第287話 元モデルという肩書
ついにやって来た5月3日、俺は美佳子を連れて美羽大学近くのアミューズメント施設にやって来た。
この辺りの地域は大学が多いからか、大学生向けの商業施設が多く建ち並んでいる。
飲食店もやや大人びた店が多く、中高生向けよりも客層が上だと明確にハッキリと出ていた。
俺はまだ飲めないけど、オシャレなバーや居酒屋も多い。20歳になった時は、美佳子とそういう店にも行ってみたいな。
タイミング次第では、美佳子がお酒を飲めないかも知れないけど。妊婦さんや赤ん坊が居る母親は、アルコールがNGだからね。
そんな未来に関する会話も交わしつつ、待ち合わせ場所に着いたが一番乗りだったらしい。
「ちょっと早かったか」
「もうすぐでしょ? 待っていようよ」
「うん、そうしよう」
今日の美佳子は、淡い水色のタイトなパンツに紺色のジャケットを羽織っている。背が高くてスタイルの良い美佳子には、とても良く似合っていた。
綺麗に染まったセミロングの金髪に、少し大きめのサングラス。メイクもバッチリで、絵に描いたようなカッコイイ大人の女性だ。
このままファッション誌の表紙に出来そうな完成度。元々モデルをやっていたから、立ち方も綺麗で写真に残したいぐらいだ。
本人は無意識にやっちゃう癖だと言っていた。そんな人が立っているのだから、当然周囲の注目は集まってしまう。
流石にもう慣れたけど、本当に美佳子は良く目立つ。そろそろ無遠慮な視線を疎ましく感じ始めた頃、和彦と夏歩が揃ってやって来た。
「お待たせしました!」
「すいません篠原さん! 和彦が寝坊しちゃって」
「こんなの全然構わないよ。遅刻じゃないしね」
美佳子が超絶美人なのは言うまでもないが、夏歩も大概可愛い方だ。1年生の間では、早くも話題になっているらしい。
ミスコンに出たら1位は間違いないぞと。今まで美佳子が注目を集めていた中で、そんな夏歩も合流したのだから余計に目立つ。
失礼な男性達の視線に気付いた俺と和彦は、彼らの視線を遮る位置に移動する。体だけなら俺達は大きいから、それなりに効果があるだろう。
で、それはそれとして勝手に美佳子を見るな。明らかに下心がありそうな男達には、少し睨みを聞かせておかないと。
良く分からないけどこの令和の時代に、ナンパ師なんて名乗っている奴も居るぐらいだ。絶対に変な男は近付かせない。
「あれ~? 皆早いなぁ!」
「一哉、その子は?」
「初めまして~! 園崎明日香って言いまーす!」
一哉が連れて来た女の子は、この近所にある女子大に通う1年生だ。結構明るい雰囲気のギャル系で、長めの金髪に赤いインナーカラーを入れていた。
肩出しで丈の短いロンTだから、へそも出ていて露出は結構高め。下もダメージジーンズだから、涼しそうではあるかな。
まあ何と言うか、一哉が好きそうな派手目な女の子だった。気さくで誰とでも仲良くなれるタイプみたいで、年上の美佳子が居ても平気みたいだ。
というよりも、やたらと美佳子を気にしている様に思う。何かを探っている様に見えるというか、思う所がどうやらあるらしい。
その答えが分かったのは、施設内に入って美佳子がサングラスを外した瞬間だった。
「やっぱり! MIKAさんですよね!?」
「あれ~? アナタぐらいの年でもボクを知ってるの?」
「小学校の時いつも見てました!」
どうやら彼女は、美佳子のモデル時代を知っていたらしい。目を輝かせながら美佳子に握手をねだっていた。
現役でやっていたのは10年以上前の話で、小学1年生の時からファッション誌を見ていたという事になる。
ファッションが好きだったら有り得なくもないのか? その頃の俺なんて、ファッション誌が何かすら分かって居なかったのに。
夏歩だってそんな感じでは無かったし、相当進んだ子供時代だったのかな。今では小学生でもメイクをする時代だし、そうおかしい話でもないしね。
園崎さんは美佳子に夢中で話し掛けていて、俺と視線が合った一哉は肩を竦めていた。
「あの、サインとか貰って良いですか?」
「MIKAのサインは久しぶりなんだよね。下手になってたらゴメンね~」
「全然良いです! やったぁ!」
想定とは違う方向性で盛り上がり始めて、少々困惑はしたけど良いスタートにはなった。
園崎さんが明るい人だったのもあって、わりと早い段階で俺達は打ち解ける事が出来ている。
先ずはボウリングから始まり、男達のスコア対決が始まった。男子は勝負事が好きだよねぇと美佳子に笑われたけど、こればかりは外せないのだ。
ボウリングとなれば勝負をしない理由がない。熱いバトルを繰り広げた後は、カラオケに移動して少しクールダウンを図る。
筈だったのだけど、一哉が採点機能を使おうと言い出しまたもやバトルに。そちらでは美佳子が、97点というとんでもスコアを出して皆を驚かせた。
俺は園田マリアの真実を知っているので、そりゃそうなるよねと思ったけれど。歌配信とか結構再生数が多いし。
盛り上がっている所だけど、トイレに行きたくなったから席を立つ。すると一哉も着いて来たので連れションに向かう。
「なあ一哉……園崎さん、完全に美佳子のファンをやっているだけじゃない?」
「……良いんだよ咲人、話題には困らないから」
「何か、ごめんな」
盛り上がってはいるから一旦は良しとして、ここから恋愛ルートは果たして可能なのだろうか?
美佳子が思わぬ伏兵となってしまい、一哉の狙いとは少しズレてしまった。でも恋愛経験は豊富だから、きっと何とかするだろう。
楽しんで貰うという点だけ見れば、大成功ではあるからね。良い思い出にはなっただろし、損はしていない筈。
ただまあ何て言うか……ちょっと可哀そうだから今度ラーメンでも奢ってあげようかな。
たまに発揮するハイスぺ感なお中身




