第297話 咲人と美佳子の育児生活
芽衣が生まれて3ヶ月と少しが経ち、美佳子の体調はかなり良くなった。芽衣は首が座り、体重も結構増えて順調に成長を見せている。
表情も豊かになって、笑顔を見せてくれる様になって来た。感情の表現が泣くだけではなくなり、子供らしい可愛げを見せてくれている。
最近では父性でも芽生えたのか、マサツグが良く構う様になり兄妹のよう。面倒を見てくれるという意味で、結構助かっている。
何かあったら呼びに来てくれるし、鳴き声で呼んでくれる事も。だけどまだ1歳にも満たない幼児だから、油断は禁物である事は変わらない。
「ティッシュはダメだよ芽衣。タオルにしてくれ」
「あ~」
「これはお口に入れないの」
色々と掴める様になり、何でも口に運ぶのが困りもの。極力マズイものは近くに置いていないけど、どうしても便利なティッシュ等は使ってしまう。
手が届いてしまったみたいで、口に含みかけていた。わざと口に入れて良いタオルを置いてあるけど、興味が他に移ってしまったのだろう。
色々な物を掴んでは、咥えてみたり触ってみたりしている。これは味や感触を学ぶ為の行動らしく、何もおかしな行動ではない。
芽衣の学習行動を見守っていれば良いそうだ。義務教育の保健体育とは違って、より詳しい育児の現実を父親として学ぶ毎日が続いている。
こういう育児に関する現実こそ、教えてくれたら良いのになぁ。俺が覚えていないだけで、やったのかも知れないけど。
「ごめん咲人、ありがとう」
「これぐらい構わないよ」
「レポートがあるんでしょ? 暫くボクが見ておくから」
美佳子が仕事の電話をせねばならず、暫く俺1人で芽衣を見ていた。どうやら美羽ワンダーパークでのイベントが終わり、その成果に関する続報らしい。
結構な集客効果が得られたみたいで、顧客のアンケートでもまた来たいという回答が多かったそう。
8月の時点でそうだったので、10月になった今も良い結果に繋がっていてくれたら嬉しい。
芽衣がもっと大きくなったら、連れて行きたいしね。是非ともまだまだ存続していて欲しい。
遊園地の様な施設の経営が、結構大変というのは珍しい話じゃない。日本各地にある色んな遊園地が、苦労しているのは良く耳にする。
「ワンダーパークはどうだったの?」
「結構良い数字に戻ったらしいよ」
「そっか、良かった。じゃあちょっとレポートだけ終わらせてくるね」
スポーツ心理学のレポートを書かねばならないので、ササッと終わらせてしまおう。
半分は終わっているから、1時間で終わらせてしまえば17時だ。そこから家事に回って、お風呂と夕飯の用意をすればとりあえず落ち着くか。
レポートはスポーツ選手に必要な、メンタリティについてのもの。どの様な精神をもつ事が大切かという視点で、自分なりの意見を求められている。
1時間集中して、今日中に終わらせてしまおう。提出期限はまだあるけど、俺には育児に割く時間を確保する必要がある。
他の学生と同じ様に、期限ぎりぎりまでゆっくりやっていたら大変な事になってしまう。
パソコンに向かって1時間で書き終えた俺は、メールで教授に送信しておいた。さあここからは家事の時間だ。
「ねぇ美佳子、今日の食欲はどう?」
「うーん、まあ普通かな」
「じゃあちょっと少なめにしておくね」
産後のダメージが残っていた頃は、美佳子の食欲が不安定だった。今はだいぶ安定して来た様子で、妊娠前とそう変わらない量を食べる様になっている。
妊娠による味覚の変化も僅かに残っているみたいだけど、もう殆ど戻りつつあるらしい。それなら腹八分目になるぐらいの量で良いだろう。
産後にオススメとされているメニューを作り続けているから、栄養に極端な不足はないと思うし。
そう言えば抜け毛が結構増えたと言っていたから、ワカメと豆腐のサラダでも作ろうかな。
確かに風呂場に残った、美佳子の髪の毛が多い気はする。女性にとって髪の毛は大事だし、余計な悩みを抱えずに済む様にしてあげたい。
「ほらマサツグおいで」
「にゃーん」
「今日は人参で良いか?」
お米を洗うついでに、いつもの様に生野菜を切ってマサツグに渡す。少し洗ったお米を水道水に浸けたまま、お風呂の用意を進めておく。
終わったらキッチンに戻って、今日の夕飯を作っていく。そうだな……サラダの他に、鶏のレバーを使ったミートソースでペンネでも作ろうか。
後はベタに焼き鮭でも追加すれば十分かな。産後の女性に鮭って結構良いみたいだし。
そうだ、サラダにほうれん草も入れようか。ほうれん草などに含まれる葉酸は、母乳の質を向上させる効果があるからね。
大体の内容は決まったから、パパっと作って夕飯にしよう。1時間半ほど掛けて夕食を作り、出来上がったら美佳子を呼びに行く。
「美佳子、ご飯出来たけど……芽衣のご飯中だったか」
「もう少しで終わると思うから、先に座ってて」
「分かった。待ってるね」
芽衣の授乳中だったらしく、美佳子はまだ動けない。最近この時間になる事が多くなって来たから、芽衣の生活リズムも固まって来たのかも。
幼児は大人の都合に合わせてくれないから、色々と難しいんだよねぇ。お風呂に入れようとしたら寝ちゃったり、起きるなり不機嫌だったり。
こっちが芽衣に合わせないといけない事が沢山ある。子育ての大変さはまだまだこれからで、以降に増える問題は他にも沢山あるんだ。
例えばこれから先、もう少ししたら夜泣きの期間が始まる。色々と調べているだけでも、滅茶苦茶大変そうだ。
もうそろそろ覚悟を決めておかないといけない。個人差はあるだろうけど、始まるまでもう2ヶ月ぐらいしかない。
冬休みと被るだけ、多少はマシだろうか。娘の成長は嬉しいし可愛いけど、その分苦労がこれからも待っている。
きっとこれからも大変な事はあると思う。だけど美佳子と2人で協力して、色々と乗り越えていくつもりだ。




