第65話 園田マリアのゲーム配信②
8月の上旬、学生は夏休みの真っ最中である。そして社会人はもうすぐ訪れるお盆休みに期待を寄せつつ、その到来を今か今かと待っている期間だ。
そんな絶妙なタイミングで行われた園田マリアのゲーム配信。発売から2ヶ月近く経つ『モンスター狩人7 極みバースト』は今も大人気である。
特に夏休みに入った影響もあり、色んな配信者達が視聴者参加型の配信をしている。当然マリアもその1人である。
「こんばんわ~! 皆は夏休みを満喫しているかな?」
『今から夜勤です(半ギレ)』
『ウチは明日から連休やで』
『ほぼ毎日部活です』
『宿題まだやってないぜ』
『内定がまだないって(激ウマギャグ)』
「うーん、皆色々な感じだねぇ。とりあえず宿題はやりなよ」
園田マリアのリスナー層は、年齢層の幅も広いので反応は様々だ。時間は夜20時、配信時間としてはゴールデンタイムにあたり視聴者の数はどんどん増えていく。
オープニングトークを挟みながら、マリアはマルチプレイ用のオンラインルームを作成していく。
先ずは最初の参加者が揃った所で配信画面はゲーム画面に移行する。初期の頃と比べたら、マリアのキャラもかなり強くなっている。
初期装備だった頃と比べたら雲泥の差であり、最難関コンテンツにも挑めるラインに届いていた。
「よーし、それじゃあやって行こうか」
『それパンツ見えてね?』
『ホントだ』
『あれパンツやないねん』
『紛らわしいなw』
『制作陣に高度な変態がいる説』
「も~~すぐそう言う所ばっかり気にするんだからさ~」
マリアの使用アバターは、結構な際どい恰好になっている。腰回りだけ鎧が少ないので、下着が見えている様に見える。
ただし実際はスパッツでありパンツではない。絶妙にパンツにも見えなくもないデザインに作られているだけだった。
このシリーズはそれなりの頻度で際どいデザインの装備が登場する事で有名なゲームである。
有名な物は10年以上経っても人気があり、作品によってはリバイバルされたデザインが登場している。
それだけ人気があるのでコスプレとしても定番であり、これぐらいの時期になるとSNSで話題になる。
「皆はさ~コミケ行くの?」
『地方民ワイ低みの見物』
『2日だけ行く!』
『全日参加する』
『私はコスプレで参加します!』
『そろそろVBで参加して欲しい』
「やっぱり行くんだねぇ。ウチの事務所で参加かぁ~ボクあんまりコミケを知らないんだよね」
美佳子が立ち上げたVBことVirtual Boxはまだ新参の事務所である。一応サークルとして参加するぐらいなら、十分可能な規模ではある。
だが問題は美佳子がコミケに詳しくないという事だ。美佳子を始めとして、所属するライバー達は所謂リア充タイプが多い。
参加するとなると、理解している一部のメンバーへの負担が集中してしまう。特に女性ばかりの事務所であるだけに、荷物の運搬等で苦労する事になる。
仮に咲人に協力を求めるにしても、東京まで出るとなると部活との兼ね合いがあるだろう。
美佳子の頼みを咲人が嫌とは言わないだろうとしても、それなりの遠出になる事は変わりない。
「おっと、今の攻撃は危なかった~。まあコミケに関しては考えておくよ~」
『マジで頼む』
『廃盤のコスメ復活させて欲しい』
『コミケ関係なくグッズ出してエエんよ』
『新しいアクスタ増やして』
『お酒出そうぜ!』
「グッズはもうちょい待ってね~考えてはあるから。お酒はねぇ、正直出したいよね」
ここ数年の間にVtuberと企業のコラボレーションはどんどん進んでいる。それこそ個人勢ですらもやっていたりする。
酒造メーカーとの共同開発等も増えて来ているので、美佳子としては是非ともコラボ酒はやりたいと考えている。
他にもリスナー達からグッズに関する要望などがコメントで流れていく。女性ファンが多いのもあり、女性向けグッズの要望が特に多く見られた。
昨年出したコラボコスメが結構な人気で、早期に売り切れとなってしまったので再販を願う声が多い。
価格的にそんなに売れないだろうと考えた美佳子の予想を裏切り、在庫数が需要を下回ってしまったのだ。
「コスメはね~今相談中だから待ってて。製造コストがね、結構するからさ」
『頼む頼む』
『あれマジで良いから』
『発色綺麗だよね』
『マリアのコスメもっと出して』
『ゲーム画面と会話が合ってねぇw』
かつてやっていたモデル時代の繋がりから、一部の化粧品メーカーとの伝手が美佳子にはある。
そこから来たオファーによって実現したコラボコスメは、女性ファンからの評価が非常に高い。
美佳子の私生活は残念ではあっても、美容に関する知識はしっかりと持っている。その知識が由来の美佳子監修限定コフレが、特に高評価を集めている。
あまりの人気ぶりにネットニュースでも取り上げられた程だ。一部フリマサイトでは、とんでもない転売価格がついていた。
それらの反響も考慮して、美佳子は再販の相談を既にメーカーと始めている。
『¥5,000 彼氏とはやらんの?』
「ありがとう~! 彼氏はねぇ、あんまりゲームをやらないからなぁ」
『彼氏とゲームは憧れる』
『先ず彼氏がいない件』
『最初のハードルが高過ぎる』
『こんなに彼氏とゲームしたい女子がいるのに俺は何故独りなのか』
『そりゃ需要と合ってないからじゃね?』
たまには咲人と一緒にゲームをするのも悪くはないかなと、美佳子は期待に胸を膨らませる。
2人で協力するタイプの作品でも探しておこうかなと、配信を続けながら美佳子は考えていた。
男性にはあまり馴染みのないコフレという単語を使ったので解説です。
簡単に言えば化粧用品のスターターセットというかスターターデッキ的なアイテムです。




