第63話 記念写真は良いものだ
美佳子さんと花火を最後まで見た後、まだ少し遊ぶ時間があるので会場近くのゲーセンに入った。
俺達の様にカップルが大勢来店しており、クレーンゲームをしたり2人で遊ぶタイプのゲームをプレイしたりしている。
もちろんカップルだけでは無くて、大学生のグループや俺と同じぐらいの高校生も大勢居る。
急いで帰ろうとすると、半端なく混んだ電車に乗らねばならない。それならいっそ、もう少し遊んで帰ろうと考えるのはおかしな事ではない。
ここに居るのは大体そんな人々であり、適当に時間を潰しつつ花火大会の余韻を楽しんでいた。
「いやーゲーセンなんて久しぶりに入ったよ」
「用がないとそうなりますよね」
「それにボクはあんまり家から出ないしね」
俺も久しぶりと言えば久しぶりだ。友人達と行く事はたまにあるけど、頻繫に来る所ではない。
ゲーマーという程ゲームをしないし、するにしても家庭用ゲーム機で少しだけ遊ぶぐらいか。
格ゲーには大して興味が無く、ロボット系のゲームも別に。メダルゲームもすぐに飽きてしまうし。麻雀ならアプリがあるからゲーセンでやる必要はない。
そうなるとゲーセンに入る理由が殆どない。ただ彼女が欲しがった物を、クレーンゲームで取る経験はしてみたくはある。
そんなに得意ってわけじゃないから、上手く出来るかは分からないけど。
「そうだ、せっかくだしプリクラでも撮る?」
「プリクラ、ですか?」
「……もしかして、今の子って撮らないの?」
「いえ、撮った事はありますけど」
中学時代に仲の良い女子達と撮った事はある。ザ・女子の趣味って感じだなぁと思ったものだ。
写真を撮って加工して、それを皆でシェアするというのは女子特有の文化だ。そもそも殆ど女子専用の場であり、男子だけでは入れないエリアだ。
そんな所に頻繫に通う男子なんてそうは居ないだろう。よっぽどモテていれば違うのかも知れないけれど。
まあそんな訳で俺にはあんまり馴染みが無いだけで、わりと女子達は撮っている。若い世代が利用しないって事はないと思う。
「ん? でもそれって咲人が女の子と一緒だったって事だよね?」
「友達ですって! 俺の恋人は美佳子さんが初めてですから!」
「……それなら許す」
嫉妬深いとは聞いていたが、事実として美佳子さんは結構そう言った事を気にする。それもあるので、澤井さんはもちろん夏歩の事はまだ話していない。
別に2人に対して特別な感情は無いのだけれど、美佳子さんに伝えるべきかどうかが分からない。
それに澤井さん達と2人きりで出掛ける事もないし、そもそも2人共俺の気持ちを知っている。
余計な嫉妬をさせる必要はない、とは思うんだけどどうなんだろう。正解が分からないんだ。
調べた限りだと、彼氏の過去を知りたい人も知りたくない人も両方居るみたいだし。やっぱり女心って分かんねぇなと改めて思った次第だ。
「ボクが10代の頃はね~親友や恋人のプリクラを携帯に貼ったりしていたんだよね」
「……それ、剥げていきません?」
「まあそうなんだけどね。だから特別なのは電池カバーの内側に貼ったりしたんだよ」
俺は物心ついた頃からスマートフォンの世代だから、携帯電話時代を知らない。説明をされてもあんまりピンと来ないんだよな。
携帯電話には手帳型ケースが無かったとか、二つ折りだったとか一応は知っているけど。
その程度の薄い知識しかないので、残念ながら分かってあげられない。これもまたジェネレーションギャップというヤツだ。
今回の場合はスマートフォンの裏に貼れば良いのか? だけど俺は色の付いたカバーを装着してしまっている。貼っても普段は見えないままだ。
いつでも美佳子さんの顔が見られるとは言え、やや利便性に欠ける気がする。それなら普通に写真を撮って待受けにでもした方が良い様な。
「この場合って、どうすれば良いんでしょう?」
「あ~まあ今はねぇ。そうなるよね」
「美佳子さんも手帳型ですし」
「記念みたいなものだし、無理に貼らなくても良いんじゃない? 待受けデータも貰えるしね」
そう言えばそんな機能もあったな。プリントされるシールとは別に、待受け画像のデータも貰える様になっているんだ。
そう思うと尚更良く分からないよな。何の為にシールを入手するのだろうか。美佳子さんが言う様に、結局は記念品って事なのか?
その辺りが俺には良く分からないが、美佳子さんと記念写真を撮るのは大歓迎だ。如何にも恋人って感じがして良い。
それに浴衣姿の美佳子さんが、いつでも見られる様になるんだ。これは非常に大きいと言えるだろう。
あんまり人前では見ない様にしておかないとな。傍から見れば画面を見て喜んでいる不審者にしか見えないだろう。
「最近の機種は良く知らないんだよね」
「俺は美佳子さんより分からないですよ」
「お! このシリーズってまだ続いてるんだ。長生きだねぇ」
「それにするんですか?」
どうやら美佳子さんが20代の頃からあった機種らしい。何も知らない俺には何が良いかも分からない。全て美佳子さんに任せておこう。
色々見て回った後、結局美佳子さんが知っていた機種に決まった。凄いなプリクラって、良く知らなかったけど色んな機種があるみたいだ。
もちろん何が違うのかは全く分からないが。そして初めて使用したわりに、美佳子さんの操作は素早かった。
あっという間に背景等を決めて、撮影が始まめるアナウンスが入る。女性と2人きりでプリクラなんて初めてで、今更になって緊張して来た。
「ほら咲人、もっと寄らないと」
「え!? あ、えっと」
「ほらおいで」
美佳子さんに引っ張られた俺は、美佳子さんと頬が触れ合う距離まで近づいた。途端に美佳子さんの良い香りを感じて俺は固まる。
プリクラの機械が笑ってとか言っているが、今はそれどころではない。何だよ、プリクラってこんなに刺激的なものなのか?
俺が知っているプリクラと違い過ぎる。美佳子さんに表情が硬いと指摘を受けたが仕方がないだろう。
結局俺は美佳子さんに言われるがまま、何度か撮り直しながら撮影され続けた。出来たプリクラ? うん、まあ……浴衣姿の美佳子さんが凄く可愛かったよ。




