第288話 園田マリアの雑談配信 ⑪
咲人と美佳子の同棲生活も3ヶ月が経ち、7月に入った頃に美佳子はいつも通り配信をしていた。
今夜も園田マリアの雑談配信は盛況で、21時から始まった放送枠には色々な層のリスナー達が集まっている。
大人から学生まで幅広いファンを持つマリアだが、彼らに共通しているのは許容範囲の広さだった。
恋人が出来ても祝福されるのはもちろんの事、子供が出来ても続けて欲しいと願われている。
美佳子の方も幾つになっても続けると言い切って来た。だからこそ、妊活をしている話だって受け入れられる。
「いやもう本当に大変だからね、体調管理とかさ。まだ若いから良いやって思っている人も居ると思うけど、良く調べておいた方が良いよ」
『生々しいなw』
『やっぱり20代半ばぐらいが良いのかな?』
『30までには産んでおきたいかなぁ』
『私も30代でやったけど大変だった』
『女性って大変やな』
医療の進歩と晩婚化によって、30代で初産という女性は増えている。場合によっては30代後半で初めてというパターンも。
昔と比べればかなり安全に産む事が出来る様にはなったものの、どうしても加齢による妊娠率の低下は避けられない。
美佳子の場合は咲人が若い10代の男性である為に、父親側の問題はほぼ無いと言って良い。
美佳子達の場合はそれなりの妊娠率を望めるが、両方ともが30歳を過ぎていると少し厳しいだろう。
1度で妊娠する確率は20代だと30%程度だが、30代に入ると20%から下がっていく一方だ。
35歳からは更に下がって10%程度になり、40代に突入すると10%未満まで落ちてしまう。
「男性達も無縁じゃないよ~ちゃんと知っておいた方が良いからね。子供が欲しいってアラフォーになってから、いざ婚活を初めてもキツイよ~?」
『耳が痛い』
『相手がいないんだよ!!』
『ワイ30代独身、低みの見物』
『俺が末代や』
『涙でモニターが見えない』
遅めの婚活を始める人が、男女問わずに存在している。それまでに踏み切る意思が無かった理由はそれぞれあるだろう。
しかし子供を持ちたいのであれば、それは茨の道である。なるべく安全に子供を作りたいなら、どうしても20代がベストと言わざるを得ない。
次点で30代前半というのは科学的に証明されている。だからこそ美佳子は、35歳までに子供を作る道を選んだ。
それ以降だと厳しい状況に追い込まれてしまう。幸いにも配信業や資産運用で収入面は担保されており、生活に余裕があるから踏み切れたというのは否めない。
もし美佳子がただのOLであったなら、大学生と子供を作るなんて不可能に近い。上手く行く人も居るかも知れないが、かなり厳しい生活だろう。
「共働きだと大変だろうね~。家事の分担とかさ、想像しただけで辛い気持ちになるよ」
『家事やらん旦那とか絶対無理』
『他人の愚痴とか見ると色々と考えちゃう』
『マリアの彼氏みたいな人を探そう』
『良いよな~~マリアの所は全部彼がやるもん』
『母親に専念出来るとか最高の環境』
妊娠中の女性達に多大なストレスを与える存在、それは妊婦の大変さに無理解な夫である。
帰宅したら夕飯が出来ているものと考え、帰宅しても何もせずに最悪の一言を放ってしまう。
妊婦さんがブチギレる言葉第1位、『ご飯まだ?』というマイナス1億点の失言。身重で満足に動けないのに、家事も全て奥さんがやっていて当然の様に振る舞う。
嘘の様な話だけれども、現実にそういう男性は確かに実在している。咲人ぐらいの年齢であれば、家事は女性がやるものという固定観念はあまりない。
でも未だに昭和の価値観で止まっている男性は、今だってそんな風に考えてしまっている。
だからこそこの手の愚痴はネットに溢れ、見飽きる程に視界に入って来るのだ。妊娠中の恨み事は、後の爆弾になり易いというのに。
「ボクはこれまでも言って来たよね? 家事の得意な男性を選びなさいって」
『いやマリアは自分が出来ないからやろ』
『良い話みたいに言うのやめてね?』
『マリアはそういう相手じゃないと結婚自体無理やろwww』
『棚に上げ過ぎて天井突き抜けとる』
『そういうトコやぞ』
世間で散々言われて来たからか、30代や40代から男性の家事参加が増加傾向にある。
元々それぐらいの年齢層は、若い内から男女平等が叫ばれていた時代を過ごして来た世代だ。
料理が出来るというだけで、モテる理由になった時代を生きている。この先家事や育児への向き合い方は、どう変わって行くのだろうか?
美佳子程ではないにしても、部屋が汚い女性はそれなりに居る。女性はこうあるべきだ、という思想が弱まったこれからの時代が向かう先は果たして。
いずれにしても、妊娠中の女性に無理をさせるのは良くない。この考え方自体はそれなりに浸透しつつある。
もし将来子供を持ちたいのであれば、妊娠中のパートナーに気遣いが出来る人になれていた方が良いだろう。
「でも一番辛いのは、禁煙と禁酒だよね。解禁っていつ頃が良いかな? 子供が小学生になるぐらい?」
『だいぶ早くて草』
『子供が出来たら少しは落ち着けよwww』
『そのまま辞める選択肢はないんか』
『嘘だろお前』
『うーんこのヤニカス』
美佳子としては子供に影響を与えない範囲で、また喫煙と飲酒を再開するつもりでいる。
あくまで妊活と母乳への影響を考えて、一時的に辞めただけに過ぎない。手の離せない間は我慢するにしても、小学校に通い始めたら有りかなと思っている。
流石はヤニカスであり酒カスでもある女性だった。このまま辞めてしまえば出費が抑えられるのに、その選択肢は美佳子の中に全く無い。
ある意味で園田マリアらしい判断を見せた事で、リスナー達から様々なツッコミを受けている。
本来はセンシティブな内容であるのだが、終始笑いの絶えない配信となった。時折真面目でためになる情報も押さえつつ、妊活にまつわる雑談が進んで行く。
妊娠中と産後の恨みは一生モノらしいですよ。




