第57話 園田マリアの雑談配信③
その配信画面には、デカデカとサムネイルが表示されていた。園田マリアのファンアートと共に『体調回復! 深夜雑談』という文字が。
咲人とのアレコレにより、配信を1週間と数日休んでしまった。その間待たせてしまったリスナーに対する謝罪と、活動再開を宣言する為の配信だ。
歳の差に関する悩みと、両片想いが生んだ壁。そして美佳子のややメンヘラっぽい思考も今では消え去った後だ。
今や咲人に甘えまくりで、もうすっかり美佳子は元気だった。
「いやーごめんね本当に。ちょっと色々あってさ」
『ええんやで』
『そういう時もある』
『箱推しだから問題なし』
『まあ社長だしな』
『お帰り』
単純にリアルが忙し過ぎて休む事もある。美佳子はまだ経験がないが、何らかの病気で長期休暇を取る配信者もいる。
特に話し続ける仕事なだけに、発声器官に関する不調や病気は良くある話だ。今どきVtuberのリスナーをやっている人で、それを知らない人は中々いない。
中には女性が長期休暇を取ると妊娠を疑う者もいるが、園田マリアのリスナーには居ない。
そもそも結婚をしたいという事も、結婚したら配信内で報告するという事も昔から明言している。
このタイプの配信者には所謂ユニコーン、女性に男の影を感じたくないファンは寄りつきにくい傾向がある。
ガチ恋営業をせず、体育会系が好みだとも前々から発言しているのもある。だからこそ、こんな発言も出来るのだ。
「そしてこの度、ボクに彼氏が出来ました!」
『は? マ?』
『イマジナリー?』
『詐欺とかじゃなくて?』
『まだ体調が治っていないのでは?』
『そんな奇特な方が実在するのか?』
「本当だってば! 家事が得意な優しい男性だよ」
『誰か知らんがマリアを頼む』
『よし、祝杯やな』
『思えばここまで長かったな……』
『え〜良いな〜私も彼氏欲しい』
『家事出来る男性求む』
配信では和やかなムードで祝福されていた。元々美容関係の配信などが影響し女性ファンも多く、男性ファンの大半はこいつを誰か幸せにしてくれと願っていた。
そんな配信者だったから、特に荒れたりもする事はない。そもそも彼女の配信を観て、付き合いたいと考える男性は少数派だ。
先ず部屋の散らかり具合が半端ではない。この有様で恋人に、と思える男性は希少だろう。
咲人がわりと変わっているだけで、現実問題として汚部屋の住人に恋愛は難しい。世話焼きなタイプでも、美佳子レベルだと音を上げる人は少なくないだろう。
事実として園田マリアの男性リスナーは、その滅茶苦茶具合を楽しんでいるだけだ。女性としての魅力を求めているわけではない。
『¥10,000 おめでとう! 何て告白されたの?』
「お祝いありがとう! いや、何てって……その、結婚を前提に、付き合って欲しいって。指輪まで用意して来て」
『ちょっと可愛いのやめろ』
『脳がバグる』
『ガチで照れんなや』
『うわーーー言われてみてぇーーー』
『ベタだけど憧れる』
あまりにもドストレートに行われた咲人の告白。手慣れていないからこそ、取る事が出来た行動。
下手な小細工もなく、ただ好意を真っ直ぐぶつけた。確かにムードやシチュエーションも大事ではある。
しかしそれらに気を取られて、肝心な事を見失ってはいけない。趣向を凝らしたから成功するという話ではないのだ。
結局一番大切なのは、どれだけ真摯に想いを告げるか。告白する事が目的になってはいけないのだ。好意をどれだけ伝えられるか、それこそが一番大切な事だ。
「仕方なくない!? こんなストレートに来られたらさぁ!」
『それはそう』
『変なアドリブとか入れられるより良い』
『ほら良い雰囲気だろ、みたいなの嫌い』
『わかりみ』
『結局王道が一番』
咲人の告白は女性リスナーからはわりと高評価だった。王道というのは確かにベタではある。使い古されていたりもする。
しかしそれは、多くの人に認められ易いという事でもある。時には奇抜である事が成功に繋がる事だって無い事はない。
それこそスカイダイビングをしながら、プロポーズをした事が話題になったりもする。テーマパークで大勢が見守る中で行われたりもする。
確かにそれらは話題性があるだろう。だが何故話題になるかと言えば、それが特殊な例だからだ。
奇をてらって失敗した、何の話題にもならない多数の失敗例は中々フォーカスされない。
「とにかく、そんな訳でボクは元気です」
『それならエエねん』
『推しの健康が俺らの健康』
『結婚配信待ってる』
『結婚式配信する初のVtuberになろ』
『ご祝儀飛び交うの面白そう』
そんな風に温かく祝福された園田マリアの雑談配信は盛り上がりを見せた。それなりに有名であっただけに、ニュースサイトで取り上げられたりもした。
そんな注目のされ方をするとは思ってもいなかった当の告白をした本人は、後々身悶えする事になった。
良く考えたら気取り過ぎだろうとか、指輪のサイズが合って無かったのはクソダサいなとか。
冷静になったからこそ思い返して、様々な反省点が見つかった。だから正式なプロポーズは、もっとしっかり考えようと1人の男子高校生は心に誓う事になった。
でも本人が幸せならオッケーです!の精神で居たいなぁとは常々思っております。




