第71話 親友と覚悟と
章設定機能を今更知りました。1/16から章設定と賞タイトルを追加しています。
篠原美佳子はこう見えて交友関係が広い。生活能力が著しく低いだけで、人当たりはかなり良い方である。
そんな美佳子の友人には、竹原沙耶香という女性がいる。彼女は東京でファッション誌の編集をしている女性だ。
沙耶香もまた美佳子と同様に元モデルであり、その付き合いはかなり長く学生時代まで遡る。
暮らしている都道府県が違うので、頻繁には顔を合わさないが連絡は定期的に取っている。プライベートだけでなく、最近は仕事面でも連絡を取る機会が増えていた。
「えー? ボクがコラム書くの?」
『そうよ。アンタ若い子にウケ良いから』
「そう言われてもなー。コラムなんて書いた事ないんだけど?」
『テーマの選定とか校正諸々はこっちでやるから』
美佳子の演じる園田マリアは、10代や20代の女子から非常に高い人気を誇る。それこそコラボコスメが速攻で売り切れる程に。
彼女は家事に関しては最低レベルだが、美容やファッション関係の知識は非常に豊富である。
配信でその知識を披露して以来、女性リスナーがジワジワと増えて今では男女比がほぼ半々である。
また最近ではメイクをする若い男性が増えつつあるので、そう言った層からの支持も厚い。
それらを考慮すれば、美佳子にコラムを書かせるのも悪い判断ではない。むしろ新規購読者の獲得にも期待出来る。
『この前の女性配信者特集はウケ良かったからね。アンタなら大丈夫でしょ』
「まあ~さやちゃんが良いならやっても良いけど」
『月1で良いからさ。もちろん報酬も出すわ』
金額面や締め切りに関しての取り決めが進んでいく。美佳子は今更収入源を増やす必要もないが、友人の頼みとあれば断る理由もない。
頼まれたコラムも、それほど文字数を必要としない小さなスペースだ。日常的に文章を書く生活をしていなくても、不可能ではない程度のボリュームしかない。
そもそも沙耶香とて、美佳子にプロ作家並みの文章期待していない。賑やかし程度で十分であり、若い世代の興味を引ければそれで良いのだ。
それに若い世代を相手に、長ったらしいお説教の様な文章を書いても読まれないし意味が無い。
『じゃあその件についてはこれで』
「あれ? まだ何かあったの?」
『アンタにまた男性を紹介しようかと思ってね』
沙耶香は古くからの友人として、美佳子の恋愛遍歴を知っている。スタートは良くても、結局はその私生活が原因で別れている事も当然把握している。
だからこそ、沙耶香なりに心配していた。美佳子には結婚願望があり、しかし30を過ぎても恋人すらいない。
妊娠出産も考えると、もうあまり猶予が残されていない。これ以上遅れればその分だけ、リスクが上がっていく。
だからこそ、こうしてたまにサポートをしていた。ただやっぱり上手くはいかず、現在まで至っていたわけだ。あくまで沙耶香から見た視点としては。
「あー! ごめん言ってなかったよね。彼氏出来ました」
『アンタそれ、また家を見られて別れるオチじゃないの?』
「それがねぇ~私生活込みでオッケー貰ってます!」
『は、はぁ!? 嘘でしょ!?』
沙耶香はこれまでも、部屋が汚くても平気だという男性を何度か紹介した。しかし彼らにも許容出来る限度があり、美佳子の家を見ると撤退していった。
私生活を除けば非常に優良な物件であるだけに、名乗り出る男性はそれなりに居たのだ。もちろん沙耶香も誰彼構わず紹介はしない。
明らかに下心が見えている様なタイプは最初から弾いている。そんな沙耶香のチェックを通った男性陣は、残念ながら軒並み全滅していた。
今回も厳しいかも知れないが、ギリギリ何とかなるかも知れない。そんな男性を見つけた沙耶香だったが、少しタイミングが遅かった。
一体どんな相手を見つけたのだと沙耶香は尋ねると、驚きの答えが美佳子から返って来た。
『はぁ~!? アンタ結局は高校生に手ぇ出したの!?』
「手は出してないよ! 酷いなぁもう」
『分かってんの? 相手は未成年なのよ?』
「分かってるよ。リスクとか色々とね」
沙耶香のリアクションは最もであり、真意を尋ねたくなるのは当然だ。15歳も年齢差があり、相手はまだ大人ではない。
子供を産むリスクを考えれば、相手が成人するまで待たねばならないのは大きなデメリットだ。
結婚だけなら咲人が18歳になれば可能だが、それだって生活費は全て美佳子が出さねばならない。
資金的な問題で言えばそれも可能ではあるが、沙耶香が問うているのはそう言う事では無い。
もし2年も待って相手が心変わりしたら。社会人になってから別れを持ち出されたら。再スタートを切るのは難しい。
「あのね、さやちゃん。彼はボクの理想の塊なんだ。もう別の誰かじゃ無理だよ」
『美佳子、アンタ……』
「今回もダメだったら、もう結婚は諦めるよ」
『……本気なのね』
美佳子にとって、咲人の告白はそれだけの覚悟を持たせるものだった。貴女が良いのだと言われて、もう心は決まった。
元々惹かれていたし、年齢差以外は理想的な相手だ。今ではもう自分の意思ではどうしようもない程に惚れ込んでいる。
咲人と結婚まで至れなければ、次は無くて良いと決めていた。美佳子にとって咲人は、あまりにも心地いい存在だ。
至れり尽くせりで何の不自由もない。美佳子の持つ心の隙間を、あまりにも綺麗に埋めてしまった。今更別の誰かを愛する事は、どの道出来そうにはない。
『はぁ…………分かった。今度ちゃんと紹介しなさいよ?』
「うん。何かのタイミングで紹介するから」
付き合いが長いだけに、沙耶香には美佳子の本気度合いが良く理解出来た。普通の結婚生活とはいかないだろうけれど、それでも応援する事に彼女は決めた。
長らく恋愛が上手く行かなかった友人が、ここまで言うなら信じよう。そう思える程に、美佳子の覚悟を感じたのだ。
■訂正
結婚だけなら16歳でも可能になったが→結婚だけなら咲人が18歳になれば可能だが
法改正関係で変な勘違いをしておりました。




