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第291話 来場者を増やすには

 30と数年も生きていれば、人生上手く行く事の方が少ないと分かっている。10の失敗に対して、成功と言えるのは1や2でしかない。

 途中までは上手く行っていた事が、後になって後悔に変わるなんて良くある話。だからボクが咲人(さきと)と出会えた事は、間違いなく幸運だろう。

 こんな恵まれた出会いは、そう起きる事じゃない。でもそこで運を使ったからか、子供の方は今もまだ出来ていない。


 節目である35歳を先日8月29日に迎えた。ここまでに妊娠出来るのがベストだったけど、やはりそう上手くは行かなかった。

 厳しいのは分かっていたけれど、現実は受け入れないといけない。そしてこういう時に限って、良くないニュースは続くもの。

 それは美羽(みう)ワンダーパークさんの広報担当をされている女性と、仕事の通話をしていたら飛び出した情報だ。


「え? 最近入場者数が伸び悩んでいる?」


『そうなんですよ~何か良いアイデアありません?』


「遊園地に詳しい訳ではないので……」


 エンターテインメントでお金を稼ぐのは、見た目ほど簡単な事じゃない。ガワは華やかな世界だけど、中身は滅茶苦茶シビアで大変だ。

 例えワンダーパークさんの問題は、上がり続ける電気料金や維持コストがメインらしい。

 遊園地なら避けられない課題だろうし、上がったコストに対して入場者が見合っていないと赤字になる。


 それはボク達配信業だって似た部分があって、生活費を先ず稼げないと話にならない。

 最初にコストがあって、それ以上の数字を得て初めて利益になる。個人勢Vtuberを初めた当初は、かなり大変だったのを忘れていない。

 だからある程度は理解出来るけど、良い案というと簡単ではないかなぁ。今すぐ回答するのは難しいかも。


『ですよねぇ、そう簡単には思い浮かびませんよね』


「ああでも、親善大使はこれからも続けますから」


『ありがとうございます本当に』


 新しく出すコラボメニューの打ち合わせを終わらせて、一旦通話を切って事務所のデスクで思考を巡らせる。

 このままじゃ駄目だ、ボクは何て咲人と約束した? お母さんとの想い出の場所を守るって、目の前で言ったじゃないか。

 確かに今すぐ潰れるとか、そういう緊急事態ではないけど。でもここで何かしないと、約束を守った事にはならないよね。


 はぁ、どうしてこうも上手く行かないのだろうね。事務所の運営自体は上手く行っているけど、まだまだ油断は出来ないし。

 倉庫として借りていたビルを正式に事務所化して、見た目だけなら会社っぽくはなった。

 今やリビングでは仕事を殆どやらなくなった。でもまだ正社員1人にバイト1人と、小規模にも程がある状況だ。


「どうしました? 篠原(しのはら)さん?」


「いやぁうん、気にしないで美沙都(みさと)ちゃん」


「はぁ、それなら良いんですけど」


 バイトの子に気を遣わせている様じゃあ、ボクも社長としてまだまだ未熟だね。しんどい気持ちを出さない様に、普段通り振る舞いたいのだけど。

 それにしても良い案ねぇ、現実的に可能なラインで何があるだろう? 親善大使としての活動は、まだ事務所を作る前から続けて来た。

 有難い事に、長いお付き合いをさせて貰っている。でも今までにない新しい展開となると、園田(そのだ)マリア単体ではなくVB(ブイビー)全体でのコラボにしてしまうとか?

 でもそれだけだとパンチが弱いというか、ベタだけど珍しくはないよね。最近じゃあ国や地方自治体とすら、Vtuberとのコラボぐらいやっているし。


「ねぇ美沙都ちゃん、遊園地に行きたい時ってどういう時?」


「えっ!? そうですねぇ……楽しい気分になりたい時、とか?」


「うーん、そうだよねぇ。そうなるよねぇ」


 楽しい時間を求めて行く所だよねぇ、花火大会とかお祭りとかと同じで。あとは癒されたいとかもあるとは思う。

 シンプルにデートの為に行く場合もある。目的は大体そんな感じだろうし、後何か左右するとしたら知名度だよね。

 美羽ワンダーパークは地方の遊園地としてはかなり頑張っている方で、独自に色んな展開をやって来た。

 ボクを選んで下さったのも、その一環として若い世代にもっと知って貰う為。自分で言うのもなんだけど、その成果は結構出ているらしい。

 だからこそボクにも聞いて来たのだろうし、選んで貰った身としても協力をしたいと思う。

 何か、もう少し広く知って貰う良い方法はないだろうか? 楽しい場所として、認知を広げる方法に何があるだろう。


「……個人勢が大集合とか、遊園地がやっていたらどう思う?」


「VBだけじゃなく、ですか? それはちょっと興味ありますね」


「この方向性なら、まだやっている所はそう多く無いよねぇ」


 ボク達だけじゃなくて、仲の良い個人勢の皆を集めてコラボはどうだろう。Vtuberだけに絞らなければ、結構な人数の知り合いが居る。

 今まで美羽ワンダーパークを知らなかった層にも、ある程度の訴求力があるんじゃない?

 二期生のマネジメントから帰って来た美鈴(みれい)ちゃんも交えて、個人勢大集合なイベントについて話し合う。


 これから準備だとしてもすぐには出来ないから、早くても冬休みか春休みの頃かな。参加してくれるかの同意も取らないとだし。

 今の内から出来るだけ多くの配信者仲間に声を掛けて、色んなジャンルの配信者を引き込もう。

 さやちゃんにも頼んで、雑誌に宣伝を載せて貰うのも有りかも。やれる事は全部やっておきたい。


「何か、お祭りみたいで良いですね!」


「社長! 若い男性配信者を出来るだけ沢山お願いします!」


「美鈴ちゃん? ウチは恋愛OKだけど、出会い目的での接触はNGだからね」


 電話ではああ答えたものの、思ったよりもマシな案が生まれ始めた。日替わりで現地に本人が来る様な、リアルイベントをステージでやるのも良いかも知れないね。

 とにかく3人で話し合ったプランを綺麗にまとめて、広報さんにメールで企画書を送っておく。

 1時間後にはまた電話が掛かって来て、詳しい話し合いを行う方向性で話が決まった。

 とりあえず何とか、この問題については解決が出来そうだ。色んな人に連絡をしないといけないから、これから凄く忙しくなりそうだよ。

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