表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
296/306

第295話 美佳子の定期健診

 美佳子(みかこ)のお腹に命が宿ってから、7ヶ月が過ぎて出産予定日が近付いている。お腹は結構大きくなり、妊婦だと一目で分かる膨らみ方だ。

 その間に俺は大学2年生となり、遂に20歳という節目を迎えた。お酒とタバコが許される年齢になったけど、タバコの方は興味がない。

 お酒の方は誕生日の翌日に、美佳子と一緒に実家に帰って父さんと3人でビールを飲んだ。


 美佳子がノンアルで我慢する形になったのは、少し申し訳ない気持ちだった。飲んでみた感想としては、あんまり美味しいとは思わなかった。

 一哉(かずや)達に誘われて、居酒屋で頼んだカクテルの方が俺は好きかな。そんな日々を送る中で、美佳子と共に産婦人科に行く事が日常の一部になっていた。

 今日も定期健診の為に、俺の運転でお世話になっているクリニックに来ていた。この辺りで一番人気の高い産婦人科だ。


「大丈夫? 今朝から辛そうだけど」


「ちょっと貧血気味でさ」


「鉄分の摂れる料理をもう少し増やすよ」


 こうなるまで詳しく知らなかったけど、妊娠中の症状は結構色々とある。吐き気やつわりは有名だけど、貧血や肌荒れなんてのもあるらしい。

 どうも妊娠7ヶ月目から子供が活発になるらしく、母親の負担が大きくなっていくと聞いた。

 ホルモンバランスが大きく崩れる事が原因らしく、最近の美佳子はあまり体調が良くない。

 食事の内容と栄養バランスは考えているけど、思ったよりも鉄分が不足している様子だ。

 食べられる量やタイミングが日によって変わるので、作り置きが出来て食べやすい料理を選んでいる。

 あまり食べられなくても、鉄分が摂り易いメニューか。ヒレ肉をライ麦パンでサンドしてみよう。レバニラに枝豆を入れるのも有りかな。


「あ、鳴ってるよ美佳子」


「本当だ」


「ほら掴まって」


 診察室から患者を呼ぶ為の、小さな手のひらサイズのブザーが鳴っていた。お腹が大きくなった美佳子は、立ち上がる時に結構苦労している。

 だから極力支える形で、軽く助け起こす様に意識していた。娘はもうすぐ1㎏に届きそうで、もう結構な重量をしている。

 毎日1㎏の米を抱えている様な状態で、幾らジム通いをしていたとしてもコレは辛いだろう。


 もう母親がいない俺は、産む時の苦労を直接聞く事が出来ない。父さんから間接的には聞けたけど、本当に大変な重労働だなと思う。

 母さんも苦労していたし、美佳子もこうして大変な思いをしながらも産もうとしている。

 定期健診を受けながら、そんな美佳子を絶対に支えようと毎回決意を新たにして来た。

 担当医である女医の先生が、お腹のエコー映像を見ながら娘の様子を確認していく。


「お子さんは順調に成長している様ですね」


「ふう、良かったね美佳子」


「うん」


 高齢出産になるので、早産になったり流産になったりのリスクが高くなっている。だからこそ娘の健康と、美佳子の状態がとても重要だ。

 どちらかに何かがあっても困るし、何もトラブルがないまま生まれて欲しい。妊娠7ヶ月まで来ても、絶対に安心出来るわけじゃないから。

 こうして通院しつつ、健康状態を確認しないといけない。美佳子が感じている違和感や症状等の相談をし、胸焼けと食欲不振に良い漢方薬を貰う事が決まった。

 これも俺は知らなかったけど、妊娠中は飲める薬に制限が多い。普通の風邪薬さえも、赤ちゃんにとって悪影響が出てしまう。

 何を飲むにしても、基本的には医師への相談が必須だ。そんな細かいところまで、意識を向けないといけない。


「ではまた再来週に来て下さい」


 定期健診は問題無く終了し、暫くは2週に1回の来院で良い。36週目からは毎週1回になるらしく、忘れない様にしておかないと。

 母子手帳を受け取ってから、クリニックを出て隣接した薬局で処方箋を受け取る。再び俺の運転で、美佳子のマンションへと向かう。

 ただでさえ美佳子と娘に注意しないといけないのに、美佳子の高級車なんて運転出来る筈もなく。

 暫くは父さんの車を借りる事にしている。こういう機会がある事を考えると、車ってあった方が良いんだなと実感する。

 東京なら要らないのだろうけど、地方都市ではやっぱり必要だな。でも高級車はなぁ……安い中古の軽自動車でも買う?


芽衣(めい)が順調に成長していて良かったね」


「うん。ボク達の娘が生まれて来る日が楽しみだよ」


「きっと元気に生まれてくれるよ」


 娘の名前は芽衣に決めた。色々と命名について学びつつ、流行も考慮してこの名前に。無理に俺や美佳子と同じ字を入れなくても良いかなって。

 最終候補は美佳子が考えた芽衣と、俺が考えた(みお)だった。でも稲森(いなもり)さんの名前が美桜(みお)だそうで、知人と被るので芽衣にした。

 まだ俺達が結婚をしていないので、暫くは篠原芽衣(しのはらめい)になる。でもそれは2年程の間だけ。

 俺が社会人になったら結婚をして、正式に東美佳子(あずまみかこ)東芽衣(あずまめい)に2人の名前が変わる。そうなる日まで、猶予は言うほど残っていない。


「あ、今蹴った」


「俺達の話が聞こえていたのかな?」


「25週目からは会話が聞こえるって先生が言ってたしね」


 まだ1㎏程度の小ささなのに、ちゃんと親の声が聞こえているらしい。両親が話し掛けてあげると、赤ちゃんの言語学習に良いという話を先程された。

 まだ意味は分かっていないだろうけど、親の声を判別して理解するらしい。感情についても伝わるみたいで、優しい言葉を聞かせると絆が深まるそうだ。

 そう言う事ならこれから毎日、芽衣に色々と話し掛けてみようかな。どんな子に育って、どんな大人になるのだろうか。

 少なくとも幸せな人生を歩んで欲しいと、俺達は心から願っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ