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第74話 初心者が陥りがちなミス

 新学期だからと言って、特別大きな変化があるわけではない。体育祭や文化祭、修学旅行などが控えているがまだ先の話。

 9月はこれと言ったイベントは特にない。つまり平凡な日常が続くという訳で、まあ特に変わりない毎日だ。

 登校して部活に出て、家事代行もしくはジムに行く。最近は美佳子(みかこ)さんと一緒にジムに行く事も多い。今日も一緒に来た訳だが、最近は山崎(やまざき)さんが凄く楽しそうだ。


「で、どうなの(あずま)君? 大人のお姉さんとのラブは?」


「ラ、ラブって……特に何もないですよ」


「え~~そうなのぉ?」


 女性って恋バナ好きだよなぁ。澤井(さわい)さんもちょくちょく聞いて来るし。どうなのと聞かれても、普通に健全な関係を続けているだけに過ぎない。

 ごくたまにキスをする程度であり、それ以上はない。法律上はどうしようもない事であり、ラブだなんて言う程の何かはない。

 そもそも初めて出来た恋人であり、今の内から洒落たデートなんて出来はしない。まだまだ経験値が足りていないのだ。

 高校を卒業する頃には、旅館に泊まる様なデートとかも出来たら良いなとは思うけど。今は学校と部活があるから泊りがけは難しい。。


「高校生の男子なのに、真面目なんだね」


「当然じゃないですか。俺はそう言う目的で付き合っているんじゃないですし」


「可愛いわねぇ~~青春だなぁ」


 最近はこうして良い玩具である。より正確に言うならば、歩く青春小説とでも言うべきか。いつも楽しそうに色々と聞いて来るんだ。

 ただ相談にも乗ってくれるので、邪険にも出来ない。半分は冷やかしで、もう半分は恋愛相談だ。

 大人の女性がどう思うか、という点では結構参考にはなる。1番は阿坂(あさか)先生で、2番目がこの人である。

 母親が居ない我が家では、参考に出来る人が居ないのだ。阿坂先生はシビアな意見をくれるけど、その分言う事は厳しい。

 対して山崎さんの場合は、当たり障りないけど優しい意見だ。これはこれで助かってはいる。


「そう言えばさ、記念日は何したの?」


「記念日って? 誕生日なら祝いましたけど」


「え? まさか祝ってないの!?」


 待って欲しい、一体何の話をしているんだろう。誕生日の話じゃないのだろうか。記念日って言われても何の記念日の話だろう。

 記念日って言うからにはカレンダー的な話だろうか。ここ数日の間に憲法記念日とか、そう言った祝日があっただろうか。

 少なくとも俺の記憶には全くないし、そもそも8月に何かを祝う様な記念日は無かったと思うけどな。

 恋人同士で何かすると言えば、後はクリスマスぐらいしか思い浮かばない。美佳子さんの誕生日はお祝いしたし、俺の誕生日は4月だからまだまだ先だ。

 本気で何の事を言われているのか分からない。ここ最近で何か恋人同士で祝う日があっただろうか?


「1ヶ月記念じゃない! 付き合い始めた日から!」


「…………え?」


「脇が甘いなぁ高校生」


 そんな1ヶ月なんて短いスパンで祝うものなのか!? 似た様なもので言えば結婚記念日だけど、1ヶ月毎に祝うなんて聞いた事がない。

 普通は1年周期で祝う筈だし、父さん達もそうだったと思う。恋人同士の場合は違うのか? その場合は1ヶ月刻みなの!?

 知らないよそんなの。え、これって常識なのか? 何か当たり前の事の様に言われたけれど、少なくとも俺は聞いた事が無い。

 美佳子さんは何も言ってなかったし、そもそも付き合いだしたのは7月の28日だ。誕生日が8月29日で記念日というなら、その前日になる。

 だと言うのに何も言われてないのだから、何も問題はない筈じゃ……。


「だって、美佳子さんは何も……」


「黙っててくれているだけじゃない?」


「そ、そんな……」


 やってしまった……無知故に気付かなかった。恋愛経験が無さ過ぎて、そんな細かな所まで見えていなかった。

 誕生日を祝う事ばかりに集中していて、そこに意識は行っていなかった。1ヶ月経ったのは分かっていたけど、それを祝う必要があったなんて。

 もし祝っていない事が原因で怒らせていたらどうしよう。やっぱり子供だなと思われていたら。

 結婚記念日を忘れていて、奥さんを怒らせる話なら聞いた事はある。そんなの忘れる方が悪いと思っていたのに、自分もやってしまっている。

 知らなかったとは言え、やっている事は殆ど似た様なものじゃないか。


「気にしない人もいるけど、そういうのは最初に話し合う事だよ」


「うっ……」


「今からでも話し合った方が良いと思うよ? 気にする人は根に持つし」


 何という事だろう。美佳子さんと付き合えたからって浮かれていた。だからそんな初歩的な事も知らないままでいた。

 阿坂先生の言った通りで、格好つける事ばかり意識していた。もっとやるべき事は他にあったんだ。

 どんなに格好をつけた所で、肝心な所を外していたら意味がない。なるほど確かにガキの背伸びだ、全然何も分かっていない。


 こんな体たらくでは、美佳子さんに見合う男なんてとてもなれない。俺が甘かったのは間違いない。

 しっかり彼氏をやろうと余計な事ばかりに力を入れていた。そうじゃない、そこじゃないんだ。どう見えるか、どう見せるかは今重要なポイントじゃない。

 どうせ初心者なんだから、上手くやろうとしても意味がない。真摯に向き合う事こそが、一番大切な事だったんだ。

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