第298話 園田マリアの出産レポート
出産を控えた臨月から園田マリアは一時的に活動休止期間に入り、芽衣が5ヶ月を迎えた辺りから少しずつ活動を再開。
先ずは無事出産が済んだ報告をする雑談枠を取り、沢山のリスナー達から祝福された。
その配信から出産や子育てに関する質問が多くあった為に、改めて出産のレポートをする企画が決定。
リアルな妊娠出産の話と、幼児の子育てと現実について話す配信がクリスマスの夜に始まった。
クリスマスにする話かどうかは微妙な内容だが、だからこそ注目を集める事となり沢山のリスナー達が集まっている。
「いやもうさぁ~本当にマジで、鼻からスイカを出す感じだったよ。死ぬかと思った」
『やっぱアレガチなんだ』
『それ聞くとちょっと怖いなぁ』
『子供は欲しいけど楽に産みたい』
『男には一生分からん話や』
『大変やなぁ母親になるのって』
妊娠出産にまつわる苦労話を、美佳子が色々と話ていく。それによって子供に憧れている女性リスナー達が、少し躊躇いを覚えてしまう。
やはり産むと言う行為が大変である事は変わらないし、誰かに変わって貰う事はほぼ不可能だ。
代理出産という手段も国によっては認められているが、日本では原則禁止されている行為である。
妊娠出産の苦労は誰にも肩代わり出来ないし、父親に出来る事はどうしても限られてしまう。
咲人の様に家事が得意な男性ならば、日常生活は多少変わるだろう。それでも妊娠出産に関しては、ほぼ手伝える事がない。
ただし理解の有無で変わる事は沢山ある。配慮が出来るかどうかは大きな差を生む。
「いやでもね、生まれて来た子を見るとさ~やっぱり産んで良かったって思えたよ」
『母親ってそういうもんなんか』
『皆それ言うよね』
『分かる~子供を見ていると納得出来ちゃう』
『結局我が子を見るとね、頑張った甲斐を感じる』
『子は宝やしな』
まだ妊娠出産の経験がない女性リスナー達も居る一方で、子持ちの女性リスナーや男性リスナーも大勢観ている。
大変だけど子供を持つ事の良さや、嬉しいタイミングなどのコメントが流れていく。
美佳子も大変だけど子供が欲しいなら、頑張る意味があると後押しをする。とは言え晩婚化と少子化は事実であり、やはり出産を考えていない人も少なくない。
どちらを選ぶかは結局本人次第だろう。それに理由があって子供を持てない人も中には居る。産むだけが生き方として正しいわけではない。
「産むか産まないかは自由だと思うけどね。ボクは欲しかったけど、欲しくない人が子を持つのは怖いし」
『難しいよなそこんとこ』
『要らない人同士で幸せになっても良い』
『人間は野生動物じゃないしな』
『うちは子供居ないけど毎日楽しいよ』
『好きにすればええ』
少子化は確かに問題ではあるものの、同時にエネルギーや資源の問題だって横たわっている。
無限に人間が増殖していけるだけのリソースが、この地球上には現状存在していないのだ。
人間が食している生物が、絶滅の危機に瀕するのは珍しくない。島国故に魚が主食の1つである日本では、漁獲量の調整を細かく行っている。
様々なリソースが限られる中で、人口とどう向き合っていくのかはあまり合わせて議論されていない問題だ。
ただイタズラに人口を増やしても、突然大量の電力が発生する事は無い。急に湖やダムの水が倍に増える事も無い。
食べても減らない無限の食糧庫だって無い。足りない部分をどう補うかは、もう少し考えられるべき所だ。
一口に産むだけが正解だと決めて良い事ではないだろう。現代社会が抱える問題は沢山あるのだから。
「最近は夜泣きも始まってさぁ、もう大変だよ……って言っていたら連絡来たよ。ちょっと待ってて」
『いてらw』
『お腹が空いてしまったか』
『ママをお呼びか』
『もう配信部屋に連れて来たら?w』
『俺らはそれでも構わんで』
配信中に芽衣が空腹を訴え始め、咲人から美佳子のスマートフォンにメッセージが届く。
急いで配信部屋を出た美佳子は、芽衣を連れて配信部屋に戻って来た。授乳をしながら配信するという形になり、子供の声が聞きたいというリスナー達が現れる。
マサツグの時は配信で映像を見せたけれど、子供の顔は流石にネットに載せないというのが美佳子の方針だ。
母乳を飲んでお腹が一杯になった芽衣をあやしつつ、美佳子は少しだけ娘の声を配信に載せた。
可愛らしい赤子の声に、リスナー達が盛り上がる。再び眠った芽衣を連れだし、咲人に任せて再び美佳子が配信に戻る。
「こういう感じだよ毎日。可愛いんだけどね、もう大変だよ」
『なんかマリアが母親してるの、不思議な気分や』
『あのマリアが母親をしている』
『娘は汚部屋にならんでや』
『お父さんに似てくれ』
『ヤニカスと酒カスも受け継ぐな』
散々な言われようだが、これまでを思えばそれも仕方ない。強烈なキャラクター性だからこそ、配信者として成功した面は否定できない事実だ。
しかしその内容が普通の生活かと言えば、絶対にそうではないのだから。芽衣もまた配信者として生きるなら、園田マリアの娘らしい属性にはなるだろうけれども。
今はまだそんな事は分からないし、どう考えても内面は咲人に似た方が生きる上で楽だ。
果たしてどう育つかは不明だが、リスナー達からしても咲人の方に似て欲しいと願っている。
美佳子に内面的魅力がないという意味ではないのだが、それとこれとは別の問題だろう。
「え~皆酷くない? 言い過ぎでしょ」
『これまでを思い返せ』
『胸に手を当てろ』
『路上でひっくり返る娘は嫌やろ普通に』
『高校生の目の前でゲロ吐く母親は嫌や』
『まともに育ってクレメンス』
破天荒な生き方をしていた美佳子のこれまでを、リスナー達は嫌という程観て来ている。
これまでにやって来た過去のやらかしを、コメント欄で大量に指摘されてしまう美佳子。そんなリスナー達とやり合いながらも、聖夜の配信は続いて行く。




