて何やらやっているらしい。

 遠目に見たら怪しい儀式の様だけど、近くに来たらそれらが化粧品である事が分かった。


「何してるんですか? そんなに並べて」


「ああ咲人(さきと)、いらっしゃい。これは新しいコラボコスメの試作品だよ」


「あ~配信で言ってたやつ」


「そうそう~それそれ」


 Vtuber園田(そのだ)マリアとして美佳子さんが販売する予定のコラボコスメだ。再販するとか言っていたし、新しいのが欲しいという意見も出ていた。

 多分これらがそうなんだろう。何かの瓶や口紅っぽい小筒、良く分からない平らなケースなどに園田マリアのロゴが描かれている。

 美佳子さんは真剣な表情で手の甲に何やら塗っては色を見ている。あれは何だっけか?

 ファンデーションで良いんだっけ? 肌色っぽい色の化粧品。メンズコスメが今では普通に売っているので、化粧品に全く興味がないわけではない。

 それで少しでも美佳子さんが喜ぶのなら、俺もメイクを覚えたって良いと思っている。


「美佳子さん、俺もメイク出来た方が良いですか?」


「本格的にやり出したらお金掛かるよ~? ベースメイクだけでも結構するし」


「べ、ベースメイク?」


「メイクする前のメイクの事だよ」


 すみません意味が分かりません。メイクする前のメイクって何? どういう事なの? 軽い気持ちで踏み込んで良い世界では無かったらしい。

 既にもう意味が分からない。メイクって、化粧をする事じゃないのか? 英語だから変な気がするだけ?

 いやでも化粧をする前の化粧って考えても、やっぱり意味が分からない。日本語にしても意味不明だ。

 結局何なのベースメイクって? ベースって事だから基礎とかそう言う意味だよな?

 基礎だろうがメイクはメイクじゃないの? 難し過ぎない? 女性の世界って。まるで理解出来ないんだけど。


「あ~えっとね。ベースメイクってのは肌を整える事だね」


「整える、ですか?」


「そうそう。洗顔して化粧水と乳液つけて、ファンデーションしてコンシーラーしてスキンパウダーだね」


「……どういう事ですか?」


 いまいちピンと来ない俺の為に、美佳子さんが実際に体験させてくれた。先ずは洗面所に行って洗顔をする。

 これぐらいは俺でも普段からやっている。しかしそこから先は知らない事ばかりだった。

 化粧水なんて初めて使ったし、乳液ってものがどういう物か知らなかった。化粧水で肌に水分を与え、乳液を塗る事で水分を逃がさない様にするらしい。

 最初は混乱して、理解するのに時間が掛かった。けれど料理で食材の旨味を飛ばさない様にするのと同じ、そこに気付いてからは少しずつだけど理解出来き始めた。


「下拵え、みたいな事ですか?」


「うん? まあ、そうかな? そうかも」


「ちょっと分かって来ました」


 続いてコンシーラーと呼ばれる物を使った。ペンや筆等の幾つかのタイプがあるそうだ。

 今回使ったのは口紅やリップクリームみたいな形状のヤツだ。これはニキビの跡やクマを隠す為に使うものらしい。

 そんなものあるんだと勉強になりました。最後にスキンパウダーで仕上げに入る。これはパフやブラシで顔に塗っていくものだそう。

 作業を終えて鏡を見れば、凄く綺麗な肌色をした俺がいた。成る程これがベースメイクか。ここまでやって理解しました。

 言ってしまえばエビを洗いながら殻を剥き、一旦水分をとって小麦粉をまぶし、そしてパン粉を付けた揚げる前のエビフライだ。


「そういう事ですよね!」


「ごめん料理に例えられたら分かんない」


「いえ、大丈夫です。大体分かりました」


 なるほどこれは奥が深い。料理の深淵は底が見えないのと同じだ。例えばカレーなんて誰でも作れる。そんな事を平気で言う人が居る。

 だがそれはあまりにも浅慮であると言わせて貰いたい。確かにシンプルな料理だろう。人参じゃが芋タマネギ肉、それらをルーと煮込めば完成だ。

 ああそうだろう、極論を言えばカレーなんてそんな料理だ。包丁で食材さえ切る事が出来れば、誰でも作れる料理に過ぎない。

 だがしかし、それで誰もが美味しいカレーを作れる訳ではない。煮込む時間に適切なサイズで食材を切る事、食べる人に合った辛さかどうか。

 そもそも具材はそんなシンプルで良いのか。それらを良く考える事で初めて美味しいカレーになる。


「メイクはカレーと同じなんですね!」


「えっと……ごめん初めて咲人が分からなくなったよ」


「俺、楽しくなって来ました」


 こんなに奥深くて探究のし甲斐があるとは思わなかった。それに手先の器用さを問われている様で、俄然やる気が湧いて来る。

 今まで手を出して来なかったけれど、メンズメイクにも挑戦するだけの意味を感じ始めている。

 それにちょっと楽しくなっている自分がいる。まるで俺自身とは思えない程に、綺麗になった顔を見ると非常に興味深い。

 イケメンを自称出来る様な顔では無かったのに、まあまあ良い感じにはなれている。メンズメイクの可能性について、もう少し学ぶ価値を感じ始めていた。

今の10代って、メンズメイクに興味ある子多いんですよ。身内にもいます。

時代の変化ですよね~言うて私も興味はあるんですけど。

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