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第7話 園田マリアの雑談配信①

 篠原美佳子(しのはらみかこ)は人気Vtuberの中の人である。真っ白な髪に修道服を来た可愛いシスター、園田(そのだ)マリアの演者をしている。

 そんな清楚そうな見た目にも拘わらず、喋ればボクっ娘のヤニカスで酒カス。おまけに汚部屋暮らしと、破戒僧もびっくりのキャラクターをしている。

 常日頃から可愛い女の子にお世話をされたいと、アレな公言までしている自由奔放な配信者だ。


 そんな滅茶苦茶なVtuberではあるが、実は元モデルであり今ではVtuber事務所を運営する女社長でもあった。

 彼女が運営するのは『Virtual(ヴァーチャル) Box(ボックス)』と言う名前の事務所で、電子の玩具箱をイメージして名付けられた。

 彼女のファン達からはVB(ヴイビー)の略称で呼ばれており、公式もその呼び方を採用して使用していた。

 まだ個人勢だった頃から良く話題になったキャラクターであり、今ではチャンネル登録者が100万人を超える人気ぶりだ。

 そんな彼女の雑談配信は、いつも同接が1万人を超える程にリスナーが多い。


「この前さ〜ボク飲酒耐久配信したじゃん?」


『あの頭おかしいやつな』

『何リットル飲んだんだよアレ』

『体を大事にしてくれ』

『肝臓いくど』

『マジで気をつけて欲しい』


 36時間に渡り、ひたすらビールを飲み続けながらゲームをすると言う企画が先日行われた。酒豪である美佳子は、浴びる様に酒を飲める。

 そんなマリアが缶ビールを開ける本数をカウントしていた、とあるユーザーによる切り抜きは20万再生を超えて今も伸び続けている。

 そしてそれは、咲人(さきと)に路上で拾われた日の事でもあった。配信終わりに出掛けた先で、咲人と出会った。


「終わってからコンビニ行ったらさ〜路上で寝ちゃったんだよね〜アハハ」


『なにわろとんねん!』

『エグい』

『破天荒が過ぎる』

『誰かコイツを貰ってやってくれ危な過ぎる』

『※誰か』

『だってマリアだし……』


 人気ではあるのだが、ガチ恋勢はあまりおらず男性ファンはマリアの奇行を見たいと言う層が多い。

 そんな奇行が目立つキャラではあるものの、元モデルだけあってメイクや美容関係にも詳しい。そして恋愛相談にも強いという一面を持つ。

 その為、意外と男女のファンは半々程度となっていた。頭のおかしい企画もあれば、大人の話もちゃんと出来るのが彼女の魅力であった。


「そしたらさ〜高校生の男の子が起こしてくれてねぇ」


『俺達のマリアがご迷惑をお掛けしました』

『可哀想』

『園田マリア被害者の会』

『また新たな被害者が……』

『ホンマこの配信者』


「え〜これは優しい男の子の話なんだけど?」


 やりたい放題のマリアと、言いたい放題のリスナーと言うのが園田マリアの定番スタイルである。

 火の玉ストレートをリスナーにぶん投げてみたり、逆にリスナーに詰められたり。そんな繰り返しが彼女の配信では日夜繰り広げられていた。

 元モデルではあるものの、オタク文化への忌避感を持たない為にファン層も様々だ。それ故に所謂レスバ的なやりとりもたまに発生もする。


「でさぁ〜その子の前で吐いちゃったんだよね」


『終わってる』

『やっぱり被害者じゃねーか!』

『もうこれテロやろ』

『トラウマなるで』

『未成年の前でゲロ吐くアラサー……』


「ふふーん! その子は許してくれたもんねー! 残念でした!」


『確かに優しい子だ』

『ぐう聖』

『なんでお前が誇らしげなんだよ』

『※31歳女性です』

『ホントに残念なんだよなぁ』


 咲人との一件を雑談のネタとして披露するマリア。しかし美佳子として家事代行を頼んだ話までは出さない。

 異性の影がチラつくと気にするリスナーも少なからず居るからだ。別に美佳子としては、ただ安全そうな子に家事を頼むだけ。

 やましい事は何もないし、会社として雇用契約も結ぶ。それに男性クリエイターとの取引もあるので、男子禁制でやっている訳でもない。

 咲人には親の承諾も求めている。それに結婚願望がある事も過去に話しているので、そこまで気にする必要もないが念の為の配慮であった。

 仮に恋人が居たとしても、隠し通して欲しいと考えるリスナーも世の中には居る。マリアのファン層にはあまり多くはないのだが。


「そう言えばさ〜次どんなのやって欲しい?」


『急に方向転換やめて?』

『次なぁ』

『とりあえず飲酒耐久はもう止めよう』

『確かに』

『もうこれ以上の犠牲は必要ない』

『少年の尊い犠牲に涙が禁じ得ませんよ』


 個人勢時代からカウントすれば、園田マリアは10年近く配信者として活動を行って来ている。

 これまでに様々な企画をやって来たマリアだが、飲酒関係の企画は大体やり切った感が出ていた。

 そもそも普段から沢山飲むタイプであり、わざわざ企画しなくても飲酒はしている。雑談イコール飲酒と言っても過言ではない。

 今この配信でも、既に3本目が開けられている。配信時間は30分で、10分に1本ペースで飲み切っている。

 これでもマリアとしてはスローペースであった。最早リスナーは慣れ切っていて誰も指摘はしないが。


「久し振りに皆の汚部屋企画やる?」


『お前がナンバー1だ』

『でもマリア級が結構居るんだよな』

『怖いんだよアレ』

『前回いつだっけ? カビ生えてる部屋の時?』

『嫌な事を思い出させないで』


 本日の雑談配信も、程よく楽しい時間が流れていく。仕事や学校で疲れていたリスナー達が、園田マリアの配信に癒されていく。

 皆で楽しく笑って、楽しく終わろう。それが園田マリアの配信だ。

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