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第301話 東家の変化とこれから

※芽衣の年齢をミスっていたので訂正です。

大学2年で0歳なので、社会人1年目で3歳です。

 もうすぐ大学を卒業する事になるが、本当にあっという間の4年間だった。やっぱり美佳子(みかこ)の妊娠と、芽衣(めい)の誕生以降は毎日が濃密で慌ただしい日々だ。

 ようやく芽衣の夜泣きが無くなり、あと4ヶ月も経てば芽衣は3歳を迎える。最近は少し言葉を覚えたようで、ママとパパ以外にも色々話す様になった。

 高齢出産は何らかの障害を持つ可能性があり、言語を覚えるのが遅いと言った事も起り得る。

 しかし今のところ芽衣は、順調に言葉を学習している様子だ。例えばマサツグの名前も認識しているらしく、マアツウと呼ぶ様になった。

 ちょくちょく会っている実家のニアも、名前を覚えたらしく最近呼び始めた。今日はとある用事があって、芽衣とマサツグを連れて美佳子と共に実家に来ている。


「芽衣ちゃ~ん! じーじだよ~」


「父さん、もう諦めたんだ」


「こんなに可愛い孫だぞ? 爺扱いでも構わん」


 孫が可愛くて仕方がないのか、見た事もない程デレデレの父さんが芽衣を構っている。

 こうして芽衣を父さんに合わせるのはついでに過ぎず、本命はマサツグをニアに合わせる事だった。

 そういう兆候は前から見られていたけど、ニアとマサツグは番となって子供が出来た。

 まだ生まれていないけど、ひと月もすれば子供達が生まれて来る。幾ら家が近いとは言え、一緒に暮らす方が良いだろうとマサツグ暫くを実家に預ける事にした。

 父さんと芽衣を合わせる機会にもなるので、頻繫に行き来する予定だ。少し前まで2人で暮らして来た実家が、今では随分賑やかになった。


「ニアも結構お腹が膨らんだなぁ」


「にゃぁ~ん」


「ボクも産んだから気持ちは分かるよ。頑張って産んでね」


 父さん1人でニアの面倒を見続けるのは辛いだろうから、マサツグ用の自動給餌器を持って来てある。

 見守りカメラ機能を使って、ニアの寝床をいつでも見られる様にしておく為だ。もし何かがあっても俺達3人の内、誰かが駆けつけられれば何とかなる。

 動物病院も近くにあるから、最悪そっちに駆け込めば良い。今の所は母子共に健康な状態だという事が分かっている。

 子供は5匹居るようで、結構出産に時間が掛かるみたいだ。最悪出産予定日には、ウチへ移動しておく事も考慮している。

 美佳子は配信者だから、頻繫に出掛ける事はない。それに実家より美佳子のマンションの方が動物病院に近い。


「お前もパパだな、マサツグ」


「にゃ?」


「一緒に育児を頑張ろうな」


 何を言われているのか分からないだろうけど、同じ父親同士として頑張って行こうな。子猫に反抗期とか、あるのか知らないけど。

 俺は娘に嫌われない様に頑張ろうと思う。娘を持つ父親は皆、最初に同じ事を考えるのかも知れないけど。

 今はまだパパと笑ってくれているけど、そうじゃなくなる日が来るのだろうか。駅伝で活躍している姿を見せておけば、極端に嫌わる事はないのかな?

 この4年間の箱根駅伝を始めとした各種大会で、良い成績を残せている。だから社会人になってからも、多分大丈夫だろうとは思う。

 芽衣から見てカッコイイパパであり続ければ、変に嫌われてしまわない……よね?


「しっかし咲人、お前も来月から銀行員か」


「別に父さんの真似をしたわけじゃないけどね」


「前にも言ったが、営業は結構大変だぞ?」


 親の真似をしたのではなく、結構適当な父さんでも出来ているから選んだ面はある。ただそれを本人の目の前で言うつもりはない。

 収入が結構高い方であるというのも、選んだ理由として含まれる。紹介して貰ったのは切っ掛けに過ぎず、就職を決意する決め手はほぼ収入だ。

 地方銀行の年収は、全国の銀行員の平均年収よりやや高い。一般企業の会社員と比べたら、100万ちょい上である。

 娘を持っている以上は、それなりの収入が必要だ。美佳子の資金力に頼り切るつもりは最初から無い。

 そして陸上の方も出来る限り頑張りたい。これから俺は、日本代表を決める大会等にも出場出来る。

 良い結果を出して、夢だった世界陸上への挑戦もしたい。


「体力なら自信あるから」


「そうじゃなくてな、良い感じにお茶に濁す方法を教えてやろう」


「えぇ、それで良いの?」


 早くも大人の裏事情みたいな話が出て来た。それなりの営業成績を出す裏テクニックというか、良い感じに見せるやり方を披露された。

 やっぱり適当な事をやっていたんじゃないか。父さんみたいな仕事の仕方で、支店長になれてしまうんだな。

 俺が就職するのは別の銀行だから、それが果たして良い事なのか微妙な所だ。父さんに聞く限りでは、俺の就職先とは特に遺恨は無いみたいだけど。

 父さんは大手の都市銀行だし、俺は地方の信用金庫だ。競い合う相手とは違うという事なのかな? 多分だけど。


「咲人が大人になって、母さんも喜んでいるだろうな」


「そうだと良いな」


「ほら芽衣、ママと一緒にばーばのお部屋に行こうね」


 美佳子が芽衣を連れて、母さんの部屋に向かっていく。実家に来る様になってから、芽衣も一緒に仏壇まで連れて行っている。

 まだ芽衣には分からない事だけど、写真しか残っていない祖母が居るから。美佳子の方のご両親はお元気だけど、ウチの方は父さんしかいない。

 もっと芽衣が大きくなったら、いつか母さんの話もしようと思っている。交通事故の怖さを教える意味もあるし、ただ知っておいて欲しいという意味でも。


 母さんが生きていてくれたら、孫を見せられたのになって思いもする。だけどそこに縛られていてはダメだ。

 今は新しい命達を育てて行く段階だ。明るい気持ちで未来に向けて走って行きたい。

 来月から始まる社会人としての人生と、陸上選手としての人生。そのどちらも全力で頑張って行きたい。

 美佳子の為であり、芽衣の為にも父親として。俺これから頑張るからさ、見ていてね母さん。

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