第303話 ヤニカスで酒カスだけど汚部屋暮らしではない限界配信者なお姉さん(41)は花嫁です
東咲人が社会人3年目を迎えた年の夏、篠原美佳子の誕生日である8月29日に結婚披露宴が行われている。
既に入籍を済ませているので、正確には東に苗字が変わっている。この時点で咲人は25歳となっており、美佳子は誕生日を迎えたので41歳になった。
40歳を過ぎても美佳子の美しさは損なわれておらず、まだ30代の様に若々しく見えた。咲人と2人並んでも、5歳ぐらいの年齢差にしか見えない。
結婚披露宴に向けて新たに染め直した金色の髪は、少し短くしてショートボブにイメチェンしていた。
元々から結構な小顔である美佳子だが、髪型の変更により小顔っぷりがより強調されている。
細くスラっとしたボディラインに沿った、タイトなドレスにウェディングドレスから着替えていた。
ウェディングドレスも良く似合っていたので、咲人と芽衣は凄く喜んでいた。お姫様みたいだと、芽衣は感動すらしていた。
5歳になった東芽衣は、母である美佳子に似て可愛らしい。母親の新しいドレス姿を見て、とてもテンションが上がっている様だ。
「ママ! 凄く綺麗!」
「そう? ありがとうね芽衣ちゃん」
「本当に綺麗だよ、美佳子」
こうして正式に夫となった咲人は、社会経験を経て立派な大人の男性となっている。
グレーのタキシード姿になり、爽やかな印象がより際立っていた。美人で年上の女性と結婚した男性として、相応しい落ち着いた雰囲気を持つ好青年だ。
咲人自身はあまり自覚がないものの、美形と表現しても遜色ない外見に落ち着いた。それもあって職場では、女性社員から結構人気がある。
咲人は中学時代からマラソンで活躍し、高校大学と優秀な成績を残して来た。それは社会人になってからも変わらず、数々の大会で表彰台に立っている。
まだ噂に過ぎないが、再来年のオリンピックにて日本代表に選ばれる候補として、咲人の名前が上がっているらしい。
そんな有望な選手に、人気が出ない筈もない。陸上競技の観戦が好きな女性達から、かなり高い関心を集めている。
そんな美男美女が可愛らしい娘を連れて、来てくれた参列者達のテーブルを周っていく。
「次は和彦と夏歩の番だぞ」
「分かってるよ。日程が決まったら俺から連絡する」
「芽衣ちゃん大きくなったね~! 今いくつ?」
咲人の大学時代に仲が良かった友人達の席には、幼馴染の馬場和彦と三浦夏歩の姿があった。
プロ野球選手となった和彦は、夏歩との交際を続けながら結婚に向けて動いている。
有名な若手選手であるから、結婚の発表となると大きな騒ぎとなるだろう。同じ席には高校からの付き合いである、坂井一哉も座っている。
彼は彼で、短距離走で活躍を続けた陸上選手であり、社会人になっても咲人と同様に活躍を続けている。
もし2人ともが日本代表に選ばれる事になったら、また同じチームメンバーとして共闘する事になるだろう。
「来てくれてありがとう一哉」
「気にすんなって、友達だろ」
「そうだけど、一応さ」
今も親友として交流が続く2人は、たまに2人で飲みに行く関係だ。同じ陸上選手同士、休める時期が近いというのもある。
その点はどうしても、和彦と比べると会える頻度が違う。プロ野球選手のオフシーズンと、陸上選手のオフは微妙に違っているからだ。
ただタイミングが合う時は、男3人で飲みに行く事もある。大学時代から変わらない、男同士の友情は途切れていない。
それぞれが有望で有名な選手である為、週刊誌のゴシップ記者に狙われた事が1度あった。
しかし咲人は婚約者と子供を持っており、和彦はずっと夏歩一筋だ。一哉だけは女性にだらしない面があるものの、紳士的なタイプなので不祥事は起こさない。
この3人を追い回した記者は、何の結果も得られずじまい。最終的に根拠のない記事を書いてしまい、自身が炎上するハメになったという。
そんな仲良しメンバーの席から離れた咲人達は、美佳子が運営するVirtual Boxの関係者が居る席へ移動した。
「美佳子は私に、結婚相手を紹介する義務があるよね?」
「でも晶さぁ、紹介してもすぐ人見知りを発揮するじゃない」
「う、うるさいなぁ!」
美佳子の同級生である、浅川晶は今も未婚のままであった。33歳の頃に、美佳子がもうリスナーから選べば? とまで勧めたのだが上手く行かず。
一応美佳子としては、ファンとの恋愛もOKの方針だ。結婚がしたいなら、ファンと関係を持っても構わないと伝えて来た。
しかし晶は未だに成果が出ていない。だからこそガチ恋ファンの多い配信者なので、その辺りが難しい所ではある。
もういっそ公言してしまって、ファンから選ぶという道も無くはない。ただしその場合はリスクもあるので、身バレ等に注意が必要となるだろう。
そんな晶と美佳子のやり取りを続ける傍らで、稲森美桜が咲人と芽衣に声を掛けていた。
「社長の事、よろしゅう頼みますよ」
「はい、しっかり支えますから」
「芽衣ちゃんも良い子にしとくんやで?」
VBの規模感は更に大きくなっており、現在は5期生の準備段階だ。会社の事務所も更に広く大きな物件に移動している。
東京への進出も候補となっており、次に移転するなら東京となるだろう。咲人の職場が問題ではあるものの、最終的には料理店を経営するのが彼の目標だ。
どこかのタイミングで脱サラし、調理師免許の取得を目指す予定でいる。タイミングとしては、30歳ぐらいが丁度良い節目ではないかと咲人は考えた。
まだ5年あると見るのか、もう5年しかないと見るのか。どちらであっても期限は近付いており、しっかりと咲人は未来を見据えていた。
妻となった美佳子と共に、これからの未来に向けて既に色々と計画を進めている最中だ。
そんな動きが裏でありつつも、今日という日が大切な日である事には変わりない。沢山の人達から祝福されながら、2人で新たな道を歩み始めた。
真君と鏡花ちゃんの時に似せているのはわざとです。あの時にあのリアクションを咲人が居るのにやっていた、という事なのでその方が面白いかなと。




